FEATURE1 実は敷居が低いヒストリック・フォーミュラ・レース

  近年ヒストリックカー界で盛り上がりを見せているジャンルのひとつに、〝葉巻型〟と呼ばれる1960年代のミドシップ・フォーミュラカーがある。

  その中でもいま日本で人気を集めているのは、排気量1ℓから1・6ℓくらいまでのエンジンを搭載したフォーミュラ・ジュニアからF2までのカテゴリーだ。

  ほんの十数年前までサーキットを積極的に走って楽しむオーナーは、数える程度しかいなかったが、いまではそれぞれのカテゴリー毎に分けてもレースが成立するほどの台数が集まるようになった。その立役者であるHFR(ヒストリック・フォーミュラ・レジスター)主催のレースには、毎回20~25台ほどのマシンがエントリーする盛況ぶりだ。

  ではなぜヒストリック・フォーミュラに注目が集まるのだろうか? 一般的なスポーツカーやサルーンと違い公道を走れない以上、移動にはいちいちトランスポーターが必要となるし、シャッター付きのガレージの確保も必須条件だ。もちろんレースであれ、走行会であれ、サーキットを走るにはエントリーフィーも必要になる。

  しかし、それらの諸条件を乗り越えてもなおヒストリック・フォーミュラにハマり込む理由はただひとつ。それは、誰もが旧き佳き1960年代のグランプリシーンにタイムスリップできる、ということにある。

  複雑で美しい鋼管パイプフレーム、メッキが施された華奢なサスペンションアーム、革巻のステアリング、繊細な文字盤をもつスミス製のメーター、そしてコクコクッと小気味よく動くヒューランド製のギアボックスなど、そこに使われているパーツ(無論スペック等は異なる)は、当時のF1マシンのミニチュア版といった感じで所有欲を満たしてくれる。もちろん本物のレーシングカーゆえ、乗りこなすにはそれなりのスキルを必要とするが、それを手懐けた時の達成感は、他では中々味わえない格別なものだ。

  しかもフォーミュラ・フォード(’68年から始まったF3格式のシャシーにフォード・コーティナの1600ccOHVを搭載した入門フォーミュラ)であれば、流通価格は一部の例外を除き300~400万円程度と比較的リーズナブル。また汎用部品も多いうえに、欧米では日本以上に愛好家が多くレースも盛んに行われているので、パーツの入手に困るようなことはほとんどない。

先日筑波で開催された「Super Battle of Mini」というイベントでドライブした1965年型ブラバムBT16。エンジンの出力は100psほどだが、約400kgの車重に対しては必要にして十分。ドライなら筑波を1分6秒台で走る実力の持ち主。

  そう考えると、これまでアルファだ、ロータスだ、ポルシェだと、ヒストリックカーを楽しんできたエンスージァストたちが次々とヒストリック・フォーミュラにハマり込んでいる理由も頷ける。こうして書いている僕自身も、その魅力にドップリとハマりつつある一人だ。

  ただ、このヒストリック・フォーミュラの唯一にして最大の問題は、ここ数年世界的に盛りあがりを見せていることもあって、なかなかマシンの売り物に出会えないこと……である。

文/写真・藤原よしお


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