新型モンスターは何を得たのか

文・鈴木大五郎 写真・渕本智信

DUCATI NEW MONSTER

エスプレッソの凝縮した旨味を味わう「The“ristretto”coffee」が新型モンスターのコンセプト。

ドゥカティモンスターの方程式は、「スーパーバイク由来のシャシー+ロードユースに最適なエンジン」。ドゥカティのネイキッドカテゴリーを担うモンスターだが、今回のモデルチェンジではサーキット走行でのパフォーマンスも向上させている。

 ドゥカティのネイキッドマシンといえば言わずと知れたモンスターだ。もともとはスーパーバイク系の車体をベースとしたネイキッドとして誕生。ストリートファイターの元祖ともいえるパッケージングで一躍人気となった。モンスターは、その後、様々な派生モデルも登場した。スーパーバイク系エンジンを搭載したスパルタンなものや、日本独自の仕様ともいえる400も存在したりと、馴染み深いマシンとなった。

 モンスターはドゥカティのアイデンティティともいえるL型ツインエンジンをトレリスフレームに搭載するというのが基本構成だった。エンジンを取り囲むパイプを組み合わせたフレームは車体のスリム化に貢献するだけでなく、絶妙なしなりを生み出すことがマシンのハンドリングや走行性能に寄与。同時に美しいデザインのポイントにもなっていた。しかし、個人的なトレリスフレームの印象は「しなる」という表現とはちょっと異なるものだ。それはサーキット等でかなり追い込んだ走りをした際に感じられるもので、一般的な速度域ではむしろ硬い印象を受けたのである。この硬質なフィーリングこそが逆にドゥカティらしさではないかとかつては感じていた。

 しかし近年のモンスターは、過去のものとは異なったコンセプトで作られていて、フィーリングがフレンドリーになった。それはドゥカティが積極的に行っている技術の数値化よるところが大きい。特にエンジンをストレスメンバーとして利用するという手法を推し進め、剛性をコントロールして乗りやすさやフィードバック性を高めている。

 その結果、新型モンスターには、スーパーバイクで採用しているフロントフレームを投入。メインフレームだけで4.5キロ。それに付随するリアフレームやスイングアーム等も含めて車体全体で、なんと18キロの軽量化を実現した。これはモンスターの哲学に準拠した改革でもある。以前はトレリスフレーム並みにスリムな車体を作ろうとすると、アルミフレームでは金属加工が難しかったという事情もあったが、加工技術が高まったことでクリアした。

 実はレースシーンで戦うドゥカティのマシンは、随分前からトレリスフレームを使ってない。経験値による剛性コントロールではなく、科学的に解析され、必要最低限のコンポーネンツによって同等以上の剛性や操安性を確保しているのだ。それに伴い大幅な軽量化も実現するというのが最前線のマシンである。その流れを汲んだのが今回の新型モンスターだ。しかしフレームがフェアリングで覆われておらず、デザインの一部となっているモンスターの場合ではちょっと状況が異なるのもしれない。昔からのファンにとっては「ドゥカティらしくない」との声があると聞く。そもそもドゥカティらしさとは何か。L型ツインエンジン、トレリスフレーム、デスモドロミックetc。しかし、昨今のドゥカティはそういった定義から外れるモデルも少なくない。V4エンジンであったり、モノコックフレームであったり、バルブスプリング駆動であったり。ところが、それらのマシンに乗ってみれば、時代に適合させたドゥカティだということが感じられるはずだ。いつの時代も、ドゥカティは、革新的なテクノロジーを積極的に取り入れることが行われていたのである。

 一般的なフレーム構造を持たない、モノコックフレームを採用したこともドゥカティらしさであるし、空力をコントロールするウィングレットもそうだった。そして、ダイナミックな走りの本質を極めることをいつの時代も貫き通してきた。今回のモンスターのアルミフレーム化は、そのドゥカティらしさが磨かれていると言うことになるのだ。

 今回のモデルチェンジは、新たなモンスターの幕開けとなるはずだ。しかしそれは、ドゥカティらしさ、そしてモンスターらしさが間違いなく継承されている。

DUCATI MONSTER

車両本体価格:¥1,445,000~(税込)
エンジン:V型2気筒デスモドロミック・テスタストレッタ11°エンジン
排気量:937cc
車両重量(乾燥):166kg
最高出力:82kW(111PS)/9,250rpm
最大トルク:93Nm(9.5kgm)/6,500rpm

DUCATI NEW MONSTERのオフィシャル動画はこちらからご覧いただけます。

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