岡崎五朗のクルマでいきたい vol.139 電動化=EV化という勘違い

文・岡崎五朗

 このところ大きな話題となっているクルマの電動化。2050年のカーボンニュートラルに向け徐々にCO2を減らしていくのに電動化は必要だが、問題は「電動化」という言葉が誤解を招きやすいこと。

 実際、いまでも電動化=EV化と勘違いしている人は多い。その元になったのがボルボが2017年に出した「We launches from 2019 will have an electric motor」という発表だ。日本のメディアはこれを「すべてのモデルを電動化する」と訳し、それが「全車EV化」という誤ったメッセージとして伝わった。ボルボが全車EV化なんてしていないのはご存じの通りだ。

 最悪なのは、前例がありながらもメディアの伝え方がいまだ改善されていないこと。政府の方針はマイルドハイブリッドを含めての電動化なのに「2030年代半ばにガソリン車禁止」という、あたかもすべてのクルマがEVになるかのような刺激的な見出しを付ける。これでは誤解するなと言うほうが無理だろう。そこで今回はクルマの電動化にまつわる用語についておさらいしておきたい。

 電動化とは、何らかの形で電気モーターを駆動に用いる技術のことで、以下の6種類がある。

 *【MHEV】マイルドハイブリッド。小型モーターを搭載したハイブリッド。例)アウディA4

 *【HEV】ハイブリッド。MHEVと区別するためストロングハイブリッドとも言う。例)プリウス、ノート

 *【PHEV】プラグインハイブリッド。構造的にはHEVに近いがより大きなバッテリーと充電機能を付加。例)アウトランダーPHEV

 *【REEV】レンジエクステンダーEV。バッテリー切れに対応するための小型発電用エンジンを搭載したEV。例)BMW i3

 *【BEV】バッテリーのみで走行するEV。例)タイカン

 *【FCEV】水素燃料電池を搭載したEV。例)MIRAI

 これらすべてが電動車であり、何らかの(x)方法で電動化したクルマという意味でxEV(エックスEV)と呼ばれる。このように電動車といっても様々な種類がある。次回はそれぞれの長所と短所について詳しく紹介しよう。


PORSCHE TAYCAN
ポルシェ・タイカン

911ターボに並んだEVスポーツ

 EVはつまらないというイメージをもっているなら認識を改めたほうがいい。ポルシェ・タイカンは、僕が愛して止まないポルシェの乗り味を完全に受け継ぐEVだ。最上級グレード(ポルシェの場合それは最速グレードを指す)のターボSが前後に積む2機のモーター合計出力は625ps(瞬間的には761ps)。停止状態から100km/hまでわずか2.8秒で加速する。これは911ターボSにこそコンマ1秒及ばないものの911ターボに並ぶ数値だ。

 というと、テスラ・モデルSにはもっと速いグレードがあるよという声があがるだろう。たしかにその通り。航続距離を含め各種スペックはことごとくモデルSが上回っている。しかし、本誌の読者ならクルマの魅力がスペックのみでは測れないことをすでにご存じだろう。むしろ、クルマ好きが重視するのはデザイン、内外装の質感、ドライブフィールといったスペック以外の部分だ。

 その点においてタイカンは間違いなくポルシェ基準を満たしている。アクセルペダルの踏み込みに即応した強烈な加速が得られるのはもちろん、腰をグンと沈めて路面を力強く蹴っていく独特の加速フィール、加速によってフロント側の荷重が抜けてもなおしっかり感を残すステアリングフィール、路面に吸い付くかのような濃密な接地感、4輪の完璧なグリップバランス、路面上の砂粒の感触さえ伝えてくるリアルなステアリングインフォメーションなど、そこには911を頂点としたポルシェ独自の味わいが濃密に存在する。

 そんなタイカンだが、気になるのはやはり航続距離だ。試乗した「ターボ」グレードのカタログ上の数値は450kmだが、東京~箱根~東京での実測値は約300kmだった。93kWhという大容量バッテリーを自宅用の一般的な3kW普通充電器で満たすのには約30時間かかる。使い方によっては急速充電器を活用する必要があるかもしれない。

ポルシェ・タイカン

車両本体価格:11,710,000円~(税込)
*諸元値はtaycan Turbo
全長×全幅×全高(mm):4,963×2,144×1,381
最大出力:460kW(625ps)
オーバーブースト出力:500kW(680ps)(*)
最大トルク:850Nm(*)
航続距離:450km 最高速度:260km/h
0-100km/h加速:3.2秒(*)
*ローンチコントロール時

AUDI e-tron
アウディ・e-tron

アウディ初の2種類のEVが登場

 アウディ初のEVとして登場したe-tron(イートロン)。ボディタイプは少し背の高いステーションワゴンとも言うべき標準モデルと、ボディ後部をなだらかに傾斜させたスポーツバックの2種類を用意する。他社を見渡しても、たっぱのある典型的SUVをEVに仕立てた例は多くない。EVの弱点である航続距離を稼ぐにはCd値(空気抵抗係数)×A(前面投影面積)から算出される空気抵抗をいかに減らすかが重要で、前面投影面積が大きくなるSUVは不利になるからだ。トヨタ・ミライが水素タンクのレイアウトに苦労しながらもあえてセダンという形式にこだわってきた大きな理由もそこにある。

 試乗したのは前後合計408psの高出力モーターを搭載した55クワトロファーストエディション。95kWhという大容量バッテリーを搭載し、カタログ上の航続距離は405km(WLTC)に達する。ポルシェ・タイカンと同一プラットフォームだと誤解されがちだが、それは今後追加される高性能版であるe-tronGTの話であって、標準のe-tronはMLB-Evoと呼ばれる、A4以上のアウディに幅広く使われているものを使っている。

 EVだからといって内外装に過剰な演出をほどこしていないのはアウディらしい見識だろう。そんななか先進性を感じたのがカメラタイプのドアミラー。世界初の座こそレクサスESに譲ったが、フロントドア先端部にきれいに埋め込んだモニターの仕上げはとても美しいし、視認性も高い。もう一点、専用設計したシフトセレクタも新しさ満点だ。

 走りは上質そのもの。タイカンのような圧倒的な力感はないものの、それでも十分速いし、掌やお尻から伝わってくるカチッとした感触はさすがアウディ。正確な比較はしていないが、実用電費はタイカンより1割ほどいいようだ。まだまだすべての人にオススメできるものではないが、自宅充電できる環境があるなら検討してみる価値はある。

アウディ・e-tron

車両本体価格:9,330,000円~(税込)
*諸元値はe-tron Sportback 55 quattro 1st edition
全長×全幅×全高(mm):4,900×1,935×1,615
車両重量:2,560kg
稼働用バッテリー総電力量:95kWh
最高出力:300kW 最大トルク:664Nm
一充電走行距離:405km(WLTCモード)
駆動形式:quattro(4WD)

AUDI A4
アウディ・A4

最新のアウディデザインに刷新

 アウディの中心モデルであるA4シリーズが大幅に進化した。ぱっと見デザインに大きな変化はないように見えるが、実はほぼすべてのボディパネルをリデザインするというフルモデルチェンジ級の大変更だ。あまりコストのかからない樹脂成形バンパーやヘッドライト&リアコンビランプと違ってスチールやアルミパネルを変えるには高価なプレス金型を新たに起こす必要がある。金型は安く見積もっても1個数千万円。それを複数×生産工場の数分用意しなければならないのだから、そうやすやすとは変えられないのだ。

 それでもやってきたところにアウディの並み並みならぬこだわりを感じるわけだが、決してこれ見よがしではない。変えることが目的なのではなく、目的を実現するための手段としてのデザイン変更と考えているのだろう。それはなんなのかといえば、アウディブランドとしての統一感だ。マイナーチェンジ前にあったボディサイドを一直線に貫く鋭利なキャラクターラインは一時期アウディらしい緻密さの表現として機能していたが、それはもうVWに譲ると。で、2019年に登場したA6は80年代のラリー界に革命をもたらした〝クワトロ〟へのオマージュであるブリスターフェンダーを復活させてきた。A4のデザイン変更もまさにそこがポイントで、アップデートされた最新のアウディデザインを与えるのがビッグマイナーチェンジの目的というわけだ。

 メカニズム面では12ボルトマイルドハイブリッドの採用と、FFモデルの排気量アップ(1.4ℓ→2ℓ)がメイン。150psというピークパワーは変わらないが、排気量アップとモーターのアシストはとくに実用域での力感を引き上げているし、従来の軽やかさを維持しつつしなやかさを増した足回りも好印象だった。グレードによっては数十万円に達する実質値下げを含め、改めて注目する価値は大いにある。

アウディ・A4

車両本体価格:4,550,000円~(税込)
*諸元値はA4 35 TDI advanced
全長×全幅×全高(mm):4,760×1,845×1,410
エンジン:直列4気筒DOHC インタークーラー付ターボ
総排気量:1,968cc 車両重量:1,580kg
最高出力:120kW(163ps)/3,250~4,200rpm
最大トルク:380Nm(38.7kgm)/1,500~2,750rpm
燃費:17.1km/ℓ(WLTCモード)
駆動形式:FWD

NISSAN NOTE e-POWER
日産・ノート e-POWER

ヤリス、フィットを上回る実力

 新型ノートに乗って驚いた。加速性能、乗り心地、ハンドリング、上質感といった多くの点でライバルを圧倒していたからだ。ライバルとはトヨタ・ヤリスとホンダ・フィット。昨年フルモデルチェンジしたこの2台に僕は高い評価を与えているが、新型ノートはそのさらに上を行ってしまった。とくに、乗っていて感じる上質感については完全に1クラス上なのだ。

 なぜここまでよくなったのか。理由はいろいろあるけれど、真っ先に挙げたいのがパワートレーンだ。他社製ハイブリッドと差別化するため日産がe-POWERと呼んでいるこのシステムは、エンジンで発電した電力でモーターを駆動する仕組み。要はシリーズハイブリッドだ。先代では「充電が要らない電気自動車」などという紛らわしい広告コピーで物議を醸したが、最近は「100%モーター駆動」という表現を使っている。それはともかく、新型ノートが搭載しているe-POWERは性能向上と小型軽量化を実現した第2世代で、こいつがべらぼうによくできている。最初に驚くのが静粛性の高さだ。まず、走行中エンジンがかかる頻度が大幅に減った。また、たとえエンジンがかかっても騒音が急に高まることがない。徹底的な遮音対策に加え、ザラついた路面でタイヤノイズが高まったことを検知してこっそりエンジンをかけて充電するという細かい芸当のおかげだ。

 電動駆動ならではのスムースさや遅れのないレスポンスも気持ちのいいドライブを約束してくれる。乗り心地やハンドリングも優秀だ。とくにリアモーターの出力を大幅に引き上げた4WDモデルのフラットで安定した走りはクラストップである。

 ガソリン車を廃止しすべてe-POWERにしたことでエントリー価格は上がったが、内外装を含めたトータルの実力を考えれば納得しないわけにはいかないだろう。いろいろあったが、日産の実力はやはり侮れない。

日産・ノート e-POWER

車両本体価格:2,029,500円~(税込)
*諸元値はX FOUR(4WD)
全長×全幅×全高(mm):4,045×1,695×1,520
車両重量:1,340kg
【エンジン】総排気量:1,198cc
最高出力:60kW(82ps)/6,000rpm
最大トルク:103Nm(10.5kgm)/4,800rpm
【フロントモーター】最高出力:85kW(116ps)/2,900~10,341rpm
最大トルク:280Nm(28.6kgm)/0~2,900rpm
【リヤモーター】最高出力:50kW(68ps)/4,775~10,024rpm
最大トルク:100Nm(10.2kgm)/0~4,775rpm
燃料消費率:23.8km/ℓ(WLTCモード)
駆動形式:4WD

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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