モタスポ見聞録 Vol.32 スーパーGTとDTMの混合戦

文・世良耕太

日本のスーパーGTとドイツのDTMが特別交流戦を行う。場所は富士スピードウェイ。日程は11月23日~24日だ。

 「突然、なぜ?」と思うかもしれないが、両者はずいぶん前から規格統一を図ろうと協議を進めており、ようやく同じ土俵で戦うまでに話が進んだのだ。

 トヨタ、ホンダ、日産/ニスモが参戦するスーパーGT・GT500クラスは2014年に技術規則を変更し、新しいシャシーと新しいエンジンを導入した。これがそもそも日独共通化の第一歩だったのである。ただし、足並みはそろわなかった。シャシーの根幹を占めるモノコックは共通になったものの、エンジンは別。GT500は量産車で流行するダウンサイジングのコンセプトを取り入れた2ℓ直4直噴ターボに切り換えたが、DTMは4ℓV8自然吸気のままだった。

 変化が訪れたのは今年だ。DTMがGT500側に合わせる格好で、エンジンを切り換えてきたのだ。さらに、日独統一規格として定めたClass1(クラスワン)規定を先取りして導入。来年にはGT500がClass1規定に切り換える。GT500はこれまでサスペンション設計にある程度の自由度が与えられていたが、Class1規定の導入により共通サスペンションを採用することになる。空力も変わる。

 規格統一はだいぶ進むことになるが、日本とドイツ、スーパーGTとDTMの歴史的な背景や文化の違いなどがあり、完全統一には至らない。例えば、スーパーGTは複数のタイヤメーカーが参戦してタイヤ開発競争を繰り広げているが、DTMはハンコックタイヤのワンメイクだ。また、スーパーGTはドライバー交代のあるセミ耐久レースなのに対し、DTMはスプリントレースである。Class1規定を導入しても、どちらかに統一することはせず、ローカルルールを認める方向だ。本来、Class1では空力開発を禁止するが、スーパーGTでは空力開発が最大の見せ場のひとつなので、範囲は狭まるけれども’20年以降も一定の自由度を残す。一方、DTMで採用するDRS(ドラッグ削減システム)やプッシュ・トゥ・パス(一定時間、出力が向上)は、日本では認めない。スーパーGTとDTMが本格的に交流するレースシリーズを行う際は、落としどころを見つけることになる。

 その前哨戦が特別交流戦というわけだ。実は、富士で行う特別交流戦の前に、スーパーGTがドイツに遠征。10月5日・6日にホッケンハイムで行われたDTM最終戦に、レクサス、ホンダ、日産/ニスモが1台ずつマシンを送り込んだのだ。富士の特別交流戦はその「返礼」であり、アウディは4台のRS5 DTM、BMWは3台のM4 DTMを送り込んでくる。’17年、’19年チャンピオンのR・ラスト(アウディ)や、’14年、’16年チャンピオンのM・ヴィットマン(BMW)など、豪華な顔ぶれだ。GT500経験者の小林可夢偉がBMWをドライブするのもニュースである。

 タイヤは全車ハンコックタイヤを装着、DTM勢はDRSとプッシュ・トゥ・パスが使用禁止となる。勝つのはどっちだ。スーパーGTとDTMの新しい歴史が始まる。

Kota Sera

ライター&エディター。レースだけでなく、テクノロジー、マーケティング、旅の視点でF1を観察。技術と開発に携わるエンジニアに着目し、モータースポーツとクルマも俯瞰する。

定期購読はFujisanで