特集 小さいクルマが好き!!

文・村上智子 写真・神尾 成/村上智子(※)

写真・長谷川徹

smart cabrio BRABUS sports

車両本体価格:2,850,000円(税込)
全長×全幅×全高(mm):2,785×1,665×1,540
エンジン:直列3気筒DOHCターボチャージャー付
総排気量:897cc
乗車定員:2名
車両重量:1,000kg
駆動方式:RR
最小回転半径:3.3m
最高出力:66kW(90ps)/5,500rpm
最大トルク:13.8kgm(135Nm)/2,500rpm
燃費消費率(JC08モード):22.0km/ℓ
www.smart-j.com

 小さいクルマが好きだ

 クルマを自分の身体の一部のように操作でき、わずらわしさを感じることなく、身軽にいつでも飛び出せる。

 ミニマムではなくミニマルであること。

 小さいクルマはその快適さを思い出させてくれる。

ヨーロッパの小さいクルマ

文・村上智子 写真・神尾 成/村上智子(※)

 5年前の11月。そろそろ寝ようか、という時に夫から着信があった。

 転勤が決まった。しかも行き先はイタリア!」 なぜこのタイミングで? 臨月で帰省していた私は一睡もできぬまま朝を迎え、その日のうちに陣痛を迎えて出産。

 季節が春へと変わる頃、生まれたばかりの娘とともに家族3人ローマへと飛び立った。

 自宅周辺では、フィアット・500やパンダはもちろん、ニッサン・マイクラ(日本名・マーチ)、スマート for twoなど、あらゆる小さなクルマを見かけた。驚いたのは、日本では馴染みのなかったドイツのオペルやチェコのシュコダの多さ。中にはメーカー不明の小さなクルマも走っている。

 そもそも欧米では、自分でクルマをコツコツと組み立てて完成させる「キットカー」という楽しみ方があるそうだ。19世紀の終わりにイギリスで誕生したもので、一般的に広まったのは1970年代になってから。国によって規則は異なるが、審査やクルマの登録をクリアすれば、公道だって走ることができるという(日本では不可)。そんな歴史があるくらいだから、見たことのないクルマが走っていてもおかしくはない。

 行き交うクルマをチェックしては、どれに乗ろうかと空想していたのだが、そんな悠長なことは言っていられなくなった。理由は、日常の買い物だ。ヨーロッパの水道は硬水なので、ミルクを作るには軟水のミネラルウォーターが欠かせない。洗濯には洗剤・柔軟剤・カルシウム詰まりを防ぐ溶剤、と少なくとも3種類が必要。消費サイクルは早いのに、詰め替えパックは基本的にない、といった具合だ。また香りを好むこの地では、無香料のお尻拭きも近所には売っていない。とにかく1人(+赤ちゃん)で効率よく動ける手段がないと、生活が行き詰ってしまう。

 欲しいのは、生活を助けてくれるクルマ。よく知られているように、イタリアの道は狭く、ローマは渋滞もひどい。ビッシリと並ぶ路肩の縦列駐車や、車線があってないような日々の公道レースを目の当たりにすると、ボディの小さいクルマ以外とても考えられなかった。とはいえ、チャイルドシートがあるから5ドアがいい。ラクなのはATだが選択肢はグッと減る…。悩みに悩み、購入したのは1リッターのシトロエンC1のAT車。4人乗ればギュウギュウだ。

 「P○NDA」「Renau○t」のようにロゴが一部抜け落ちていたり、ボディと同色のガムテープで破損を手当てしたベテランたちに揉まれながら、買い物や保育園の送り迎えはもちろん、3年間で国内のあちこちを旅した。駐車スペースが見つからない時でも周回すれば必ず停められたり、信号のない交差点でのやりとりを緊張から楽しみに変えてくれたりしたのは、このサイズだったからだと思う。

 が、滞在期間中にもう1人子供が生まれた時は悩んだ。このサイズで後部座席にチャイルドシートを2つ? 保育園で様子を窺ったところ、子どもが何人いてもほとんどがホットハッチ。重くて嵩張るイタリア製ベビーカーまで積んでいる。3ドアに乗る友人は、後部座席にチャイルドシートを2つ付けていた。

 実際に試してみたところ、手狭な分、荷物を積みこむのに知恵と時間を要する。少々面倒だが、慣れてしまえば問題ない。そもそも小さいクルマを選んでいるのは、快適性以上に求めるものがあってのことなのだから。

 では、快適性以上のものとは何だろう? 経済性や走行性や、使い勝手など人によって優先順位は様々だろうが、個人的にはビーチに赴くイタリア人の移動スタイルに、相通ずるものがある、と感じている。

 クルリと丸めた大判タオル一枚に、パラソルか肩から掛けたバックだけでビーチに降り立つ彼、彼女たち。自分にとって本当に必要なものを知り、それだけで十分に満足した時間を過ごしている。

 かたや、狭い路肩で荷室から3つ4つと荷物を取り出す私。運ぶの手伝おうか? と声を掛けられ、どれほど恥ずかしかったことか。彼、彼女らのようでありたい、と願いながら、余分なものが何なのか、なかなか気付けないでいる。

 思い出すのは、「ケニアで買ってきたの」とエキゾチックな布を砂浜にサラリと広げ、ビーチで熱いエスプレッソを飲む友人の姿。きっとこの夏も、3ドアに娘を乗せて海辺を走っていることだろう。

〈左〉狭い路地でキレイに磨かれたフィアット500Lを発見。よく見ると「vendesi」(売り出し中)との紙が挟んである。〈右〉突然のパンク。路肩でモタモタしていたら、パトカーが停まった。注意されるのかと思いきや、あっという間にスペヤタイヤへ交換し、ウィンクして去っていった。(※)

特集 「小さいクルマが好き!!」の続きは本誌で

小さいクルマは小さいからいいんだ! 今尾直樹

ボーイズレーサーへの回帰 吉田拓生

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ヨーロッパの小さいクルマ 村上智子


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