岡崎五朗のクルマでいきたい vol.116 第3のタイヤ

文・岡崎五朗

 愛車にオールシーズンタイヤを履かせた。あいにく雪道を走る機会のないまま春を迎えることになったわけだが、先日都内に雪予報がでたときも安心してクルマで出かけることができた。

 この安心感は本当に素晴らしい。もしサマータイヤだったらチェーンを巻く覚悟で出かけるか、あるいは電車で出かけるしかないところだが、オールシーズンならチェーン規制でもチェーンは必要ない。もちろん、氷上ではスタッドレスタイヤほどの性能は期待できないが、雪道でのグリップはそこそこちゃんとしている。首都圏に年に一度か二度降る程度の雪であれば十分に対応可能だ。

 とはいえ、日本ではオールシーズンタイヤの需要はまだまだ少ない。降雪地帯に住んでいる人は問答無用でスタッドレスを選ぶし、首都圏に住んでいる人も、冬用タイヤ=スタッドレスとすり込まれているからだ。また、夏用としても冬用としても「中途半端」なオールシーズンなど履きたくないと考えている人も多いと思う。そう、夏も冬もいけるオールマイティーさが売りのオールシーズンタイヤは、見方を変えると、帯に短したすきに長しにもなりかねないということだ。

 となると気になるのは性能だが、端的に言えば予想を上回る出来だった。今回履いたのはグッドイヤーのベクター4シーズン。一部にロードノイズの大きさを指摘する声もあるものの、少なくとも遮音性に優れた古いメルセデスのセダン(W124)との組み合わせではまったく気にならない。直進性、乗り心地、コーナーでの踏ん張り感も想像以上。中途半端どころか、サマータイヤとして評価してもなんら不満はないレベルに達している。それでいて、突然の降雪にも対応でき、季節毎の履き替えが不要なのだから、これはもう非降雪地帯に住む人の日常使いのタイヤとしては理想的だとすら思う。

 まだまだ選択肢は少ないなか、現状では先行の強みをもつベクター4シーズンが有名だが、ヨコハマタイヤやミシュランも同様のコンセプトをもつ商品を投入してきた。サマータイヤ、スタッドレスタイヤに続く第3のタイヤとしてオールシーズンタイヤは注目すべき存在だ。


MERCEDES-BENZ A-CLASS
メルセデス ベンツ・Aクラス

話題の音声コントロール

 「ハイ、メルセデス」でお馴染み、対話型音声コントロール「MBUX」が話題の新型Aクラス。でもちょっと待った。この種のデバイスはわれわれの身近にすでにごまんと存在する。スマートフォンはもちろん、スピーカーやテレビにもどんどん採用されてきているし、そのうち冷蔵庫や洗濯機にも入ってくるだろう。とりたてて新味はない。実際の操作感にしても、音声認識のスピードや認識率はGoogleアシスタンスやSiri、アレクサの7~8割程度といったところ。巨大IT企業と、しかも彼らの土俵で渡り合うのは並大抵のことではない。

 とはいえ、MBUXにはアドバンテージもある。その根源は、クルマ屋がクルマを運転する人のために開発したシステムである、ということだ。スマートフォンでもナビの目的地設定や天気予報などはできるが、その操作範囲はクルマ固有の機能のコントロールまでは及んでいない。その点、MBUXはクルマと完全に統合されているから、たとえば「ハイ、メルセデス、暑い」と言うだけでエアコンの設定温度を低くしてくれたり、室内照明の色や読書灯などなど、様々な操作が可能だ。極めつけは、車内に複数のマイクを設置することで、助手席の人が「寒い」と言えば、助手席側のオートエアコン温度設定だけを上げるというような、痒いところにまで手の届くことをやってのけるのだ。革命的とか、画期的という表現が似合うほどのレベルには達していないものの、将来的に音声コントロールがクルマにもどんどん入ってくることを感じさせる仕上がりにはなっている。

 クルマとしてはどうか? インテリアのデザインと質感は文句なしのクラストップだ。なかでも大型液晶パネルを並列配置したメーターまわりの質感、新鮮さは特筆に値する。一方、走りはいまひとつ。エンジンはゴロゴロした振動があるし、荒れた路面での乗り心地にも課題を残す。

メルセデス ベンツ・Aクラス

車両本体価格:3,280,000円~(税込)
*諸元値はA180
全長×全幅×全高(mm):4,420×1,800×1,420
エンジン:DOHC直列4気筒ターボチャージャー付
総排気量:1,331cc 乗車定員:5名
車両重量:1,360kg
最高出力:100kW(136ps)/5,500rpm
最大トルク:200Nm(20.4kgm)/1,460~4,000rpm
燃費:15.0km/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:FF

MAZDA CX-5
マツダ・CX-5

2.5ℓガソリンターボを追加

 CX-5をはじめとする最近のマツダ車は、頻繁な商品改良をすることで有名だ。2016年12月にデビューした現行モデルも、先進安全装備の充実やエンジンの改良、インフォテインメントシステムの進化など、すでに複数回の商品改良を受けている。今回の改良の目玉は2.5ℓガソリンターボエンジンの追加。結果、2ℓガソリン自然吸気、2.2ℓディーゼル、2.5ℓガソリン自然吸気の3種類だったパワートレインは、合計4種類になった。

 ここで疑問。なぜいまガソリンターボなのか? マツダは従来、ダウンサイジングターボに否定的だった。ダウンサイジングターボはカタログ燃費を引き上げるには有効だが、実用燃費は大排気量自然吸気のほうがいい、という信念をもっていたからだ。訳を尋ねると「ディーゼル車並みの動力性能をガソリンエンジンで味わいたいという要望に応えるため」とのこと。なるほど新しい2.5ℓターボの最大トルクは420Nmと、2.2ℓディーゼルの450Nmに迫る。2.5ℓ自然吸気はたったの250Nmである。

 実際、2.5ℓターボを搭載したCX-5の走りはかなり力強い。それでいて、当然ながらディーゼルエンジンに付きもののガラガラ音は一切聞こえてこない。マツダのディーゼルは決してうるさくはない、むしろ静かな部類に属するが、それでも気になる人は気になるはずで、そんな人にとってはおあつらえ向きの選択肢になるだろう。ただし、これも当然ながら燃費はディーゼルには及ばない。

 ドライブフィール面では、極端に低中速トルク側に振ったディーゼル的な味付けが特徴。常用域では悪くないが、上まで回すとガソリンターボならトップエンドのパンチ力がもっともっと欲しいなと思ってしまう。つまり、ディーゼル的特性を狙うあまり、ディーゼルとの棲み分けが曖昧になってしまったということ。これなら燃費のいいディーゼルでいいよね、と思う人が多いのではないだろうか?

マツダ・CX-5

車両本体価格:2,570,400円~(税込)
*諸元値は25T Exclusive Mode(2WD)
全長×全幅×全高(mm):4,545×1,840×1,690
エンジン:水冷直列4気筒DOHC16バルブ直噴ターボ 総排気量:2,488cc
乗車定員:5名 車両重量:1,620kg
最高出力:169kW(230ps)/4,250rpm
最大トルク:420Nm(42.8kgm)/2,000rpm
燃費:12.6km/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:FF

NISSAN NISSAN LEAF e+
日産・日産リーフe+

大容量バッテリーで航続458km

 世界累計30万台を誇るEVのパイオニアが日産のリーフだ。そのリーフに待望の大容量バッテリー搭載モデルが加わった。リーフe+と呼ばれるこのグレードは、従来の40‌kwhバッテリーに替え、62‌kwhの大容量バッテリーが搭載される。1‌kwhとは1kw=1,000wの電力を1時間使った際の電力量だから、e+には1,000Wのヘアドライヤーを62時間稼働させられるだけの電気が蓄えられているということだ。これは4人家族が家庭で使う約3日分の電力に相当する。

 大容量バッテリーのメリットは航続距離の増加だ。WLTCモードでの航続距離はリーフの322kmから458kmに増加。これだけ走ってくれればドライブ中の充電はほぼ必要なくなるし、短距離使用が多い人にも充電頻度の減少というメリットが生まれる。

 動力性能の向上もe+の特徴だ。モーターは同じだが、そこに流す電流を多くすることでモーター出力を150psから218psまで引き上げた。ここまでスペックが変われば体感的な加速性能も明らかに違ってくる。リーフも速い。とくに停止状態から40km/h程度まではシートに体が押しつけられるような加速を味わえる。e+はその加速感がさらに上の速度域、70~80km/hぐらいまで続くのだ。これはもうちょっとしたスポーツモデルを凌ぐほどの動力性能である。正直、ここまで速くなるとシャシーとタイヤがもう限界ギリギリで、フル加速時にはフロント側が持ちあがって直進が甘くなる動きすら出てくる。

 価格は同グレード比でリーフの50万円アップ。まだまだ高価なバッテリーをたんまり積み込んでいることを考えればリーズナブルに思える。問題は、400万円にも達するクルマとは思えない安手のインテリア。とくに軽自動車以下といいたくなるメーターパネルは納得いかない。実用車としてはまだまだ高価なEVだけに、見た目の質感や先進感にも気を配って欲しい。

日産・日産リーフe+

車両本体価格:4,162,320円~(税込)
全長×全幅×全高(mm):4,480×1790×1,545
乗車定員:5名
車両重量:1,670~1,680kg
最高出力:160kW/4,600~5,800rpm
最大トルク:340Nm/500~4,000rpm
一充電走行距離:458km(WLTCモード)、570km(JC08モード)

VOLKSWAGEN PASSAT ALLTRACK
フォルクスワーゲン・パサート オールトラック

パサート・ヴァリアントのSUV登場

 パサート・オールトラックは、パサート・ヴァリアント(ステーションワゴン)にSUVテイストを加えたモデルだ。最低地上高は30mm増しの160mmになり、前後にスキッドプレートを付け、フェンダー周りは樹脂パーツで縁取る。端正なたたずまいをもつパサート・ヴァリアントと比べると、遊び心というかワイルド感というか、そういうニュアンスがたしかに感じられる。SUVは立体駐車場に収まらない、かといって普通のパサート・ヴァリアントはちょっとつまらないな、と感じている人にとってはうってつけだろう。

 しかし、個人的にはちょっと消化不良感を抱いている。最低地上高が30mm高くなったとはいえ、160mmどまり。同様のコンセプトをもつボルボV90クロスカントリーは210mm、レガシィ・アウトバックは200mmある。この差はもちろん悪路走破性にも表れるが、同時に「雰囲気」にも少なからず影響を与えている。オールトラックをみていると、ヴァリアントとの違いをもっと明確に打ち出すべきだったのでは?と思わずにいられないのだ。いやいや、この程度の微妙な違いがいいんだよと思う人もいるだろうが、僕の意見はちょっと違う。

 それはそれとして、乗ってみた感じはとてもいい。先代パサートは大きなゴルフ的な乗り味だったが、現行モデルにはゴルフの上位モデルを名乗るに相応しい快適性と上質感がある。2ℓディーゼルエンジンは静粛性こそ並みレベルだが、動力性能、吹け上がり、燃費ともに上々。車載燃費計の数値だが、高速道路を淡々とクルージングしていればリッター20kmを超えてくる。ガソリン車から乗り換えれば燃料代は半分になる計算だ。加えて、スノーモードやオフロードモードを備える4WDもオールトラックに「安心感」というプラスαを与えている。広い室内と荷室を含め、ちょっと古臭い表現だがゲレンデエクスプレスとしては最高の1台だと思う。

フォルクスワーゲン・パサート オールトラック

車両本体価格:5,099,000円~、
4月1日以降 5,169,000円~(いずれも税込)
*諸元値はTDI 4MOTION Advance
全長×全幅×全高(mm):4,780×1,855×1,535
エンジン:直列4気筒DOHCインタークーラー付ターボ 総排気量:1,968cc
乗車定員:5名 車両重量:1,680kg
最高出力:140kW(190ps)/3,500~4,000rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1,900~3,300rpm
燃費:17.3km/ℓ(JC08モード)
駆動方式:4WD

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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