岡崎五朗のクルマでいきたい vol.69 手軽なボディ剛性アップ術

 試乗記を読むたびに「ボディ剛性」という言葉を目にすると思う。僕もよく使うし、同業者もよく使う。でもそれ以上にこの言葉を連発するのが自動車メーカーのエンジニアたちだ。

 ボディ剛性とは、外部からボディに力が加わったときの変形しにくさのこと。衝突などに対する壊れにくさは「強度」であり、剛性とは別の意味だ。

 ボディ剛性が高いと、どんないいことがあるのか? まず走行フィールがシャキッとする。土台がしっかりするとサスペンションがスムーズに動くようになり乗り心地がよくなる。直進安定性、コーナリング性能、ステアリングフィール、内装のきしみ音などもボディ剛性の恩恵を受ける領域だ。つまり、ほぼすべてに「効く」のである。

 とはいえ、流行のハイテン材を使っても強度は上がるが剛性は上がらない。剛性を上げるには基本的に板厚を上げるのがいちばんだが、そうすると重量やコストが増してしまう。そんなわけで、エンジニアたちはいかに軽く安く剛性を上げるかに日々腐心している。当然、「本当はもっと剛性を上げたいけれど、コストと重量を考えてこのレベルで妥協しよう」というケースが出てくる。

 これがタイヤやダンパーなら、ユーザーレベルでより高性能なものに交換することができるが、ボディ剛性となると話は別だ。簡単にできることといえば補強パーツを取り付ける程度。その他にもサイドシルやピラーへの硬質発泡ウレタン注入、スポット溶接の増し打ち、リベット止め、ロールバー装着といった方法があるが、これらは一部のマニアしかやっていない手間とコストのかかる方法だ。

 そんななかビックリするほど簡単にボディ剛性を向上する方法がある。レイブロスという会社が作っている「カチカチ君」というパーツだ。文房具店で売っているようなステンレス製の小型クリップをドア開口部などに自分でパチパチと挟んでいくだけ。僕はまだ試していないのだが、複数の自動車メーカーが開発時にこのカチカチ君を使って効果的なスポット溶接の場所を決めている。実験部の人に聞くと実際に装着前後は走り味が変わるそうだ。価格も1万5000円程度なので一度試してみてはどうだろうか?


SUZUKI ALTO TURBO RS
スズキ アルトRSターボ

ジェントルは走りを併せ持つ軽のホットハッチ

 安くて軽くて燃費がよくて使いやすいクルマ、という「軽自動車の本質」を真摯に追求したアルト。そこに、刺激的な走りをプラスしたのがアルトRSターボだ。

 軽自動車人気が高まるなか、ダイハツはコペンを、ホンダはS660というオープン2シータースポーツを提案してきた。当然ながらスズキ内部にも本格的なスポーツカーを作りたいという声はあったようだ。しかし鈴木 修会長の答えはノー。うちは絶対にああいうものは作らないと。この話を聞いて、ああ修会長らしいなと思った。庶民の足としてスタートした軽自動車を、修会長ほど深く理解し、愛している人はいない。彼にとって2人乗りのスポーツカーは軽自動車の本質とあまりにかけ離れた存在なのだろう。

 アルトRSターボは、アルトのボディに高性能エンジンを搭載し、スパイシーに仕上げたモデル。当然ながら、後席や荷室スペースはアルトと同じであり、実用性はまったくスポイルされていない。乗り味にも同じことが言える。一部ではアルトワークスの復活と言われているが、作り手の狙いはちょっと違っていて、とにかくヤンチャだったアルトワークスに対し、ターボRSは日常領域での気持ちのいい走りにもこだわっている。実際、低速域での足のスムーズな動きや、ステアリングのしっかりした手応え、ボディの剛性感など、ドライブフィールの質感はベース車よりグンと底上げされている。だから、飛ばさなくても気持ちがいい。

 もちろん、ワインディングロードも得意領域だ。最高出力は自主規制の64‌psに抑えているが、ボディが軽いから本当に気持ちよく加速して、減速して、曲がる。MTは要らないと言ったら嘘になるけれど、パドル操作可能な5速AGSの変速フィールも上々だ。これほどのファン・トゥ・ドライブ性能が130万円を切る価格で手に入るのはクルマ好きにとって大きな朗報である。

新型アルトをベースに、「心躍らせる、気持ちのよい本格的な走り」を目指し開発されたモデル。剛性を高めたボディに、専用チューニングを施したサスペンションやブレーキ、専用フロントシートなどを採用することで、高い走行パフォーマンスとしなやかな乗り心地を両立。キビキビと気持ちのよい走りが楽しめる。メッキと赤が印象的なデザインや毎日気軽に使える実用性も特徴となっている。

スズキ アルトRSターボ

車両本体価格:1,293,840円(2WD・5AGS、税込)
全長×全幅×全高(mm):3,395×1,475×1,500
車両重量:670kg 定員:4人
エンジン:水冷4サイクル直列3気筒インタークーラーターボ
総排気量:658cc 最高出力:47kW(64ps)/6,000rpm
最大トルク:98Nm(10.0kgm)/3,000rpm
JC08モード燃費:25.6km/ℓ 駆動方式:前輪駆動

MAZDA CX-3
マツダ CX-3

スポーツカーの黄金率で作られたSUV

 写真をみて惚れ惚れしていたCX–3は、試乗会が開催された海辺のホテルでも抜群にカッコよかった。もしかしたら国産ベストルッキングカーかもしれない。なんて書くと、デザインは個人の好みの問題であって…と突っ込まれそうだ。けれど、ほとんどの人が美人を美人と思うのと同じで、クルマのカッコよさにもまた「基準」がある。

 なぜCX–3はカッコいいのか?答えは明快だ。豊かで複雑な面の張りやシャープなキャラクターライン、個性的なルーフエンド形状といったトピックはあるけれど、それらは脇役のようなもの。CX–3のカッコよさの源は、タイヤが大きくて、キャビンがコンパクトで、ノーズが長くて、オーバーハングが短いことに尽きる。クロスオーバーSUVの形態をとっているものの、その実CX–3のデザインはきわめてスポーツカー、もしくはスペシャリティカー的なのだ。「デミオとホイールベースを同じにする」という経営トップから課せられた制約のなか、デザイナーは本当に素晴らしい仕事をしたと思う。

 インテリアも、ダッシュボード本体はデミオと共通だが、ドアトリムをはじめとし細かい部分に大きく手を入れ、より上質な空間にしつらえている。とくに、差し色に赤を使ったホワイト系ツートン内装は抜群にカッコいい。僕がCX–3を買うなら、ツートン内装を選べる最上級グレードを選ぶ。

 4人乗車でレジャーに出かけるような使い方では後席と荷室のスペースに不満が出てくるだろうが、立体駐車場に収まる高さや4,275mmという全長は都市生活者にはありがたい要素。厚みのあるトルクと優れた経済性を両立したクリーンディーゼルエンジンや、自然で扱いやすいハンドリングもCX–3の魅力に華を添える。こんなクルマを手に入れたらきっと生活が華やぐだろうな…そんなふうに想像力をかき立ててくれるのがCX–3最大の魅力だ。

「SKYACTIV技術」とデザインテーマ「魂動(こどう)」を全面的に採用した第五弾モデル。上質でスタイリッシュなデザインと、あらゆる場面での使いやすさを追求したサイズとパッケージング、運転が楽しいと思える走行性能を高次元で融合した。マツダ初のクリーンディーゼル専用車としても注目を集め、発売後1ヵ月足らずで受注は1万台を突破している。

マツダ CX-3

車両本体価格:2,808,000円(XD Touring L Package/2WD 6EC-AT、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,275×1,765×1,550
車両重量:1,260kg 定員:5人
エンジン:水冷直列4気筒DOHC16バルブ 直噴ターボ
総排気量:1,498cc 最高出力:77kW(105ps)/4,000rpm
最大トルク:270Nm(27.5kgm)/1,600〜2,500rpm
JC08モード燃費:23.0km/ℓ 駆動方式:前輪駆動

FIAT PANDA 4×4
FIAT パンダ4×4

ビッグツイン+MTのドコドコパンダ登場

 フィアット・パンダと言えば、イタリアで「素晴らしい箱」と称された初代を思い起こす人が多いだろう。僕もかつて所有していたことがあるが、ジウジアーロの手によるデザインは、ミニマルでありながら噛めば噛むほど味の出てくる素晴らしいものだった。たった52psしかなのに運転するのが抜群に楽しかったのもパンダの想い出のひとつだ。

 そんな伝統を引き継いでいるのが3代目となる現行モデル。現代的なフォルムと上質感が備わり、サイズもひとまわり大きくなったが、全長と全幅はトヨタ・パッソとほぼ同じ。ヴィッツよりもコンパクトということだ。

 そんなパンダに4×4が加わった。最低地上高を嵩上げし、ルーフにはベースキャリアを装着。専用の前後バンパーにはアンダーガードが付き、ノーマルのパンダより少しだけ逞しい表情を見せている。

 エンジンはツインエアと呼ばれる875㏄2気筒ターボ。これに6速MTを組み合わせる。2気筒特有のビート感の効いたサウンドは、やはりMTで乗るのがベストだ。低回転でドコドコドコッと走るのもいいし、思い切り回転を上げてキビキビ走らせるのもいい。振動は3気筒や4気筒より大きめだが、それを「鼓動」として楽しめるマインドの持ち主(バイク乗りなら直感的にわかるはず)なら、このフィーリングをきっと気に入るだろう。最高出力は85‌psしかないし、上も6,000rpmぐらいまでしか回らないから、決してスポーティではないのだが、アクセルを踏み込んだ瞬間のビビッドな反応や、聞こえてくる野太いサウンドには、思わずニヤリとしてしまう楽しさがある。

 4×4には電子式デファレンシャルロック機構を備えた4WDシステムが備わっている。悪路走行は試していないが、メーカーによると「かなり本格的」とのこと。4WDは要らないという人には、同じエンジンと6MTのFF(PANDA MT 199.8万円)もある。

オンロードでは、コンパクトカーならではの機動的でスムーズな走りを、オフロードでは四輪駆動が本領を発揮。フィアット初の衝突被害軽減ブレーキ「シティブレーキコントロール」を搭載したことで安全性を高めた。ボディカラーは、「タスカングリーン」「アイスホワイト」「イタリアンレッド」の3色を用意。国内で展開されている海外メーカーの四輪駆動車としては、手頃な価格設定も魅力となっている。

FIAT パンダ4×4

車両本体価格:2,516,400円(4WD、税込)
全長×全幅×全高(mm):3,685×1,670×1,615
車両重量:1,130kg 定員:5人
エンジン:直列2気筒8バルブ マルチエアインタークーラー付ターボ
総排気量:875cc
最高出力:63kW(85ps)/5,500rpm
最大トルク:145Nm(14.8kgm)/1,900rpm
JC08モード燃費:15.5km/ℓ 駆動方式:4WD

BMW 2SERIES ACTIVE TOURER
BMW 2シリーズ アクティブツアラー

満を持して発売されたBMW初のFF車

 BMWといえば、都会的なデザインとスポーツ性が持ち味のプレミアムメーカーである。それを具現化するため、彼らはずっとFRにこだわってきた。フロントにエンジンを積み、後輪を駆動し、前後重量配分を50:50にする。これがBMW流クルマ作りのお約束だ。

 そういう意味で、2シリーズアクティブツアラーは掟破りのBMWである。なにしろFFなのだから。運動性能を突き詰めていけばFRには有利なことがたくさんある。けれどスペース効率を追求していいくとFFが有利になる。アクティブツアラーはコンパクトなサイズで広い室内を実現することを命題にしたモデルだけにFF化は当然の帰結…なのだが、FFモデルを出すことについてBMWはかなり悩んだようだ。そんななか彼らを決断させたのが「1シリーズのオーナーの8割が自分のクルマがFRであることを知らなかった」という調査データだ。クルマ好きにしてみれば衝撃的なデータだが、現実とはこんなもの。そんな経緯でBMW初のFFモデルが登場することになった。

 外観は素晴らしくスタイリッシュというわけではないが、キドニーグリル、ホフマイスターキンク、L字型リアコンビランプといったアイコンを散りばめることで、ひと目でBMWとわかるデザインに仕立てた。むしろ注目したいのは室内で、4350㎜という控えめな全長ながらFF化によって広々した室内と荷室スペースを実現。ライバルのメルセデス・ベンツBクラスと広さはほぼ同等だが、インテリアデザインはアクティブツアラーのほうが明るくて開放的だ。

 FFのノウハウをミニの開発を通じて積み上げてきただけに、走りの完成度は高い。ほどよくスポーティで洗練されたテイストは間違いなくBMW流であり、言われなければFFと気付く人は多くないだろう。今後BMWはアクティブツアラーベースの3列シート仕様も追加してくる予定だ。

BMWの新たなコンセプト「スポーツ・アクティビティ・ツアラー」のもと、ダイナミックなスタイリングとスポーティな運動性能に、広々とした室内空間と高い機能性・快適性を融合させた。日本市場の特性を考慮し、一般的な機械式駐車場にも収まる取り回しの良いコンパクト・ボディでありながら、FFを採用したことで、広々とした室内空間やアレンジ自在のリヤシートなど、ひとクラス上の居住空間を創り上げた。

BMW 2シリーズ アクティブツアラー

車両本体価格:3,320,000円(218iアクティブ ツアラー、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,350×1,800×1,550
車両重量:1,460kg 定員:5人
エンジン:直列3気筒DOHCガソリン
総排気量:1,498cc 最高出力:100kW(136ps)/4,400rpm
最大トルク:220Nm(22.4kgm)/1,250-4,300rpm
JC08モード燃費:16.8km/ℓ 駆動方式:前輪駆動

文・岡崎五朗


Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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