岡崎五朗のクルマでいきたい vol.57 温暖化とタイヤ分布図

  2013年の世界の平均気温は1891年の統計開始以降2番目に高い値となった。地球は確実に温暖化してきているのだ。その影響を思わぬ形で受けているのが日本のタイヤメーカーだ。

  これまでスタッドレスタイヤは冬場の北海道と、南半球のニュージーランドで開発していた。ところがニュージーランドの気温が上がって積雪量が減り、十分なテスト走行ができなくなってしまったのだという。

  横浜タイヤが今年スウェーデン北部に開設したテストコースは、約40万平米の敷地に大小9種類のコースをレイアウトした大規模なもので、厳しい気候条件を活かし、12月から3月までの4ヵ月間にも渡るテスト走行が可能。北海道のテストコースは実質冬場の2ヵ月程度しか稼働しないため、開発期間は大幅に伸びた。その分、徹底的な走り込みが可能になるわけだ。

  今回実際にスウェーデンのテストコースを走ってみたのだが、興味深かったのは日本では販売していないウィンタータイヤの試乗。日本ではアイスバーンでのグリップ性能に特化したスタッドレスタイヤが主流だが、欧州では高速道路でのハイスピード走行も考慮に入れたウィンタータイヤが主流。一昔前のウィンタータイヤはアイスバーンでのグリップが不足気味だったが、最新モデルのW・drive V905はツルツルの登坂路でスタッドレスタイヤに迫るグリップを発揮してくれた。開発者によると、舗装路(ドライ&ウェット)での安心感はサマータイヤに迫るという。東京に住んでいて1シーズンに何回かスキーに行く、あるいは先日の大雪のような日にクルマで出かける…そんな程度の使い方には本格的なスタッドレスよりも向いていると感じた。ぜひ日本でも販売して欲しいところだ。

  逆に、温暖化によって日本以外でも日本製スタッドレスの評価が高まっている地域がある。ロシアではアイスバーンに強い日本製スタッドレスは高い人気を誇るし、雪が減ってきた北欧三国ではスパイクタイヤによる粉じん問題が起こりつつあり、日本製スタッドレスの人気が徐々に高まってきている。冬用タイヤも地域特化型からグローバル商品へと変わりつつあるのかもしれない。


NISSAN SKYLINE 日産 スカイライン

インフィニティのエンブレムを持つスカイライン

  初代から数えて13代目。登場は1957年だから、ほとんどの読者の方が生まれる前からスカイラインは存在しているわけだ。’55年登場14代を数えるクラウンと並ぶ、日本を代表する車種である。

  そんな伝統の車種にブランディング上の混乱が生じている。2001年の11代目から日本では日産スカイライン、海外ではインフィニティとして販売されていたのだが、新型は日本で販売されるモデルにもインフィニティのエンブレムを付けてきた。リアにはスカイラインと書いてあるものの、どこを探しても日産のブランド名を見つけることはできないのだ。

  インフィニティと言えば日産が海外で展開するプレミアムブランド。トヨタに対するレクサスのようなものだ。とはいえ日産にはインフィニティを国内で立ち上げる計画はない。なのにどうしてインフィニティバッジ?

  どうやら社内のインフィニティ部門が自分たちのクルマに日産エンブレムを付けるのはまかり成らんと言ったらしい。その結果、新型スカイラインは日産でもインフィニティでもない「日産自動車が製造するスカイラインというクルマ」という微妙な存在になった。

  クルマ作りの面でも、企画部門が「スカイラインという老舗のタレは捨て一から新しく作りました」と言えば、開発部門は「スカイラインらしさを大切にしました」と言う始末。どっちが本当なの? ユーザーに理解してもらおうと思ったら、まずは社内の意見を統一するべきだろう。

  とはいえクルマに罪はない。端的に言って、新型スカイラインは日産が持つ技術の粋を集めた意欲作だ。3・5ℓV6ハイブリッドは動力性能と燃費を高次元で両立。世界初となるステアバイワイヤーも想像以上の出来映え。総合的にみてレクサスISと十分対抗できる実力を備えている。450万円~という価格設定だけに、おいそれと買えるモデルではないが、新感覚の走行性能は体験の価値ありだ。

パワートレインには日産独自の1モーター2クラッチ方式のハイブリッドシステムを採用。圧倒的な加速性能とクラストップレベルの燃費を両立させた。また、ステアリングの動きを電気信号に置き換えてタイヤを操舵する、世界初の技術を採用。応答遅れのないシャープなハンドリングと高い走行安定性を実現した。

NISSAN SKYLINE

車両本体価格:¥4,282,000(350GT HYBRID/2WD、税抜)
全長×全幅×全高(mm):4,790×1,820×1,440
車両重量:1,760kg 定員:5人
エンジン:DOHC・V型6気筒 総排気量:3,498cc
【エンジン】
最高出力:225kW(306ps)/6,800rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/5,000rpm
【モーター】
最高出力:50kW(68ps) 最大トルク:290Nm(29.6kgm)
JC08モード燃費:18.4km/ℓ 駆動方式:後輪駆動

PORSCHE MACAN ポルシェ マカン

スポーツ性を強めたポルシェ発コンパクトSUV

  ポルシェといえば世界でもっとも有名なスポーツカーメーカーであり、911、ケイマン、ボクスターといったスポーツカー群は他の追随を許さない人気と実力を誇っている。

  しかし、実のところ販売台数はSUVのカイエンが全体のおよそ半数を占める。本当は911に乗りたいけれど家族がいるとか、スポーツカーというよりはポルシェというブランドに憧れている人など、膨大な潜在顧客を巧みに取り込むことで、ポルシェは急成長を遂げたのだ。

  そんななか新たに登場したのが新SUVのマカンだ。カイエンよりひとまわり小さいボディには出力の異なる2種類のV6ターボが搭載され、340ps版はマカンS、400ps版はマカンターボと呼ばれる。

  SUVのカイエンにしろセダンのパナメーラにしろ、ポルシェのクルマ作りには「ひと目でポルシェだとわかるデザインを与えること」というセオリーがある。具体的には、イメージリーダーである911の面影だ。マカンも例外ではなく、フロントマスク、Cピラーからリアフェンダーへと続く面形状には911との強い血縁関係を感じる。強く傾斜したCピラーや低い全高などにより、スポーツカー群との相似性はカイエンより強い。マカンはカイエンの弟分という位置づけのモデルになるが、単に小さいだけでなく、ポルシェのDNAであるスポーツ性をより強めたSUVと解釈するのが正解だ。

  実際にドライブしてもそんな印象が裏切られることはない。低めのアイポイントやコンパクトさが生み出すのはクルマとの強固な一体感。アウトバーンでのオーバー200㎞/hクルージングからテストコースでの限界走行までさまざまな状況で試乗したが、走行性能はSUVと呼ばれるジャンルのなかでは文句なしのトップ。見た目だけでなく、速さと緻密性がもたらす走りの快感でも、マカンは正真正銘のポルシェだった。

コンパクトSUVではなく、心高ぶらせるスポーツカーを目指したというマカン。5つのドアと5つのシートを備え、室内は趣味やレジャー、スポーツのためのゆとりある空間を創り上げた。一方で、7速ポルシェ・ドッペルクッブルング(PDK)を搭載するなど、ロードとの緊密な一体感をもたらすドライブフィールに仕上げた。

PORSCHE MACAN

車両本体価格:¥7,190,000(マカンS、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,680×1,925×1,625
エンジン:3.0リッターV型6気筒ツインターボエンジン
総排気量:2,997cc
最高出力:250kW(340ps)/5,500~6,500rpm
最大トルク:460Nm/1,450~5,000rpm
最高速度:254㎞/h 0-100㎞/h加速:5.4秒
駆動方式:フロントエンジン4輪駆動

CITROEN DS3 シトロエン DS3

新パワートレイン搭載車が登場 ドライビングと経済性を追求

  シトロエンDS3といえば、いま新車で手に入るコンパクトカーのなかでもっともスタイリッシュなモデルだ。自分の愛車なのでもう迷わず言い切ってしまうが、同調してくれる人もきっと多いのでは?

  個性的な2トーンカラー、ダブルシェブロンを埋め込んだ表情豊かなフロントマスク、独創的なシャークフィン形状のBピラー、小股の切れ上がったフェンダーまわりの造形処理…。手元にやってきてからもう半年以上経つが、いまでもドキッとさせてくれる。ポルシェ911やプジョーRCZに乗っていたときもそんな気分になったが、DS3はコンパクトカーだ。そう考えるとちょっとすごいと思う。

  そんなDS3に新しいパワートレインが加わった。従来の1・6ℓ直4に代わって新設計の1・2ℓ直列3気筒エンジンを搭載。トランスミッションもトルコン式4速ATから「ETG5」と呼ばれるシングルクラッチ式5速ATに変更された。これにより燃費は18・6㎞/ℓと、従来モデルに対しおよそ50%向上したわけだが、気になるのは走り。なにしろ1・2ℓエンジンのスペックはわずか82‌psだ。

  出足は、悪くない。加速も期待以上だ。従来モデルより100㎏近く軽くなっていることと、街中でよく使う2000~3000rpmのトルクがしっかり出ているのが、スペックから想像する以上に元気に走る理由だろう。3気筒でありながら下手な4気筒より静かにスムーズに回るのも嬉しい。

  それにも増して気に入ったのがフットワークだ。ノーズが軽いため、ステアリング操作に対してノーズがビビッドに動く。僕が乗っている1・6ℓターボより細いタイヤを履いているため乗り心地はしなやか。高速道路を中心に使うならターボモデルがベストだが、街中中心で使うなら1・2ℓをオススメしたい。ちょっと癖のあるETG5にさえ慣れてしまえば、最高に楽しいコンパクトカーライフを送れること請け合いである。

新パワートレインは、小排気量ながら十分なパワーと滑らかさを併せ持つ高効率・高出力の「1.2ℓ 3気筒エンジン」と、ダイレクトなレスポンスと燃焼効率を大幅向上させた次世代型トランスミッションの「ETG5」、そして不要なアイドリングを抑制する「ストップ&スタートシステム」の3つを組み合わせた。全グレードにHiFiオーディオ(8スピーカー)を標準装備している。

CITROEN DS3

車両本体価格:¥2,540,000(DS3 Chic、税込)
全長×全幅×全高(mm):3,965×1,715×1,455
車両重量:1,090kg 定員:5人
エンジン:直列3気筒DOHC  総排気量:1,199cc
最高出力:60kW(82ps)/5,750rpm
最大トルク:118Nm(12.0kgm)/2,750rpm
JC08モード燃費:18.6km/ℓ 駆動方式:前輪駆動

VOLVO XC60 ボルボ XV60

アグレッシブからジェントルへの原点回帰

  ボルボと言えば穏やかなドライブフィールと角張ったスタイルが持ち味…という決まり文句を一掃したのが2008年に登場したXC60だ。エッジの効いたスポーティなデザインと、アグレッシブなドライブフィールは、従来のボルボ像を一掃。世界中で高い人気を獲得した。

  そんなXC60もデビューから6年。その間に登場したV60&S60、V40といった新世代モデルとあいまって、ボルボのイメージはすっかり若返った。

  「ドイツのプレミアムメーカーと渡り合うためには200メートル先からでもボルボとわかる強さが必要なんです」。6年前にインタビューした際、XC60の開発責任者はそう語っていたが、彼の狙いはほぼ達成されたと言っていいだろう。

  そんななか、初のビッグマイナーチェンジを実施したXC60。顔つきを見ておっ? と思った。アグレッシブさが薄まり、優しげな表情をしている。デザインのトップが変わったことも関係しているだろうが、大きいのはやはりDNAなんだろうと思う。

  固定化したブランドイメージを刷新するには荒療治が必要だが、それを達成したいまボルボの本来の「癒やし感覚」や「優しさ」が再び表に出てきた。僕にはそう思える。

  走りにも同じことが言える。新開発の2ℓ直4ターボはパワースペックこそ従来型2ℓ直4ターボとほぼ同じ(5ps/30‌Nmのプラス)だが、XC60のドライブフィールをまるで別物のように洗練させた。いい意味でも悪い意味でもターボエンジンらしかった従来型に対し、新型はまるで自然吸気の大排気量エンジンのようなゆったりした走りを演じる。もちろん、その気になれば滅法速いが、優しさを増した外観と歩調を合わせるかのように、ジェントルな振る舞いをみせてくれるのだ。

  XC60をきっかけに一皮むけたボルボだが、今回のビッグマイナーチェンジを機に、今度は原点回帰を狙っているのかもしれない。

新たにデザインされたヘッドライト、ワイドなフロントグリルと水平ラインを強調したクロームトリムにより、ワイド感を強めた。さらにヘッドライトの下部には縦型のLEDポジションライトを配置、伝統的なVシェイプを強調させた新ボンネット形状で、SUVらしい逞しさを表現している。ラインアップには「T5 SE」グレードが新たに追加された。

VOLVO XC60

車両本体価格:¥5,132,571(T5、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,645×1,890×1,715
車両重量:1,770kg
エンジン:DOHC水冷直列4気筒横置き・ターボ
総排気量:1,968cc
最高出力:180kW(245ps)/5,500rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/1,500~4,800rpm
駆動方式:FF

文・岡崎五朗


Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『岡崎五朗のクルマでいこう!』に出演中。

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