My First Love archives

クルマやバイクに興味を持ったきっかけはそれぞれだけど、初めてクルマやバイクにときめいた気持ちはみんな同じだと思う。

それは子供の頃に夢見たスーパーカーでも、免許を取って最初に運転したバイクでも、大人になって理想のクルマが見つかったときであっても。

夢中になったクルマやバイクのことを喋るとき、ひとはクルマやバイクに恋をしているようにも見える。

クルマやバイクは生活を豊かにする道具ではあるけれど、ときに恋人に抱くような切ない気持ちにさせてくれる…。

今回はaheadにゆかりある方たちが、クルマやバイクの“ときめき”について語ります。

2015年11月号 Vol.156 特集「My First Love」より クルマ選びで重要なのは恋する気持ち

文・岡崎五朗

 これまでたくさんのクルマを愛車にしてきた。ちゃんと数えたことはないけれど、十数台にはなるだろうか。どれも可愛い奴らだったが、心の底から惚れたのはたった1台だけ。そのクルマの名前はポルシェ911。現行モデルのひとつ前に生産されていた997と呼ばれるモデルだ。

 よほど重要な用事がないかぎり、納車当日に新しく迎え入れた愛車とドライブに出かけることにしているのだが、帰宅してからもずっと一緒にいたいと思い、朝方までガレージにいたなどという経験はあの時が初めてだった。そういうドキドキを再び味わいたいとは思っているけれど、残念ながらいまだチャンスに恵まれていない。

 997に惚れた理由はいろいろあるが、いちばん強いのは「見た目が気に入ったから」という、クルマ評価のプロとは思えないしょうもない感情からだ。もちろん、パフォーマンスを無視したわけじゃない。997の走りは最高に気持ちよかった。けれど、それを言うなら996だって悪くなかった。初期モデルにはあまり感心しなかったが、後期モデルにはポルシェらしいエキサイトメントがしっかりと戻っていた。にもかかわらず僕は996を欲しいと思ったことは一度もない。というのも、見ていてドキドキしなかったから。水冷化した911シリーズの第一弾としてルックス面でも新しいチャレンジをしたかった…というポルシェの意気込みは理解できたけれど、理解と共感は別問題なのである。

 その点、997は違った。まさに一目惚れ。そもそも好き嫌いなどという感情は論理性とは対極にあるものだが、あえて分析するなら、スーパーカーブームのときに憧れを抱いた930ターボの面影がそうさせたのかもしれない。とにかく見れば見るほど心のトキメキが膨らみ、購入に至ったわけだ。

 ちなみに現行911への試乗体験を済ませた今でも997への想いはこれっぽっちも色褪せていない。唯一、タルガにはかなり惹かれているが、値段が高すぎてちょっと手が出ない。現行ボクスターやケイマンの乗り味には心底惚れ込んでいるが、ルックスではやはり997を超えられていない。

 というわけで、ここまで僕の私的クルマ恋愛ネタにお付き合いいただいたわけだが、正直なところ、自分としては皆さんのお役にたつ情報を提供できた自信はまったくない。よく「専門家であるあなたのホンネを聞きたいのです!」と言われるのだが、現行911より997のほうがカッコいいから好き! なんてホンネなど、まったくもってクズのような情報にすぎないわけで…。だから僕は編集部からとくにリクエストがないかぎり、私的価値観を評価基準にしたレポートは書かないことにしている。でなければニュートラルな原稿にはなり得ないから。ある意味、冷徹な評価者に徹するのが僕のポリシーである。たとえば「自分で買うなら○○より××だな。だってカッコいいもん」なんて思ったりしつつ、○○を絶賛する原稿を書くなんてことは日常茶飯事。しかし決して嘘を書いているワケではない。自分の好みを一方的に押しつけても意味がないと考えているだけだ。何を選んだらいいかわからないとか、どちらも同じぐらい気に入っているといった場合に、僕の客観評価を参考にして下さいね、程度のこと。それが、極端なダメ車など存在しない時代の試乗レポートの意味である。

 僕がこの原稿を通して伝えたいのは、いくらハードウェアが優れていても、心に響かないクルマは買うべきではないということ。左脳より右脳、事情より本能で決めたほうが、心の満足感は絶対に高いと断言しよう。

PORSCHE 911カレラ(997)

ポルシェ911の6代目モデル。996からボディ構造やエンジンなどの基本構造は受け継いだものの、内外装デザインを一新。993を最後に途絶えたポルシェ伝統の丸型ヘッドライトの復活を筆頭に、ダッシュボードやドアアームレストなどの形状も993以前に立ち返り、初期(通称ナローモデル)への原点回帰を図った。

エンジン:水平対向6気筒24バルブ 排気量:3,595cc
最高出力:325ps(239kW)/6,800rpm
最大トルク:37.7kgm(370Nm)/4,250rpm

2010年3月号 Vol.88 特集「イメージするクルマとバイク」より バイクを真ん中に置いておきたい

文・竹田津敏信 写真・藤村のぞみ

 「また今週もバイクに乗れなかった…」。仕事が忙しかったり、天気に恵まれなかったり。多くの社会人ライダーにとって、愛車を思う存分走らせられる時間は、そう多くはない。

 そもそも、峠に走りに行ったり、500キロ以上のツーリングをしなきゃ面白くないとは思っちゃいない。「ちょっとそこまで」出掛けるだけでも十分なのだ。もしくは愛車を眺めたり、キレイに洗車してやるだけで、心は満たされる。

 大切なのは「自分の真ん中にバイクがある」ことを、ほんのわずかな時間でもバイクに触れることで確認したいのだ。でも、それすら難しいときがある…。
 そんなときにオススメなのが、バイク関連の映画や映像を鑑賞すること。愛車に日常的に触れることはできなくても、風を切って走っているときの「あの感じ」は味わえる

 バイク関連のDVDなら、そんなライダーの欲求不満を解消してくれる。楽しみかたは自分次第。暖かくなってからの自分の走りをイメージするも良し、非現実の体験に感情移入するも良し。かつて憧れた名ライダーの走りを見て興奮し、テクニック系の作品で自分の走りを見つめ直す。映画やツーリング紀行で、まだ見ぬ土地に思いを馳せる…。想像の翼を自由に広げ、来たるべきシーズンに向けてモチベーションを高めていく。

 1日が終わろうとする瞬間に、たとえそれがテレビ画面だったとしても、バイクに関係する何らかのイマジネーションを広げるヒントを得られることは、シアワセなことだと思う。

 もし貴方が、現在バイクを所有していなくても同じだ。 「また乗りたいなぁ」もしくは「次はどんなバイクに乗ろうかなぁ」という気持ちになれれば、貴方は立派なバイク乗りだ。口癖のように語られる「オレも昔乗っててさぁ」から一歩抜け出した現在進行形の気持ちさえ持てれば、自分の中の何かが確かに変わるはずだ。

 バイクにメンテナンスが必要なように、ライダーの心にだってケアが必要。むしろ、思うように乗れない時間があるってことが、日常的にバイクに触れているときには気付きにくい事柄に気持ちが向くチャンスでもある。

 バイクの免許を持っていて、いつか乗ろうという気持ちもある。そのことには貴方が思っているより遥かに大きな無限の可能性がある。時速300キロの異次元も、1日1,000キロ走る旅の世界も、その気になればたぐり寄せられるトコロにあるのだから…。


定期購読はFujisanで