クルマやバイクの迷子たちへ

「乗りたいクルマがないならゴルフにしとけってどういうこと」

「ここ数年MAZDAのクルマが増えてきたのはなぜ」
「バイクは好きだけど、準備して乗り出すのが面倒くさい」
「歳をとると古いモノが欲しくなるのは、どうしてなのだろう」

なんとなく分かっているようで、なんとなくしか分からなかったことや、若い頃と違ってきた自分の気持ちをまとめてみました。
今回はクルマやバイクの迷路に入り込んだ人たちにおくります。


迷路に入ったらマツダを選ぶ

文・世良耕太

 VWゴルフに2台続けて10年乗ったのは、ど真ん中のクルマに乗っていたかったからだ。ベンチマークの位置づけである。私は職業上の理由から、さまざまな種類のクルマに乗る。年代もののクルマが普段の相棒だと最新のクルマはなんでも先進的で素晴らしく思うだろうし、ハイパフォーマンスカーに乗っていれば、どんなクルマも物足りなく感じてしまう恐れがある。

 それを補正して評価するのが仕事だろうと言われれば返す言葉はないが、身に染みついた感覚というものは、そう簡単に洗い流すことはできない。という考えもあって〝基準〟となるクルマを選んでいる。公言することはないが、前ページにあるように多くの自動車メーカーはゴルフをベンチマークにしている。あるときは特定の技術に対する明確な目標として、あるときは自分たちの現在地を知るための参考にしている。ゴルフはそういう位置づけであり、ベンチマークとするにふさわしい。

 ただし、義務感からゴルフを選んでいたわけではない。本当に「乗りたい」クルマだった。技術的にも、動的および静的な質感の面でも、スタイリングや室内のクオリティに関しても、1.2ℓ直4ターボエンジンと7速DCTを組み合わせたゴルフが気に入っていた。走りが良かったし、燃費も良かった。ドアの閉まり音などは(バックドアも含めて)、現在でもクラストップだと思う。

 6代目と7代目とゴルフに乗り、そろそろ次のステップに踏み出してみたくなった。10年乗ったので、ゴルフの味は体に染みついており、しばらくは軸がぶれることはないはずだ。そのうえで、新しいベンチマークを体に染み込ませることにした。

 選んだのは、MAZDA3である。ゴルフと同じCセグメントに属する。ゴルフが“7”で捨ててしまったオルガン式アクセルペダルを採用していることが示すように、運転という行為に対して真摯に向き合っているのが、このクルマの特徴だ。いや、MAZDA3に限った話ではなく、マツダ全車に共通している。ゴルフのシートは国産自動車メーカーのシート開発者に大きな影響を与えた優れた出来だったが、MAZDA3のシートも負けず劣らず力の入った作りになっている。

 誰もが使いやすく、安心して運転に集中でき、心地良く移動できる空間やインターフェイス。それが、マツダのクルマづくりの根幹にある。そして、走りがいい。その走りを積極的に楽しむ目的でMTを選択したが、ただMTの設定があるだけでなく、MTを選ぶ人が歓ぶようなパワートレーンの擦り合わせを行っているところに、ロードスターという『走る歓び』の権化のような名車を連綿と作り続けているマツダの心意気が現れている。そんなところも、マツダを選んだ理由だ。

 それに、新世代ガソリンエンジンのe-SKYACTIV-X。世界の多くの自動車メーカーが実用化を夢見ながら果たせなかった高効率高応答の燃焼技術を、世界で初めてマツダが実用化した。マツダの『飽くなき挑戦』のスピリットを象徴するのはロータリーエンジンだが、e-SKYACTIV-Xはその現代版。間違いなく自動車史に残る技術で、それを体感しておかない手はない。MAZDA3には、新たなベンチマークにするにふさわしい要素がそろいすぎている。

MAZDA3

車両本体価格:¥2,221,389~(税込)
*諸元値はFASTBACK X L Package(ハイブリッド/2WD 6MT)
エンジン:水冷直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量:1,997cc
最高出力:140kW(190ps)/6,000rpm
最大トルク:240Nm(24.5kgm)/4,500rpm
燃料消費率:18.5km/ℓ(WLTCモード)

MAZDA6

車両本体価格:¥2,893,000~(税込)
*諸元値はSEDAN 25T S Package(2WD 6EC-AT)
エンジン:水冷直列4気筒DOHC16バルブ直噴ターボ
総排気量:2,488cc
最高出力:169kW(230ps)/4,250rpm
最大トルク:420Nm(42.8kgm)/2,000rpm
燃料消費率:12.4km/ℓ(WLTCモード)

MAZDA CX-3

車両本体価格:¥1,892,000~(税込)
*諸元値はXD(ディーゼル/4WD 6MT)
エンジン:水冷直列4気筒DOHC16バルブ直噴ターボ
総排気量:1,756cc
最高出力:85kW(116ps)/4,000rpm
最大トルク:270Nm(27.5kgm)/1,600-2,600rpm
燃料消費率:21.2km/ℓ(WLTCモード)

MAZDA CX-5(特別仕様車)

車両本体価格:¥3,575,500 (税込)
*XD Sport Appearance(ディーゼル/FF 6AT)
エンジン:水冷直列4 気筒DOHC16 バルブ直噴ターボ
総排気量:2,188cc
最高出力:147kW(200ps)/4,000rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/2,000rpm
燃料消費率:18.7km /ℓ(WLTC モード)

MAZDA MX-30

車両本体価格:¥2,420,000~(税込)
*諸元値はBasic Set(2WD 6ET-AT)
エンジン:水冷直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量:1,997cc
最高出力:115kW(156ps)/6,000rpm
最大トルク:199Nm(20.3kgm)/4,000rpm
燃料消費率:15.6km/ℓ(WLTCモード)

MAZDA ROADSTER

車両本体価格:¥2,601,500~(税込)*諸元値はRS(2WD 6MT)
*一部仕様を除き、現行モデルの販売は終了。今冬新モデル発表予定。
エンジン:水冷直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量:1,496cc 最高出力:97kW(132ps)/7,000rpm
最大トルク:152Nm(15.5kgm)/4,500rpm
燃料消費率:16.8km/ℓ*i-ELOOP +i-stop装着車は17.4km/ℓ(WLTCモード)

バイクは乗らずして楽しめる

文・山下 剛

 かねてより「バイクは乗ってナンボ」といわれ、バイクに乗らないバイク趣味は〝盆栽〟と揶揄された。バイク人気が高まっている今もそれはおそらく変わっておらず、ジブリ風にいえば「走らねぇ豚はただの豚だ」になるのだろう。

 私もそんなふうに考えていたが、近頃はすっかりただの豚になっている。新車を買えば気分も変わるかと一縷いちるの期待を込めて新車のモトグッツィを買ってみたものの、納車から2カ月がすぎても慣らし運転が終わらない有様だ。

 体力が急激に衰えていることに加えて、気力も萎えているのだろう。バイクを走らせるには体力が欠かせないが、体力以上に気力が必要だ。気分が落ち込んでいるときにバイクを走らせると違反切符を切られたり、立ちゴケしそうになって脚が肉離れしたり、あるいはコケる。もっと悪ければ事故で大怪我する。憂さ晴らしにバイクを走らせてもロクなことにならない。

 言い訳はこのくらいにしておこう。とにかく、バイクに乗る、走らせる気力が落ちたのだ。

 かといってバイクへの興味が希薄になったわけではない。私にとってバイクは趣味の柱であるし、生活の糧でもある。昨今の状況はつまり、プレイヤーでいる時間が短くなり、ファンでいる時間が長くなったのだ。そう、私はバイク乗りではなくバイクファンになった。

 たとえば野球でもサッカーでも、そのスポーツを好きな人たちすべてがプレイヤーである必要はない。競技場で観戦する、テレビやネットで試合を見る、SNSなどで同好の士と談義を楽しむ。それだけでも十分であり、ファンとはそういう存在だ。楽器を弾かずとも歌わずとも、ただ聴くだけのリスナーであっても音楽の愛好者だ。趣味として運転することがほぼ不可能な鉄道ファンたちは、乗り鉄や撮り鉄を主軸としてその楽しみ方をかなり細分化している。

 バイクも同様でいいと思う。バイクを眺めるだけ。所有してガレージで保管するだけ。自分は乗らずとも子供に乗らせて楽しんだり、所有せずレンタルしてツーリングしてもいい。

 バイクを理想の形にカスタムする。ひたすらレストアに励む。バイクのプラモデルを作る。バイクには乗らないが、レースを観戦したりリザルトを追いかける。バイク雑誌を買って眺めたり、SNSやモトブログを観たり、街なかや観光地を走っているバイクを目で追いかけるだけでも構わない。応援する気持ちを込めてひいきのバイクメーカーの株を買って株主総会に顔を出し、要望を言うというのもおもしろい。そういうバイクとの距離感、楽しみ方、味わい方があってもいいはずなのだ。

 バイク趣味は盆栽でいいじゃないか。盆栽どころか観葉植物くらいの空気感でもいいと思う。それを揶揄したい人にはさせておけばいい。バイクを所有して走らせてこそ、バイク愛好家であり趣味人。そういう価値観から脱却してもそろそろ良い頃ではないだろうか。スピードがバイクの正義であった時代が終わったように、所有して走らせるだけがバイク趣味の在り方ではなくなってきたのだ。もっともらしくいえば、バイク趣味が多様化すれば、持続可能性も高まるのである。

 とはいえ、そうしたバイクファンという存在は、これまでバイクに乗ったこともなければ、興味もなかった人たちの間で広がっていってほしい。それこそが持続可能性を高める確実な方法だ。これからは趣味は何かと問われたら、臆せず「バイク鑑賞です」と答えよう。


「クルマやバイクの迷子たちへ」の続きは本誌で

世界のベンチマークVWゴルフ 石井昌道

迷路に入ったらマツダを選ぶ 世良耕太

バイクは乗らずして楽しめる 山下 剛

クルマの色気と古いモノ 中兼雅之


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