絶対王者に挑戦するBMW R18B

文・青木タカオ

BMWモトラッドの「R18B」をドイツ・フランクフルト近郊で約260㎞乗ってきた。

 同社では新境地となるクルーザーセグメントに向けたニューモデルだ。

 クルーザーバイクは、ゆったりとした乗車姿勢で巨体を悠然と走らせるという独特の世界観がある。スポーツバイクなら、ライダーは程度に差はあるものの前屈みに身構え、積極的に身体を動かして操らなければならず、シャシーも軽くコンパクトなほど善しとされるが、このセグメントではその評価軸はまったく通用しない。

 運動性能を考えれば、ロー&ロングかつ重量もある不利でしかない車体を、どっしりと落ち着き払ったかのようにして乗るその姿に、魅了されてやまないライダーは世界中に数多く存在する。

 時代をさかのぼれば、サーキットでスピードを競い合うまでは、いかに立派で上質、長い距離も確実に走りきれる頑丈さを持つか否かが、モーターサイクルの良し悪しを決める点で重要だったはずだが、そんな慣わしを現代にまで受け継いできたのが、クルーザーというセグメントなのかもしれない。

 もちろん、スポーツバイクでもクオリティや質感にこだわるモデルはたくさん存在するが、クルーザーではそこが極めて重要視され、それと同時に速さやパワーより、エンジンフィーリングがいかに味わい深いかという感覚的な部分が大切となってくる。なにはともあれ、美しく官能的でなければならないのだ。

 BMWは1923年にモーターサイクルの生産を始めて以来、史上最大となる排気量1,801㏄の空油冷ボクサーツインを新開発し、シャシーも専用開発した。すべてはクルーザーのためにである。

 「R18B」を走らせて感じるのは、重厚なクルーザーであるにも関わらずステアリングフィールが軽快でクセがないこと。コーナーへのアプローチでも、ボクサーツインならではの地を這うような低重心からスッと車体が寝ていき、クルーザー特有のアンダーステア、あるいは切れ込みを感じない。これはステアリングジオメトリーを専用設計したことによる賜物であり、クルーザーに馴染みがなかったライダーにも受け入れやすい高いスタビリティとフットワークの良さを両立し、BMWらしさを感じる。

 アウトバーンを駆け抜けたときの直進安定性も格別で、高いコンフォート性がロングライドへと誘う。ゆとりあるビッグボクサーツインが低回転での高速巡航を実現し、滑らかな鼓動感に五感が刺激され、アクセルを開けるたびにその心地良さで頬が緩む。

 特殊なセグメントと冒頭で述べたが、その中で高いシェアを堅守してきたのがアメリカンブランド、かのハーレーダビッドソンだ。その強烈な個性は熱狂的マニアがいる一方で、アンチも存在するほど。BMWはハーレー乗りたちが全米から集まることで知られる8月のスタージスラリー(サウスダコタ州)でR18B/TCを披露した。敵陣の中で本格派クルーザーを発表した策は見事としか言いようがなく、それはまた完成度の高さへの自信のあらわれでもある。

 さて、これまでスポーツバイクを楽しんできた人たちの中にも「クルーザーに乗りたい」という願望は少なからずあると思う。そのときもしかしたら、ハーレーという選択肢は少しだけ先延ばしにされるのかもしれない。なんと表現したらいいものか、例えばクルマを乗り換えるとき、国産からダイレクトにメルセデスベンツへはいけない、そんな気持ちだ。

 くれぐれも誤解しないで欲しい。BMWとハーレー、どちらのブランドが上かという話ではなく、それほどにハーレーという乗り物は国産バイクに乗り続けてきた人たちから見ると、良くも悪くもハードルを感じさせる。だからこそ魅了されるコア層が存在するのだが、その点を考えれば、このR18シリーズは手が出しやすい。しかも、米国ではレースが始まるほどに人気沸騰中のバガースタイルの「R18B」は、カスタムトレンドを巧みに取り入れスタイリッシュそのもの。これまでのバイク仲間たちの輪に入っても、さりげなく自分の新しい相棒を自慢できるだろう。

BMW R 18 B

車両本体価格:¥3,418,500〜(税込)
※価格はFirst Editionの金額です。
エンジン:空油冷4ストローク水平対向2気筒OHV4バルブ
排気量:1,801cc 最高出力:67kW(91ps)/4,750rpm
最大トルク:158Nm/3,000rpm
最高速度:180㎞/h以上 車両重量:398 kg

Takao Aoki

バイクジャーナリストとしてさまざまなメディアに寄稿する中、ハーレー専門誌「WITHHARLEY」を立ち上げるほどクルーザーへの愛と造詣が深い。メーカーを問わず、このセグメントを注目し続けるのは言うまでもない。

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