技術屋集団 三菱自動車 VOL.7 パジェロの歴史

文・世良耕太

 三菱自動車は戦後、新三菱重工業時代の’52年に米ウイリス社と契約し、’53年にジープのノックダウン生産を開始した。

 ジープの生産を通じて、三菱はオフロード4WDの設計・生産に関するノウハウを身につけていった。

 ジープは軍用車両としての合理性を身につけていた。裏を返せば、快適性は後回しだった。70年代に入ってクルマが庶民にとってより身近になると、道なき道を自在に走り回れるジープのオフロード走破性の高さが注目され、レジャーの相棒として重宝されるようになった。その動きに目を付けた三菱は、’73年の第20回東京モーターショーに「三菱ジープ パジェロ」を出展した。基本スタイルはジープのままだったが、レジャーユースを意識した仕立てを施していた。

 それから6年。’79年の第23回東京モーターショーでは、「三菱パジェロII」を展示した。今度はジープがベースではなく、ラダーフレームのピックアップトラック、フォルテ4WDのシャシーを転用した。FRP製のオープンボディをまとっていた。このパジェロIIを市販化したのが、’82年4月に発表、5月に発売された初代パジェロである。パジェロ(PAJERO)のネーミングは、アルゼンチン南部のパタゴニア地方に生息する野生の猫、パジェロ・キャットに由来する。

 本格的なオフロード4WDの悪路走破性と乗用車の快適性を兼ね備えたパジェロは、日本でRVブームを巻き起こす原動力になった。海外でも人気を博し、三菱の基幹車種に育っていった。デビュー当初のパジェロはオープンエア走行が可能なキャンバストップとメタルトップの2種で、どちらも2ドアだった。’83年6月には全長を605mm延長した4ドアのエステートワゴンを追加。格納式のサードシートを備えており、7名乗車を可能にした。トランスミッションは当初5速MTのみの設定だったが、’85年に4速ATを追加。ユーザーのニーズに応えるようにラインアップを拡充していくことで、人気を不動のものにした。

初代(1982年〜)

1970年代終盤、北米市場向けに企画され日本でも発売されたピックアップトラック、「フォルテ4WD」をベースに、本格的クロスカントリー車として発売。当初は4ナンバーのみだったが、のちにハイルーフ化されたロングが登場し5ナンバーが主力に。デビュー時はオフロードファンから支持されていたが、1987年に本革シートなどの見栄えを重視した高級グレード「エクシード」が追加されると、バブル期という時代背景と需要が相まってファン層が一気に拡大した。また、同時期の1987年11月に公開されたホイチョイ・プロダクション原作の映画『私をスキーに連れてって』以降のスキーブームとも重なり、パジェロは空前のRVブームを巻き起こし牽引役となった。

 パリダカでの活躍を忘れるわけにはいかない。三菱は’83年の第5回大会から「世界一過酷なラリーレイド」として定評のあるパリ・ダカール・ラリー( 現ダカール・ラリー)にパジェロで参戦。’83年・’84年の大会では市販車無改造クラスで優勝。’85年は改造クラスで参戦し、ワン・ツー・フィニッシュを果たした。その後の活躍もめざましく、’01年〜’07年の7連覇を含め12回の総合優勝を成し遂げている。パリダカでの活躍は、パジェロと三菱の知名度を世界的に高めると同時に、オフロード走破性の向上に関する技術の蓄積に貢献した。

1983年パリ・ダカール・ラリー参戦

パジェロ誕生の翌年、パリダカラリーの市販車無改造クラスに出場し、クラス優勝(総合11位)を飾った。このリザルトが欧州を始めとする世界でパジェロを有名にした。

 2代目パジェロは’91年にデビュー。ラグジュアリーな方向に転換したのに加え、ボディタイプに豊富なバリエーションをそろえたのが歓迎され、爆発的なヒット作となった。技術面のハイライトは、フルタイムとパートタイムの両方式の長所を合わせ持つ、世界初のスーパーセレクト4WDの採用だ。

 ’99年の3代目はよりアグレッシブな方向に進化。前後のサスペンションを含めシャシーを一新して軽量化しつつ剛性向上を実現し、乗り心地と操縦安定性の向上を図った。’06年にデビューした4代目は、基本的なハードウェアを3代目から受け継ぎながら、上質さを引き上げた。車両運動制御面では、ランサー・エボリューションで磨いたAWC( オールホイールコントロール)の思想を取り入れ、4WDと駆動・制動を統合制御し、走りに磨きをかけた。

 日本で64万台以上を販売したパジェロは’19年8月をもって生産を終了し、国内での販売を終えた。パジェロⅡの出展から40年後、’19年の第46回東京モーターショーに三菱は、バギータイプの電動SUVコンセプトカー、MI-TECH CONCEPT(マイテックコンセプト)を出展した。パジェロのDNAを受け継いだ新しい形の「レジャーの相棒」に見える。

ファイナルエディション(2019年)

車両本体価格:4,530,600円(2019年当時)(LONG クリーンディーゼル車、税込)
エンジン:DOHC 16バルブ・4気筒
インタークーラーターボチャージャー付
総排気量:3,200cc
最高出力:140kW(190ps)/3,500rpm
最大トルク:441Nm(45.0kgm)/2,000rpm

2代目(1991年〜)

RVブーム真っ只中でのモデルチェンジ。高価格帯ながら、国内の新車車種別月間販売台数の首位を普通車から奪うなど、その人気ぶりが伺える。

2代目 EVOLUTION(1997年)

専用のワイドボディに、280馬力の3.5リッターV6MIVECエンジンを搭載したモンスターマシン。パリダカを走る為につくられたといっても過言ではない。当時の定価は374万円だった。

3代目(1999年〜)

RVブームが去った後に掲げられた開発テーマは「新世代の世界基準パジェロ」。高級&快適なSUV志向に沿うべく、乗用車並みの快適性とトヨタ・ランクルに迫る車格を備えた。

4代目(2006年〜)

足回りやパワートレインなど、定評のある基本メカニズムは先代から踏襲。成熟さを増したプレミアム感の高いオールラウンドSUVへと成長。’08年にはディーゼル車が復活している。

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