キスカのクリエイティブ

文・サトウマキ 写真・長谷川徹

メイド・イン・イタリーではなく、 ブリティッシュでもなく、ジャーマニーでもない。ましてメイド・イン・ジャパンではない、斬新なデザインのバイクを生み出しているメーカーがある。

 オーストリアに本拠を構えるKTMのバイクだ。

 ファッション業界からバイク業界に転職したのをきっかけに大型2輪免許を取得し、愛車にすべきバイクを物色していた2007年。その年のミラノショーでお披露目された車両に釘付けになった。KTMのRC8と690DUKEだ。写真を見た瞬間に、思わず「お、折り紙ですか?」と口に出してしまったほど奇抜で攻撃的なフォルムであり、バイクのデザインに真っ向から挑んでいるような斬新さに心が奪われた。当時はバイクに対してそれほど造詣が深くなく、スーパースポーツ、ネイキッド、オフロードといった種類の区別はつくけど、同じカテゴリーとなると、車種の違いが全く判別できずに、ぶっちゃけ、色が違うだけで全部が同じに見えていた。今考えると無知って恐ろしいと笑えないが、バイクに興味を持ち始めた初心者の頃は、そんなものなのかもしれない。

 そんなバイク素人だった自分に KTMの車両は衝撃を与えた。同じに見えていたものが、初めて違うものだと感じることができたのだ。大袈裟だが、バイクにおけるデザインの概念に殴り込みをかけているようにさえ思えた。アールが美しいとか言われる外装の曲線美ではなく、トラスフレームを引き立たせる直線の巧みさや、ロードモデルでありながら、オフ車的とも言えるカウルでKTMの個性を引き出している。単に美しいだけではなく、凄みを感じさせるデザインは、他と一線を画していたのだ。

 このKTMの車両デザインを手掛けていたのが「キスカ」というオーストリアのザルツブルグにスタジオを構えるプロダクトデザイン会社だ。KTMグループの車両デザインに加え、コンセプトワークからグッズのデザイン、さらにカタログ製作やPVといった、イメージに関わる全てのクリエイティブに携わっている。KTMのコーポレートカラーであるオレンジもキスカによるものらしく、会社のイメージ表現をKTMはキスカに一任している。後になって分かったのだが、デザインが性能と見事にマッチしていることに驚かされた。KTMは見た目通りのアグレッシブな乗り味でもあるのだ。

 キスカの手掛けた最近の注目は、ハスクバーナ・モーターサイクルズのヴィットピレンとスヴァルトピレンシリーズだ。今までにないタイプのネオクラシカルなフォルムは、古くからのバイク乗りの心さえくすぐり、ファッションライダーの興味までも引き寄せている。

 現時点で先鋭的という点でキスカにかなうものはないだろう。でもそれは、斬新なデザインを市販化するまでに仕上げるKTMの技術力があってのこと。このオーストリアの攻撃的とも言えるタッグは唯一無二の存在感を放ち、何かをやらかしてくれそうな気がする。さらに昨年からオフロードの名門である「GASGAS」がKTM傘下となり、オンロードに進出する匂いを漂わせてきた。今シーズンからモトGPのモト3クラスに参戦を表明したのだ。KTM、ハスクバーナ・モーターサイクルズ、GASGASと3つのブランドのどれもが、独自の個性を持つ異彩を放つ存在なのだが、これをキスカがどう料理していくのか、とても興味深い。

(トップ画像の右のバイク)
KTM 890 DUKE R

コンパクトなパラレルツインを搭載した790DUKEのパフォーマンスを高めたモデルとして登場。LEDを縦に配列した独特な形状のヘッドライトは、現在のKTMの顔と言える。

車両本体価格:1,465,000円(税込)
エンジン:水冷DOHC直列2気筒890cc
最高出力:89kW(121ps)/9,250rpm
最大トルク:99Nm/7,750rpm

(トップ画像の左のバイク)
Husqvarna Motorcycles VITPILEN 701

バイクの生産開始から今年で118年となるハスクバーナ・モーターサイクルズがキスカのデザインしたカフェレーサーを製作。手の込んだトラスフレームにビッグシングルの名機LC4を搭載する。

車両本体価格:1,258,000円(税込)
エンジン:水冷SOHC単気筒692.7cc
最高出力:55kW(75ps)/8,500rpm
最大トルク:72Nm/6,750rpm


KTM 690 DUKE (2008)

モタードやネイキッドとは一味違う独自のジャンルを確立させたのがデュークシリーズ。DUKEという名前は、伝説のレーサーGeoff Duke(ジェフ・デューク)に由来する。

KTM 1190 RC8 (2008)

オフロード一辺倒だったKTMが、本格的にロードレースへ参入すべく作られたモデル。キスカによる独創的なスタイルは、他メーカーのスーパースポーツとは一線を画す。

カラーで描かれているのは、ハスクバーナ・モーターサイクルズのヴィットピレン701のイメージスケッチ。ハンドルを除けば、市販車に限りなく近い。モノトーンは、同じくハスクバーナ・モーターサイクルズのスヴァルトピレン401。タンクキャリアは標準装備、ヘッドライトガードはオプションで発売。

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