スタンス〈メーカーの拘り〉

スポーツカー以外は売れないと言われた赤いクルマを世に広めたマツダは、日本刀をモチーフにした新たな塗装にチャレンジした。

ルノーは、日産と三菱とのアライアンス初のクルマである新型ルーテシアを投入。ヤマハはフロント2輪技術を300ccのスクーターで進化させた。

そしてトヨタはGRヤリスや新型ミライで大きく変わろうとしている。

自動車メーカーにとって、2020年は自らの個性をハッキリさせる年だったのかもしれない。

新たなバイクの価値観を創生する ~YAMAHA~

文・山下 剛 写真・長谷川徹

 ヤマハは新たな価値観を創生したり、あるいは価値観の変容を促してきたメーカーだ。

 初号機であるYA-1ではバイクの機能に美観という要素を採り入れた。量産工業製品に美を追求する姿勢は、今なおヤマハのアイデンティティの柱だ。

 ほとんどのメーカーがスポーツ車の高性能化を追求していた時代に、あえてロードバイクのスタンダードを具現化したSR500。やはり高性能化が激化していたオフロードにおいて、二輪二足走行という概念でゆったりと自然を楽しむトレッキングを提唱したセロー225。いずれもヤマハを代表するロングセラーモデルであることは、ヤマハが生んだ価値観が正しかったことを証明している。

 マジェスティはビッグスクーターブームを作った。バイクではないが、PASは電動アシスト自転車という新ジャンルを生んだ。これはやや私感が強いが、TDR250からTDM850への拡張は、現在のアドベンチャーブームの種子である。

 また、電動スクーターを継続して販売しているのはヤマハだけだ。

 そしてトリシティもやはり、ヤマハらしい新たな価値観の提唱だ。前2輪構造スクーターそのものはピアッジオのMP3が先駆者で、新味には欠ける。しかしそれを高性能エンジンを搭載するスポーツ車のナイケンにまで拡大させたのはヤマハの意地と、それを実現してしまう技術力の高さの現れだろう。

 LMW(リーニング・マルチ・ホイール)のコンセプトと大きな特徴は二輪車よりも優れた走行安定性で、とくに荒れた路面や滑りやすい場所での旋回や、強いブレーキング時の安定性にアドバンテージがある。

 トリシティとナイケンは既存のバイクユーザーよりも、今までバイクに乗ったことがない人たちに向けた乗り物ともいえる。どういう人たちかというと、二輪車に興味はあるものの、運転に不安を感じて敬遠していた人たちだ。

 おそらくトリシティとナイケンは、2007年の東京モーターショーに出品したコンセプトモデルであるテッセラクトの具現化だ。後輪は1輪減ったものの、リーンして曲がる四輪車という発想をコンセプトモデルで終わらせなかったのは、このかたちがバイクという乗り物の既成概念を打ち破り、新たな価値を創生する自信があったからだろう。いや、自信というよりは挑戦や責務というほうが近いかもしれない。少子高齢化や安全性重視の潮流に伴い減少していくバイク人口に歯止めをかけるため、やらなければならない、作らなければならない価値だ。

テッセラクト

2007年の東京モータショーに突如登場。二輪の機動性を持ちながら、雨の日のブレーキングや低速でのバランス取りを安心して行えるという理想を具現化した最初のモデル。当時は「ハイブリッドマルチホイールビークル」と呼ばれた。

 LMWマシンがたくさん売れて、ユーザーが増えることがもちろん理想だ。しかし安全に乗れそうで、しかもめずらしい乗り物がある、と周囲のドライバーや一般の人たちにアピールするだけでも、ヤマハのみならずバイク業界にとってはプラスになる。なぜならバイクの安全性が高まっているという事実が周知されれば、社会がバイクに抱いているマイナスイメージを軽減できるからだ。さらにいえば、LMWは構造的にすり抜け運転をしにくいから、無用にドライバーを苛立たせることもない。

 今後、交通社会の自動運転が目論見どおりに進んでいったとすると、バイクが公道から除外される予測は現実味を帯びる。バイクは道路上に存在する危険な不確定要素になるからだ。あるいは数人の子供が死亡するような社会的インパクトが強い事故をバイクが引き起こした場合、現在の高齢者ドライバーと同様にバイクが批判され、公道から除外する声が高まるだろう。

 そうなったとき、あるいはそうならないためには、バイクユーザーよりも、バイクファンが抑止力になる。バイクファンとは、バイクには乗らないが、交通社会にはバイクが必須だ、あるいはバイクが存在できる多様性が大切と考え、擁護する人々のことだ。バイク人口の減少が避けられない現代だからこそ、当事者以外の味方が必要なのである。

 もちろんこれにはバイクユーザーの道交法遵守とマナーアップも欠かせないが、ハードウエアの革新による効果も大きい。そうしたバイクファンの創生と拡大に、LMWは大きく貢献する。それこそがLMWのコンセプトだといったら考えすぎだろうか。

 ヤマハはモトロイドとモトボットの開発によって、人工知能による電子制御技術の研究結果も持っている。それらとLMWを組み合わせれば、さらに安全で、なおかつバイクのおもしろさを凝縮した乗り物が生まれるはずだ。

 LMWはそういう期待を感じさせる、バイクの持続可能性を秘めた乗り物だ。

YAMAHA TRICITY300

車両本体価格:957,000円(税込)
エンジン:水冷・4ストローク・SOHC・4バルブ
総排気量:292㎤
車両重量:237kg
最高出力:21kW(29ps)/7,250rpm
最大トルク:29Nm(3.0kgm)/5,750rpm

「めざせ!転ばないバイク」の記事を読むことができます。

モトロイド

“人とマシンが共響するパーソナルモビリティ”を目指したAI搭載コンセプトモデル。人を認識して、まるで生きているような相互作用で自立走行する。2017年の東京モーターショーで出展され、世界3大デザイン賞を全て受賞した。

ナイケン

車両本体価格:1,815,000円(税込)
エンジン:水冷・4ストローク・DOHC・4バルブ
総排気量:845㎤
車両重量:263kg
最高出力:85kW(116ps)/10,000rpm
最大トルク:87Nm(8.9kgm)/8,500rpm

トリシティ125/125ABS

車両本体価格:423,500円/462,000円(ABS)(税込)
エンジン:水冷・4ストローク・SOHC・4バルブ
総排気量:124㎤
車両重量:159kg/164kg(ABS)
最高出力:9.0kW(12ps)/7,500rpm
最大トルク:12Nm(1.2kgm)/7,250rpm

特集「スタンス〈メーカーの拘り〉」の続きは本誌で

01 ソウルレッドに続く日本刀の輝き~MAZDA~
文・池田直渡

02 日産・三菱・ルノーの反撃の狼煙のろし~RENAULT~
文・ピーター・ライオン

03 新たなバイクの価値観を創生する~YAMAHA~
文・山下 剛

04 社内革命を起こし続けた10年~TOYOTA~
文・岡崎五朗


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