ちょうどイイを考える

写真・長谷川徹

ちょうどイイとはなんだろう。漠然とした言葉だが、バイクやクルマの事を表現するときによく使う言葉だ。

パワーやトルクなどの動力性能、ボディサイズ、重量、はたまた価格。経験やスキルなど人によって、ちょうどイイ基準は変わるだろう。それでも多くの人がちょうどイイと感じるポイントは似ているのではないか。そんなクルマやバイクのちょうどイイを改めて考えてみる。

2000ccの過去と未来

文・石井昌道

 自動車免許取得年齢が迫ってきた1980年代中盤、最初はどんなクルマを買おうかと常に妄想していて、それはそれで幸せな時間だった。当時はエンジンの排気量によるヒエラルキーが敢然と存在していて、財布が軽い若者としてはリーズナブルにすますなら1,300cc、多少の無理をしてもスポーティで楽しいクルマを手に入れるなら1,600ccと考えるのが一般的だった。その上には2,000ccが鎮座していて、トヨタ・スープラや日産フェアレディZなど本格スポーツカー、あるいはトヨタ・クラウン、日産セドリックなどVIPカーなどがあった。まだ免許も持っていない若者、というか小僧にとって2,000ccは雲の上の大人なクルマに思えて、あまり現実的ではなかった。

 あれからずいぶんと時が経ち、排気量によるヒエラルキーをあまり感じないようになっているが、それでも2,000ccと聞くと、それなりにいいクルマなのだろうと期待してしまう。実際に2,000ccは一つの理想的な排気量であり多種多様なモデルに採用されている。ガソリン・エンジンの1気筒あたりの排気量は500ccが理想とされ、4気筒2,000ccは理にかなっているからだ。

 しかし、そもそもエンジンの熱効率で考えれば1気筒あたりの排気量は大きければ大きいほどいい。ディーゼル・エンジンの場合は圧縮自己着火でシリンダー内が同時均一的に燃焼するのでその考えが通用し、船舶用では1気筒あたり2,000ccなどというエンジンもある。ただガソリン・エンジンは火花点火式で火炎が伝播していくのであまり大きいと適正な燃焼になりづらい。そのバランスが良いのが1気筒あたり500ccなのだ。

 近年、その原理原則に従ったエンジンの戦略を最初に明確にしたのがBMWで、1気筒500ccを基本としたモジュラー化で3気筒1,500cc、4気筒2,000cc、6気筒3,000ccの直列エンジン・ラインアップを作り上げた。いまではライバルのメルセデスもこれに倣っている。他のメーカーも、ダウンサイジングが全盛の現代では直列6気筒にはなかなか手を出せないが、4気筒2,000ccを基本としてNAのままで販売したり、そこにターボやスーパーチャージャーなどの過給器、はたまた電気モーターといったパワーサプリメントを加えてパフォーマンスや燃費性能を調整するのが一般的だ。

 また1,500ccは、少し前までは4気筒も多かったが、新しいエンジンはたいてい3気筒だ。1,000cc以下も3気筒が多いが、フィアットは先の論理に近づけるためか、2気筒を作り上げている。

 その昔、2,000ccなのに6気筒というエンジンも数多く存在した。熱効率などは気にせず、気筒数を増やせば高回転化が可能でパワーを得られるからだ。自分が、免許取得後に最初に買ったのは1,600ccのマツダ・ロードスター(当時はユーノス・ロードスター)だったが、その次にちょっと大人になって乗り換えたE30型BMW320iは6気筒2,000ccだった。低回転域のトルクは激薄だったが、代わりに5,000rpmあたりから尻上がり的にパワーが盛り上がるのがなんとも気持ち良かった。

 効率が正義の現代では、ああいった個性的なエンジンにはもう出会うことはないのが少し寂しい気もするが、技術が進化した分、4気筒2,000ccさえあれば何でもかなえてくれるという心強さがある。

 最新最強の4気筒2,000ccであるメルセデスAMG A45S 4MATIC+は、最大過給2.1barのターボで最高出力421PS、最大トルク500Nm! 2009年まで販売されていたフェラーリF430のV8 4.3ℓが490PS、465Nmだったのだから、ここ10年ちょっとでスーパースポーツに肩を並べるにいたった。

 技術力が2,000ccエンジンのロマンをかきたててくれるのだ。


TOYOTA 2000GT/1967〜

歴史的1台といえる2000GTのエンジンは3M型、DOHC6気筒2ℓ(1,988cc)。また2,300ccながらもSOHCの廉価版を試作したが、市販には至らなかった。

NISSAN フェアレディZ/1969〜

S30型のZに搭載されたL20型直6エンジン。排気量は2,000ccでZの他にも、セドリック、グロリア、スカイライン、ブルーバードなど、数多くのクルマに搭載された。

BMW 320i/1982〜

排気量1,990ccながら、直列6気筒のエンジンを搭載した。2ドアセダン、タルガトップ、ベストセラーとなる4ドアセダンと、さまざまなラインアップがあった。

TOYOTA SUPRA/1986〜

直6の2ℓといえば1G型エンジン。スープラにはNAとターボの両方が設定されていた。1G-FEのハイメカツインカムは、’88年から20年間生産された長寿エンジンである。

NISSAN セドリック/1987〜

VG20型エンジンはV型6気筒1,998cc。この3ℓ版であるVG30型は、600馬力にチューンされ、リノ・エアレースという航空機レースに出場した経緯を持つ。

TOYOTA MR2/1989〜

2ℓ直4(ターボとNA)の3Sエンジンをミッドシップに搭載するMR2は、このモデルが2代目となる。3Sエンジンはモータースポーツの世界でも大活躍した。

HONDA S2000/1999〜

ホンダが作った29年振りのFR車。前期型に積まれたF20Cエンジンは、最高出力250馬力を誇り、許容回転数は9,000rpmに達する。ピストンスピードはF1並み。

MITSUBISHI LANCER Evolution Ⅸ/2006〜

歴代のランエボに搭載されてきた4G63型2ℓエンジン。設計は1979年と古いが、鋳鉄製シリンダーが頑丈で耐久性が高いので、ラリーエンジンに向いていたという。

SUBARU WRX STI/2014〜

スバルの水平対向4気筒エンジン。1989年の初代レガシィでデビューし、改良を重ね続けた名機。三菱ランサーエボリューション(4G63)の好敵手でもあった。

MercedesAMG A45S 4MATIC+ /2018〜

ピュアスポーツカー並みのパワー・トルクを誇る、2ℓ直4のM139型エンジンを搭載。2ℓ直4ターボでは市販車最強のエンジン。0-100km/hは3.9秒で駆ける。

TOYOTA CROWN/2018〜

現行15代目クラウンには、8ARという2ℓ直4ターボエンジンを搭載。8ARエンジンはFRからFFまで汎用性が高く、TRDからはコンプリートエンジンの設定がある。

MAZDA MAZDA3/2019〜

今までにないガソリンとディーゼルのメリットを融合させた新開発のSKYACTIV-X 2ℓエンジンを採用。ガソリンエンジンでありながらディーゼルの様にトルクフル。

SUPER GT 500 SUPRA/2020〜

日本のGT500 、スーパーフォーミュラで使われる2ℓ直4エンジンは、トヨタ、ニッサン、ホンダ3社の基礎研究で誕生した。NRE(日本レーシングエンジン)と呼ばれる。

特集「ちょうどイイを考える」の続きは本誌で

2000ccの過去と未来 石井昌道

U-900の誘い 鈴木大五郎

スーパーカー少年のたどりついた場所 嶋田智之


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