岡崎五朗のクルマでいきたい vol.133 カーガイ率いる新生日産

文・岡崎五朗

 2019年度の決算でついに赤字となった日産。業績低迷をカルロス・ゴーンの逮捕~逃亡劇によるブランドイメージの低下と結びつけている人もいるようだが、僕の見立ては違う。

 日産がダメになった最大の理由は、クルマへの愛情もリスペクトもない旧経営陣が下した数々の失策だ。

 大学時代は自動車部に属し、日産車が好きで日産に入社し副社長まで上り詰めた人に話を聞いたことがある。ゴーンは事あるごとに「いまのポジションにいたいならクルマ好き視点を捨てろ。クルマ好き視点は経営判断を間違わせるぞ」と言っていたそうだ。たしかに傾いた経営を立て直すリストラ屋としてはそれで正解なのだろう。が、クルマ好き視点を捨てた自動車メーカーに成長戦略など描けるはずがない。就任当初はGT-RやZの復活でカーガイを演じてみせたゴーンだが、いま思えばあれもブランドイメージ再建のための計算尽くのポーズだったのかもしれない。でなければとっくに後継モデルの開発を指示していたはずだ。案の定、日産の経営はどんどんクルマ屋離れしていった。モデルチェンジの先延ばしやコスト至上主義によるハードウェアの競争力低下、無理な生産能力増強、DATSUNブランドの失敗など、ゴーン流経営はことごとく日産にダメージを与え続け、残ったのが過剰な生産設備と古びたラインアップ、そして赤字転落である。

 経営に数字が必要ないと言っているわけじゃない。財務指標も重要な経営手段の一つだ。けれど、それだけで上手くいくほど自動車ビジネスは甘くない。なぜなら、販売台数も売上高も、元を正せば一人ひとりのユーザーの心を商品力で動かした結果だからだ。その領域の追求なくして自動車ビジネスが成り立たないというのは、カーガイが率いるトヨタとグループPSAの好調な業績が証明している。

 先日、日産を率いる内田 誠社長とナンバー2のアシュワニ・グプタ氏と話す機会があった。2人とも率直で、かつクルマ好きだ。新型Zはほぼ確実に、そしてGT-Rもそう遠くない将来に新型開発のゴーサインが出るだろう。プロ経営者からクルマ好き経営者へとバトンタッチされた新生日産の今後に期待したい。


MITSUBISHI eK X SPACE 三菱・ekクロス スペース
NISSAN ROOX 日産・ルークス

三菱・eK クロス スペース

日産・ルークス

プロパイロット採用のスーパーハイト

 軽自動車でもっとも人気のあるのがスーパーハイト系だ。特徴は四角くて背の高いボディが生みだす圧倒的な室内空間。雨の日のお迎えでは自転車ごと積み込めるし、小さな子供なら立ったまま着替えることもできる。スライドドアも子育て世代にとっては最高に便利なアイテムだ。

 ルークスとeKクロススペースは、Nボックスやタント、スペーシアといった強力なライバルに立ち向かうべく日産と三菱がタッグを組んで開発したニューモデルだ。先代は三菱が主導的な立場で開発していたが、新型では日産が開発を担当。生産は引き続き三菱の工場で行う。

 このジャンルの最大のウリは広さだが、軽自動車はボディを大型化できない。それでもミリ単位でスペースを稼ぎ出していくのが日本メーカーの得意技だが、ルークス&eKクロススペースもメカを最小化するとともに前席乗員を前方の高い位置に座らせることで、後方の空間を見事に拡げてみせた。とはいえもともと十分に広いため有り難みがあるかと言えば微妙なところ。むしろ嬉しいのは、前席が前に移動したことでBピラーを前方に移動でき、結果としてスライドドア開口部の幅がクラストップの650mmになったことだ。出入り口は大きい方が出入りしやすい。

 ハードウェアではインテリアの質感の高さとプロパイロットの採用がポイント。前者は間違いなくライバルを凌ぐし、プロパイロットの機能と完成度も素晴らしい。惜しむらくは日産と三菱で乗り味に差がないこと。別メーカーの別車種として売るのに違うのは顔だけというのは寂しい。両メーカーとも走りに対しては一家言あるのだから、コストや開発工数がどうとか言わず、乗って感じる日産車らしさ、三菱車らしさを与えて欲しいと思った。ダンパーや電子制御スロットルの特性ぐらいならさほどコストをかけずにできるのだから。

三菱・ekクロス スペース
日産・ルークス

車両本体価格:
1,415,700円~(税込)日産ROOX
1,655,500円~(税込)三菱eK Xspace
*諸元値は日産ROOX ハイウェイスターGターボ
プロパイロットエディション/2WD
全長×全幅×全高(mm):3,395×1,475×1,780
エンジン:DOHC水冷直列3気筒
総排気量:659cc
車両重量:1,220kg
最高出力:47kW(64ps)/5,600rpm
最大トルク:100Nm(10.2kgm)/2,400~4,000rpm
燃費:18.8km/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:2WD


PEUGEOT 208
プジョー・208

ガソリンorEVを選べる新型208

 中央が0の3ケタ数字はプジョーのネーミングセオリー。当初901と名乗っていたポルシェ911が、中央が0の3ケタ数字はうちがすべて商標登録済みだよというプジョーからの指摘で911になったのは有名な話だ。1桁目はクラス、3桁目は世代を表していたが、現在は他のモデルを含め末尾を8に統一している。

 今回登場したのは2代目となる208。エンブレムを配した独特な形状のCピラーやリアのブランクバンド仕上げは205へのオマージュだし、軽快でスポーティーな雰囲気にも歴代20シリーズとの共通点を感じる。健康的なプロポーションや豊かで張りのある面構成、斬新なディテールなど強いビジュアルインパクトの持ち主だが、先祖へのリスペクトも忘れていないということ。コックピットで印象的なのは3D表示のデジタルメーター。写真ではわかりにくいが、実物を見ればカッコよさに息を呑むだろう。加えてコンパクトカー離れしたボリューム感と座り心地と質感をもつシートも新型208の魅力ポイントだ。

 エンジンは1.2ℓ3気筒ターボ。最高出力は先代より10ps低くなったが、動力性能に不足はない。3気筒としては異例とも言えるマナーのよさは健在だし、ATが6速から8速化になったおかげで小気味よい走りにはむしろ磨きがかかっている。半年ほど前に開催された海外試乗会では足の固さを指摘するレポーターもいたが、乗ってみると決してそんなことはなく、猫足とキビキビ感が上手にバランスしたフットワークを楽しめた。

 新型208は航続距離340キロを誇るEVも選べる。価格はガソリン車より100万円ほど高くなるが、税金や燃料代等のトータルコストはガソリン車とほぼ同等になるとメーカーは説明している。となればどちらがいいかは使い方とお好み次第。同じボディにエンジンとモーターという二つの選択肢を用意するというユニークな試みには要注目だ。

プジョー・208

車両本体価格:2,399,000円~(税込)
*諸元値は208 Style
全長×全幅×全高(mm):4,095×1,745×1,445
エンジン:ターボチャージャー付
直列3気筒DOHC
総排気量:1,199cc
車両重量:1,160kg
最高出力:74kW(100ps)/5,500rpm
最大トルク:205Nm/1,750rpm
燃費:17.0km/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:前輪駆動

CITROËN C5 Aircross SUV
シトロエン・C5エアクロスSUV ガソリンモデル

極上のガソリンモデル登場

 シトロエンのミドルサイズSUVであるC5エアクロスに1.6ℓガソリンエンジン搭載モデルが加わった。従来は2ℓディーゼルの一択みだったから、待望?のエンジンバリエーション追加である。

 とはいえ、「?」を付けたのは、どれだけ多くの人がガソリンエンジンを心待ちにしていたのかという点にいまひとつ自信が持てないからだ。2ℓディーゼルターボのスペックは177ps/400Nm。対する1.6ℓターボは180ps/250Nm。スペックをあまり重視しない僕でも、トルクが1.6倍となれば走りにそれなりの差が出ることは容易に想像が付く。実際、日常よく使う回転域でのトルクの厚みは明らかにディーゼルがリードする。燃費もガソリンの13.8km/ℓに対してディーゼルは16.3km/ℓ。車両価格はディーゼルのほうが23万円高いが、いまならディーゼルを対象とした10万円引きのキャンペーンをしているため、エコカー減税も含めて考えれば走れば走るほどディーゼルがお得になる。

 しかも、空飛ぶ魔法の絨毯のような乗り心地をもつC5エアクロスは遠乗りが得意。オーナーになったら自然と走行距離も伸びる。というわけで、普通に考えればディーゼルをオススメしたいところだが、ガソリンモデルに乗って目から鱗が落ちた。C5エアクロスの美点にさらに磨きがかかり、まさに「極上の空飛ぶ魔法の絨毯」になっていたからだ。おそらく、タイヤが10mm細く、かつ重量が120㎏軽いことがフットワークに+の作用を与えているのだろう。夢見心地になる乗り心地に加え、フロントの軽さは気持ちのいい軽快感も生みだしている。

 そこに加わるのがBMWと共同開発した1.6ℓエンジンの気持ちよさ。静かでスムースでトルクフル、それでいてトップエンドまで気持ちよく回る名機だ。乗る前はやっぱりディーゼルだろと思っていたけれど、気が変わった。もし僕が買うならガソリンを選ぶ。

シトロエン・C5エアクロスSUV ガソリンモデル

車両本体価格:4,150,000円(税込)
全長×全幅×全高(mm):4,500×1,850×1,710
エンジン:ターボチャージャー付直列4気筒DOHC
総排気量:1,598cc
車両重量:1,520kg
最高出力:133kW(180ps)/5,500rpm
最大トルク:250Nm/1,650rpm
燃費:13.8km/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:前輪駆動
*画像はガソリン/ディーゼルモデル。

TOYOTA YARIS CROSS
トヨタ・ヤリスクロス

ヤリスのクロスオーバーSUV

 ヤリスクロスは、先日発売されたヤリスと同じプラットフォームをベースにつくられたコンパクトクロスオーバーSUVだ。ホイールベースは同じだが、フロントオーバーハングを60mm、リアオーバーハングを180mm延長。リアオーバーハング延長分はほぼすべて荷室スペースの拡大に充てられている。キャンプとかスキーとかゴルフとか、あるいは大型ベビーカーを積む子育て世代とか、なにかと荷物が多くなりがちなライフスタイルの人にとってヤリスはやや心許ない。その点、ヤリスクロスの頼もしい積載力は強い説得力になるだろう。

 SUVらしい力強いデザインも魅力だ。なかでも大きく張り出したフェンダー周りの造形はドキッとさせられるほど大胆。全幅をヤリス比プラス80mmの1,765mmにしたのが効いている。大きく空いたフェンダーの隙間から、ブラック塗装していないボディ色の内部が透けて見えてしまうのはまあご愛敬。ヤリスと同じラインで生産されている関係で、内部にブラック塗装をするタクトタイムを確保できなかったそうだ。僕がヤリスクロスを買ったら缶スプレーを買ってきてフェンダー内部を黒く塗る。

 パワートレーンは1.5ℓ3気筒ガソリンと同ハイブリッド。シャシーも基本的にヤリスと同じだが、ウェイトの増加と重心高アップに対応するため独自のチューニングが施されている。サーキットでしか乗れていないが、ヤリスよりも軽快感は薄れる反面、ドッシリした安定感が印象的だった。街中を軽快に駈けぬけるのがヤリスの得意技だとしたら、ヤリスクロスはロングドライブに出かけたくなる特性である。トヨタ初となる、ESC(横滑り防止装置)の機能を使った横風による車線逸脱防止システムも注目のアイテムだ。今回乗ったのはプロトタイプで、市場投入は9月を予定している。ヤリスを超える大ヒットモデルになる予感大だ。

トヨタ・ヤリスクロス

車両本体価格:未発表(9月発売予定)
*諸元値はガソリン車
全長×全幅×全高(mm):4,180×1,765×1,590
エンジン:直列3気筒1.5ℓダイナミックフォースエンジン
総排気量:1,490cc
最高出力:88kW(120ps)/6,600rpm
最大トルク:145Nm(14.8kgm)/4,800~5,200rpm
駆動方式:前輪駆動/四輪駆動

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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