岡崎五朗のクルマでいきたい vol.132 若者とコロナとクルマ

文・岡崎五朗

 緊急事態宣言が解除され日常を取り戻しつつある日本。それでも第二波の恐れは消えていない。

 そんなWithコロナの時代に人々のクルマに対する認識はどう変化していくのだろう。広告代理店のデルフィスによる調査によると、「新型コロナの影響でクルマを購入したくなったか?」という質問に「はい」と答えた人の割合は16%だが、18歳~20代に限定すると24%となり、各世代のなかでトップに達した。また、「コロナの影響でクルマの価値が高まったか?」という質問に対する回答でも、18歳~20代の44%が「はい」と答え、これも世代別トップとなっている。若者のクルマ離れが叫ばれて久しいが、コロナをきっかけにクルマへの関心をもっとも高めているのは他でもない、若者たちなのである。

 きっかけがきっかけだけに素直に喜ぶことはできないけれど、それでも僕には「不幸中の幸い」に思える。移動の自由を制限された反動や、公共交通機関を避けたい気持ちなど、理由はいろいろあるだろうが、どんな理由にせよクルマなんて、と思っていた世代がクルマに興味をもってくれたことを純粋に喜びたい。と同時に、自動車メディアはいまこそ彼らに対して素敵なカーライフを送るためのヒントとなる情報を積極的に発信するべきだと思う。

 ただ現実問題として若い人がクルマを所有するのは並大抵のことじゃない。クルマへの関心が高まっている反面、経済的な不安は増しているし、免許取り立てで新たに自動車保険に入るとなると対人対物だけで保険料は年間30万円を超える。税金やメンテナンス代もかかる。となれば僕が乗っている35万円のメルセデスのような安くて面白い中古車の情報なんかは有益だろう。また、新車であればサブスクリプションの情報も喜ばれるはずだ。調べてみて初めて知ったのだがトヨタのKINTOは若い人でも任意保険が高くならない。つまり若い人ほど得。ヤリスであれば税金、保険、メンテナンスを含めて月々4万円弱、ハリアーでも6万円代で乗れる。もちろん頭金はゼロだ。それならなんとかなるかもしれない、いやなんとかしよう! とまずは思ってもらう。クルマ生活はそこからスタートするのだ。


TOYOTA HARRIER
トヨタ・ハリアー

元祖プレミアムSUVの4代目

 トヨタは他社に似たものをより低価格、高信頼性で売ることによって成功を収めた企業だと思われているフシがある。たしかにそういう一面もあるが、実は独創的な商品も数多く輩出してきた。その代表格が世界初の量産ハイブリッド車である初代プリウスだが、他にもアンダーフロアミッドシップのミニバン「エスティマ」や世界初の量産燃料電池車「ミライ」など、トヨタは常に先駆者であることに強いこだわりを見せてきた。

 ハリアーもそのうちの1台だ。いまでこそほとんどのプレミアムメーカーがSUVを生産しているが、初代ハリアーがデビューした’97年当時、「乗用車ベースのプレミアムなSUV」は他になかった。BMWがX5を投入したのは2000年だから、ハリアーに影響を受けた可能性が高い。その後の大ブームはご存じの通り。いまをときめくプレミアムSUVの元祖がハリアーなのだ。

 人であってもモノであっても企業であっても、他に先駆けて何かを成し遂げたパイオニアは一定の敬意を払われるべきだと僕は思っている。そういう意味で、トヨタ自身が先代を国内専用車にしてしまったのはいささか残念だったが(新型は輸出もする)、それでも僕のなかでハリアーはかなりのビッグネームである。

 4代目となる新型はRAV4と共通のメカニカルコンポーネントを使っているがコンセプトは正反対。アウトドア色の強いRAV4に対し、ハリアーは徹底的に都市型SUVを指向している。クーペライクなフォルムを柔らかな曲面で覆った外観、包み込まれるような空間感覚と上質な仕上げのインテリア、静粛性と乗り心地のよさにこだわった走りなど、その世界観はRAV4とは別モノだ。

 ひと昔前の兄弟車とは違い、開発者のイマジネーションさえあれば、同じメカニズムでもまったくの別モノに仕上げることができるのが現代のプラットフォーム共有技術。ハリアーに乗ってその奥深さを思い知らされた。(※試乗はプロトタイプです)

トヨタ・ハリアー

車両本体価格:2,990,000円~(税込)
*諸元値は、Z“Leather Package”ハイブリッド・E-Four
全長×全幅×全高(mm):4,740×1,855×1,660
エンジン:2.5リッター直列4気筒 DOHC 16バルブ
総排気量:2,487cc 定員:5名 車両重量:1,750kg
【エンジン】
最高出力:131kW(178ps)/5,700rpm
最大トルク:221Nm(22.5kgm)/3,600~5,200rpm
【モーター】
最高出力:<フロント>88kW(120ps)/<リヤ>40kW(54ps)
最大トルク:<フロント>202Nm(20.6kgm)/<リヤ>121Nm(12.3kgm)
燃費:21.6km/ℓ(WLTCモード) 駆動方式:電気式4輪駆動

VOLVO XC60 B5 AWD
ボルボ・XC60 B5 AWD

奥がXC60。同じタイミングで、手前のXC90にもマイルドハイブリッドモデルが登場した。

熟成のマッタリ乗り味

 ボルボは電動化にもっとも積極的に取り組んでいるメーカーのひとつだ。具体的には2025年までに新車販売台数の半分をEVに、残り半分をハイブリッドとプラグインハイブリッドにすることを目標にしている。ここでミソなのは「目標」の二文字。正直なところ、あと5年で半分をEVにするなんて絶対に無理だ。EVはまだまだ値段が高く、航続距離や充電場所、充電時間など使い勝手の上でもハンディがある。メーカーがいくら頑張ったところでユーザーが買ってくれなければ目標は達成できない。

 そこはきっとボルボもわかっているが、それでもEVEVと言わざるを得ない事情がある。新型コロナで影を潜めているものの、いたいけな少女を利用して盛り上がった環境問題は欧州において我々の想像を超えた先鋭ぶりを見せていて、EVをやると言わなければ社会から糾弾されかねない雰囲気なのだ。だからこその「約束」ではなく「目標」というわけである。

 一方、現実路線としてボルボが推し進めているのがプラグインハイブリッドとマイルドハイブリッドだ。なかでも今回XC60が搭載してきた48ボルトマイルドハイブリッドはコストの安さが特徴。モーター出力が小さいため燃費低減効果は単体では5%程度にとどまるが、そこに気筒休止システムを組み込むなどして燃費を向上させてきた。

 とはいえ最新モデルの魅力は燃費だけじゃない。むしろ細かい改良の積み重ねによって進んだ熟成こそが最大のトピックだというのが僕の評価。エンジンはより静かに、よりスムースに回るようになり、低速域ではモーターアシストによる気持ちのいいレスポンスを体感できる。サスペンションもしなやかさを増した。XC60は以前から快適性の高いクルマだったが、さらに角が取れてマッタリした乗り味に。それでいて価格上昇は10万円弱なのだから商品力の向上幅は大きい。

XC60のインテリア(本国仕様の他グレード)

ボルボ・XC60 B5 AWD

車両本体価格:6,340,000円~(税込)
*諸元値はXC60 B5 AWD Inscription
全長×全幅×全高(mm):4,690×1,900×1,660
エンジン:水冷直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量:1,968cc 定員:5名
車両重量:1,890kg
最高出力:184kW(250ps)/5,400~5,700rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/1,800~4,800rpm
燃費:11.5km/ℓ(WLTCモード)

AUDI A6 40TDI
アウディ・A6 40TDI

A6(左)に加え、A7(右)にも2.0ℓ直4ディーゼルを追加。

1000万円切る2ℓ4気筒登場

 アウディA6のルーツは100シリーズ。80年代に、空力ボディ、アウトバーンをハイスピードで安定して走るためのフルタイム4WD=クワトロ、美しいワゴン=アバントなどによって一世を風靡した名車の誉れ高きモデルだ。以降、歴代A6はアウディの中核モデルとして常に「技術による先進」というアウディの社是に忠実であり続けてきた。

 初代から数えて5代目にあたるA6にも同じことが言える。先進技術の塊ともいうべきフラッグシップのA8と比べるとさすがにオーソドックスな構成だが、それでも合計22個のセンサーやカメラを使った最新鋭の先進安全システムや電子制御式四輪操舵システムといった数多くのハイテクを備える。金属の塊から削り出したかのような硬質感のあるボディ、精緻なインテリアなど、内外装の仕上げも最高にセンスがいい。メルセデス・ベンツやBMWはこのところ装飾がどんどん派手になってきているが、アウディだけは華美になるのを意識的に避けているように思える。あたかも「Less is more」や「神は細部に宿る」といったバウハウス精神の正統な継承者は我々だとアピールしているかのようだ。

 そんなA6だが、2019年の日本導入時には3ℓV6を搭載した上級モデルしか選べず、さすがに1,000万円はちょっとねと感じた。その点、今回追加された2ℓ4気筒モデルの価格はディーゼルが745万円~、ガソリンが752万円~。決して安くはないが、それでもかなり身近になった。そこで気になるのは走りのクォリティだが、ディーゼルもガソリンも「2ℓ4気筒」というスペックから想像するクオリティをはるかに超えた実力を備えている。音、振動、動力性能ともに、これならA6というプレミアムカーに相応しいなと思える仕上がりである。なかでも僕がもっとも気に入ったのがアヴァントのディーゼル。いまもっとも魅力的なプレミアムステーションワゴンだと思う。

アウディ・A6 40TDI

車両本体価格:7,450,000円~(税込)
*諸元値はA6 Avant40 TDI quattro
全長×全幅×全高(mm):4,940×1,885×1,485
エンジン:直接4気筒DOHCインタークーラー付ターボ
総排気量:1,968cc 車両重量:1,860kg
最高出力:150kW(204ps)/3,800~4,200rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1,750~3,000rpm
燃費:16.1km/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:4WD

TOYOTA RAV4 PHV
トヨタ・RAV4 PHV

+80万円も納得の付加価値

 RAV4に待望のPHV=プラグインハイブリッドが加わった。すでにほとんどの方はご存じだと思うが、念のため簡単に説明すると、外部充電できる大容量バッテリーを搭載したハイブリッド車、あるいは発電&駆動用エンジンを搭載したEVがプラグインハイブリッドである。短距離であればエンジンをかけず(一滴のガソリンも使わず)にEV走行できるし、バッテリー切れの心配がないのも魅力。ある意味ハイブリッド車とEVのいいとこ取りをしたのがプラグインハイブリッドなのだ。

 ところが売るとなるとなかなか難しいのが現実。先代プリウスPHVはまったく売れず、現行プリウスPHVも苦戦気味と、トヨタはプラグインハイブリッドで辛酸をなめ続けている。そこで、なぜ買ってもらえないかを調べたところ「値段が高い」「燃費はハイブリッドで十分」といった意見が多いことがわかった。値段については大容量バッテリーを積む以上それほど安くできない。であるならハイブリッドにはない別の価値を与えることが必要だろう。ということで採用したのが「Eブースター」という考え方だ。搭載するモーターを高出力化することでRAV4ハイブリッドを84ps上回る306psというシステム出力を実現。電動車特有の、アクセルを踏んだ瞬間にドンッとくる加速は迫力に満ちていて、試乗会場であるサーキットをとんでもないスピードで駈け抜けた。ある種の荒々しさすら感じるその走りからは「環境車だなんて言わせないぞ!」という作り手の決意のようなものすら感じた。

 それでいて満充電からのEV走行距離は95kmを確保。THS(トヨタハイブリッドシステム)がベースだから、バッテリーを使い切ってからの燃費も欧州車のプラグインハイブリッドを大きく凌ぐ。価格はハイブリッド車に対し80万円高。走りや大容量バッテリーといった付加価値を考えれば納得だ。(※試乗はプロトタイプです)

トヨタ・RAV4 PHV

車両本体価格:4,690,000円~(税込)*諸元値はG“Z”
全長×全幅×全高(mm):4,600×1,855×1,690
エンジン:直列4気筒 総排気量:2,487cc
定員:5名 車両重量:1,900kg
【エンジン】
最高出力:130kW(177ps)/6,000rpm
最大トルク:219Nm(22.3kgm)/3,600rpm
【モーター】
最高出力:<フロント>134kW(182ps)/<リヤ>40kW(54ps)
最大トルク:<フロント>270Nm(27.5kgm)/<リヤ>121Nm(12.3kgm)
ハイブリッド燃費:22.2km/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:電気式4輪駆動

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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