岡崎五朗のクルマでいきたい vol.130 メーカーから届いたメール

文・岡崎五朗

 東京都に緊急事態宣言が発令されたのは4月7日。人と人との接触を8割減らすという前代未聞の取り組みのなか、多くの企業は在宅勤務を実施し、自動車メディアが取材で使う試乗車の貸し出しもストップした。

 今回はなんとか4台を紹介できたが、次号の本連載はこれまでとは違う形になる可能性が高い。

 もちろん、それに対して不満を言うつもりは毛頭ない。8割減を徹底して早期にウイルスを抑え込んで欲しいと心から願っているし、協力は惜しまないつもりだ。しかしその一方で、ウイルスとの戦いが長期戦になったらいつまでも自宅にこもっているわけにはいかない。感染リスクを最小化する努力をしつつ、少しずつでも経済を回していかなければ個人の財布も国の経済も干上がってしまう。

 そんななか試乗車の貸し出し再開を検討するメーカーがいくつか出てきた。社名を出すのは避けるが(いつか公表できたらいいなと思っている)、そのメーカーから送られてきたメールにはこんな文章が記されていた。

 「多くの方が在宅でストレスを感じている現状において、読者の方々がひと時でもこの困難な状況を忘れることが出来る楽しいコンテンツが存在することもまた自動車業界とメディア業界にとって必要であると考えています。(中略)『移動の自由』と『自由な移動』はクルマにとってのレゾンデートルそのものです。撮影、試乗が終わった後はどうぞ夜の道路を好きな音楽をかけながら流してください。たったそれだけのことで気分が晴れることもあるかと思いますし、またクルマにはそんな力があると信じています。そしてそんなあてどないドライブにおいて、弊社のクルマの乗り味はむしろ生きるのではないかと確信しています。」

 5月6日に宣言が解除されるかどうかは現段階(4月28日)ではまったく見えない。そして多くのメーカーは緊急事態宣言が継続されたら試乗車の貸し出し再開も延期すると言っている。そんななかでのとても嬉しいメールだった。

 最後に、いまこの瞬間にも最前線で戦っている医療従事者、小売り、運送、ライフライン関係の方にはただただ感謝しかない。


HONDA ACCORD
ホンダ・アコード

10代目はセダン好き要注目

 初代アコードが登場したときの衝撃は子供心に覚えている。当時、ホンダはバイクや軽自動車に次いでシビックでも成功を収めていたのだが、アコードに至っていよいよ立派なクルマをつくってきたなぁと。

 あれから44年。10代目にあたるアコードはより立派に、より大きく、より高性能になった。全長4900mm×全幅1860mm×全高1450mmというボディサイズは先代レジェンド並み。カムリと比べてもわずかに大きい。日本で気軽に乗るにはちょっと持て余すサイズだが、これには理由がある。アコードのメインマーケットである北米と中国ではこのサイズが求められているからだ。実際、中国ではパサートやカムリといったライバルを制してセグメントトップ。北米でも月に2万台という驚くべき数字を叩きだしている。そう、日本でこそ影が薄いものの、アコードはCR-V、シビックと並ぶホンダの屋台骨なのである。

 そう考えると、日本での月間販売目標台数がわずか300台というのは寂しい気もするが、それが現実ということなのだろう。たった300台では利益など望むべくもないが、ホンダとしてはそれでもお膝元の日本でアコードを売り続けたかったのだと思う。

 ホンダがE:HEVと呼ぶハイブリッドは基本的には2ℓエンジンが発電した電力をもとにモーターで走る(エンジンの効率がいい一定速走行時のみエンジンで走行)。事実、常用域では静かさ、滑らかさ、レスポンスのよさというモーター駆動のメリットをはっきり感じられる。アクセルを深く踏み込んだとき、エンジンの回転数上昇(発電量アップ)を待ってから加速が始まるのは惜しいところ。ここぞというときはバッテリーに蓄えた電力をドンと一気に放出するような制御にすれば楽しさはさらに向上するだろう。

 高い高いと言われている価格だが、装備内容を考えればカムリの最上級グレードとほぼ同等。ホンダ好き、セダン好きは要注目だ。

ホンダ・アコード

車両本体価格:4,650,000円~(税込)
全長×全幅×全高(mm):4,900×1,860×1,450
エンジン:水冷直列4気筒横置DOHC
総排気量:1,993cc 乗車定員:5名
車両重量:1,560kg
【エンジン】
最高出力:107kW(145ps)/6,200rpm
最大トルク:175Nm(17.8kgm)/3,500rpm
【モーター】
最高出力:135kW(184ps)/5,000~6,000rpm
最大トルク:315Nm(32.1kgm)/0~2,000rpm
燃費:22.8km/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:FF

BMW 8 Series Gran Coupé
BMW・8シリーズ グランクーペ

グラマラスで軽快なプレミアムカー

 BMWのフラッグシップセダンは7シリーズだが、8シリーズグランクーペはそれに匹敵するモデルだ。ひと足先に出たクーペをベースにホイールベースを205mm延長、全高を60mm引き上げることで、4枚のドアと大人が座れる後席を実現した。もちろん、後席にVIPを招き入れるような使い方をするのであれば7シリーズがベストだが、家族や友人を乗せる程度なら十分に快適だ。

 BMWによると、もっとも苦労したのはリアフェンダーまわりのデザインだったという。ドアやボンネットフードなど大部分のボディ外皮にはアルミを使っているが、リアフェンダーを含むサイドパネルには成形性に優れたスチールを使用。しかも6回に分けてプレスすることでグラマラスな造形を実現したそうだ。プレスを6回行うとは高価な金型を6個も用意すること。望む造形を実現するためにはコストを惜しまない。このあたりはわかりやすいプレミアムだと思う。

 試乗したのは4.4ℓV8ターボを搭載するM850i xドライブ。ウェイトは2トンに達するが、530ps/750Nmというスペックだけに4人乗車でも上り勾配でも関係なく、踏めば踏んだだけのパワーが瞬時に湧き出てくる。粒がしっかり揃い、ピッと芯が通ったエンジンのフィーリングはさすがBMWである。8シリーズクーペにはない3ℓ直6ターボを用意しているのも嬉しいところだ。最近のBMWの傾向通り、フットワークは軽快感を強調したタイプ。コンフォートモードでワインディングロードを走るとグラッという初期ロールが気になるが、スポーツモードを選択すればステアリング操作とクルマの動きがピタリとシンクロし、全長5m超えのクルマとは思えない最高にゴキゲンなハンドリングを示してくれる。普段はしなやかな乗り心地のコンフォートモードにセットしておき、ワインディングロードに入ったらスポーツモードを選択することをおすすめする。

BMW・8シリーズ グランクーペ

車両本体価格:11,580,000円~(税込)
*諸元値はM850i xDrive グラン クーペ
全長×全幅×全高(mm):5,085×1,930×1,405
エンジン:V型8気筒ガソリン・エンジン
総排気量:4,394cc 車両重量:2,090kg
最高出力:390kW(530ps)/5,500rpm
最大トルク:750Nm/1,800~4,600rpm

LAND ROVER DISCOVERY SPORT
ランドローバー・ディスカバリースポーツ

中身をまるごとマイナーチェンジ

 ランドローバーのエントリーモデル、ディスカバリースポーツがマイナーチェンジを受けた。フロントグリルやリアコンビネーションランプを変更し精悍さを向上するとともに、インテリアも質感を上げてきた。

 と、ここまでなら普通のマイナーチェンジなのだが、ディスカバリースポーツは驚くことに「中身」をまるごと一新してきた。具体的には、クルマの基本骨格であるプラットフォームを現行イヴォークと同じ「PTA」へと刷新。ところがそれを覆うボディは現行のままというわけだ。長年クルマに関わってきたけれど、こういう手法のマイナーチェンジは記憶にない。中身を変えたら外観も変えてフルモデルチェンジ、というのが常識的なやり方である。

 なぜこういう方法をとってきたのか。聞くとデザイン面での満足度が高かったことが大きいという。これはディスカバリースポーツに限らないが、イギリス車は登場直後よりも何年か経ったときのほうがカッコよく見える場合が多い。旧いものほど価値があると考える国民性の為せる技なのかもしれない。

 走らせてみると、新プラットフォームの実力がはっきりと伝わってきた。各部の剛性を高めると同時にエンジン取り付け部を下げて重心を下げたのが効いている。以前のモデルでも走りに不満はなかったが、新型は静粛性、乗り心地、コーナリング性能にさらに磨きがかかっている。ランドローバーらしく本格的な悪路走破性を備えているにも関わらず、ワインディングロードをキビキビと走り抜けていくのには正直驚かされた。つくりがタフな分、ウェイトは2トン超えとかなり重いが、ガソリンターボでもディーゼルターボでも動力性能不足を感じることはなかった。

 オプションをいろいろ付けていくと値は嵩むが、それでもこの内容で450万円~という価格は大いに魅力的だ。オプションで3列シート仕様を選べるのもファミリーカーとしては嬉しい。

ランドローバー・ディスカバリースポーツ

車両本体価格:4,500,000円~(税込)
*諸元値はDISCOVERY SPORT/D180AWD
全長×全幅×全高(mm):4,610×1,905×1,725
エンジン:水直列4気筒 DOHCターボ
総排気量:1,999cc
車両重量:2,030kg(5シート)
最高出力:180ps/4,000rpm
最大トルク:430Nm/1,500~3,000rpm
駆動方式:フルタイム4WD

MERCEDES-BENZ Mercedes-AMG A35 4MATIC
メルセデス・ベンツ メルセデス-AMG A35 4MATIC

高性能&高質感のコンパクトメルセデス

 AMGといえば怖そうな人が乗っているベンツ、というイメージをもっている人がまだまだいるのではないだろうか。そこがBMWの「M」やアウディの「RS」との大きな違いだ。たしかにブーメランアンテナを付けたSクラスが六本木でブイブイいわせてたバブル期のイメージは強烈だった。でもあれはもう昔の話し。最近のAMGは、古いイメージを気にして避けてたら損だよと思わせるクルマのオンパレードだ。といっても値段は相変わらず高いけれど。

 そんななかAMGのエントリーモデルとして登場したのがA35 4MATICだ。価格は628万円で、306ps/400Nmという強力な2ℓターボエンジンを搭載する。メガーヌRSやシビックタイプRはFFで300ps級エンジンを御しているが、A35は4WD。同じホットハッチでもルノーとホンダは絶対的な速さを重視して軽量なFFを選んだが、メルセデスは安定感も重視したということだ。このあたりは「シャシーはエンジンより速くなくてなならない」という昔から続く教えを感じさせる。実際、A35はフル加速をしてもメガーヌRSやシビックタイプRのように暴れることはないし、足回りもガチガチに固められてはいない。普段使いにも十分使えるし、運転にあまり自信のない奥様にもためらわずにキーを渡せる気安さである。

 とはいえ、Aクラスに高性能エンジンを積み4WD化しただけではないのがAMGのAMGたる所以。薄化粧ながらもエクステリアは標準モデルとの差別化がちゃんとできているし、ボディには入念な剛性向上対策を施し質感の高い乗り味を実現している。つまり、性能や質感には妥協したくないが、扱いやすいコンパクトなメルセデスに乗りたいという人にうってつけなのがA35ということだ。さらに高性能なモデルを欲する人には、量産2ℓエンジン最強の421ps/500Nmを発揮するA45Sも用意されている。

メルセデス・ベンツ メルセデス-AMG A35 4MATIC

車両本体価格:6,280,000円(税込)
全長×全幅×全高(mm):4,440×1,800×1,410
エンジン:DOHC直列4気筒 ターボチャージャー付
総排気量:1,991cc 乗車定員:5名
車両重量:1,560kg
最高出力:225kW(306ps)/5,800~6,100rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/3,000~4,000rpm
駆動方式:4WD

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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