モタスポ見聞録 Vol.36 日本勢の台頭

文・世良耕太

2世界のモータースポーツを「日本」が背負って立っている、と言ったら言いすぎだろうか。

 伝統のル・マン24時間レースをシリーズの1戦に含むWEC(FIA世界耐久選手権)の最上位カテゴリーは、2020年9月に始まる新しいシーズンから「ル・マン・ハイパーカー」になる。真っ先に参戦の名乗りを挙げたのは、’18年に悲願のル・マン初優勝を果たし、’19年に連覇したトヨタだ。’16年にアウディ、’17年にポルシェが撤退して以来、WECの最上位カテゴリーに参戦している自動車メーカーはトヨタだけだ。

 現在のル・マンとWECを支えているのはトヨタ(TOYOTA GAZOO Racing)である。続いてアストンマーティンがハイパーカーでの参戦を表明したが、2月19日に「延期」を表明した。「状況が変わったので参戦プログラムを再評価する」と表向きには説明しているが、’21年からワークス参戦するF1に気持ちが傾いているのは明らかだ。

 WRC(FIA世界ラリー選手権)で気を吐いているのもトヨタである。’17年にヤリスWRCで復帰すると、’18年にはシトロエン、ヒュンダイ、フォードを抑えて早くもマニュファクチャラーズ部門でタイトルを獲得した。’19年はドライバーズチャンピオンを輩出。’20年はドライバーラインアップを一新し、’13年から’18年にかけてWRC6連覇を果たしたS・オジエを迎え入れてシリーズ制覇を期す。現在のWRCは間違いなく、トヨタを中心に回っている。

 日本人ドライバーの育成にも余念がない。’19年からは勝田貴元が下位のWRC2で腕を磨き、’20年はヤリスWRCで全13戦中8戦をトップカテゴリーで走る。そのうちのひとつは、トヨタのお膝元に近い愛知・岐阜で開催される最終戦のラリージャパン(11月19日~22日)だ。

 F1ではホンダの存在感が増している。’15年に復帰したときは先行するメルセデスやフェラーリ、ルノーに歯が立たなかったが、レッドブルと組んで3勝を挙げた’19年からは互角の勝負をするようになった。’20年のホンダとレッドブルは、チャンピオンシップの制覇を明確な目標に掲げるまでになっている(トロロッソ改めアルファタウリへのパワーユニット供給も継続)。

 日本のファンへの思いやりを忘れていないのが、トヨタとホンダだ。それぞれ個別にファン感謝イベントを開催するだけでなく、メーカーの垣根を越え、合同でイベントを行う。3月7・8日に予定されていた『モースポフェス 2020 SUZUKA』が好例だ(残念ながら中止になった)。

 日産も負けてはいない。欧州のブランドが集結するフォーミュラEで、日本の自動車メーカーを代表して孤軍奮闘している。優勝経験があり、表彰台の常連だ。その日産は「チューニングカーの祭典」を標榜する1月の東京オートサロンでSUPER GT GT500クラスのドライバー体制発表を行うと、2月10日にはグローバル本社で「日産モータースポーツファンイベント」を開催し、ファンとの交流を深めた。日本のファンのサポートがあってこその「世界」だ。

Kota Sera

ライター&エディター。レースだけでなく、テクノロジー、マーケティング、旅の視点でF1を観察。技術と開発に携わるエンジニアに着目し、モータースポーツとクルマも俯瞰する。

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