モタスポ見聞録 Vol.34 ロッシとハミルトンのマシンスワップ

文・サトウマキ

F1のパドックにMotoGPのライダーが訪れたり、MotoGPのパドックを訪問したF1ドライバーの姿が中継画面に映し出されるといったことがよくある。

 4輪2輪共に、世界最高峰のレースで戦っている人物でも、隣の芝生が気になるものなのか…? 今回、互いのレースを訪問するだけでなく、互いのマシンを交換して試乗するなんていうイベントにまで発展したのが、今年度のF1王者であるルイス・ハミルトン(メルセデス)と、MotoGPの現役でありながらレジェンドであるバレンティーノ・ロッシ(ヤマハ)だ。

 ハミルトンはMotoGPの最終戦で使用されたヤマハのYZR-M1に、ロッシは2017年型メルセデスW08に乗り込み、スペインのバレンシアサーキットを走らせた。

 バレンティーノ・ロッシといえば、毎年モンツァ・ラリーショーに出場して、勝利するほどの四輪レース好きであり、2004年~2010年にはフェラーリのF1を何度かテストしている。当時、初めて乗ったF1マシンで、ミハエル・シューマッハの0.7秒落ちのタイムで周回し、周囲を驚かせた。

 そして、ルイス・ハミルトンといえば、プライベートでもバイクを何台か所有し、F1のパドックにも愛車であるMVアグスタのブルターレ800ドラッグスターで登場する姿をたびたび見せている(ちなみに、ハミルトン限定モデルのブルターレ800 ドラッグスターRR LH44が発売されている)。さらに、2018年の12月にはスーパーバイク世界選手権用のヤマハのYZF-R1Mをヘレスでテストライドしているほどのバイク好きだ。2019年のMotoGP開幕戦では、同じスポンサーを持つ、ペトロナス・ヤマハのパドックを訪れ、メカニックやライダーたちとバイクを囲みながら、真剣な表情で話し込んでいたのが印象的だった。

 ハミルトン以外にもバイクレースに興味を持つF1ドライバーは多い。子供の頃に2輪レースをしていたというマックス・フェルスタッペンは、MotoGP機に乗りたいとチームに訴えるも「ノーチャンスだね」と玉砕。MotoGP観戦に訪れたシャルル・ルクルールも、いつか乗ってみたいと希望するなど、MotoGPマシンに熱い視線を注いでいる。

 過去には、ミハエル・シューマッハがドゥカティのMotoGPマシンに何度か試乗したことがあり、2016年の“Honda Racing THANKS DAY”ではフェルナンド・アロンソがホンダのRC213Vに乗っている。さらに2018年にはMotoGP王者のマルク・マルケス(ホンダ)とダニ・ペドロサ(当時ホンダ、現KTMテストライダー)が、F1のレッドブル・レーシングの2012年型のRB8を走らせた。F1のスタッフはマルケスに対して、その豊かな才能から「4輪と2輪の両方でチャンピオンとなったジョン・サーティースのような存在になれるかもしれない」と絶賛したという。

 F1とMotoGPのクロスオーバーテストは、これまで何度も行われているが、彼らは本気でレースに参戦したいと考えているわけではなく、レーサーの本能が、最速と冠されたマシンを“操りたい”と思わせずにはいられないのだろう。

Maki Sato

ファッション専門誌からバイク専門誌の編集部に転職した異例の経歴を持つ。現在はフリーランスのエディター&ライター。30代でバイクの免許を取得した遅咲きながら、バイクへの情熱は人一倍、勉強熱心で努力家。ライディングの美しさには定評がある。

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