岡崎五朗のクルマでいきたい vol.124 リピーター獲得のために

文・岡崎五朗

 バブル期に200万人を動員した東京モーターショー。しかし次第に来場者数は減り、前回の2017年は77万人だった。

 そんな状況を受け、主催する日本自動車工業会会長にしてトヨタ社長の豊田章男氏は「100万人」という目標を公言した。さてどうなったのか。この原稿を書いている時点でまだ来場者数は発表されていない。モビリティに焦点を当てたテーマとか、異業種の参加とか、高校生以下無料とか、無料ゾーンの拡大とか。そういった施策の効果が出て100万人行くかもしれないし、やっぱり100万人には届かなかったねとなるかもしれない。

 でも、実のところ僕は数字にはあまり興味がない。もちろん、地盤沈下を怖れる主催者側の気持ちはよくわかる。が、往々にしてトップが口にした数字は一人歩きし、それが絶対目標になってしまう。重要なのは100万人に来てもらうことではなく、どういうショーなら100万人に来てもらえるのかという部分である。数字は目標ではなく内容に対する結果と考えるべきだろう。

 その観点からいくと「いいショーだったが、次回に向けての課題も見えてきた」というのが僕の感想。まずはよかった点だが、これはもう「クルマさえ見られればいいでしょ」という従来型モーターショーの概念を破った点に尽きる。その象徴となるのが、ブースに市販車を1台も置かず近未来のモビリティに焦点を絞った展示をしてきたトヨタだ。ちょっと説明不足の面もあり理解できない人もいたかもしれないが、自動運転の小型電動商用車(e-Palettee)や各家庭まで段ボールを運ぶ超小型ロボット(Micro Palette)、小型電動スポーツカー(e-RACER)などは、近未来のモビリティ社会に欠かせないものとして強い説得力があった。また、各メーカーが子供たちにクルマにまつわる仕事の体験をさせるブースもとてもよかった。

 課題としては、異業種の展示にいまひとつ気合いが感じられなかったこと、また有明会場と青海会場を結ぶ移動手段や場内案内の不備、食事の質や料金設定、足りない休憩スペースといったおもてなしの部分。次もまた来たいと思ってもらうにはそのあたりの進化が必要だ。


TOYOTA COROLLA
トヨタ・カローラ

褒めないわけにはいかない

 カローラといえば日本を代表する大衆車だ。そして大衆車は大衆のレベルに合わせてつくられる。つまり、カローラのレベルはトヨタが考える日本の大衆のレベルということになるのだが、先代カローラに対する僕の評価は低かった。まず、真っ直ぐ走らない。カーブは嫌々曲がっていく。音はうるさい。シートや内装も驚くほど安普請。先進安全装備も貧弱。とにかく乗っていてこれほど惨めな気持ちになるクルマはなかなかない。本当だと思うなら、まだレンタカーには残っているから乗ってみて欲しい。トヨタが考える日本の大衆とはこんなものだったのかと悲しい気持ちになるはずだ。

 ところが、昨年登場したカローラ・スポーツと呼ばれるハッチバックモデルに乗って驚いた。クルマの出来がVWゴルフに肩を並べるレベルまで高まっていたからだ。とはいえカローラ・スポーツはオーリスの実質的な後継モデルであり、セダンとワゴンが出るまで最終的な評価は下せないなと思っていた。そしていよいよ真打ちの登場である。「カローラ・スポーツのよさを活かしたまま、値段も全幅も叩きますよ」という、事前に聞いていた開発担当者の言葉通り、セダンもワゴンもフェンダーの膨らみを叩くことで全幅は1,745mm(カローラスポーツは1,790mm)まで狭められ、値段もエントリーグレードが200万円を切ってきた(カローラスポーツは217万円~)。

 まあアクシオと呼ばれた先代よりは40万円弱上がったが、僕は高いとは思わない。なぜなら、内外装にしても走行性能にしても安全性能にしても、一泊6,000円のビジネスホテルと2万円のシティホテルぐらいの違いがあるからだ。そんなクルマがたった40万円の追加投資で手に入るというのだから誉めないわけにはいかない。上でも同じフレーズを使ったが、嘘だと思うなら試乗してみて欲しい。カローラが変わったことを実感できるに違いない。

トヨタ・カローラ

車両本体価格:1,936,000円~(税込)
*諸元値はHYBRID W×B(2WD)
全長×全幅×全高(mm):4,495×1,745×1,435
エンジン:直列4気筒
総排気量:1,797cc 乗車定員:5名
車両重量:1,370kg
【エンジン】
最高出力:72kW(98ps)/5,200rpm
最大トルク:142Nm(14.5kgm)/3,600rpm
【モーター】
最高出力:53kW(72ps)
最大トルク:163Nm(16.6kgm)
燃費:25.6km/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:前輪駆動

RENAULT TWINGO
ルノー・トゥインゴ

走り抜群の200万円以下RR

 ルノー・トゥインゴは欧州でAセグメントと呼ばれるクラスに属するコンパクトカー。全長3,645mm、全幅1,650mmというサイズはトヨタ最小モデルであるパッソとほぼ同等。35mm短く、5mm狭いだけでホイールベースは同じだ。しかし最小回転半径は300mmも違う。トゥインゴの4.3mという数字はもはや軽自動車レベルであり、短いフロントオーバーハングと相まって街中での取り回しのしやすさは抜群だ。

 ホイールベースが同じなのにそれほど小回りがきくのは、トゥインゴのほうがタイヤが大きく切れるから。なぜ大きく切れるのかといえば、タイヤ切れ角を制限するエンジンやトランスミッションを後方に搭載しているためだ。トゥインゴはこのクラスでは珍しいRR(リアエンジン後輪駆動)レイアウトを採用している。現代では圧倒的にFF(フロントエンジン前輪駆動)が多いが、時計を少し巻き戻すとVWビートルやフィアット500の初代モデルがそうだったように、RRはなにもポルシェ911のようなスポーツカー専用のレイアウトではなかった。技術の進歩でFFのネガが払拭されたため劣勢になったが、もとはといえばコンパクトカーに適した合理的なレイアウトなのだ。実際、後席には大人がちゃんと座れるし、ラゲッジルームもそれほど広くはないがちゃんとある。エンジンの真上ということで表面が少々生ぬるくはなるけれど、生鮮食品を買ったときのみリアシートに置けば済む話。生活を共にしていてとくに不便を感じることはない。

 2016年の発売時には関節の硬さを感じさせる粗っぽい乗り心地がちょっと気になったものの、今回のマイナーチェンジで快適性が見違えるほど向上したのは大きなニュース。

 0.9ℓターボと6速DCTのコンビネーションが生みだす小気味よい走りもパッソや軽自動車では決して味わえない。消費税10%になってなお200万円を切る価格も魅力だ。

ルノー・トゥインゴ

車両本体価格:1,986,000円(税込)
全長×全幅×全高(mm):3,645×1,650×1,545
エンジン:ターボチャージャー付 直列3気筒DOHC12バルブ 
総排気量:897cc 乗車定員:4名
車両重量:1,020kg
最高出力:68kW(92ps)/5,500rpm
最大トルク:135Nm(13.8kgm)/2,500rpm
燃費:16.8km/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:RR

PORSCHE 911(992)
ポルシェ・911(992)

先代オーナーが嫉妬する911

 ポルシェ911は、1964年の発表以来、いつの時代も憧れの存在であり続けてきた。その源泉はRR(リアエンジンリア駆動)という独特のレイアウトだったり、唯一無二のフォルムだったり、フラット6エンジンだったり、モータースポーツにおける数々の勝利だったりするわけだが、半世紀以上にわたって人気を保ってきた最大の理由は「たゆまざる改良」にある。開発コード992と呼ばれる新型911は初代から数えて8代目。55年間で8モデルというのは少ないように感じるかもしれないが、平均すれば7年に1度。ここ30年間に限れば平均して5年に1度もモデルチェンジをしている。

 もちろん、モデルチェンジをすればいいってものではない。が、911は新型が登場する度、より速く、よりスタイリッシュに、より快適になってきた。それも、ユーザーの度肝を抜くほどの幅で。その結果生まれたのが「最良のポルシェは最新のポルシェ」という、ポルシェ好きなら誰しもが知る格言だ。

 新型911=992にもこの格言は当てはまる。エンジンは先代モデルである991後期と同じ3ℓ水平抵抗6気筒ターボだが、パワーとトルクは強化され、ボディ剛性が上がり、サスペンションもより緻密に調整され、より速く、より快適になった。もっとも、速さをサーキット以外で100%発揮させるのは現実的じゃない。しかし、ワインディングロードを走ればより素直で扱いやすいやすくなったハンドリングが、市街地ではスポーツカーとは思えない快適な乗り心地が、「最新=最良」というセオリーがいまだ健在であることをはっきりと伝えてくる。

 911らしさを強烈に残しながらも質感とモダンさを増したエクステリアや、空冷時代を思い起こさせる横基調のダッシュパネルなど、デザイン面でも冴えを見せる992。毎度のことながら、先代オーナーが嫉妬せずにはいられない仕上がりになっている。

ポルシェ・911(992)

車両本体価格:13,597,222円~(税込)
*諸元値は911 カレラ
全長×全幅×全高(mm):4,519×1,852×1,298
エンジン:3リッター水平対向6 気筒ツインターボ
総排気量:2,981cc
車両重量:1,505kg
最高出力:283kW(385ps)/6,500rpm
最大トルク:450Nm/1,950~5,000rpm
最高速度:293km/h
0-100km/h加速:4.2秒
駆動方式:RR

AUDI e-tron
アウディ・e-tron

電動SUVのアウディらしさ

 今年3月のジュネーブモーターショーでデビューしたアウディe-tron。日本上陸間近なこの最新EVに本国でひと足早く試乗してきた。EVというとまだまだ特別な存在だと思われているし、実際、テスラとリーフぐらいしか選択肢がなかったが、そんな状況は急速に変わってきている。東京モーターショーでは近い将来の発売を見据えたEVが多数展示されていたし、ジャガーはi-PACEを、メルセデスはEQCを日本市場に投入済み。ホンダ、マツダ、トヨタ、ポルシェ、フォルクスワーゲン、プジョーなどなど、ここ1、2年のうちにさらに多くのEVが発売されるだろう。

 こうした現実を目の当たりにするとEVに対する意識が変わってくるから不思議なものだ。コストがどうとか、航続距離がどうとか、充電インフラがどうとか、頭で考えているうちはどこか他人事だったEVだが、プロトタイプの資料を読んだり実際に試乗したりしているうちに、現実のものとして脳内にインプットされてくる。もちろん、まだまだコストは高いし、充電にも時間がかかるし、リセールバリューに対する不安もあり、誰にでもオススメできるものではない。しかし、確実にEVの選択肢は増えていき、それにつれわれわれにとって身近な存在になっていくのは間違いない。

 そんななかでのe-troだが、このスタイリッシュな電動SUVが伝えてきたのは濃密なアウディ味だった。Q7に似たモダンなエクステリアの内側、正確に言えば床下には95Kwh、重量にして700㎏の大容量リチウムイオンバッテリーが搭載され、前後合わせて300Kw/664Nmのバッテリーを駆動する。航続距離はWLTPモードで400km以上。0-100km/h加速5.7秒はシビックタイプRと同等。速さはもちろん、自宅充電ができる環境下なら実用的でもある。しかしそれ以上に乗ってみて感心したのが洗練されたドライブフィールだ。静かなのはもちろん、加減速時の岩のような安定感、カチッとしているけれどスムースに動く足、コーナーでの素晴らしいライントレース性などはまさにアウディ流。クールで先進的で緻密なインテリアを含め、e-tronはアウディらしさを強烈にアピールするモデルだった。エンジンがモーターに置き換わった分、他の部分の個性が前面に出てきた感じすらした。EVになったらどのクルマも同じになるなんて誰が言った!

アウディ・e-tron

車両本体価格:€79,900(ドイツベース価格)
全長×全幅×全高(mm):4,901×1,935×1,616
乗車定員:5名
車両重量:2,490kg
最高出力:300kW
最大トルク:664Nm(489.7lb-ft)
0~100km/h加速:5.7秒
航続距離:400km以上
駆動方式:電動4輪駆動

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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