THANKS! SUBARU EJ20 EJ20とモータースポーツ

文・世良耕太

第2世代水平対向エンジンのEJシリーズは、’89年の初代レガシィとともにデビューした。開発陣ははじめから水平対向エンジンの後継を作るつもりはなく、白紙から検討した。

 水平対向4気筒と並行して横置き直列4気筒や縦置きV型4気筒などを検討し、結果的に水平対向4気筒を選択したのだった。「しっかりしたエンジンを作るには、水平対向が一番」であることを再認識したからだ。

 水平対向エンジンは2気筒ずつが向かい合う構成なので、4気筒エンジンとしてはクランクシャフトが短くできる。初代水平対向エンジンのEAシリーズはこのクランクシャフトを3点で支えていたが、EJは5点で支えることにした。専門的にいうと、5ベアリングだ。エンジンの全長が短いうえに短い間隔で支えるので、構造がしっかりする。基本構造を変えずに進化させていこうとした場合、水平対向は最適なレイアウトだ。

 EJシリーズは将来の進化を見込んであらかじめ強固に設計したおかげで、モータースポーツで使うにはもってこいだった。’90年、スバルはレガシィで世界ラリー選手権(WRC)にデビューする。当時のライバルはトヨタ・セリカGT-FOUR、三菱ギャランVR-4、ランチア・デルタ・インテグラーレ16V、フォード・シエラRSコスワース4×4といったところだった。

 ラリーではパワーよりも中回転域のトルクとドライバビリティが物を言う。参戦当初はそのトルクが足りずに苦しい戦いを強いられたが、開発を重ねるにつれて強化。参戦4年目の’93年ニュージーランドラリーで念願の初勝利を挙げた(ドライバーはC・マクレー)。次のフィンランド1000湖ラリーではインプレッサのデビューが決まっており、レガシィは有終の美を飾った格好だった。

 排気量2ℓのEJ20ターボを搭載したインプレッサは、’95年に初のマニュファクチャラーズチャンピオンになると、’96年、’97年と3年連続でタイトルを獲得。インプレッサの世代交代や規定変更に合わせて進化を続け、’01年、’03年はドライバーズチャンピオンを獲得した。スバルは’08年までWRCに参戦したが、最終年のEJ20 WRCが発生した最大トルクは588Nm以上で、参戦当初の1.7倍に達していた。設計当初の想定をはるかに超える数値だが、持ちこたえてみせたのだ(しかも大幅な軽量化を果たしたうえで!)。

 スバルはWRCの参戦と並行し、’97年からスーパーGT GT300クラスに参戦している。’08年まではインプレッサで参戦。’09年から’11年まではレガシィ、’12年以降はBRZだ。エンジンは一貫してEJ20を搭載している。専用に開発したエンジンで参戦することも可能だが、スバルは量産エンジンでの参戦にこだわっている。その理由を開発に携わる技術者は次のように語った。

 「スバル車のユーザーと同じ水平対向エンジンで戦うことに意味があると考えています。同じエンジンで戦うことで、スバル車を所有することに価値を感じていただきたいのです」

 ラリーはコーナーの立ち上がりが重要なので中回転域のトルクが重要視されたが、サーキットのレースでは高回転側のパワーがないと最高速が伸びず、ストレートで置いていかれてしまう。スバルの開発陣は吸排気系やターボ、インタークーラーの開発によって高回転高出力化を図り、並み居る大排気量エンジンに立ち向かっていった。

 スバルは量産モデルを安心して走れるクルマにするための最終確認を行う目的でニュルブルクリンク北コースを走り込んでおり、その延長線上でニュルブルクリンク24時間レースへの参戦を続けている。走りを支えているのはやはり、EJ20。過酷なレースを走りきれるのは、高い信頼性があるからだ。

‘16年ニュルブルクリンク24時間耐久レースで、’15年に続きSP3Tクラス(2.0ℓ以下のターボ車)で優勝した『WRX STI NBRチャレンジ 2016』。水平対向エンジン特有の低重心、バランスの良さを活かしコーナーリングスピードに優れた。

イギリスのレーシングコンストラクタープロドライブ社と提携し、1990年にWRCへ本格参戦を果たしたレガシィ。1991年にはドライバーにコリン・マクレーを起用し、1993年にはレガシィ念願の初優勝を飾った。

インプレッサでのWRC参戦は’94年から。写真は’95年のポルトガルラウンド。おなじみのカラーは、当時スバルのスポンサーであったタバコブランド、”ブリティッシュ・アメリカン・タバコ社”のデザインをあしらったもの。以後“WRブルー”としてインプレッサやWRX STIなどに用いられてきた。

スーパーGTでのEJ20の活躍は、GT選手権時代の90年代後半から続いた。コンストラクターのキャロッセが「クスコ・スバル・インプレッサ」を走らせ、エンジンメンテナンスはSTIが担当。EJ20は市販車にも、レーシングエンジンにも使用される数少ないエンジンである。現在GT300クラスに参戦しているBRZも’12年のデビューから搭載され、毎年熟成を続けている。

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