岡崎五朗のクルマでいきたい vol.122 不必要なリアカメラ

文・岡崎五朗

 ドライブレコーダーの販売台数が急速に伸びている。2010年には146万台だったが、2017年には267万台、2018年は367万台、2019年は400万台を突破する見込みだ。

 取り付けることで自らの安全運転意識を高めるという作用もあるが、ドライブレコーダーの本質的な価値は自衛手段にある。映像を記録しておけば、自分に非がない、もしくは非が少ない事故で理不尽な責任を負わされるのを防いでくれる。保険をかけておくという意味で、ドライブレコーダーの装着には賛成だ。

 しかし、ドライブレコーダーのメーカーやカー用品店が「あおり運転対策」としてフロントだけでなくリアにもカメラを装着することを盛んに推奨しているのには違和感をおぼえる。なぜなら、リアカメラにあおり運転防止効果はさほど期待できないからだ。もちろん、後方から見える位置にどーんと取り付けておけばそれなりの効果はあるだろうが、それならダミーカメラで十分。もっと言えば「リアカメラ録画中」みたいなステッカーを貼るのが、カッコは悪いが費用対効果は最高だ。

 まあ安ければ前後付けてもいいだろう。しかし前後カメラタイプは本体価格も取り付け工賃も高い。それだけコストをかけて後方映像を残しても、あおられた腹いせに動画投稿サイトで「晒す」ぐらいしか使い道はないというのが現実だ。追突されたときだって、相手がUターンするか横道に入って逃げでもしないかぎり、フロントカメラの映像で事足りる。自分が故意に急ブレーキをかけるなどしていないことさえ証明できれば、追突の責任は基本的に追突車両側にあるからだ。最近増えてきた360度録画タイプにいたっては、肝心の映像があまりよくないので、いざというときの証拠能力に疑問符が付く。

 ということで、ドライブレコーダーを選ぶなら、できるだけ広角に撮影でき、ナンバーを読み取れるだけの解像度があり、夜間や明暗差に強い1カメラタイプがオススメだ。あおり運転対策で前後カメラタイプに高い金を払うぐらいなら、あおられない運転を心がけるほうがよほど効果的だし建設的だと思うのである。


DAIHATSU TANTO
ダイハツ・タント

走りで選ぶスーパーハイト

 いまの軽自動車は「スーパーハイト系」と呼ばれる背高の箱形モデルを中心に回っている。2018年の統計を見ると、販売トップはホンダN-BOX。2位のスズキ・スペーシアも3位のタントもスーパーハイト系だ。

 お世辞にもスタイリッシュとは言えないこの手のクルマがなぜ人気を呼んでいるのか。これはもう「広さ」に他ならない。クルマが小さくなればなるほどスペース効率に対するデマンドは増える。もともと大きなクルマならセダンでもそれなりに広い空間を与えられるが、小さいクルマではそうはいかない。とりわけ全長3,395mm、全幅1,475mmに制限された軽自動車の場合、普通につくったら狭くるしくなるのは避けられず、広くするには2mまで許された全高を利用するしか手はない。そのアイディアで先行した初代ワゴンR(’93年)を追うべく、ダイハツがとったのが「さらに背を高くする」という方法。そうして2003年に登場したのが初代タント。つまり、スーパーハイト系の草分け的存在がタントというわけだ。

 その後、センターピラーレス・スライドドアを組み合わせたミラクルオープンドアなど、広さを活かすアイディアを次々に投入し、2014年、タントはついに軽自動車販売台数ナンバー1となった。しかし最近はN-BOXやスペーシアに抜かれるなど精彩を欠いていた。そこで新型の登場である。4世代目となる新型タントは、持ち前の使い勝手にさらに磨きをかけると同時に、プラットフォームを完全新設計してきた。その効果がはっきりわかるのが走りの質感向上だ。静粛性、乗り心地、ハンドリングなど、走りにまつわるすべての面で「これが軽自動車?」と思えるレベルに仕上がっている。5ナンバーサイズ車まで想定したプラットフォームの実力はダテじゃない。快適性や安心感など、走りの実力でスーパーハイト系を選ぶなら現状ベストの選択だ。

ダイハツ・タント

車両本体価格:1,220,400円~(税込)
*諸元値はXターボ/2WD
全長×全幅×全高(mm):3,395×1,475×1,755
エンジン:水冷直列3気筒12バルブDOHCインタークーラーターボ横置
総排気量:658cc 乗車定員:4名
車両重量:910kg
最高出力:47kW(64ps)/6,400rpm
最大トルク:100Nm(10.2kgm)/3,600rpm
燃費:20.0km/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:前輪駆動

LEXUS RC F
レクサス・RC F

トヨタだからできる、自然吸気5リッターV8

 レクサスRC Fは、同ブランドの2ドアクーペであるRCをベースにした高性能モデルだ。BMW4シリーズとM4の関係を思い浮かべればわかりやすいだろう。メカニズム面での最大の特徴はエンジンだ。RC Fが搭載するのはいまや絶滅危惧種となった大排気量自然吸気のV8。5ℓの排気量から481ps、535Nmというパワーを絞り出す。ライバルが次々にダウンサイジングターボに切り換えるなか、5ℓV8自然吸気を積んでいるという点だけでも胸騒ぎを覚えるクルマ好きは少なくないはずだ。このエンジンはLS460やLS600hのV8と遠戚関係にあり、現行モデルではLC500と共通。企業平均燃費で世界トップを走るトヨタ(レクサス)がこういうエンジンをラインアップしているのは意外に思えるかもしれないが、ハイブリッドを筆頭に低燃費車を多く販売しているトヨタだからこそ、燃費度外視のエンジンを販売できる余裕があると考えるのが正解だ。とはいえ、このV8はそれほどガスガズラー高燃費車ではない。東京から箱根を往復してワインディングロードもたっぷり楽しみ、なおかつ帰路は大渋滞に巻き込まれてなお8km/ℓ走ったのは嬉しい誤算だった。

 今回試乗したのはRC Fのなかでも特別な仕様であるパフォーマンスパッケージ。1,400万円というプライスタグには一瞬たじろいだが、カーボンセラミックブレーキとチタンマフラーだけでも200万円は下らない。V8エンジンを含めて考えれば、M4やアウディRS5より割安感さえある。走らせても、やはり5ℓV8の魅力度は高い。ターボエンジンでは得られない生々しいパワー感やレスポンスはRC Fを選択する動機に十分なり得ると感じた。ただし足踏み式パーキングブレーキを含め、インテリアの古臭さは如何ともしがたい。せめてステアリングホイールだけでもFモデル専用品を開発すれば印象はかなりよくなるだろう。

レクサス・RC F

車両本体価格:10,210,909円~(税込)
*諸元値はRC-F“Performance package”
全長×全幅×全高(mm):4,710×1,845×1,390
エンジン:V型8気筒
総排気量:4,968cc 乗車定員:4名
車両重量:1,720kg
最高出力:354kW(481ps)/7,100rpm
最大トルク:535Nm(54.6kgm)/4,800rpm
燃費:8.5km/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:後輪駆動

VOLVO V60 TWIN ENGINE
ボルボ・V60 ツインエンジン

人気車種にプラグインハイブリッド登場

 ステーションワゴンは一部でオワコンと言われている。実際、ミニバンやSUVにすっかり取って代わられ、多くの車種が廃盤に追いやられた。日産や三菱にいたってはいまやステーションワゴンの販売すらしていない。そんななか売れに売れているステーションワゴンがボルボV60だ。SUVのXC60を抜き、日本で2番目に売れているボルボ車になったというのだから大したものである。

 ジャンルを問わず、魅力的な商品であればきっちり売れることをV60は見事に示して見せたわけだが、不人気ジャンルを売るのはそう簡単なことじゃない。人気ジャンルなら多少出来が悪かろうとそこそこ売れてしまうものだが、不人気ジャンルには逆風をはね除ける力が必要だ。V60の場合、昔からステーションワゴン作りで定評のあったボルボであることがまずは有利に作用したと思う。加えてデザインの優秀性や大きすぎないボディサイズなども高い評価を獲得した要因だろう。

 そんなV60のなかで異色というか先端的というか、そんな存在となるのが「ツインエンジン」だ。ツインエンジンといってもエンジンが2つ付いているわけではなく、前輪を駆動するエンジンに加え、後輪駆動用の電気モーターが加わるという意味。これに12.2KWhのバッテリーと充電機能を組み合わせたプラグインハイブリッドというのがツインエンジンの正体だ。

 自宅等で充電しておけば(急速充電器には非対応)20~30kmはEV走行が可能だし、最高で125km/hまでならエンジンをかけずに走行できるから、送迎やお買い物中心ならエンジンをかけるケースはあまりなさそうだ。もちろん強い加速が必要な際にはエンジンとモーターの併用になるが、制御が巧みなため違和感はないし、低出力仕様のT6でもフル加速時の迫力はかなりのものだ。価格はちょっと高いが、補助金を合わせれば意外なほどリーズナブルに購入可能なのも嬉しい。

ボルボ・V60 ツインエンジン

車両本体価格:6,590,000円~(税込)
*諸元値はV60 T6 Twin Engine AWD Inscription
全長×全幅×全高(mm):4,760×1,850×1,435
エンジン:水冷直列4気筒DOHC 16バルブ
(インタークーラー付 ターボチャージャー&スーパーチャージャー)
総排気量:1,968cc 乗車定員:5名
【エンジン】最高出力:186kW(253ps)/5,500rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/1,700~5,000rpm
【モーター】最高出力:34kW/2,500rpm(前)、65kW/7,000rpm(後)
最大トルク:160Nm/0~2,500rpm(前)、240Nm/0~3,000rpm(後)
駆動方式:4WD

AUDI Q8
アウディ・Q8

デザインに惚れる、SUVのフラッグシップ

 Q8は新たに加わったアウディのSUV。ここで注目したいのはネーミングに含まれる8という数字だ。フラッグシップセダンのA8、高性能ミッドシップスポーツのR8が示すように、アウディにおいて8は各ジャンルのフラッグシップモデルであることを示す。

 当然、Q8はSUVシリーズのフラッグシップという位置づけだが、意外なことにボディサイズはQ7のほうが大きい。このあたりは、大きさだけがクルマの価値ではないということだろう。室内の広さや積載力を重視したQ7(7人乗りも選べる)に対し、Q8は情緒的な魅力を追求している。低くスリークなフォルムや、過去の名車「スポーツ・クワトロ」をモチーフにしたフェンダー周りの造形はそうとうスタイリッシュだ。新機軸を打ち出せず守りに入っている印象が強かった最近の流れを断ち切り、伝統を取り入れながらも確実に前進しているのがいい。正直、デザインに惚れ惚れしたアウディは久しぶりだ。

 インテリアは相変わらずのアウディクォリティ。つまり世界最高峰の質感とセンスの持ち主ということだ。デザイン優先とはいえこれだけのサイズがあるだけに後席も荷室も広い。大がかりなキャンプに行くのでもなければまず不満は感じないだろう。

 走りで印象的だったのは静粛性の高さ。ドアを閉めると室内はしんと静まりかえり、走りだしても素晴らしい静粛性が保たれる。たとえエンジンを高回転まで回しても、ザラついた路面を走っても、はたまた大型トラックの横を通過しても室内の静寂が破られることはない。このあたりはさすがフラッグシップである。それでいて、ドライバーがその気になればスポーティーな走りを楽しむことも可能。3ℓV6ターボは約2.2トンのボディを軽やかに加速させ、ワイドなトレッドとファットなタイヤは軽快なフットワークをもたらす。1,995mmという全幅さえ許容できるなら、かなり魅力的なSUVである。

アウディ・Q8

車両本体価格:9,920,000円~(税込)
*諸元値はQ8 55 TFSI quattro
全長×全幅×全高(mm):4,995×1,995×1,705
エンジン:V型6気筒DOHCインタークーラー付ターボチャージャー
総排気量:2,994cc 乗車定員:5名
車両重量:2,140kg
最高出力:250kW(340ps)/5,200~6,400rpm
最大トルク:500Nm(51kgm)/1,370~4,500rpm
燃費:10.3km/ℓ(JC08モード)
駆動方式:quattro(4WD)

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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