岡崎五朗のクルマでいきたい vol.121 走行データの記録と可視化

文・岡崎五朗

 EDR/CDRという言葉をご存じだろうか。EDRとはイベントデータレコーダーの略。飛行機に搭載されているフライトデータレコーダーのクルマ版と思えばいい。

 「そんな装置がいつの間に?」「でも自分のクルマには付いてないよね?」と思う人がほとんどだろう。だが、普及が始まったのは2006年頃から。エアバッグが付いていない時代のクルマに乗っているのでもなければ、かなり高い確率で貴方のクルマにもEDRは付いている。

 収集しているデータはメーカーや車種によって違うが、車速、ブレーキ操作、ステアリング操舵角、衝突の大きさ、シートベルト装着状態、アクセル開度、シフトポジションなど。かなり多くのデータをとっていることがおわかりいただけるだろう。事故時の映像を記録するのがドライブレコーダーだが、EDRはさらに詳しいデータを数字で記録している。そしてそのデジタルデータを読み取り、可視化するのがCDR(クラッシュデータリトリーバル)と呼ばれるシステムだ。以前は各メーカーが独自のシステムを使っていたが、自社製品の事故データを自分たちで解析するのは透明性と公正性確保の観点から好ましくないということで、ボッシュが一手に引き受けるようになった。

 たとえば、もし貴方が停車中に追突され、その弾みで前方のクルマに追突したとする。ドライブレコーダーは付いていない。しかしCDRを使ってEDRのデータを読み出せば、衝突時に貴方が停車していたこと、また衝撃の大きさから何km/hで追突され、コンマX秒後に何km/hで前のクルマにぶつかったかなどが正確にわかる。また、ブレーキを踏んだのにクルマが勝手に加速した、などという暴走事故を起こしたドライバー証言の真偽も一発で解明可能だ。

 最近では保険会社が過失割合の算定に利用するケースが増えているというが、自動運転車が登場するとEDR/CDRの重要性はさらに高まる。事故発生時のシステムの作動状況やドライバーの状態を正確に把握することが事故原因の特定や責任の明確化に繋がるからだ。自動運転が引き起こした事故を自分のせいにされたらたまったもんじゃない…EDR/CDRはそんな不安も解消してくれる。


MAZDA CX-30
マツダ CX-30

マツダの、数と収益を担うSUV

 今年3月のジュネーブショーでデビューしたCX-‌30は、事務的に言うなら「CX-5とCX-2の間を埋める新型SUV」であり、「CX-5では大きすぎる、CX-2では室内が狭すぎると考える人に向けたモデル」ということになる。が、コトはそう単純ではないというのが僕の見立てだ。

 CX-‌30はエンジンやプラットフォーム、インテリア周りなど、多くのパーツを先に登場したマツダ3と共有している。ご存じの通りマツダ3、とくにファストバックはよく言えば個性的、悪く言えばアクの強いデザインを採用してきた。僕は大好きだが、後席の閉塞感や後方視界を含め、嫌いと考える人も多いと思う。つまりそれほど数は期待できない。そしてここが重要なポイントだが、数を期待しないCセグメント車など世界中どこを見渡しても存在しない。

 けれどマツダはやった。社運を左右する大ギャンブル? いやいや、そこには入念な戦略が潜んでいる。数と収益はCX-‌30に任せ、マツダ3をとことん尖らせることでマツダのブランドイメージを先鋭化するのが彼らの戦略だ。そんなことはリリースにはひと言も書いていないが、たぶん間違いない。そう、CX-‌30はCX-2とCX-5の間を埋めるモデルであると同時に、収益計画ではマツダ3とセットで存在するのだ。

 となれば、まず求められるのが「売れる」ことだが、SUV人気のおかげで底は固い。加えて欧州で求められるコンパクトな全長と、日本で求められる大きすぎない全幅と機械式駐車に対応する全高、北米でも受け容れられる広い室内&荷室という要素をCX-‌30は高次元でバランスしている。デザインはひたすら質感が高く美しい仕上がり。今回はドイツでの試乗となったが、走らせればマツダ3譲りの快適性と優れた操縦性を示す。日本発売は年内の予定。スカイアクティブXを含め日本で乗るのが楽しみだ。

マツダ CX-30

*スペックはSKYACTIV-G 2.0 M HYBRID(ガソリン)。
画像、スペックともに欧州仕様。
車両本体価格:日本未発売
全長×全幅×全高(mm):4,395×1,795×1,540
エンジン:直列4気筒DOHC 16バルブ Mハイブリッド
総排気量:1,998cc
乗車定員:5名
最高出力:90kW(122ps)/6,000rpm
最大トルク:213Nm(21.7kgm)/4,000rpm

CITROËN C5 AIRCROSS SUV
シトロエン C5 エアクロス SUV

SUVベストと言える「ゆるふわ」な乗り心地

 このところフランス車が元気だ。とくに気を吐いているのがシトロエン。C4カクタスの静かなブームに続きC3がヒット。実はC3は僕の愛車なのだが、購入して2年経ったいまなおまったく飽きていない。個性的な内外装としなやかで軽やかな走りは、コンパクトクラスのなかでは出色の出来映えだ。

 続いて投入されるのがC5エアクロスとC3エアクロスという2台のSUV。今回試乗したC5エアクロスはプジョー3008/5008、DS5クロスバックとはプラットフォームを共有する兄弟モデルになる。

 クールな3008/5008、ゴージャスなDS5クロスバックに対し、C5エアクロスはシトロエンらしい、肩から力の抜けたお洒落を訴求する。ボディサイズは4,500×1,850×1,710mmと、立体駐車場には入らないものの程よい大きさ。要所要所に入った赤い差し色が遊び心を伝えてくるが、選択するボディカラーによっては差し色がなくなるためシックに決めることもできる。クールになりがちな液晶メーターを使いつつ、温かな雰囲気に仕上げたインテリアも必見だ。

 デザインもさることながら、C5エアクロスの最大の魅力は快適性にある。付加価値としてスポーティーさを訴求するクルマが増えているなか、シトロエンが目指すのは真逆の方向。「シトロエン・アドバンスト・コンフォート」という考え方のもと、走り、室内空間、装備といったすべての項目を、乗員の快適性を高めるために造りこんだという。

 それがもっとも象徴的に表れているのがSUVベストと言ってもいい乗り心地だ。PHC(プログレッシブ・ハイドローリック・クッション)と呼ばれる独自のダンパーが生みだす乗り心地はまさに空飛ぶ魔法の絨毯。走りだした直後から「ゆるふわ」なタッチで乗員をリラックスさせてくれる。この乗り心地は絶対に一度味わってみるべきだ。

シトロエン C5 エアクロス SUV

車両本体価格:4,240,000円(税込)
全長×全幅×全高(mm):4,500×1,850×1,710
エンジン:2.0ℓ直列4気筒ターボディーゼル
総排気量:1,997cc 乗車定員:5名
車両重量:1,640kg
最高出力:130kW(177ps)/3,750rpm
最大トルク:400Nm/2,000rpm
燃費:16.3km/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:前輪駆動

Land Rover Range Rover EVOQUE
ランドローバー・レンジローバー イヴォーク

本格四駆顔負けのデザインコンシャスなSUV

 レンジローバーファミリーの末弟であるイヴォークは、数あるSUVのなかでもっともデザインコンシャスなモデルだ。初代の日本導入は2012年。3ドアと5ドアの2タイプがあったが、販売台数は圧倒的に5ドアが多かった。まあ2ドアのSUVなどという酔狂なモデルを選ぶ人が少ないのはわかるが、一方で、デザイン的には3ドアのほうが圧倒的にピュアで個性的だったというのも事実。そう、初代はデザインか使い勝手かの二者択一を迫るモデルだったということだ。

 一転、先日登場した2代目イヴォークは3ドアを廃止してきた。さては日和ったか?と思いきや、3ドアの特徴であり、また旧5ドアの物足りない部分だった「鋭いくさび形フォルム」が、新型5ドアではきっちりと表現されている。その上で、兄貴分のヴェラールを連想させるスムースで洗練された面構成を与え、上質感やモダンさを演出。四隅に大径タイヤを配置した踏ん張り感もいい。これなら3ドアはなくてもいいな、と思えるほどのカッコよさだ。

 新開発のプラットフォームに組み合わせるのは全長が4,380mmというコンパクトなボディ。とはいえ幅は1.9mを超えているから停める場所によっては乗り降りに苦労するだろう。パワートレーンはディーゼル(180ps)とガソリン2種(200ps/249ps)に加え、マイルドハイブリッド(300ps)の4種類を用意する。主に試乗したのは249psのガソリンだが、走り味はとてもいい。やや硬めだが上質な乗り心地は荒れた路面でも維持されるし、ワインディングロードではGTカーのような切れ味鋭い走りを楽しめた。チョイ乗りしたディーゼルも悪くなかったが、スポーティーさを求める人にはガソリンエンジンをオススメしたい。徹底的に都会的でありながら、水深600mm!という本格四駆顔負けの渡河能力をもつあたりはさすがランドローバーファミリーの一員だ。

ランドローバー・レンジローバー イヴォーク

車両本体価格:4,610,000円~(税込)
*スペックはP200 2.0ℓガソリン-200PS
全長×全幅×全高(mm):4,371×1,996×1,649
エンジン:2.0ℓガソリン
総排気量:1,997cc
乗車定員:5名
車両重量:1,813kg(EU)
最高出力:147kW(200ps)
最大トルク:320Nm
最高速度:216km/h
0-100km/h:8.5秒

MASERATI Levante TROFEO
マセラティ・レヴァンテ トロフェオ

“フェラーリ製エンジン”を積むイタリアンSUV

 創業105年の老舗にして、過去のモータースポーツシーンにおいて輝かしい歴史をもつマセラティが初めて世に問うSUVがレヴァンテだ。2016年の日本導入時には3ℓ V6のガソリンターボとディーゼルのみだったが、新たに3.8ℓ V8ツインターボを手に入れることで、より輝きを増した。

 トップグレードの「トロフェオ」が積むV8のパワースペックは590ps/734Nm。「GTS」が積むデュチューン版ですらポルシェ・カイエン・ターボと並ぶ550psに達する。もちろん、単にパワーがあるから輝きが増したといってるわけじゃない。レヴァンテが積むV8は、あのフェラーリのマラネロ工場で生産されているのだ。それをもって「フェラーリ製エンジン」と言う人もいるが、正確には「マセラティとフェラーリが共同開発し、フェラーリの工場に生産委託したエンジン」となる。とはいえ赤く塗られたヘッドカバーをみたら、もうほとんどフェラーリ製エンジンと言いたくなるが。

 エンジンをかけると乾いたV8サウンドが聞こえてくるが、決して爆音ではない。プレミアムSUVに相応しい静粛性を伴った存在感のある静けさ、という表現が相応しいだろう。だが走り出すとやはりエンジンの存在感はハンパじゃない。アクセルを積極的に踏み込んだときのクォォォォーンというサウンドは最高にイカしてるし、トップエンドまで回したりなんかしたらもう体中の毛穴からアドレナリンが噴き出しそうになる。エンジンは動力源だが、それと同時に超強力な快感発生装置でもあることを改めて感じた。

 重量は2.3トンを超えるが、加速はもちろん、ハンドリングにも重苦しさは一切ない。加えてステアリング、サスペンション、駆動系といったメカ部分から伝わってくる高い精度感も素晴らしい。価格は1,990万円。オプションを入れれば2,000万円を超えるが、それも納得せざるを得ない魅力の持ち主だ。

マセラティ・レヴァンテ トロフェオ

車両本体価格:19,900,000円(税込)
全長×全幅×全高(mm):5,020×1,981×1,698
エンジン:V8
総排気量:3,799cc 最高出力:590ps
最大トルク:730Nm
最高速度:304km/h
0-100km/h:3.9秒
駆動方式:AWD

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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