岡崎五朗のクルマでいきたい vol.117 95グラムの余裕

文・岡崎五朗

 3月頭にジュネーブモーターショーの取材にいってきた。主要モーターショーでは唯一、自国に自動車産業をもたないスイスでの開催ということで、各メーカーのブースの面積が比較的公平なのがジュネーブのいいところ。

 また、ワンオフの超高額車やスーパーカーなどが多く展示されるのも特徴だ。そんななか、主要メーカーの展示は揃ってひとつの方向を向いていた。「電動化」である。

 2020年からEUでは二酸化炭素排出量が1km走行あたり95グラムに規制し、オーバーすれば巨額の罰金を科す。実際には販売台数や車種によってメーカーごとのターゲットは異なるが、いずれにしても現状の技術でクリアするのはかなり難しい。そこで脚光を浴びているのが電動化だ。EUのレギュレーションでは、PHVにするだけで二酸化炭素排出量は大幅に下がる。EVにすればさらに下がる。つまり、95グラムを実現するには電動化を進めざるを得ないというわけだ。フォルクスワーゲンを筆頭にドイツ勢は数多くのPHVやEVを出展。プジョーは新型208のEVを、電動化とはほど遠いブランドだったアルファ ロメオやジープもPHVを出してきた。一方、トヨタはといえば新型カローラや新型RAV4に加え、ラリーカーやレーシングカーを展示するという古風な展示内容にとどまった。

 これを受け、EVもPHVを提案しないトヨタは遅れているという論調もある。しかしそれは明らかなミスリードだ。20年前からハイブリッドを推進してきたトヨタはすでに95グラムを余裕でクリアしている。だから大急ぎでPHVやEVを出す「必要性」がないだけである。規制がさらに厳しくなる2025年、あるいは2030年までには、満を持して開発中の全固体電池を実用化してくるだろう。

 こんな背景を知らず、EVを発売しないのは古い価値観に縛られているからだとか批判するのは無知故の言いがかりのようなもの。土壇場にきて高価なPHVやEVを出すのと、長い年月をかけリーズナブルなハイブリッドを着実に普及させてきたトヨタのどちらが環境コンシャスなのか? 答えは明らかだ。


ALFA ROMEO STELVIO DIESEL
アルファ ロメオ・ステルヴィオ ディーゼル

国内初ディーゼル登場

 フォルクスワーゲンの排ガス不正問題を受け、ヨーロッパではディーゼルエンジンに強い逆風が吹いている。あれほど高い人気を誇ったディーゼル車のシェアが大きく低下しているのだ。しかしそれは多分に感情的なものと言っていい。欧州では乗り入れ規制を打ち出した都市もあるが、対象となるのは排ガス規制が緩かった時代のディーゼル車であり、最新モデルは対象外。そもそも日本で販売されているディーゼル車は、世界でもっとも厳しい日本の排ガス規制をクリアしている。ディーゼルだからといって敬遠する必要はまったくない。当然、日本で販売されるアルファ ロメオとしては初のディーゼル車となるステルヴィオにも同じことが言える。入念な対策を施すことによりクリーンな排ガスを実現。それでいて、太くてフラットな低中速トルクと優れた燃費というディーゼルの長所をきちんと実現している。

 とはいえ、ステルヴィオのディーゼルにはプラスαの魅力がたくさん詰まっている。まずはエンジン。2.2ℓ直4ターボユニットのパワースペックはクラストップの210㎰/470Nm。6.6秒という0-100km/h加速もライバルたちを圧倒する。なおかつ、絶対的な動力性能だけでなく、上まで回していったときのサウンドや伸びきり感といったフィーリング面でも非凡な才能を見せつける。直4ディーゼルでありながら、いい音を聴かせながらトップエンドに向けドラマティックに回りきる…なんて表現を使えるあたりはさすがアルファ ロメオのエンジンだ。

 もう1点はきわめて軽量に仕上がっていること。2ℓガソリン直4ターボに対して10㎏しか重くなっていないため、ステルヴィオの持ち味であるSUV離れした軽快感をまったくスポイルしていない。ガソリンターボに対して38万円安という大バーゲン価格を含め、ステルヴィオを買うならこのディーゼル車を第一候補にすることをオススメする。

アルファ ロメオ・ステルヴィオ ディーゼル

車両本体価格:6,170,000円(税込)
*諸元値はSTELVIO 2.2 TURBO DIESEL Q4
全長×全幅×全高(mm):4,690×1,905×1,680
エンジン:直列4気筒インタークーラー付ターボ
総排気量:2,142cc 乗車定員:5名 車両重量:1,820kg
最高出力:154kW(210ps)/3,500rpm
最大トルク:470Nm(47.9kgm)/1,750rpm
燃費:16.0km/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:四輪駆動
*写真は欧州仕様。日本仕様はフォグランプ有り、内装はベースグレードに準じる。

MERCEDES-BENZ B-CLASS
メルセデス ベンツ・Bクラス

7年ぶりのモデルチェンジ

 対話型インフォテインメントシステム「MBUX」が大きな話題を呼んだ新型Aクラス。その派生モデルであるBクラスが早くも本国で登場した。Aクラスをベースに車高を高めることで室内と荷室を拡大、同時に乗降性も向上させるという基本コンセプトに変化はない。実際、Bクラスの室内はAクラスより明らかに快適だ。なかでも明らかに違うのがラゲッジスペース。Aクラスの370ℓも決して小さくないのだが、Bクラスは455ℓまで拡がっているため、遊び道具やベビーカーなども気軽に放り込める。さらに40:20:40の分割可倒式リアシートを倒せば、荷室容量は最大1,540ℓまで拡大。2人乗車であればかなり本格的なキャンプにも対応できる。後席に14㎝のスライド機構が付いているのもAクラスとの違いだ。

 メルセデスとしては、こうしたBクラスのコンセプトはヤングファミリーに響くだろうと思っていたそうだが、予想に反し先代Bクラスを購入するのは中高年層が多かったという。そこで新型では若年層に振り向いてもらうべくデザインに大きく手を入れてきた。それがもっとも如実に表れているのがシャープな顔つきとワイド感を強調したリア周りだ。それでもAクラスより全高が100mm以上高いためスポーティー感は若干薄まるものの、その低下幅は先代AクラスとBクラスより小さくなった。走りに関しても、味付けは明らかにスポーティー方向。シャープなステアリング特性やコーナーでのしっかりした踏ん張り感からは「コンパクトミニバンとは決して言わせない」というメルセデスの明確な意思が伝わってくる。先日Aクラスにも加わった最新型2ℓディーゼルの元気ぶりも印象的だった。

 もちろん、MBUXも搭載。優れたユーティリティと対話型音声認識システムを武器にもつ新型Bクラスは果たしてメルセデスの思惑通りヤングファミリーを取り込むことができるのか。発売は夏頃の予定だ。

メルセデス ベンツ・Bクラス

車両本体価格:未定(日本)
*諸元値はB200dの欧州参考値
全長×全幅×全高(mm):4,419×1,796×1,562
エンジン:2.0ℓ直列4気筒DOHCターボディーゼル
車両重量:1,535kg
最高出力:110kW(150hp)/3,400~4,400rpm
最大トルク:320Nm/1,400~3,200rpm
駆動方式:FF

BMW 3 SERIES
BMW・3シリーズ

クラスベストのスポーティーさ

 3シリーズはBMWの中核モデルだ。もちろん、3シリーズ以外にもBMWは多くのモデルを擁している。しかし、ブランドの核となるのはやはり3シリーズだと思っている。なぜなら、誰もがBMWらしさとして思い浮かべる「都会的でスポーティーな後輪駆動のセダン」というイメージは、60年代の1500や2002シリーズの後を継ぐ3シリーズがつくりあげたものだからだ。そのコンセプトをベースに大型化したのが5シリーズや7シリーズ。逆にメルセデスはSクラスのコンセプトをEクラスやCクラスへと小型化する方向でモデル展開をしていった。同じドイツのプレミアムメーカーでありながら、アプローチが正反対というのは面白いところだ。

 7代目となる新型3シリーズはプラットフォームを完全刷新。基本性能をグンと底上げするとともに、最新の先進安全装備や、対話型音声認識システム「BMWインテリジェント・パーソナル・アシスタント」を採用。そこから伝わってくるのは、時代をリードしようというBMWの気概だ。ただし音声認識システムの実力はまだまだ。スマホの実力を10とするとメルセデスのMBUXは7、BMWは3程度の仕上がりにとどまる。今後のアップデートを期待したい。

 試乗したのは2ℓ直4ターボを搭載する330i Mスポーツ。オプションの19インチタイヤを履いていることもあり普段走りではちょっと固め、とくに後席の乗り心地は厳しめだが、山道での走りはもう最高! 迫りくるコーナーを嬉々としてクリアしていく様は、CクラスやアウディA4とは別次元のスポーツ性の持ち主であることを明確に示していた。4気筒ながらエンターテインメント性に富んだエンジンを含め、スポーティーなドライブフィールを求めるなら、このクラスではやはり3シリーズがベストの選択だ。代替わりしてもなお、そんな3シリーズらしさを保ち続けていることに嬉しさを感じた。

BMW・3シリーズ

車両本体価格:4,520,000円~(税込)
*諸元値はBMW 330i M Sport
全長×全幅×全高(mm):4,715×1,825×1,430
エンジン:直列4気筒DOHCガソリン 総排気量:1,998cc
乗車定員:5名 車両重量:1,820kg
最高出力:190kW(258ps)/5,000rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1,550~4,400rpm
燃費:15.7km/ℓ(JC08モード)、13.2km/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:後輪駆動

MERCEDES-BENZ AMG A35 4MATIC
メルセデス ベンツ・AMG A35 4MATIC

5万ユーロを切るAMG登場

 AMGといえば高性能メルセデスの代名詞。日本では「アーマーゲー」という呼び名が広まっているが、正式呼称は「エーエムジー」。仮にドイツ語読みしても「アーエムゲー」なのになぜアーマーゲーなのだろう?不思議だ。それはともかく、メルセデス・クォリティと高性能を1台で実現するという実に欲張りなコンセプトをもつAMGは、それと引き換えにユーザーに高い対価を要求するのが常識だった。これまでのエントリーモデルであるA45 AMGは685万円だ。

 そんななか登場したAMG A35 4MATICは、AMGバッジをつけたモデルとしては初めて5万ユーロを切るプライスタグをつけてきた。日本でいくらになるかは現段階ではわからないが、フォルクスワーゲン・ゴルフの高性能モデル「R」が570万円であることを考えると、そのあたりを狙ってくる可能性はかなり高い。今後、さらに高性能なA45 AMGも登場する見込みだが、そちらはおそらく700万円台になるだろう。

 最廉価モデルとはいえ、そこはやはりAMG。パフォーマンスへのこだわりは強い。エンジンは306㎰/400Nmを発生する2ℓ直4ターボ。7速DCTと4輪駆動の組み合わせにより、0-100km/h加速4.7秒という俊足ぶりを見せつける。マヨルカ島のワインディングロードを中心に試乗したが、豪快なサウンドとともに生まれる漲るようなパワーはまさにAMGワールド。締め上げた足回りはシャープな回頭性と安心感の高いグリップ感、優れたライントレース性を示してくれた。それでいて荒れた路面に遭遇しても必要以上の突き上げを感じさせることなく、質感の高い乗り心地を示してくれる。エンジニアに聞くと、足回りのセッティング変更に加え、ボディにも補強を加え剛性を高めているという。単にパワーアップするだけでなく、ひと手間をかけ完成度を高めるのもAMG流だ。日本発売は夏頃の予定。

メルセデス ベンツ・AMG A35 4MATIC

車両本体価格:€47,530(ドイツ)
*諸元値は欧州参考値
エンジン:4気筒ターボ 総排気量:1,991cc
車両重量:1,555kg
最高出力:306ps/5,800~6,100rpm
最大トルク:40.8kgm/3,000~4,000rpm
0-100km/h加速:4.7秒

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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