岡崎五朗のクルマでいきたい vol.110 グラフィックボードと自動運転

文・岡崎五朗

 パソコンに詳しい人、とくにPCでゲームを楽しんでいる人であれば、NVIDIAというメーカーのことをよく知っているだろう。PCでゲームを楽しむのに不可欠な高性能グラフィックボードの最大手である。そのNVIDIAが、新しいビジネスの柱として位置づけているのが自動運転だ。

 すでにトヨタやメルセデス、BMWといった多くの大手自動車メーカーや、ボッシュやコンチネンタルといった巨大部品メーカー向けに技術を提供している。

 グラフィックボードと自動運転。一見関係ないように思えるが、「画像処理」という点では共通項が多い。車載カメラや各種センサーから入ってくる大量のデータを同時並行で瞬時に処理するには、PCの頭脳に使われるCPUよりも、グラフィックボードに使われるGPUのほうが適しているのだ。またAIディープラーニングにもGPUは適している。そしてNVIDIAには世界最高峰のGPU技術がある、というわけだ。

 昨年、日産の自動運転実験車を取材した。その挙動は予想以上にスムーズだったが、トランクルームは巨大なコンピューターで占領され、かつシステムの消費電力は2,000ワットに達すると聞いた。よく自動運転とEVは相性がいいと言われるが、貴重な電力を大量に消費することを考えれば決して相性がいいとは言えないし、ガソリン車に使っても燃費の悪化は避けられない。しかし、GPUを上手く使えば、サイズも消費電力も数10分の1にできる。実際、ひと昔前のスーパーコンピューター並みの演算能力をもつシステムを、宅配ピザケース並みのサイズまで小型化する目処が立っているという。今後さらにチップの集積が進みサイズが小さくなれば消費電力もコストも劇的に下がる。もちろん、だからといって自動運転がすぐさま実用化されるわけではない。計り知れないほど多くの不確実性が存在する公道で自動運転を実現するには越えなければならないハードルがまだまだ数多く存在するからだ。しかし、NVIDIAが誇る高度な画像処理技術が自動運転の実現に今後大きな役割を果たしていくことは間違いない。PCのグラフィックボードから自動運転。まさに瓢箪から駒である。


TOYOTA CROWN
トヨタ・クラウン

ニュルで磨かれた新生クラウン

 初代クラウンが登場したのは1955年。現在まで販売が続いている日本車としては’54年に登場したランドクルーザーに次ぐ古株だ。先日登場した新型は初代から数えて15代目。歴史的にも社会への定着度でも、まさに日本を代表する高級セダンである。

 新型クラウンの開発責任者を務めた秋山 晃氏は、クラウンの開発をしたくてトヨタに入社したという根っからのクラウンファン。しかしその一方で、「日本に向き合う高級セダンという一点を除けば変えることに躊躇はありませんでした」とも言う。なるほど新型クラウンはたしかに変わった。全幅を1,800mmに抑えたのは日本への配慮だが、トレードマークだった王冠(クラウン)エンブレム付きの太いCピラーは6ライト化で細くなったし、ロイヤルサルーン、アスリート、マジェスタという3つの個性も1モデルに集約された。

 なにより大きく変わったのが「走り」へのこだわりの強さだ。なにしろ高性能車開発の聖地、ニュルブルクリンクにまで持ち込んで走りに磨き込みをかけたというのである。クラウンというと、フワフワした乗り心地というイメージを持っている人が多いと思う。しかし新型の走りの狙いは「目線の動きが少ない」こと。これはかなり大胆な方向転換だ。実際、乗ってみるとフワフワ感は一切なく、うねりのある路面を速度を上げて通過してもボディはフラットなまま。揺れたとしてもピタリと一発で収める。加えてステアリングの応答性や正確性も大幅に進化している。これならBMWから乗り換えても違和感はない。

 いまや70歳代に突入したユーザー平均年齢を下げるのが新型クラウンの使命だ。もちろん、すぐさま下がるとは思えないが、新型を買ったオーナーはきっと、周囲の若い人たちの反応の変化に気付くのではないか。たとえばこれまでクラウンに見向きもしなかった息子さんが「オヤジ、今度貸してくれよ」なんて言ってくる可能性はかなり高いと思う。

トヨタ・クラウン

車両本体価格:4,606,200円~(税込)
*諸元値は、2.0 RS Advance(2.0ℓ ターボガソリン車/2WD)
全長×全幅×全高(mm):4,910×1,800×1,455
エンジン:直列4気筒 総排気量:1,998cc
乗車定員:5名 車両重量:1,730kg
最高出力:180kW(245ps)/5,200~5,800rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/1,650~4,400rpm
燃費:12.8km/ℓ(JC08モード)、12.4km/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:後輪駆動

HONDA N-VAN
ホンダ・N-VAN

最強の遊びグルマ

 N-VANは大ヒットモデルであるN-BOXの商用版だが、単に快適装備を削り落とした廉価版ではない。基本的なプラットフォームは共用しているものの、ハイルーフ仕様の設定や助手席側のセンターピラーレス化、シートの工夫による積む機能の追求など、道具としての使い勝手を最大化しているのが特徴だ。もちろん、プロがお仕事に使うことを前提にしているわけだが、その結果、自転車やオートバイ、サーフボード、大量のキャンプ用品などを積んで出掛ける、あるいは車中泊するなど、遊びのためのクルマとしての資質が高まったのが面白い。

 商用軽ワンボックスという意味でライバルになるのはダイハツのハイゼットカーゴやスズキのエブリィだが、この2台に遊びや趣味のためのクルマという香りは漂っていない。そこがN-VANとの違いだ。ではなぜN-VANだけにそういう資質が備わったのか。やはりFFというレイアウトが効いている。ライバルはスペース効率を最大化するため、運転席下にエンジンを積むキャブオーバーレイアウトを採用している。たしかに室内長は大きくなるが、振動、騒音、乗り心地、操縦安定性では乗員に我慢を強いる。

 対するN-VANはFFレイアウトを採用している。乗ってみれば違いは一目瞭然で、これならロングドライブしてもいいなと思える。垢抜けたデザインもそんなイメージを演出している大きな理由だ。

 こうなると実質的なライバルはN-BOXと言えるのかもしれない。ただし積む機能を最大化したため、リアシートと助手席の座り心地はかなりプアー。一人で出かけるなら問題ないが、誰かを乗せるとなると、あらかじめ「申し訳ないけど…」と、ひと言謝っておく必要があるだろう。それさえ厭わなければN-VANは最強の遊びグルマになる。なにしろモトクロッサーすらラクに飲み込んでくれるのだから。

ホンダ・N-VAN

車両本体価格:1,267,920円~(税込)
*諸元値はL・Honda SENSING(FF/CVT)
全長×全幅×全高(mm):3,395×1,475×1,945
エンジン:水冷直列3気筒横置
総排気量:658cc 乗車定員:4名
車両重量:950kg
最高出力:39kW(53ps)/6,800rpm
最大トルク:64Nm(6.5kgm)/4,800rpm
燃費:23.8km/ℓ(JC08モード)
駆動方式:前輪駆動

ALPINE A110
アルピーヌ・A110

フランス名車がミッドシップで蘇る

 アルピーヌA110はフランス製スポーツカーの名作だ。60年代から70年代にかけて生産され、とくにラリーでの活躍によって大きな名声を獲得した。そんな名車がリバイバルされたわけだから、注目を集めるのは当然のこと。「プルミエール・エディション」と名付けられた1,950台の限定モデルはあっという間に完売。日本に割り当てられた50台にも約1,000件の申し込みがあったという。しかし限定モデルに続き、通常のカタログモデルも用意される。気長に待てば手に入れることは可能だ。

 新型A110のデザインはオリジナルモデルを彷彿させるが、レイアウトはRRからミッドシップになっている。前後重量配分の適正化に加え、床下後半部を持ち上げてダウンフォースを得る仕組みのためだ。結果としてリアスポイラーを付ける必要がなくなり、オリジナルに近いデザインが実現できたというのは面白い。

 現代の水準に合わせ大型化されてはいるものの、ウェイトはわずか1,100㎏。オリジナルモデルの700㎏台にはさすがに及ばないものの、ほぼ同クラスのポルシェ・ケイマンと比べると300㎏近く軽い。マツダ・ロードスターRFとほぼ同等のボディに250psと書けば、かなりの俊足ぶりであることは簡単に想像できるだろう。実際、A110は速い。

 しかしそれ以上に印象的だったのが全体を貫く軽さ感だ。アクセルを踏む、ブレーキを踏む、ステアリングを切る…すべての操作に対する反応がきわめてビビッドで、遅れがない。「慣性」をここまで完璧に封じ込めたクルマはいまどき珍しい。当然、ドライビングプレジャーは最高だ。それでいて乗り心地にはしなやかさもあるから日常使いも十分に可能。低回転域でのサウンドが野暮ったいとか、スポーツドライビング時にはステアリングアシストが強すぎるとか、やや不満な点もあるが、こいつを手に入れたら最高のクルマライフになること請け合いだ。

アルピーヌ・A110

車両本体価格:7,900,000円(アルピーヌ A110 プルミエール・エディション、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,205×1,800×1,250
エンジン:ターボチャージャー付 筒内直接噴射 直列4気筒DOHC 16バルブ
総排気量:1,798cc 乗車定員:2名
車両重量:1,110kg
最高出力:185kW(252ps)/6,000rpm
最大トルク:320Nm(32.6kgm)/2,000rpm
燃費:14.1km/ℓ(JC08モード)
駆動方式:後輪駆動

DS DS 7 CROSSBACK
DS・DS 7 クロスバック

現代カーデザインへの挑戦状

 DS7 クロスバックは、DSがシトロエンから独立してから初めて投入するモデル。インターナショナルなプジョー、ライフスタイル寄りのシトロエンに対し、DSには「パリをイメージしたフレンチラグジュアリー」という、なんとも濃い口のアイデンティティが与えられる。にしては、プレーンな外観に拍子抜けした。プラットフォームを共有するプジョー3008のほうがアイキャッチ性能は高い。とはいえそれは「ぱっと見」の話しであって、よくよく眺めていくと次々に濃い口が表れてくる。たとえばヘッドランプ。点灯時や消灯時に片側3つのLEDがグルリと回転する。室内に入りエンジンを始動すると、収納されていたB.R.M.製アナログ時計が、これまたグルリと反転して現れる。アナログ時計をアクセントとして採用するクルマは少なくないが、ここまで凝ったデザインと繊細なつくりのものは滅多にない。さらに、ダッシュボードのレザーには「パティーヌ」仕上げが施され、なんとも言えないラグジュアリー感を醸しだす。時計の金属バンドをイメージしたシート形状や、センターコンソールにすらりと並ぶスイッチもユニークだ。

 こうした細部へのこだわりを、やり過ぎとか、ギミック的とネガティブに捉える人もいるだろう。僕も最初見たときはそう思った。けれど、これこそが既存の価値観を壊そうとするDSのチャレンジなのではないか? いまや多くの人に愛されるエッフェル塔も建造当時は批判に晒された。新凱旋門も、ルーブルのガラスのピラミッドもそうだ。さらに深掘りすれば、16世紀末から17世紀初頭にかけ流行したバロック建築も当初はケバケバしいと蔑まれた。そう、DS7 クロスバックが挑戦しているのは、クリーンで常識的で実用的、しかし退屈な現代カーデザインなのかもしれない。そんな目で眺めると、まったく違う世界が見えてくるのが面白い。DS、注目すべきブランドである。

DS・DS 7 クロスバック

車両本体価格:4,690,000円~(税込)
*諸元値はGrand Chic BlueHDi
全長×全幅×全高(mm):4,590×1,895×1,635
エンジン:ターボチャージャー付直列4気筒DOHC(ディーゼル)
総排気量:1,997cc 乗車定員:5名
車両重量:1,700kg
最高出力:130kW(177ps)/3,750rpm
最大トルク:400Nm/2,000rpm
燃費:16.4km/ℓ(JC08モード)
駆動方式:前輪駆動

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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