岡崎五朗のクルマでいきたい vol.109 水没リスクの対処法

文・岡崎五朗

 各地に大きな被害をもたらした平成30年7月豪雨。自分自身、中国四国地方には知り合いも多く、また豪雨の前日まで尾道に滞在していたこともあり他人事とは思えない。

 被害に遭われた方々には心よりお見舞い申し上げます。

 それにしても、ニュース映像等で目にした自然の猛威には強い恐怖を覚えた。あらゆるものを飲み込む土砂と濁流。クルマもたくさん流され、亡くなった方もいる。せめて今後も起こるであろう同様の被害を最小限に食い止める教訓にするのが僕らの努めだろう。

 クルマが水没したとき、どう対処すればいいのか。水没しかけたら水圧でドアは開かなくなる。JAFの試験によると、水深60㎝でもドアを開けるのは難しくなるそうだ。もし窓が開けばそこから脱出するのが最善の手段だが、水深が90㎝程度になるとたいていの場合、電気系統がショートしパワーウィンドウは作動しなくなる。その場合はサイドウィンドウを叩き割るのがベストの方法だ。しかしそれには専用の脱出用ハンマーが必要になってくる。カー用品店などで手に入るので、運転席から手が届く場所に設置しておくといいだろう。もし脱出用ハンマーがなかったら…。想像しただけで鳥肌がたつが、そうなったら車内が水で満たされるまで冷静に待つしかない。満水近く、もしくは満水になれば車外と圧力が近くなるから、重いがなんとかドアは開く。そして開いたドアから脱出し水面を目指すというわけだ。なお、普通のドアだけでなく、スライドドアにもほぼ同様のことが言える。

 その他、水没に関わるリスクとして気になるのは感電だ。とくに電気自動車やハイブリッド車は高電圧バッテリーを搭載しているため、感電したときの被害が大きくなる。しかし水没しても乗っている人が感電する可能性はきわめて低いし、それは放置された車両に触っても同じだ。自動車メーカーが組み込んでいる二重三重の安全装置の効果は極めて高く、東日本大震災による津波や今回の洪水でも感電事故は報告されていない。もちろん、必要もないのに触ったり、ましてや不用意に始動させたりするのは慎むべきだが、必要以上に怖がる必要はないということだ。


SUBARU FORESTER
スバル・フォレスター

中身が大幅進化

 変わり映えしないなぁ、というのが新型フォレスターに対する第一印象。キープコンセプトといえば聞こえはいいが、なにもここまでキープすることなかったんじゃない? と思った。フルモデルチェンジなので並べてみればさすがに違いはわかる。新型の方がサイド面に抑揚があるし、黒いフェンダーアーチモールが付き、リアコンビランプもイマ風になった。でもやっぱり変わり映えしない。仮に編集部が間違えて旧型の写真を掲載しても気付く人は少ないのではないだろうか。あ、写真はちゃんと新型です。念のため。

 それに対し大きく変わったのがインテリアだ。広くなったことに加え、ダッシュボードやドアトリムの質感が大幅に向上した。普通のクルマがプレミアムカーのようになったと表現できる。乗り込んだ人の顔をカメラで判別してシートポジションを自動で設定したり、脇見や居眠りを監視したりするシステムも魅力的だ。先代オーナーが新型に対してもっともジェラシーを覚えるのは、ドライバーモニタリングシステムを含めたインテリアの仕上がりだろう。

 そしてもうひとつ、グンとよくなったのが走りだ。乗り心地や静粛性だけでなく、高速走行時のステアリングの落ち着きやコーナーでの曲がりやすさも確実に進化した。クローズドコースで思い切り走らせる機会もあったのだが、ステアリングの応答性がよくなったためコーナー進入時に狙ったラインに乗せやすく、かつ旋回中のリアの踏ん張り感も上がった。なお街中では2ℓハイブリッドのレスポンスも魅力だが、僕はコンスタントに太いトルクを出す2.5ℓにより魅力を感じた。

 フォレスターはSUVのなかではトップレベルの220mmという最低地上高を備えている。当然悪路で大きな武器になるが、一方で重心高アップにもつながる。にもかかわらずこれだけのハンドリング性能を与えてきたところにスバルのこだわりを感じた。

スバル・フォレスター

車両本体価格:2,916,000円(X-BREAK、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,625×1,815×1,730
エンジン:水平対向4気筒 2.5ℓ DOHC 16バルブデュアルAVCS 直噴
総排気量:2,498cc 乗車定員:5名 
車両重量:1,530kg
最高出力:136kW(184ps)/5,800rpm
最大トルク:239Nm(24.4kgm)/4,400rpm
燃費:14.6km/ℓ(JC08モード)、13.2km/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:AWD

TOYOTA COROLLA SPORT
トヨタ・カローラ スポーツ

12代目のトヨタの意地

 1966年に初代が登場したカローラは、まさに日本のモータリゼーションを支えてきたクルマだ。初めてのマイカーとしてカローラを迎え入れた家庭には、ワクワク感と笑顔があったに違いない。そんなカローラだが、時代の流れとともに立ち位置を徐々に変えていった。とくにバブル崩壊後はコストダウンに次ぐコストダウンを繰り返し、ワクワク感や笑顔とはもっとも縁遠いクルマになってしまったのだ。とくに2013年に登場した先代ではついに格下のヴィッツと共通のプラットフォームになり、薄っぺらい乗り味や直進安定性のなさには大いに失望させられた。カローラはその役目を終えたのかも、とすら思ったほどだ。

 しかしトヨタはカローラを諦めていなかった。12代目にあたる新型ではプリウスなどと共通のプラットフォームを採用。安さと信頼性だけが売りという立ち位置から、乗って楽しく、かつ上質なベーシックカーという方向性に大転換してきた。わかりやすく言うなら、日本国内専用車から、ゴルフを中心とする欧州Cセグメントハッチバックと真っ向からぶつかるグローバルモデルへと転身してきたというわけだ。今回発売されたのはカローラ・スポーツと呼ばれるハッチバックのみ。そう考えると実質的にはオーリスの後継モデルだが、それにカローラというネーミングを付けてきたのがトヨタの意地だ。

 外観は好き嫌いは分かれそうだが、リアのオーバーハングが大きい以外はまあ悪くない。インテリアも先代カローラに漂っていた殺風景な雰囲気はまったくない。シートの座り心地を含め、オーリスと比べても大きくグレードアップしている。それ以上に激変したのが走りだ。タイヤが転がり始めた瞬間から、あ、気持ちいいなこれ、と思える乗り味なのだ。ボディ剛性をグンと引き上げ、サスペンションを磨き込み、ダンパーのオイル粘度特性にまで徹底的にこだわった成果が、乗り味の上質感としてしっかり表現されている。しかも、その上質感は速度を上げても失われない。足をしなやかに動かしながら路面を粘っこく捉え続ける感触は、ついにカローラがゴルフに追いついたと感じさせるものだった。

 しかし、価格までもゴルフに近付いてしまった。いいものを作ろうとしたらコストがかかるということなのだろうが、今後出てくるであろうセダンやワゴンでは、200万円を切るモデルをぜひ用意してもらいたい。

トヨタ・カローラ スポーツ

車両本体価格:2,138,400円~(税込)
*諸元値はG”Z”(2WD/Super CVT-i)
全長×全幅×全高(mm):4,375×1,790×1,460
エンジン:直列4気筒
総排気量:1,196cc 乗車定員:5名
車両重量:1,340kg
最高出力:85kW(116ps)/5,200~5,600rpm
最大トルク:185Nm(18.9kgm)/1,500~4,000rpm
燃費:18.0km/ℓ(JC08モード)、16.4km/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:前輪駆動

BMW X2
BMW・X2

若者向けニューフェイス登場

 X2はBMW製SUVのニューフェイス。ネーミングを見るとX1とX3の間を埋めるモデルとも解釈できるが、実際はX1のキャラクター違いで、X1と同じFFプラットフォームをベースにしている。そういう意味ではミニとの血縁関係も濃いわけだが、最大の特徴は若々しいキャラクターにある。SUVとしては薄いノーズ、ドッシリした下半身、コンパクトなルーフ、過去のBMW製クーペを連想させるCピラーのエンブレムなど、スポーティーで躍動的なイメージを前面に押し出している。最近保守的なスタイルが多かったBMWのなかでは抜群にスタイリッシュだと思う。

 BMWは「若い人に乗ってもらいたい」と言っているが、価格を考えれば現実的な購買層はもっと上になるだろう。しかし、新型クラウンもそうだが、若年層向けアピールの裏側には気持ちの若い中高年層がいる。中高年層向けのクルマと言った瞬間に中高年層にもそっぽを向かれる、というのがマーケティング界での常識である。

 試乗したのは2ℓターボの4WDモデル。オプションの20インチタイヤを履いていた。走りはじめて驚いたのは乗り心地だ。路面のザラつきをストレートに伝えてくるし、凹凸を通過したときの突き上げも大きめ。ブルブルした振動の収まりも悪い。ストレートに言えば固くて粗っぽい乗り味なのだ。その分、ステアリング操作に対するノーズの動きはシャープで、クイクイと面白いように向きを変える。しかしこれがBMWの考える若々しさの表現だとしたら、それはちょっと違うんじゃないか、と思う。そこには高性能版のMを含め上級モデルに乗ると感じる筋の通ったBMWらしさがない。表面的なクイック感ではなく、繊細でコントローラブルで、かつあらゆる路面でしなやかさを維持する懐の深いフットワークこそがBMWらしさだと思ってきた僕にとって、X2はちょっと理解に苦しむ乗り味だった。

BMW・X2

車両本体価格:4,360,000円~(税込)
*諸元値はX2 xDrive20i
全長×全幅×全高(mm):4,375×1,825×1,535
エンジン:直列4気筒DOHCガソリン
総排気量:1,998cc 乗車定員:5名
最高出力:141kW(192ps)/5,000rpm
最大トルク:280Nm(28.6kgm)/1,350~4,600rpm
燃費:14.6km/ℓ(JC08モード)
駆動方式:四輪駆動

FERRARI 488 PISTA
フェラーリ・488 ピスタ

“サーキット”の名を持つ公道車

 フェラーリ488といえば、40年前に登場した308GTB以来、高い人気を獲得し続けてきたV8ミッドシップフェラーリの最新モデルだ。その488に、イタリア語でサーキットの意をもつ「ピスタ」というサブネームが付いたモデルが加わった。3.9ℓV8ターボという基本スペックに変更はないものの、ピストン、吸排気系、ターボチャージャーなどなどあらゆるところに変更が加えられ、最高出力は670psから720psに、最大トルクは760Nmから770Nmに増大。90㎏に及ぶ軽量化とあいまって、0-100km/h加速は3秒から2.85秒に、0-200km/h加速は8.3秒から7.6秒へと短縮された。

 しかし、絶対的な動力性能以上にフェラーリのエンジニアが強くアピールしていたのが「レスポンス」だ。ターボ化された488のV8は458のV8より出力こそ上がったものの、アクセルを踏み込んだ刹那のレスポンスは退化していた。そこを徹底的に改善するのがピスタ開発の最大のテーマだったというのだ。実際、ピスタのエンジンはターボラグをほとんど感じさせない。3,000rpm以上回っていればほぼ皆無だ。自然吸気エンジン時代の、脳天まで突き抜けるような高周波サウンドはやや低音寄りになったものの、その音色はさらに刺激的になり、フェラーリでしか味わえないエンターテインメント性を強く感じさせてくれた。

 フェラーリの聖地、フィオラのテストコースで試乗したのだが、エンジン、足、ブレーキなどなど、すべてが最高レベルまで強化、熟成されていることを確認できた。安心感と緊張感の絶妙な塩梅はイマ思い出しても鳥肌がたつほど。加えてテストコース周辺の一般道では、意外なほどの快適性と乗りやすさを実感した。とてつもなく高性能でありながら、毎日でも乗れる優しささえ身につけているのが488ピスタである。なお、購入はフェラーリの上顧客のみに限定されるという。

フェラーリ・488 ピスタ

全長×全幅×全高(mm):4,605×1,975×1,206
エンジン:V8-90°ツインターボ
総排気量:3,902cc
車両重量:1,280kg
最高出力:530kW(720ps)/8,000rpm
最大トルク:770Nm/3,000rpm
最高速度:>340km/h
0-100km/h:2.85秒 0-200km/h:7.6秒
フィオラーノ・ラップタイム:1分21秒5

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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