モタスポ見聞録 vol.17 2輪と4輪は感覚と理論

文・佐野新世

今年で2輪から4輪のレースに転向して6年目になる。今はル・マン系のレーシングカーのLMP-3に乗っていて、バイクは趣味で乗る程度だ。僕は2輪のロードレースからモトクロス、モタードと経験してきた。

 当時は、二輪の練習を週1~2回は行っていたが、今は、3ヵ月に1回バイクに乗れるかどうか。バイクに乗れない期間があると体力や筋力の衰えを実感する。モトクロスバイクでコースを走ると、短時間であっても終わったら全身筋肉痛でグッタリする。ずっと腕立て伏せとスクワットをやっているのと同じだから身体に掛かる負担はすごい。4輪は2輪ほど疲れる事は無いが、横Gで首が筋肉痛になる。しかしブレーキは一気にガツンと踏むので、足は鍛えておく必要がある。

 4輪は、箱車だと夏はただ暑くて汗をかく。それで熱中症になったりする。僕自身も外気温45度のオーストラリアのレースでクールスーツと飲料水が使えなくなった時は熱中症で1ヵ月、左腕の痺れが取れなかった。それに4輪はシートベルトで体を抑えつけられるので身動きがとれなくなる。自分が車体の一部になる感じで、路面の振動、衝撃がすべて腰に伝わる。そしてその衝撃は頭に到達する。バイクだとシートベルトは無いから衝撃はないに等しい。また転倒しそうな時にバイクを捨てて怪我を回避することもできるが、4輪は固定されているので壁にぶつかるまで一緒。ぶつかった時の衝撃は重い頭と首に集中する。

 4輪に乗ってみてやっぱり難しいなと思うのは、2輪のように体重移動を使って曲げることが出来ないこと。2輪はライダーの姿勢次第で誤魔化しが効く。4輪はステアリングとブレーキ、アクセルだけしか使えず誤魔化しは効かない。

 4輪は速い走りのデータ化ができ、理論的にベストな走行というのが存在する。熱くなって理論を超えた走りをしようとするとタイムロスに繋がるのだ。2輪はライダーの感覚と腕しだいで、マシンの性能を超えた120%の走りが可能。4輪は理論で乗るもの。2輪は人間の感覚をメインで乗るもの。もちろん双方理論、感覚どちらも必要だが、その比率が違う。丁度中間に近い位置にあるのがレーシングカートだ。レーシングカートは2輪のライダーが乗っても速い。それは身体を使ってトラクションをコントロールする部分があるのと操作がバイクのようにダイレクトだからだ。今まで経験してきたカテゴリーの理論モノと感覚モノのイメージをまとめると、

4輪 箱車・GT
理論
4輪 フォーミュラー・LMP
4輪 レーシングカート  
2輪 オンロード  
2輪 スーパーモタード
2輪 オフロード・モトクロス
感覚

 理論で乗る部分が多いほど年齢の影響を受け難く、感覚で乗る要素が増すほど、身体への負担が多くなるだけでなく、瞬発力も必要になり、年齢の影響を受けやすいと思う。


Shinyo Sano

21歳から2輪ロードレースを始め、パリダカ、全日本モタード、モタードフランス選手権など国内外で活動する傍ら、スタントライダーとして映画やメーカーPVで活躍した。36歳から4輪へ転向し国内でワンメイクレースやフォーミュラ、そしてアジアン・ル・マンを経て、目標だった「ル・マンをLMPマシンで走る」を実現した。

定期購読はFujisanで