「岡崎五朗の」クルマ購入論(2)

現実的に選ぶいいクルマ

現実的に選ぶいいクルマ

そうはいっても、燃費だけでクルマを選ぶなんて面白くない。aheadの読者にはきっとそう考える人が多いだろう。もちろん、プリウスやリーフ、アウトランダーPHEVのような電動化されたエコカーを、ある種のファッションとして乗りこなすという方法論も大いにアリだ。プリウスが爆発的人気を獲得した理由のひとつに「ハリウッドセレブたちが選ぶ最先端エコカー」というイメージがあったことは否めないし、それによる効果が絶大だったことも事実だ。

しかし、こだわりをもってクルマを選ぶクルマ好きたるもの、ハリウッドセレブなんちゃらというステルスマーケティングに乗せられるのは面白くないではないか。ましてや乗ってみて面白味に欠けるのであれば、いくらエコでもすぐに飽きてしまうのがオチ。僕自身、アウトランダーPHEVはデザイン以外はとても気に入っている。バッテリーがなくなるまで(満充電でおよそ50キロ)てこでもエンジンをかけずEV状態で頑張り、いざというときにはエンジンをかけて充電しながら走るというコンセプトはとても興味を引かれるし、走ってみてもあの大きなボディがモーターで「スーッ」とスムースに走るのには感動すら覚える。しかしプリウスの薄っぺらい乗り味やリーフのおよそ先進的とは言いがたい内外装の仕上げには、クルマ好きの一人としておよそシンパシーを感じない。

このように、安くて燃費さえよければいいという視点から脱却し、クルマ好きとして眺めはじめると、カタログスペックだけではどうにも判断がつかなくなる。実際に眺め、室内に乗り込み、走り出してみなければ、そのクルマが魅力的かどうかなど絶対にわからないからだ。

そうはいっても、時代性を考えれば、大きく重いボディに巨大なエンジンを積んだクルマに乗るというのはできれば避けたいところ。クルマとしての魅力と社会性能を、どれほどのレベルで両立できているかが、現代における「いいクルマ」の条件と言っていいだろう。

そこでにわかに存在感を増してくるのがアテンザだ。ガソリンエンジンを搭載したモデルも悪くないが、4ℓエンジン並みのトルクをもつ2・2ℓターボディーゼルの出来映えは素晴らしいのひと言。早くて気持ちよくディーゼルとしては異例に静かで、かつ、丁寧に走ればリッター15キロは軽くいく。内外装の仕上げやハンドリング、乗り心地へのこだわりも本格的だ。価格は約300万円するが、10年乗るつもりなら決して高い買い物ではない。

輸入車で注目したいのはなんと言っても今年半ば頃に日本に入ってくる予定の新型ゴルフだろう。すでに海外で試乗済みだが、快適性は高級車並み。新たに気筒休止機構を搭載した1・4ℓ4気筒ターボエンジンは、実用域での頼もしいトルクと、回していったときの胸のすくような加速感、4気筒としてはトップレベルのスムースな回転フィールを味わわせてくれる。車体関係では、大幅な軽量化を実施しているにもかかわらず、外部騒音、タイヤノイズ、エンジンノイズといった各種騒音の封じ込めは完璧。ワインディングロードやコーナーでの安心感も絶大だ。それでいて燃費も理想的な状況ならリッター20キロに達する。

「性能や快適性を削って燃費を良くするのは本当の技術ではない。走り味と燃費の両立を狙うことこそ本当の技術だ」というゴルフの開発担当者の言葉には心底共感させられた。まさにその通りだと個人的には思う。

もちろん、燃費重視の固くて乗り心地が悪くて雨の日に滑りやすいタイヤを履いたり、軽量化のために遮音材を省いたり足回りを華奢につくったり…そんな方法で1%でも燃費を良くするのも社会的正義ではある。しかしそれは燃費追求という狭い意味での正義に過ぎず、一人のクルマ好きにとっては必ずしも歓迎すべきことではない。

社会的正義と個人的指向にどう折り合いを付けるのか。そのジレンマに正々堂々と向き合い、持てる技術を総動員し、模範解答を示してみせたのがアテンザとゴルフだ。両車のエンジニアと話していて感じるのは、クルマである以上、移動空間としての質は絶対に捨てられないという信念。そしてそれが、乗る者に熱く語りかけてくるのである。

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