特集 クルマとバイクの世代論

写真・長谷川徹

 「クルマ」や「バイク」と一言で言うが、世代によってその捉え方はまったく異なる。品格ある絶対的存在としてクルマがあった時代、自らの成功を証しするものとしてクルマやバイクに憧れを抱いた世代、そしてクルマやバイクが単にひとつのツールとなった世代。

 世代によってクルマ観はさまざま。それでも、とにかく私たちの人生はこれからもクルマやバイクと共にあるのだ。

対談 真ん中の世代に思うこと
プロト総研 宗平光弘 VS ahead神尾 成

 クルマ情報誌「グー」や、クルマポータルサイト「グーネット」を運営するプロトコーポレーションの常務である宗平光弘氏と、前編集長の神尾は、クルマやバイクと共に成長してきた世代だという。その「真ん中」とも呼べる世代のこれからについて2人は語り合った。

ーー 前々号の特集内の記事、「リッターバイクの先にある125cc」(※下記のQRコード)は大変、反響が大きかったのですが、宗平さんも「あの記事にはやられた」っておっしゃっていましたよね?

宗平 はい。あの中で語られていたのは、今僕が考えていることそのものでした。

ーー 今バイクの世界を支えている中心は50代中盤を迎えている。そこには年齢的な悩みがあるわけです。それに真正面から向き合ったことが読者の共感を得たのではないかと思います。二輪専門誌ではなかなか触れ難いことですから。

宗平 おっしゃる通りだと思いますね。僕もクルマよりも先にバイクに乗った世代ですから。


ahead vol.182(2018年1月号)
「リッターバイクの先にある125cc」が無料で読めます。

ーー あの記事を書いた前編集長の神尾は1964年生まれの53歳、宗平さんは1967年生まれで今年51歳になる。ほぼ同世代ですね。

宗平 はい。僕らの若い頃はクルマやバイクが有ることが前提でした。週末は洗車! ピクニック的なノリで彼女と洗車してました。

神尾 当時の女の子は、付き合っている人の乗っているクルマにもっと興味を持っていましたよね。彼にはソアラに乗ってほしいとか、私はビーエムがいいとか言ってましたから。また、六本木や某大学の前なんかは、クルマによって序列があったと聞きました。お店の入り口や正門に近いほど高級なクルマが停まっていると。

宗平 そうですそうです。僕が通った神戸の大学では、有名な会社の息子がテスタサロッサを停めていて、負けたくないけど絶対、逆立ちしても無理。それで探したのがフルオープン、ハーフメタルトップのジムニーだったんですよ。全部、幌を取っ払ってテスタロッサの後ろにピタッと停めると、こっちの方が目立つ。アイデアの勝利だ、みたいなね。

神尾 当時、女の子は自分のパートナーが乗っているクルマによって、自分のヒエラルキーが上がって行くことを知っていたんです。クルマはその象徴というかクラスを分ける要素が大きかったですから。今はイイクルマに乗っていてもモテる訳じゃない。よく言えば本質主義の時代になったのではないでしょうか。

宗平 僕は最近、今の若い人たちの方がすごいなと思うことがあるんです。例えばスポーツの世界。日本の国としての環境が整ったというのもあるかもしれませんが、グローバルで目立つ人、活躍する人が多いですよね。ファッションだって同じで、僕らの頃はアルマーニのジーンズを3万円で買って、みんなブーツの中に裾を入れてアルマーニを目立たせていた。アルマーニの傘の下に入って生きるというか、それで安心していた。でも今の人はそうではなくて、ジャンルはあるにせよ、もっと自由です。しかもお金に頼るのではなくて、千円二千円の洋服でもそれをオシャレに着こなしている。音楽だってそうです。「このバンドのこの曲を聴かなきゃ」っていうのはなくて、ストリーミングで自分の音楽を楽しんでいる。「自分ブランド」の中で自分の価値観をクリエイトしている、そう感じますね。

神尾 だからクルマだけの魅力を語っても、彼らには希薄に感じるのかもしれません。また彼らはクルマやバイクも、洋服や携帯のように、あくまでも物のひとつとしてフラットに捉えています。クルマの価値が下がったというより、変わったんです。

宗平 変わりましたねぇ。

神尾 僕は時々散歩がてら秋葉原へ行くんですよ。国際色が豊かでいろんな国の人がいるし、そこに来ている日本人の世代も幅広い。そして場所柄、痛車もよく見かけます。その痛車が最近は進化しているように見えるんです。以前はボディやウインドウにキャラクターをラッピングしてあるだけでしたけど、今はエアロやホイールまでコーディネートして、物語の一部のシーンを再現するなど、メッセージ性が強まっている。次の段階に入ったなと。それを携帯で撮っている人たちは、若い女の子や外国の人も含めて痛車をひとつの作品として見ているように思います。シンパシーを感じて自分のセンスにヒットすると、その作者を自然とリスペクトしてるんですよ。問題は、自分たちのような旧来のクルマ好きが痛車を否定的に見ていることで、それが自分たち自身をどんどん孤立させている。自覚がないまま、頑固ジジイになっているんです。

宗平 いやぁその通りだと思います。クルマはこの先、どんどん「ひとつのアイテム」になっていきます。メディアは例えば「レクサスすごいぜ」っていうのを発信して、ブランド価値を伝えるのも役割ですけど、それが若い人への押し付けになるんじゃなくて、彼らがひとつのアイテムとしてクルマをチョイスするときのツールにならなくてはいけない。洋服買うときだって、店員がへばりついて勧められたら嫌じゃないですか。そうじゃなくて、「ここには全て揃っていますよ。どうぞ自由に手にとって見てください」 そんな世界観を発信側が作っていけば、若い人は来やすくなると思いますね。 

ーー お二人とも若い人たちの価値観を認めながらも、実は自分自身では、若い頃に培った普遍的な価値との間で迷っていらっしゃる、そんな印象も受けます。

神尾 そもそもいつの時代も40代や50代は新しい価値観と古い価値観の狭間にいると思うんです。だから今の50代は昔憧れたバイクに乗ってみたり、新しいクルマを買ったりする。ただ変化したのは、今の若い世代も同じことをしているという点です。インターネットのせいか、彼らはいきなり50年前のハーレーに乗っちゃったり、洋服感覚で旧いクルマを買ったりする。そういうのは以前はなかった。僕らは旧い新しいで悩むけど、彼らにはそういう意識がない。ノンヒエラルキーでボーダーレスなんです。

宗平 だから僕も発信側としては全てのマトリックスを提示したいと頑張っているんです。そこに境界線を作りたくない。

ーー でもバイク雑誌やクルマ雑誌はそこを分けたがりますよね。

神尾 これまではそれでよかったからです。今はまだ音楽が、邦楽と洋楽だけに切り分けられていた時代と同じなんですよ。J-POPという言葉が生まれてきたように、誰かがタイトルを付ければ、今後はもっと細分化していくし、時代に合った変化をするでしょう。だから宗平さんが悩まれている旧いメルセデスに乗り続けるか、新しいクルマを買うべきかも、少し先の未来から見れば普通のことで、本当はどちらでもいいんです。

宗平 そうです。どっちでもいいんです。どっちも楽しいんです。

■W124か、993か

宗平 僕はねこのW124にするか、ポルシェ(993)にするか最後の最後まで二者択一で迷いました。いまでも993は欲しいんですよ。どっちのクルマも、今のクルマとはプロダクツとしてやっぱり全然違うんです。メルセデスもポルシェもこの時代までは身の詰まり方っていうかね、鉄の塊感だったりソリッド感だったり。腕時計もただ時間を知るだけじゃなくて、持つ喜びがあるわけで、それと同じような感覚があるんです。

神尾 その中でW124で行くか、993にするかはその人のそれまでの生き方や、想い描く理想のスタイルで決まるものでしょう。道具としてではなく、趣味で選ぶクルマは、性能の面も含めてファッションなんです。根本的には洋服や時計と同じで、どういう自分でありたいかが選択する基準になる。ポルシェはスポーティで若々しく、W124はもう少しジェントルで大人っぽい。

宗平 昔のゼッツー。あれをピカピカにして乗ってる人は洋服+もう少し何かを求めてる人。僕が乗ってたFX。あれはもう少しイケイケかな。もっとも当時はなんでも乗ってみたいという感覚だったので、今とは違いますけど。

メルセデス・ベンツ W124・E500(1985~1995)

神尾 クラシックハーレーを買う人より、Zやカタナに乗る人の方が、もう少しファッションだけではない哲学めいたものを求めていると思いますね。クルマでいうとそれが993かな。W124の方が少しハーレーに近いかもしれません。宗平さんの立ち位置としては、自分はそこまでコアじゃなくて、ハマりきらない状態でいたいからメルセデスだったのでは?

宗平 あー、痛いところ突かれますねぇ。最後、どうしてW124に決めたかというと、例えばポルシェで友人の結婚式に行ったりすると、「調子に乗って」って思われたりね。メルセデスだとそこまで目立たないんです。でもホテルのフロントでもカッコはつくし、絵にもなる。

神尾 ちょっと旧いメルセデスに乗ってるっていうのは、洒落者ですよね。適度に冷めてる感じもある。だけどW124は名車だと分かる人には分かる、そういうクルマですから。

宗平 あーー、また痛いところ突かれてる。僕は結局、究極の照れ屋なんです。女の子を目の前にすると口説けないタイプ。だから行きたいんだけど、993に行けないんですよ。993に行ける人が羨ましくもある。

神尾 思うんですけど、クルマやバイク以外でも物を選ぶのに何かと理由をつけたがるのが60年代生まれで、70年代以降生まれの人たちは、そこまで悩んでないんじゃないかなって。免許を取った時には名車が出揃っていた世代だし、ネットの普及もあって、もう少し楽にチョイスしているように見えるんです。うちの若林(1971年生まれ)にしても「買っちゃえばいいじゃん」と、葛藤がない

宗平 分かるわかる、分かります。みんなぼんぼん行っちゃいますね。僕、今、告白しますけど、これまで旧いクルマも新しいクルマも含めてナビが付いているクルマに乗ったことがないんですよ。

神尾 そういうこだわりがあるのはよく分かります。それが自分の貫いて来たスタイルですから。若林が言うところの〝ぐじぐじ〟してる世代なんですよ。それに名車が出てくるのと同じ歩みで自分たちは成長して来ている。だから当時の中古車価格を知っているのでプレミアム価格についての抵抗感が強い。でも買うものにストーリーがなければ嫌だし、大人として余裕がないとダメだし、現役感もほしい、とワガママだからどんどん選択肢が狭まっていく。

宗平 でも僕は最新のクルマも好きですよ。XC60も欲しいし、でもX3の方がハード的には優秀だしな、でもここにW124あるしな、っていつも悩んでる。ユーザーの気持ちとまったく同じ。だから、僕は常にサイトを見ることができて、いろんな検索機能を考えることができるんだとも思っています。

神尾 旧いのを買うか新しいものを愛するか、いつも悩んでる。でも〝ぐじぐじ〟しているからいつまでも好きでいられる。その時間こそが趣味なんです。

■これからのメディア

神尾 宗平さんは、「クルマは今でも時代を象徴するプロダクツに違いなく、昔のクラフトマンシップと呼ばれたものが現在ではAIやIoTなどの先進テクノロジーに変化しているだけで、作り手側の情熱やロマンは同等以上に感じる」とおっしゃっていますよね。

宗平 はい。メーカーの試乗会やイベントに呼んでいただいて、じかに技術者や開発者の方とお話をし、その苦労話とか開発のドラマを聞いていると、「すごいな、この人たち」っていつも思います。昔は馬力戦争でそっちが250馬力なら、こっちは280馬力、っていう分かりやすいものだったけど、今はもう少し別のところでメーカーは迷いつつも切磋琢磨していると感じますね。

神尾 現代の方がユーザーの求めるものが多様化しているので、何かと大変でしょうね。

宗平 はい。だから、技術者の方が習得する技術も試行錯誤も昔以上なんだと思うんです。

ポルシェ911 Type 993(1993~1997)

神尾 一般的には「今はクラフトマンシップがなくなった」と言われるけど、今の技術者の方が莫大な情報や複雑なシステムの中で、見えない敵と戦っているのかもしれません。AIやIoTも現代のクラフトマンシップなんだと認めないと新しいクルマの存在価値が見えてこない。否定ではなく、受け入れて行くことの大切さ。これが自分たち50代の課題でしょうね。

宗平 僕は持ち上げるわけじゃないですけどaheadにはそれが詰まっていると思いますよ。それに僕は共鳴しているんです。

神尾 冒頭の話に戻りますが、バイクは現役で乗り続けるのが当然というスタンスだと、もう大半の人は息が続かなくなって来てるわけですよ。そうじゃない方法をどうしたら見つけられるのか、自分たちはそのヒントを探さないといけない。僕は、繊細で微妙な心の動きをリアルに表現することが次のステージへ繋がっていくと信じているんです。

宗平 僕は姫路の片田舎で生まれて、神戸の大学を出て。若い頃に読んだクルマ雑誌は「神」だったんです。そこに全然違うルートから来て、今、「グーネット」や「プロト総研」という形で参加させてもらっている。すごく幸せだと思っています。寝食忘れて好きだったクルマやバイクの世界で仕事をするなんてあり得ない。だから何か返さなきゃって思いが強いんです。

神尾 社会に還元していく年代だし、そういう気持ちがないと生まれてこないものがありますね。

宗平 僕は本当は使命感を持ってW124に乗ってるところがあるんです。あれやめちゃったらダメというか、あれがあるから言えることがある、みたいなね。

神尾 「自分に課すものがあるからそこにいられる」それは発信していく側の人間にとって必要なことかもしれません。

まとめ・若林葉子

Mitsuhiro Munehira
1967年生まれ。姫路市出身。クルマ情報誌「グー」、クルマ・ポータルサイト「グーネット」を運営する株式会社プロトコーポレーション常務取締役。ITソリューション部門担当。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員。「PROTO総研/カーライフ」の所長を務める。(「PROTO総研」は、「グーネット」で長年に渡り蓄積してきた自動車に関する膨大なデータを、社会・生活者が必要とする話題にわかりやすく再編集・発信している。)
Sei Kamio
1964年生まれ。横浜市出身。新聞社のプレスライダー、大型バイク用品店の開発、アフターバイクパーツの企画開発、カスタムバイクのセットアップ等に携わり、2010年3月号から2017年1月号に渡りahead編集長を務めた。現在もプランナーとしてaheadと関わっている。

「特集 「クルマとバイクの世代論」の続きは本誌で

対談 真ん中の世代に思うこと
プロト総研 宗平光弘 VS ahead神尾 成

自動車人の生きた時代  今尾直樹
バイク乗りはなぜハマショーを聴くのか  山下 剛
僕にとっての最後の恋人  山田弘樹


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