岡崎五朗のクルマでいきたい vol.104 あおり運転に巻き込まれない

文・岡崎五朗

 相次ぐ重大事故の発生を受け、警察庁があおり運転対策に乗り出した。実は過去にも同様の措置は講じられていて、’09年には高速道路での車間距離保持義務違反の罰則が強化された。

 しかし事態が改善されない状況を受け、今回はさらに厳しい措置となった。具体的には、たとえ事故に至らなくても、悪質なあおり運転をしたドライバーを免停にするよう、全国の警察に指示を出したのだ。法的根拠となるのは、道交法にある「クルマを運転することで危険を生じさせる可能性のある者を免許停止にできる」という項目。従来は飲酒や覚醒剤使用といったケースに適用されていたが、それをあおり運転にも適応する。

 警察官がこの通達を濫用しない限り、基本的には大いに賛成だ。僕はあおられた経験はほとんどないが、他者があおられているシーンは何度か見かけているし、実際に悲惨な事故も起きている。厳しい取り締まりが事故を未然に防ぐことを切に願う。とはいえ、警察が常に近くにいてくれるわけではない以上、自分で自分の身を守ることも必要だ。僕の経験上、あおり運転防止にもっとも有効なのは、意味もなく車間をつめてくるようなドライバーに遭遇したらさっさと道を譲って先に行かせてしまうこと。制限速度を守らない方がいけないんだ、などと意地になって張り合うのは愚の骨頂である。片側一車線の道路だったら自車を左に寄せて「お先にどうぞ」がスマートなやり方である。

 高速道路でも同じだ。追い越し車線をマイペースでノロノロと走っている人をよく見かける。後方に長蛇の列ができてもわれ関せず。本人は安全運転をしているつもりなのだろうが、交通の流れを完全に無視したその超然とした態度には、ゆっくり走ってなにが悪い? といった開き直りすら感じる(実際はこうした運転も通行帯違反になる)。こんな状態が長く続くと、最初は我慢していた後続車のドライバーも次第にイライラを募らせ、なかには車間距離を極端につめてくる人も出てくるだろう。当然事故のリスクは高まる。あおられることが多いと感じているなら、後続車のドライバーをイライラさせていないか、自分の運転を一度見直してみることをおすすめしたい。


VOLKSWAGEN e-GOLF
フォルクスワーゲン・e-Golf

EVでも際立つゴルフの素性

 かつてない勢いで電動化に突き進んでいるVW。今後グループを挙げ様々なEVを積極的に投入し、2015年には100万台のEVを販売すると息巻いている。おそらくこの数字に嘘はないのだろう。上記100万台のうちの75%を占めると予想される中国がEVシフトの梯子さえ外さなければ、達成してくる可能性は高い。しかしマーケットは中国以外にもあるわけで、当然ながら彼らとて内燃機関を諦めたわけではない。小型ディーゼルこそフェードアウト方向だが、ガソリンエンジンを含め、内燃機関への研究開発投資もしっかり行っている。なかでもディーゼルエンジンとバイオマス燃料の組み合わせでカーボンフリーの実現を狙う研究は注目に値する。

 話を戻そう。eゴルフは、ゴルフからエンジンを取り去り、容量35.8kwhのバッテリーと、出力100kw(136ps)/290Nmのモーターを組み込んだピュアEVである。EVに全力で取り組む姿勢を見せているVWの「最初の一歩」となるモデルではあるものの、スペックを見る限り、さしたる驚きはない。航続距離は301km(JC08モード)と、1割ほど大きなバッテリーと100㎏軽いウェイトをもつリーフの400kmに及ばないし、外観も、見慣れたゴルフそのもの。それでいて価格は約100万円高いのだから、表面だけで判断すれば勝負ありである。

 しかし、走り出すと印象はガラリと変わる。静粛性は圧倒的だし、乗り心地やハンドリング、高速直進性も素晴らしい。ゴルフがもともと持っていたアドバンテージが、EV化によってさらに浮き彫りになった格好だ。こうなると航続距離や価格差なんて気にならなくなる、といったら嘘になるけれど、EVになっても依然としてボディや足回りの出来映えが商品力に大きな影響を与えることを確認できたという意味で、eゴルフの試乗はとてもいい経験になった。

フォルクスワーゲン・e-Golf

車両本体価格:4,990,000円~(税込)
全長×全幅×全高(mm):4,265×1,800×1,480
乗車定員:5名
車両重量:1,590kg
最高出力:100kW(136ps)/3,300~11,750rpm
最大トルク:290Nm(29.5kgm)/0~3,300rpm
一充電走行距離(JC08モード):301km

SUZUKI SPACIA
スズキ・スペーシア

デザインと贅沢な装備で勝負

 軽自動車の売れ筋と言えばスーパーハイト系。車高をグンと引き上げ、スクエアなフォルムを与えることで得た圧倒的な室内スペースが人気の理由だ。家族4人がゆったり座れるだけでなく、雨が降っても家族を駅まで迎えにいって自転車ごと積み込めたり、子供が立ったまま着替えができたり。それでいて細い道や狭い駐車場でラクに扱えるし、維持費も安い。他の軽よりも価格はちょっと高めだが、こんなクルマが一家に1台あったらさぞかし便利だろうなと思える要素がてんこ盛りなのである。

 なかでも高い人気を誇るのがホンダN-BOXとダイハツ・タントの2台。それに対し先代スペーシアは販売面で苦労した。燃費や広さではライバルたちに負けていなかったものの、後発の不利を覆すだけの個性をアピールできなかった、というのがスズキの分析。とはいえ広さ競争は、もはや限界に達しつつある。そこで新型では、デザイン面で新味を与えることに最大限の努力を払ってきた。前後両端のピラーをブラックアウトすることで 〝箱感〟を減らすとともに、乗員スペースのガッチリ感を演出したり、ボディ各部にグラフィカルな凹面を付けたりと、そのデザインはなかなかユニークだ。室内に目を転じても、助手席グローブボックスにリモワのスーツケースを連想させるデザイン処理を施すなど、お洒落な道具感を巧みに演出している。

 装備面では、フロントウィンドウに投射するタイプの本格的カラーヘッドアップディスプレイに度肝を抜かれた。表示の大きさにしても、輝度にしても、表示の種類にしても、本当にこれが軽の装備? と思えるほどの贅沢ぶりであり、当然ながら視認性にも大きく貢献している。一方、残念だったのは乗り心地。新型N-BOXが大幅な進化を果たしてきただけに、荒れた路面でのゴツゴツ感は要改善と指摘しておきたい。そこが解決されれば十分にトップを狙える存在だ。

スズキ・スペーシア

車両本体価格:1,468,800円(HYBRID X/2WD・CVT、税込)
全長×全幅×全高(mm):3,395×1,475×1,785
エンジン:水冷4サイクル直列3気筒
総排気量:658cc 乗車定員:4名
車両重量:870kg
【エンジン】最高出力:38kW(52ps)/6,500rpm
最大トルク:60Nm(6.1kgm)/4,000rpm
【モーター】最高出力:2.3kW(3.1ps)/1,000rpm
最大トルク:50Nm(5.1kgm)/100rpm
JC08モード燃費:28.2km/ℓ 駆動方式:前輪駆動

RENAULT TWINGO GT
ルノー・トゥインゴ GT

街中でスポーツ感を味わえる

 ルノーの小型車トゥインゴ。RR(リアエンジン・リアドライブ)レイアウトや、小粋なスタイリング、171万円~という価格設定には大いに心惹かれてはいたものの、どこか決め手に欠けるなぁと感じていた最大の理由はドライブフィールにあった。どこかに大きな欠点があるわけじゃない。けれど、この種のコンパクトカーに僕が求めるのは、運転していて頬が緩む瞬間を提供してくれること。そういう観点でいくと、エンジンにしてもハンドリングにしても、及第点には達しているものの、掛け値なしの楽しさや気持ちよさを味わえるところまでには至っていなかった。

 そんななか追加されたGTは、標準モデルと同じ0.9ℓ3気筒ターボを搭載するものの、ターボの過給圧アップなどによって出力を90‌psから109psに、トルクを135Nmから170Nmに強化。さらに足回りにもルノースポールの手が入っている。

 走りだした直後から、標準モデルとの違いをはっきりと体感できた。パワーアップはもちろんだが、それ以上に印象深かったのが乗り味の変化だ。突っ張った固さがあまり心地よくなかった標準モデルに対し、GTは固めではあるものの、足がスムーズに動く。より上質なダンパーを奢っているのだろう。スポーティになったと同時に、ワンランク上の上質さも手に入れたということだ。フランス車らしいソフトなタッチは相変わらず感じられないものの、この足とパワーアップしたエンジンは、街中でもスポーツをしているようなドライブフィールを提供してくれる。わざわざワインディングロードに行かなくても、近所のなにげない四つ角を曲がる度に、あるいはアクセルを深く踏み込む度に、運転している実感を強く味わわせてくれるのだ。

 5速MTも楽しいが、6速デュアルクラッチ式トランスミッションの出来映えも上々。MTは足元の狭さがちょっと気になることもあり、僕ならデュアルクラッチを選ぶ。

ルノー・トゥインゴ GT

車両本体価格:2,390,000円(EDC、税込)
全長×全幅×全高(mm):3,630×1,660×1,545
エンジン:ターボチャージャー付
直列3気筒DOHC12バルブ
総排気量:897cc
乗車定員:4名 車両重量:1,040kg
最高出力:80kW(109ps)/5,750rpm
最大トルク:170Nm(17.3kgm)/2,000rpm
駆動方式:RR

JAGUAR F-TYPE
ジャガー・F-TYPE

血統受け継ぐ2ℓモデル登場

 イギリスの名門、ジャガーが誇る本格的スポーツカー、Fタイプ。名車Eタイプの後継モデルであることを強く印象づけるネーミングもさることながら、Fタイプ最大の魅力は魅惑的なルックスにある。ロングノーズ、ショートデッキという古典的スポーツカーのドレスコードをきっちり保ちつつ、モダンに仕上げたその姿は理屈抜きにカッコいい。あえて説明を加えるなら、シャープでありながら肉感的、シンプルでありながら味わい深い、スポーティーでありながらエレガント、などなど、相反する要素をことごとく両立させているのが僕のお気に入りのポイントだ。

 走りの面でもFタイプは生粋のスポーツカーであることを強く主張する。なかでも5ℓV8スーパーチャージャーエンジンの狂気の如き速さは特筆に値する。その下の3ℓV6ターボも相当速い。そこに新たに2ℓ直4ターボを搭載するグレードが加わったわけだが、まず注目したいのが価格。3ℓV6ターボより約400万円、5ℓV8スーパーチャージャーより約600万円も安いのだ。

 とはいえスポーツカーである以上、走りも気になるところ。結論から言って、2ℓ直4ターボでも十分にスポーツドライビングを楽しめる。もちろん、フル加速時の迫力という意味ではV8/V6にも及ばないものの、回転フィールは気持ちいいし、平坦路であればアクセルのひと踏みで周囲の交通を置き去りにしてみせる。事実、0-100km/h加速は5.7秒、トップスピード250km/hに達するのだから、よほどのスピード狂でない限り不満を覚えるはずがない。

 エンジンの小型化は軽い鼻先による軽快なフットワークという副産物も踏み出した。さすがにボルシェ・ケイマン/ボクスターのような超絶ハンドリングマシンとは呼べないものの、V6/V8では味わえない掌に収まる走行フィールを好む人も多いだろう。そう、こいつは決して単なる安物ではない。

ジャガー・F-TYPE

車両本体価格:7,940,000円(税込)
(COUPÉ 2.0リッター 4気筒300PSターボチャージドガソリンエンジン)
全長×全幅×全高(mm):4,480×1,925×1,315
エンジン:2.0リッター 4気筒300PSターボチャージドガソリンエンジン
総排気量:1,995cc 車両重量:1,660kg
最高出力:221kW(300ps)/5,500rpm
最大トルク:400Nm/2,000rpm
最高速度:250km/h
JC08モード燃費:12.2km/ℓ
駆動方式:後輪駆動

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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