リッターバイクの先にある125cc

文・神尾 成 / 写真・長谷川徹

 思い込みを捨ててみる。これまでのやり方を変えてみる。それがここ最近のaheadの大きなテーマである。

 そうすることでクルマやバイクの魅力を再発見できると信じているからだ。

ふんだんにお金を掛けなくても、若い頃のような体力がなくても、自分の目をちょっといつもとは違う方向に向けてみるともう一度”ハマる”ことは、きっとできるはず。

リッターバイクの先にある125cc

 私ごとで恐縮だが、昨年の4月に7年間乗り続けて来たバイクの車検を切った。はっきりした理由があったわけではなく、バイクを少し休憩してみたくなったというのが本音だ。ナンバープレートは返納してないが、今のところ車検を通す気はない。16歳の春に原付免許を取得して以来、自由に乗り出せるバイクがなくなったのは初めてのことだった。

 振り返ると初期型のタクトにはじまり、CB50、DAXときて、GSX400EやRZなど中型車にステップアップ。限定解除を果たしてからは、オフロード車を除くと大型車ばかりを乗り継いだ。中でも10代の頃に憧れて9年越しで手に入れたGS1100EZは、一生乗り続けるつもりだったので家中にスペアパーツのストックがあふれた。今はその責を友人に委ねたが、代わりにSRXがオブジェと化してリビングに鎮座している。

 少し古い話になるが、夏になるとキャンプ道具を満載にして毎年のように北海道を目指し、サーキット通いを始めてからも公道用のバイクの車検を継続しないなど考えられなかった。ところがここ数年は、仕事以外でバイクに乗ることがめっきり減ってしまっていたのだ。気付くとサーキットライセンスも更新しないまま4年近くが経っている。プライベートで全く走らなくなった訳ではないが、週に1、2度、いつものコースをいつものように周遊する以外に自分の車両で出かけることは皆無に等しく、バイクとの付き合い方が行き詰まっていたように思う。

 そんな折、ひょんなことからホンダ・グロムを自由に乗れる状況が訪れた。当初は125㏄という排気量や小柄さから、オモチャにしか見えずスルーしていたが、気まぐれで乗り回しているうちに面白さを発見して、最近はグロムにハマっている。交差点を曲がるだけでも寝かせている時間が長い分、コーナリングの醍醐味があり、非力さを補うためにアタマを使うので、日常的にスポーツする充実感が得られるのだ。それに小型車ゆえの機動力の高さから、思い立ってすぐに出掛けられるのも大きな魅力。ふらっと行ける場所やコースが徐々に増えつつある。さらに、いざとなれば押して歩くことも容易だし、大きなバイクほど人さまを威嚇しないので、どこへでも入り込めて散策気分が味わえるのは意外な収穫だった。また、マンションの駐輪場に車体カバーで保管していることが新鮮でもある。いつの間にかバイクを大切にするあまり、自宅から離れた場所であっても屋内保管することが当たり前になっていたからだ。

 思えば今年の春でバイクと関わり始めて37年になる。自分でも驚くが、あとどれくらいバイクに乗っていられるのかを、そろそろ真剣に考えることが必要な年齢になっていた。4年前にこの感覚を想像することは難しかったが、50代に入って体力や気力に少し自信がなくなったことで現実を受け入れたのだろう。だから今、グロムに乗ることで生まれるひとつひとつが、懐かしくもあり、愛しくも感じられるのだ。

 これは釣りの世界の話だが、「フナに始まりフナに終わる」という格言がある。諸説あるが、子供の頃に近くの池でフナから釣りを始め、成長すると川や海に出て大物を狙うようになる。しかし最後は素朴だが奥の深いフナ釣りに戻ってくるという意味だ。釣り人の生涯を表したこの言葉が実感として分かりはじめてきた。

ホンダ グロム
車両本体価格:351,000円(税込)
総排気量:124cc
最高出力:7.2kW(9.8ps)/7,000rpm
最大トルク:11Nm(1.1kgm)/5,250rpm
(写真の車両はマフラーやミラーが変更されています)

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