街のバイク屋がなくなる日 vol.3 世界に向けてバイク愛を叫ぶ

文・山下 剛 写真・長谷川徹

 今年1月、アメリカで開催された家電見本市「CES2017」で、本田技研工業は自立する二輪車「ホンダライディングアシスト」を公表した。

 ユニカブなどで培ってきた技術を応用したもので、自立した状態で停止から走行までをこなす。無人状態のまま人間の後を追うように走るバイクの映像は、世界中に大きな衝撃を与えた。まさに革命的な二輪車だ。

 BMWは昨年10月、創業100周年事業の一環として「BMWビジョンネクスト100」を発表した。100年後のバイクを模索したコンセプトイメージながら、完全自動運転を実現する自立走行二輪車だ。コンピューター制御に↖︎より絶対に転倒することはなく、乗り手の操作や判断ミスによってコースアウトすることが予測されると、コンピューターが介入して事故を未然に防ぐ仕組みだという。そのため乗り手はヘルメットはおろか、プロテクターの類をいっさい必要としない。

 ホンダとBMW。日本とドイツの巨大メーカーに共通しているのは、いずれも二輪生産からスタートして四輪で成功したメーカーであり、二輪車の開発と生産に矜持を持ち、企業の威信としている点だ。だからこそホンダもBMWも、二輪車の安全性について、他のメーカーよりも先駆けて技術を研究開発し、市場に投入してきた。この二社が世界のバイクシーンを牽引してきたといって過言ではない。その二大巨頭が相次いで「人間は不要」と言わんばかりの二輪車を発表した。この事実を、バイク愛好者はどう受け止めればいいのか。

 トラコンであれABSであれ、それが登場したときには「バイクには不要」という反論があったが、それが詭弁にすらならなかったことは現在の市販車を見れば明らかだ。人間は間違いを犯す。しかし機械は常に正確な判断を下す。フェイルセーフという思想と哲学は、バイクの進化の過程においてそれが正しいことを証明してきた。だが、その究極のかたちが、人間不要の自立自動運転二輪車なのだろうか。

 本田技研工業・取締役執行役員であり、二輪事業本部長の青山真二氏は、昨年12月に発行された「ホンダバイクス2017」(エイ出版社)のインタビューで、「人工知能や自動運転の進化と実用化は避けられないが、自立運転を実現したとして果たしてそのようなバイクに乗って楽しいのか」という趣旨の発言をしている。青山氏の発言も、トラコンやABSのときのような戯言なのだろうか。

 そうした今、あるバイク店経営者は「これまでは10年後のバイク業界がどうなっているかを予測することは簡単だったし、現実はほぼそのとおりになってきた。でも今から10年後がどうなっているかは予測できない。わからない」と話す。一部メーカーの販売店網再編によって廃業したり経営方針の転換を余儀なくされるショップが出てくるだろう。クルマ同様に新車を買うならメーカー系ディーラーへ行き、整備や車検も任せる。とくにライトユーザーではそうした傾向が高まり、趣味性を求めるヘビーユーザーは独立系チューニングショップを頼る。その図式はますます強まる。

 先の経営者はこう続ける。

 「それでも悲観はしていない。数を売る時代ではなくなり、店としての色をどう作るかになったのだから、むしろ楽観している」

 そして青山氏は、先のインタビューでこんなことも話している。

 「モノよりコトというが、それはいいモノがあって成り立つ話。だからこれからもいいモノを作ることに妥協はしない」

 モノとコト。それらが良ければヒトはモノを求め、コトに集まってくる。しかしそもそも、そのヒトが減っているのである。今、メーカーや販売店がバイクの楽しさや利便性を訴えるべき相手は、バイクに乗っていない人々である。メーカーが広告を出稿すべきは二輪誌ではなく一般誌だ。ホンダやスズキやBMWは、ゴールデンタイムのテレビで流すクルマのCM5本のうち1本でもいいからバイクのCMを放送すべきだ。

 10年以上前になるが、私が当時在籍していた二輪誌編集部で「子供をバイクに乗せているか」という読者アンケートをとったことがある。そのなかで多数を占めたのは「勧めないが、乗りたいといったら反対しない」という実に消極的な回答だった。自己責任で乗るものだから親が勧めたり、ましてや無理強いするものではない、危険はつきものだし自分も友人を事故で亡くして悲しい思いや嫌な経験をしたから同じ轍を踏ませたくない、何より子供を事故で死なせるリスクを負いたくない、というのがその理由だ。

 もちろん心情はわかる。しかしそうした危険や悲哀があってもなおバイクに乗り続けている愛好者が、自分の子供にすらそのおもしろさを伝えないのなら、バイク愛好者は減りこそすれ増えることはない。これは相手が子供に限らず、知人や友人でも同じだ。バイク愛好者は自らの世界に高い壁を建てて隔絶している。

 現在、バイク愛好者の中心年齢層は40代中盤から50代である。10年後、それがそのままスライドしているなら、メーカーは縮小し、販売店は激減する。私たちユーザーは閉じた世界で不便を強いられる。

 しかし私たちがヒトを集めれば、未来予測を変えることができる。クチコミの威力は宣伝や広告より絶大だ。メーカーと販売店だけに任せてはいられない。平均年齢を若返らせることが理想だが、せめて今と同水準に留めることができるなら、バイクを取り囲む未来は明るくなる。

 「バイクは楽しい!」

 私たちは世界に向けて大声で歓喜すべきなのだ。壁を壊し、叫ぶときなのだ。


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