岡崎五朗のクルマでいきたい vol.92 クレーマーのいない環境

文・岡崎五朗

 僕が出演しているテレビ神奈川の自動車番組「クルマでいこう!」には、紹介するクルマの○と×をボードに書くコーナーがある。

 ごくたまに「×なし」というたいそうよくできたクルマもあるが、そういうケースは年に一度あるかないかで、たいていは×が付く。たとえば最近とりあげたトヨタ「C-HR」では、×として「退屈なパワートレーン」と書いた。そういえば以前、ヴィッツのマイナーチェンジでは○を「まっすぐ走るようになった」としたが、これは○でもあるが、同時にマイナー前はマトモにまっすぐ走らなかったという皮肉でもあった。

 番組はクルマの概要紹介や試乗インプレッション、開発者インタビューなどで構成しているが、僕としては○×コーナーこそが番組の“キモ”だと思っている。なにも×を付けることに快感を覚えてるわけじゃない。どんなクルマにも長所と短所があり、両方を知ったうえで買うのが健全な購買行動だと思っているからだ。そういう意味では、テレビだけではなくこの連載で書いている原稿も同じである。

 クルマを評価する際、僕がいちばん大切にしているのは常に是々非々の態度で臨むこと。心にもない褒め言葉は読者への裏切り行為だし、辛口と称した批判のための批判は精魂込めてクルマをつくった方々に対する誹謗中傷に過ぎない。自分の経験と知識をもとに、客観的な立場から感じたことを率直に書く。それが、評価者に求められる姿勢だと信じている。

 たまに「批判的なことを書くと試乗会に呼んでもらえなくなるんですよね?」などと聞かれることがあるけれど、それは都市伝説だ。21歳のときから書き続けてきて、原稿にクレームがきたことは一度もない。以前、某モノ雑誌で白物家電関係の連載をしていたが、書いたことが事実でもネガな内容にはすぐにクレームが付いて驚いた。聞くとファッション業界にしろ音楽業界にしろそれが常識なのだそうだ。それに対し、自動車業界は筋が通った批判であるかぎりクレームが来ることはない。そんな環境を作ってくれた先輩たちに感謝しつつ、これからも是々非々の姿勢でクルマ評価をしていきたい。


MAZDA CX-5
マツダ・CX-5

上質感と満足感がさらに進化

 先代CX-5はスカイアクティブ・テクノロジーと鼓動デザインを採用したマツダ新世代商品群最初のモデルであり、現在のマツダ人気を先頭にたって引っ張ってきた。

 5年を経て発売された新型のキャラクターは、ご覧のように徹底したキープコンセプト。デザインも主要メカニズムも先代の延長線上にある。ということで、正直なところ新鮮味という点ではちょっと物足りない。けれど、僕は新型CX-5をとても気に入った。自分で買ってもいいなと思ったほどだ。先代もなかなかよくできたクルマだったが、欲しいとまでは思わなかった。

 新型CX-5のどこがそんなに気に入ったのか。月並みだが、まずはそのデザインだ。一見すると変わり映えしない、のだが実車を見るとぜんぜん違う。いや、違うというのは語弊があるだろう。ひと目でCX-5だとわかる一方、ひと目で新型であることもわかるというのが正解だ。顔つきはより精悍になり、ノーズはより長く、面質もグンと引き上げられた。

 そんな素敵なエクステリアをより一層引き立てているのが、陰影をダイナミックに表現する新色「ソウルレッドクリスタルメタリック」だ。インテリアも気に入った。見ても、触れても、操作しても、いいモノ感しか伝えてこない。デザインだけでなく、素材や組み付け精度、レイアウトにいたるすべての面できわめて高度な作り込みをしなければ、こういう上質感は醸し出せない。欧州車に勝るとも劣らない内外装をもつ日本車がようやく出てきたことを心から嬉しく思う。

 乗り味も秀逸だ。操舵フィールは驚くほど滑らか。乗り心地、静粛性、高速直進性にも高得点が付く。欲をいえばディーゼルはもう少し音を抑え込みたいが、2.5ℓガソリン、2.2ℓディーゼルともに動力性能に不足はない。目立つ飛び道具はないものの、見て、乗って、走らせて、極めて高い満足感を得られるのが新型CX-5だ。

マツダのグローバル販売台数の4分の1 を占める基幹車種の一つ。車両運動制御技術「SKYACTIV-VEHICLE DYNAMICS」の第一弾「G-ベクタリング コントロール」搭載などにより、ドライバーのパフォーマンスフィールと同乗者の快適性を両立させたほか、マツダ国内仕様車では初となる0~100㎞/h間での追従機能採用など安全性能も大きく進化。“同乗者も含めた全てのお客様を笑顔にするSUV”をキーワードに開発された。

マツダ・CX-5

車両本体価格:2,775,600円(XD/2WD、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,545×1,840×1,690
車両重量:1,600㎏ 定員:5名
エンジン:水冷直列4気筒DOHC16バルブ直噴ターボ
総排気量:2,188cc
最高出力:129kW(175ps)/4,500rpm
最大トルク:420Nm(42.8kgm)/2,000rpm
JC08モード燃費:18.0km/ℓ 駆動方式:前輪駆動

SUZUKI SWIFT
スズキ・スイフト

驚きのスズキマジック

 スイフトは世界、それも強敵がズラリと揃う欧州でも通用することを目指して開発されたコンパクトカーだ。日本でこのクラスを買う人の多くは価格や燃費といった経済性を重視するが、欧州では走りも重要な要素。内外装の質感にも高いレベルが求められる。つまり、全方位的な作り込みをしなければ彼の地での成功はおぼつかない。そんなクルマ作りをしている日本のコンパクトカーとして有名なのはデミオだが、スイフトもまたそのうちの一台だ。

 デザインはご覧の通り。CX-5と同じく、先代の特徴を大切にしながら上質感を増してきた。一部をブラックアウトしたリアピラーに目が行きがちだが、全体を豊かで柔らかな面で覆ってきたのも新型の特徴だ。歴代スイフトのもっていたシンプルでクリーンな印象が薄れたのはちょっと残念だが、存在感は確実に向上した。

 インテリアは可もなく不可もなく。しかし、先代の弱点だった荷室容量がグンと増したのは朗報だ。荷室の狭さを理由にスイフトの購入を諦める必要はもうない。

 ハード面でもっとも注目なのが重量だ。ライバルたちと比べてざっと100㎏軽い。大型車ならともかく、このクラスで100㎏も軽いというのはちょっと驚きだ。しかもアルミやカーボンといった高価な材料は一切使わず、設計の工夫だけで軽く作っているのがすごい。正直、乗る前はかなり割り切った設計をしたに違いないと思った。しかし乗ってみるとボディはガッチリしているし、遮音性能も決して悪くない。それどころか、デミオとともにこのクラスをリードする走行性能を備えていることが確認できた。この走りにしてこの軽さ、この価格…スズキはいったいどんなマジックを使っているのだろうと思ってしまう。マイルドハイブリッドもいいが、運転を楽しみたい人には1ℓ3気筒ターボがオススメ。ソリオにあるフルハイブリッドが加わればさらに魅力は増すだろう。

軽量化と高剛性を兼ね備えた新プラットフォーム「HEARTECT」を採用。新設計のサスペンションやレイアウトの刷新、先代比120Kgの軽量化などにより、燃費と走行性能を大幅に向上させた。ゆとりある乗員・荷室スペースも確保している。価格は¥1,343,520から(税込)。

スズキ・スイフト

車両本体価格:1,691,280円(HYBRID RS/2WD、税込)
全長×全幅×全高(mm):3,840×1,695×1,500 車両重量:910㎏
定員:5名 エンジン:水冷4サイクル直列4気筒 総排気量:1,242cc
【エンジン】最高出力:67kW(91ps)/6,000rpm
最大トルク:118Nm(12.0kgm)/4,400rpm
【モーター】最高出力:2.3kW(3.1ps)/1,000rpm
最大トルク:50Nm(5.1kgm)/100rpm
JC08モード燃費:27.4km/ℓ 駆動方式:前輪駆動

ASTON MARTIN DB11
アストン マーティン・DB11

モダンになってもアストン マーティン

 DB11を見て、らしくないと感じる人もいるだろう。Cピラーから真っ直ぐ後方に伸びたテールエンドの処理、リアピラーのトリッキーな造形、丸みを帯びたテール、そしてターボによる過給もアストン マーティンにとっては例外的。ひと言でいえば、モダンなのだ。
 アストン マーティンのような伝統あるブランドにとって、ましてやクラシックであることが魅力に直結する英国車の場合、モダン化はリスクになり得る。アストン マーティンが次世代主力モデルとして開発したDB11は、果たしてファンに受け入れられるのか。

 僕はイエスとみた。まず、モダンになったとはいえDB11は依然としてアストン マーティンにしか見えない。とくに他のどのクルマにも似ていない独特の顔つきは健在だ。当初は戸惑ったモダンな造形にも案外すぐ慣れた。古典的な要素はしっかりと残しつつ、最新の空力デザインを採り入れたその姿は、凜とした風格と勇ましさを最高レベルで融合している。セクシーという言葉は似合わないけれど、そこがいいのだ。女性の気を惹くためではなく、男性が自分の満足のために乗る…そんな硬派な雰囲気はフェラーリでは味わえない。

 選び抜かれた革やウッドをふんだんに使った内装は素晴らしい。なかでもシートに施した美しいステッチは一見の価値がある。まさに英国伝統の「匠の技」を感じさせる仕上がりだ。と同時に液晶メーターを採用するなどモダンなイメージもたっぷり与えられている。

 エンジンは5.2ℓのV12。淡々と走っているときのコクピットは高級サルーンのように静かだが、ひとたび右足に力を込めると、野太く野性味を感じさせるサウンドとともにとてつもない加速を見せつける。

 DB11は、既存のアストン マーティンファンに加え、ポルシェやAMGといったジャーマンスポーツを好むユーザーにもアピールする存在になるだろう。

アストン マーティンによる「第2世紀」プランに向けた第一作。自社設計の新型エンジンは、608PSの最高出力と700Nmの最大トルクを発生。0~100㎞/h加速はわずか3.9秒、最高速度は322㎞/hに達し、DB史上最速かつもっともパワフルなモデルとなった。

アストン マーティン・DB11

車両本体価格:23,800,000円(税込)
全長×全幅×全高(mm):4,739×1,940×1,279
車両重量:1,770㎏
エンジン:5.2リッターV型12気筒ツイン・ターボ
総排気量:5,204cc
最高出力:447kW(608ps)/6,500rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/1,500~5,000rpm
0-100㎞/h加速:3.9秒 最高速度:322km/h
駆動方式:後輪駆動

BMW 5 SERIES
BMW・5シリーズ

Eクラスを超える完成度

 デザインにはちょっとガッカリしたけれど、乗ってみたら背筋がゾクッとするほど素晴らしかった。新型5シリーズを簡潔に評価するとそうなる。

 ’72年に登場した初代から数えて7代目となる新型5シリーズ最大のトピックは最新のインフォテインメントシステムだ。ダッシュボードセンターに置いた10.25型高解像度液晶ディスプレイを軸に、各種操作やスマホ連携など、現在考え得るほとんどすべての機能が満載されている。加えてCPUもかなり高性能なものを使っているのだろう。操作に対し遅れなく反応するサクサクしたレスポンスも気持ちがいい。メーターパネルはフル液晶化されたが、グラフィックの精緻さとデザインは秀逸で、操作性、視認性、カッコよさともに液晶メーターとしてはトップレベルの出来映えだと断言できる。

 カメラを使ってレーン中央をキープする機能の仕上がりも素晴らしかった。もはやこの種のシステムはさほど珍しくはないが、違和感のなさは天下一品。ステアリングに軽く手を添えているだけで、まるでドライバーの意思を読み取っているかのようにレーンをビシッとトレースしてくれる。ボタンを押し続けることでATセレクターの前進後退操作もクルマがやってくれる自動駐車機能もちょっとした驚きだった。

 このようにハイテク満載の新型5シリーズだが、そこはやはりBMW。ドライブフィール面でも非凡なものをもっている。なかでも新設計の3ℓ直6ターボを搭載した540iの気持ちよさはもう最高! 常用域でゆるゆると回しているときから極上のスムーズさに心奪われ、回せば回すほど快感度が高まっていく。コーナーでの路面に吸い付くような走りや、優れた静粛性と乗り心地も印象的だった。デザインに新鮮味が感じられないのは残念だが、中身の完成度はライバルのEクラスを超えている。

約7年ぶりのフルモデルチェンジでは、部分自動運転を可能とした運転支援システムを採用。また、常に前方の道路状況に集中できるよう、フロント・ウィンドーに様々な情報を投影する「BMWヘッドアップ・ディスプレイ」、ジェスチャーだけで車載コントロールシステムの操作ができる「ジェスチャー・コントロール」などと、最先端テクノロジーが余すことなく取り入れられている。

BMW・5シリーズ

車両本体価格:9,720,000円(540i Luxury、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,945×1,870×1,480
定員:5名
エンジン:直列6気筒DOHCガソリン
総排気量:2,997cc
最高出力:250kW(340ps)/5,500rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/1,380~5,200rpm
JC08モード燃費:12.5km/ℓ 駆動方式:後輪駆動

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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