岡崎五朗のクルマでいきたい vol.89 LAのパーキングメーター

 先日、LAモーターショーに取材に行った際に、ウェストハリウッド界隈をぶらぶらと歩いてみた。そこで目に付いたのが新型パーキングメーターだ。

 1セント、5セント、10セント、25セントの各種コインの他、クレジットカードでも支払えるようになっている。調べてみたところ、2010年頃から導入が始まり、市民からは「ちょっとでも時間オーバーするとすぐに罰金を取られる」と嫌われているらしい。けれど、融通の利かない日本のパーキングメーターに慣れた僕からすると、まるで気の利いたコンシェルジュのように素敵な存在に思えた。

 まず、クレジットカードで支払えるのがいい。日本の場合、パーキングチケットなら1,000円札でも支払えるが、パーキングメーターはお札はおろか、10円玉も50円玉も受付拒否。そのうえクレジットカードも使えないから、事前に100円玉をきっちり3個用意しておかなければならない。次に、停める時間分だけ支払えばいいというのも親切だ。たったの5分だけ停めてコンビニで買い物をするようなときでも、日本は300円払わなければならず、残り55分の料金は無駄金になってしまう。その点、アメリカのパーキングメーターはパーキングメーター上にある「MORE」と「LESS」のボタンを押すことによって、15分から4時間まで、自分が停める時間分だけ支払えばいいことになっている。実に合理的である。

 場所や時間帯によっては駐車できる最大時間が2時間になることもあるようだが、それでも日本の1時間と比べたらずっと親切だ。1時間では髪を切るのも心許ないし、マッサージの60分コースは受けられないし、打ち合わせも大急ぎで切り上げなくちゃならない。けれど2時間あればできることの範囲は大幅に拡がる。

 言ってみればそれだけの話しではあるのだが、僕はそこに行政や警察のクルマに対する考え方の違いを感じる。どうしたら便利にクルマを使ってもらえるかを考えているアメリカに対し、日本はきっと、仕方ないから特別にクルマを停めさせてやってるとでも考えているのだろう。クルマ大国なのに情けないかぎりだ。


ABARTH 124 SPIDER
アバルト・124スパイダー

スポーツカービジネスの新提案

 アバルト124スパイダーは広島県にあるマツダ本社工場で、マツダ・ロードスターなどと一緒に生産ラインで製造されている。簡単に言えば、ロードスターの基本骨格に独自デザインのボディスキンを被せ、イタリアから運んできたエンジンを搭載したのがアバルト124スパイダーである。

 なぜアバルト(とその親会社のフィアット)はマツダ・ロードスターに目を付けたのだろうか。まず後輪駆動であること。さらにコンパクトで軽く、前後重量配分は理想的で、重心が低く、車両の運動性能に大きな影響を与えるヨー慣性モーメントも最小限に抑えている。なおかつ、これほど理想的な特性を低価格で実現しているのも大きな理由だったはずだ。そう、ライトウェイトスポーツを作りたいと願っているエンジニアなら全員が羨望の眼差しを投げかけるのがロードスターなのだ。事実、初代ロードスター以降、数々のライトウェイトスポーツが登場したが、その多くはFFだったし、FRモデルは大きく重く高価だった。一方、マツダとしても、利益が出ないロードスターのようなクルマを存続させていく上でこのコラボは歓迎だった。

 ロードスターの基本骨格を手に入れた時点でハードウェア上の成功は約束されたようなものだが、商品としての魅力となると話は別。中身が同じだからこそ明確な違いが求められることになる。その点、強力な1.4ℓターボと、独自チューニングを施したサスペンションは、豪快な加速と、いい意味での重量感をともなった身のこなしを味わわせてくれる。軽快感が持ち味のロードスターとはずいぶん乗り味が違うが、どちらも楽しい。これはもう好みの問題だろう。デザインにしてもピュア度はロードスターのほうが上だと思うが、アバルトの“毒気”を好む人もいるだろう。

 こうしたコラボによって、あまり儲からないスポーツカービジネスに一筋の光明が見えたのはとても嬉しいことだ。

1960年代のデビューと共に、多くの人を魅了した124スパイダーのオマージュとして蘇った、アバルト初のオープンスポーツモデル。アバルト・レーシングチームの支援を得て開発されており、高度なメカニズムの採用や、ムダな重量を1g単位で削り取る軽量化など、最適な重量配分を実現している。トランスミッションは、オートマとマニュアルの2タイプ。

アバルト・124スパイダー

車両本体価格:3,888,000円(MT、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,060×1,740×1,240
エンジン:直列4気筒マルチエア 16バルブ
インタークーラー付ターボ 
総排気量:1,368cc 乗車定員:2名
車両重量:1,130㎏
最高出力:125kW(170ps)/5,500rpm
最大トルク:250Nm(25.5kgm)/2,500rpm
JC08モード燃費:13.8km/ℓ 駆動方式:FR

HONDA FREED
ホンダ・フリード

再リードを狙うホンダの重要モデル

 ステップワゴンよりもひとまわりコンパクトなボディに3列シートを与えたのがフリードだ。先代は広さ、使い勝手、走りの性能ともにライバルのシエンタを遙かにリードしていたが、そのシエンタもモデルチェンジして強力な商品性を手に入れてきた。新型によって再びリードを築けるか。ホンダにとっては非常に重要なモデルとなる。

 先代フリードは道具感を前面に打ち出したデザインが好評だった…と思っていたのだが、一部のユーザーからは不満の声も上がっていたという。とくに低い位置にあった小型のリアコンビランプには「物足りない」「可愛くない」という意見が少なからず寄せられたため、新型は大型化した上で位置も高くしてきた。実はこの部分、僕としては新型でいちばん気に入らない部分だったりする。無難というか、既視感があるというか、フリードらしい道具感が薄れてしまったと思うのだ。売ってなんぼのメーカーがユーザーの意見を尊重するのは十分理解できるが、それが行きすぎるとどれも同じようなクルマばかりになってしまうわけで…なかなか難しい問題である。

 そこを除けば新型のデザインはなかなかいい。それ以上に好印象だったのがインテリア。水平基調は室内を広く見せ、視界も良好。質感的にもステップワゴンから乗り換えても不満を感じない水準に達している。フリードの持ち味であるパッケージングにもさらに磨きがかかった。

 シャシーの基本はフィットだが、コストを投入してリアサスのポテンシャルを引き上げたため、乗り心地と直進安定性とコーナリングのバランスポイントがグンと上がった。フィットにもこの改良を加えて欲しいと切に願う。エンジンはノーマルでも必要にして十分だが、ハイブリッドのほうがさらに気持ちのいい走りを楽しめる。かつてのような圧倒的リードこそないが、シエンタのよきライバルとして人気を獲得するだろう。

先代で好評だった「ちょうどいい」をさらに進化させた、「いつでも」「どこでも」「誰でも」用途に応じ思い通りに使えるコンパクトミニバン。多様なニーズに応えるべく、ハイブリッド4WD、車いす仕様車のハイブリッド設定など、16通りのバリエーションを揃えた。インテリアには、見ても触れても心地よいシートファブリックやリアルな木目調パネルを採用している。

ホンダ・フリード

車両本体価格:2,100,000円(G・Honda SENSING/FF/6人乗り、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,265×1,695×1,710
車両重量:1,350㎏ 定員:6名
エンジン:直列4気筒横置 DOHC 総排気量:1,496cc
最高出力:96kW(131ps)/6,600rpm
最大トルク:155Nm(15.8kgm)/4,600rpm
JC08モード燃費:19.0km/ℓ 駆動方式:FF

PEUGEOT 3008
プジョー・3008

最先端を行く小型SUVの中心的存在

 先代3008は、プジョーが人気のSUVマーケットにいち早く参入するべく大急ぎで仕上げたモデルという印象が拭えなかった。とくにデザイン面は「SUV的ハッチバック」という仕上がりであり、ライバルたちと比べるといささか迫力足らずだった。そんななか満を持して登場したのが新型3008だ。日本導入まではもう少し待つ必要があるが、イタリアのボローニャで開催された国際試乗会でひとあし先に試乗してきたところ、ライバルに追いつくどころか、デザイン的にも中身的にもこのクラスの最先端をいくクルマに仕上がっていることを実感した。

 開発にあたって、プジョーがもっとも注力したのは「デザイン」と「質感」とのことだが、結果はご覧の通り。SUVらしい力強さを備えつつも、スポーティーでモダンなデザインへと生まれ変わった。全長4,447㎜、全幅1,841㎜、全高1,624㎜(欧州仕様)というSUVとしては比較的コンパクトなサイズにもかかわらず、その存在感は周囲のクルマたちを霞ませてしまうほどだ。

 クラスを超えた上質感をもつインテリアには、中央とドライバー正面に2つの液晶ディスプレイを置き、それらを介し、ありとあらゆる情報の表示とコントロールを行う。液晶だからカスタマイズも自由自在であり、5種類あるモードのなかには車速と制限速度以外はオフにする「クワイエットモード」なるものまで存在する。プジョーがiコックピットと呼ぶこのシステムは、いまもっとも進んだ操作系のひとつだ。

 1.6リッターガソリンターボと2ℓディーゼルターボに乗ったが、どちらも動力性能はスポーティーと表現できる水準に達していたし、フットワークも上々。とくにガソリンモデルは鼻先が軽く、ワインディングロードをスポーティーカーのように颯爽と駆け抜けてくれた。近くフルモデルチェンジされるVWティグワンとともに、小型SUVの中心的存在になるのは間違いない。

i-Cockpitは、これまでの概念を打ち消す新コンセプト。ステアリングは握りやすいようコンパクトにし、視界と足元スペースを最大にするため上下をフラットに。また、スイッチを押すと、シート内蔵マッサージやフレグランス・ディフューザーが機能するなど、あらゆる感覚を呼び覚ます仕掛けがなされている。

プジョー・3008

【参考値】3008 Allure
車両本体価格:未発表
全長×全幅×全高(mm):4,450×1,840×1,630
車両重量:約1,460㎏
エンジン&トランスミッション:1.6ℓターボ165ps(EP6FDT)+EAT6/
2.0ℓターボ180ps(DW10FC)+EAT6
*スペックは欧州仕様値。日本導入は来春予定。

CITROËN C3
シトロエン・C3

僕が描く理想的コンパクトカー

 この連載では、ことあるごとにパッソ/ブーン、マーチ、ミラージュといった国産コンパクトの不甲斐なさを嘆いてきた。これなら軽自動車に乗っていた方がよっぽどいいと。その背景には、安さと燃費だけに目を向けたクルマ作りは誰も幸せにしない、という僕の思いがある。その点、新型シトロエンC3は僕が描く理想的なコンパクトカー像を憎らしいほど忠実に具現化したモデルだった。

 サイドに貼ったエアバンプはシトロエンがC4カクタスで最初に採用したアイディア。軽衝突時の凹みや傷防止という実利とともに、デザイン上のアクセントとしても機能している。ちょっと嫌だなと思う人にはエアバンプなしの仕様も用意されている。本国では9色のボディカラーと4色(赤、黒、白、ボディ同色)のルーフカラーを自由に選べるが、いちばん楽しげに見えたのは白のボディと赤ルーフの組み合わせ。でも僕がいちばん気に入ったのは淡いグリーンとホワイトルーフのコンビネーションだ。全体を柔らかな水平基調で構成したインテリアも最高に素敵だった。ルームミラーに仕込んだ高画質カメラは、いざというときにドライブレコーダーとして役立つだけでなく、ワンタッチで写真やムービーを撮影し、スマホに転送したりSNSに投稿してくれる。

 日本に導入されるのは1.2ℓ直3ターボ(110ps)の6速ATモデル。足回りはソフトな味付けで、主要メカニズムを共有するプジョー208と比べるとスポーティーな感覚は希薄だ。しかしそれと引き替えに、ふんわりしたストローク感のあるシトロエンらしい乗り味を実現。コンパクトカーに乗っていることを忘れさせる豊かなドライブフィールを味わわせてくれた。

 とくに豪華でもなければ高性能でもない。けれど新型C3にはオーナーを笑顔にさせる要素がたくさん詰まっていて、それがこう語りかける。コンパクトカーは諦めや我慢で乗るクルマではないのですよ、と。

欧州のシトロエンにおいて、5台のうち1台はC3が売れるというベストセラー車。新型はユニークなボディスタイルが象徴するように、今のシトロエンの全ての個性と品質を体現したという。外装は36通りの組み合わせから選べ、内装も異なる印象を持つ4種類のムードパックの中から選択可能。中価格帯モデルには珍しく、豊富なカスタマイズ性を備えている。

シトロエン・C3

【参考値】PureTech 110S&S
車両本体価格:未発表
全長×全幅×全高(mm):3,996×1,829×1,474
エンジン:直列3気筒
PureTechターボチャージャー付ガソリン直噴
総排気量:1,199cc 車両重量:1,050㎏
最高出力:81kW/5,500rpm 
最大トルク:205Nm/1,500rpm
*スペックは欧州仕様値。日本導入は来春予定。

文・岡崎五朗


Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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