岡崎五朗のクルマでいきたい vol.88 時速120キロ時代

 1963年に名神高速道路が開通してから53年。約半世紀ぶりに高速道路の最高速度が見直されることになった。

 試験的に新東名高速道路と東北自動車道の一部の最高速度を時速110キロとし、事故が増えないようであれば将来的に120キロまで引き上げるという。その他区間でも最高速度の見直しは行われる。

 1963年といえば東京オリンピック開催の前年。同年には東海道新幹線が開通し、日本の国内移動は一気に高速化されたわけだが、当時の国産車は性能が低く、最高速度に指定された100キロ走行ではオーバーヒートや故障が相次いだという。そんな時代に制定された最高速度を、日本はまるで家宝のように守り抜いてきた。

 しかし法律に重要なのは「必要性を感じ」、かつ「破ったら相応のペナルティを受けるのは当然」と誰もが感じる妥当性だ。その点いまの日本はほとんどの人が罪悪感なしに違法状態で走っているわけで、それはその法律が時代に合わなくなってきていることを示している。ならば現状に即した法律に変えていきましょうというのが今回の最高速度見直しの背景であり、基本的には大歓迎したい。

 一方、単に喜んでいるだけではマズいな、とも感じている。今後、警察の速度取り締まりポリシーがどうなるかにもよるけれど、速度が上がればシビアな状況は必ず増えるからだ。最高速度が80キロに据え置かれた大型車との速度差拡大により、追い越し車線に侵入してくる大型車との衝突リスクは確実に高くなる。ESCの装着義務化でかなり改善されたが、それでもタイヤ性能(主にウェットグリップ)や急ハンドルによる危険回避性能が十分ではないクルマもある。しかしいちばんの懸念材料は、低い制限速度によって麻痺したドライバーの安全意識だ。タイヤの空気圧や残り溝など気にかけたこともない人、チャイルドシートの固定が不十分な人、雨が降っても速度を落とさない人、急ブレーキを踏めない人、追い越し車線に平然と居座る人…。自動車メディアはクルマを作ることはできない。けれど、安全な時速120キロ時代に向け、ソフト面で貢献できることは多々あると思っている。


RENAULT TWINGO
ルノー・TWINGO

図抜けた存在のコンパクトカー

 左脳で考えても右脳で考えても、これほど魅力的なコンパクトカーを他に見つけるのはちょっと難しい。それほどまでにトゥインゴは図抜けた存在だ。

 ここで言う「コンパクトカー」とは、ヴィッツよりさらに小型の全長3.6mクラスのこと。国産車で言えばパッソ/ブーン、輸入車ならVWのup!やフィアット500、スマートフォーフォーなどがライバルとなる。

 パッソ/ブーンに関しては、以前このページでも紹介したが、見ても乗っても安普請であり、おすすめする理由を見つけるのは難しい。トヨタブランドへの信頼感やトゥインゴより20万円ほど安い価格を考えれば完全否定はできないが、それならモデル末期で値引き額が拡大しているヴィッツを選んだ方が幸せになれる。輸入車勢ではフィアット500もup!も魅力的なクルマだが、ともに癖のあるシングルクラッチを採用しているのと、2ドアであることが敷居を高くしている。ならばトゥインゴと共通のハードウェアをもつスマートは? いいクルマだ。しかし値段が高い。多少の装備の違いはあるが、同じ3気筒ターボエンジンを積むグレードで67万円も違えばライバルと呼ぶのは難しいだろう。

 このように左脳を使った消去法で選んでもショッピングリストに残るポテンシャルをもつトゥインゴだが、それ以上に価値を感じるのがエモーショナル領域の付加価値だ。コロンとしたキュートなカタチでありながら、凜とした空気感や質感の高さも併せもつデザインは、このクラスでは出色の出来映え。RR(リアエンジンリア駆動)レイアウトという成り立ちはクルマ好きの男性だけでなく、前輪の切れ角増大による軽自動車並みの取り回し性として女性にもアピールするだろう。

 これでシートと足がもっとソフトでコシのあるフランス車流儀になれば言うことなし。けれどそれを差し引いてもトゥインゴの商品力は文句なしに高い。

新型で採用したRRレイアウトは、既存プラットフォームを使用しないため、ゼロからの開発となった。ステアリングの切れ角が増したことで、狭い場所でのUターンや車庫入れがスムーズとなる一方、高速道路やワインディングでは正確な操作感も得られる。また、充分な容量の四角い形状の荷室も実現。性能、装備、経済性を併せ持つ一台となった。

ルノー・TWINGO

車両本体価格:1,890,000円(INTENS、税込)
全長×全幅×全高(mm):3,620×1,650×1,545
エンジン:ターボチャージャー付直列3気筒DOHC12バルブ
総排気量:897cc 乗車定員:4名 車両重量:1,010㎏
最高出力:66kW(90ps)/5,500rpm
最大トルク:135Nm(13.8kgm)/2,500rpm
JC08モード燃費:21.7km/ℓ 駆動方式:RR

HONDA NSX
ホンダ・NSX

初代と一線を画すNSXの復活

 バブル経済というと、ネガなことを想像する人が多い。たいそう下品な時代だったことは認めるが、一方で悪いことばかりではなかったとも思う。クルマでいえば、R32型スカイラインGT-R、セルシオ、ユーノス・ロードスター、そしてNSXの登場が好例だ。日本車が「安くて壊れない」という領域から抜けだし、技術的にも文化的にも世界と肩を並べたことを象徴するモデルが、あの時代に相次いで登場した。

 バブル崩壊とともに日本経済は長期にわたって低迷したけれど、NSX以外は数度のフルモデルチェンジを経てマーケットにしっかり根を張った。だからこそ、NSX復活は日本の自動車産業にとって「バブル後遺症からの完全脱却」という点で実に意義深い出来事である。

 初代NSXのコンセプトを煎じ詰めて説明するなら「スーパーカーの民主化」となるだろう。優れたパフォーマンスを備えながら、800万円という価格、ATの設定、優れた快適性、運転のしやすさなどを追求したそのコンセプトはフェラーリやポルシェに大きな影響を与えた。ところが一転し、新型NSXは2,370万円というビックリするようなプライスタグを付けてきた。3つのモーターを駆使した高度なハイブリッドシステムや専用開発のドライサンプ式V6ターボエンジンなど、それはそれは気合いの入った内容なのだが、もっとシンプルな構成にして価格を抑えるという選択肢はなかったのかな、とも思う。

 もちろん、3つのモーターが生みだすドライブフィールは他のどのクルマにも似ていない。そういう意味では次世代スポーツカー像を垣間見させてはくれるのだが、価格がフェラーリやポルシェターボの領域まで入ってきてしまったのはちょっと残念だ。とはいえ、幾多の困難を乗り越えNSXを復活させたホンダには大きな拍手を送りたい。噂されているS2000後継モデルが楽しみだ。

「人間中心のスーパースポーツ」というコンセプトを継承しつつ、先進的な電動化技術との融合による“新時代のス―パースポーツ体験”を目指し開発。外部サプライヤーによるボディ製造が一般的なスーパーカーの世界において、ボディ製造から最終組み立てまで完全内製化、専用工場にて生産する。8月に申し込み受付が開始されており、発売は来年2月を予定。

ホンダ・NSX

車両本体価格:23,700,000円(税込)
全長×全幅×全高(mm):4,490×1,940×1,215
エンジン:水冷V型6気筒縦置 総排気量:3,492cc
乗車定員:2名 車両重量:1,780㎏
【エンジン】最高出力:373kW(507ps)/6,500~7,500rpm
最大トルク:550Nm(56.1kgm)/2,000~6,000rpm
【モーター】最高出力:前/27kW(37ps)/4,000rpm(1基当り)、
後/35kW(48ps)/3,000rpm
最大トルク:前/73Nm(7.4kgm)/0~2,000rpm(1基当り)、
後/148Nm(15.1kgm)/500~2,000rpm
JC08モード燃費:12.4km/ℓ 駆動方式:4WD

DAIHATSU MOVE CANBUS
ダイハツ・ムーヴ キャンバス

親と同居している未婚女性がターゲット

 軽自動車のボディサイズは全長3,400mm以下、全幅1,480mm以下、全高2,000mm以下と決められている。エンジンが660㏄以下であっても上記サイズを1㎜でも超えたら5ナンバー登録になる。軽自動車のサイズがどれも判を押したように同じなのは、限られたサイズのなかで最大限のスペースを与えるためだ。そんななか、唯一車種ごとに違うのが、使い切ることができないほどの余裕を与えられた全高。全高こそが、軽自動車のキャラクターを決定づける要素になっていると言っていい。

 ムーヴキャンバスの全高はムーヴとほぼ同じ1,655mmで、広さが売りのタントより約10cmも低い。ここだけ見ると広さ絶対主義ではないと思わせるのだが、ボディのフォルムはタントに近いマイクロバス風なのが面白い。控えめの全高と広さ重視のカタチの組み合わせこそ、ダイハツがキャンバスを「新ジャンル」と呼ぶ理由だ。

 もちろん、考えもなく適当に組み合わせたわけではなく、背景にはきちんと「ユーザー」がいる。開発担当者によると、親と同居する未婚女性の増加とその平均年齢の上昇がキャンバス開発の動機だという。ダイハツは独身女性向けにミラココアという可愛らしいモデルを提供しているが、親と同居していることを考えると後席が狭い。年齢的に言っても可愛らしすぎる。かといってタントはファミリーカーイメージが強く、ムーヴは男性的すぎる。そこで登場したのが、適度な可愛らしさと室内の広さを併せもつキャンバスというわけだ。

 親と同居している高齢化した未婚女性がターゲット、などと公言してしまって大丈夫だろうかと邪推する一方、なかなかいい目の付け所だなとも思った。事実、キャンバスの売れ行きは絶好調だという。ユーザーの生活や価値観、気持ちを汲むことがいかに重要であるかを再確認させる一台である。

全高が1,700mm以下の軽自動車の中で、初めて両側スライドドアを採用。後席シート下の収納、ステアリング操作に応じ進行方向を照らす連動ヘッドランプ、パノラマモニターなど、幅広い世代の使いやすさを考えた新アイテムが充実している。ボディカラーは、2トーン8色、モノトーン9色を用意。

ダイハツ・ムーヴ キャンバス

車両本体価格:1,544,400円(G“メイクアップ SA Ⅱ”/2WD、税込)
全長×全幅×全高(mm):3,395×1,475×1,655
エンジン:水冷直列3気筒12バルブDOHC横置
総排気量:658cc 乗車定員:4名
車両重量:920㎏ 最高出力:38kW(52ps)/6,800rpm
最大トルク:60Nm(6.1kgm)/5,200rpm JC08モード燃費:28.6km/ℓ 
駆動方式:前輪駆動

AUTECH MARCH BOLERO A30
オーテック・マーチ Bolero A30

350万円オーバーのマーチ限定車

 スカイラインの生みの親である櫻井眞一郎氏が初代社長をつとめたオーテックが創立30周年を迎え、その記念としてスペシャルなモデルを限定発売した。マーチ・ボレロA30だ。

 ご覧のようにベースとなったのはタイで生産されている現行マーチ。僕のなかではもっとも残念な日産車という認識だが、ボレロA30は似て非なるクルマに仕上がっている。90㎜! 拡大したトレッドと、それを収めるべく大胆に張り出したフェンダー、専用フロントマスクなど、まずは外観の迫力に圧倒された。

 中身も負けていない。エンジンはノートNISMOにも搭載される1.6ℓ直4自然吸気をさらにチューニングしたもの。ルマン24時間レースに出場した名工が一台一台入念な調整をしながら手組みしているというのも泣かせる。肝心要のボディも単なる補強にとどまらない。ボレロA30の駆動方式はFFだが、リアフロアはより剛性の高い4WD用を移植。そのうえで各部に補強を施した。このあたりは日産直系のオーテックだからこそできたこと。価格は356万4,000円に達し、手作りのため生産台数も30台限定だが、街のチューニングショップがここまでの大改造を施すのは至難の業である。

 走り出すと、最高に楽しい! 高度にチューニングした自然吸気エンジンは最新のダウンサイジングターボのような太い低中速トルクこそないものの、刺激性を増しながらトップエンドまで元気いっぱいに回りきる。鋭いレスポンスと乾いたサウンド、そして「カムに乗る」という表現がぴたりとくる懐かしいフィーリングを僕は存分に楽しんだ。意外にもしなやかで懐の深いフットワークを含め、そこにはあの残念なマーチの面影はまったくない。オーテックの技術力とノウハウ、それを支える職人さんたちの技にはただただ敬意を示すしかない。と同時に、このクルマのよさを1割でも2割でもいいから普通のマーチに移植して欲しいと思った。

日産車のカスタムをコンプリートカーとして製造しているオーテックジャパンによる、30台限定の創立30周年記念モデル。元々は、社員研修の一環として企画されたそうで、それゆえ採算度外視、妥協なく手を掛けながら造り上げたモデルとなっている。トランスミッションは5速MT。商談は抽選となるほどの人気ぶりで、すでに完売している。

オーテック・マーチ Bolero A30

車両本体価格:3,564,000円(税込)
全長×全幅×全高(mm):3,865×1,810×1,510
エンジン:DOHC水冷直列4気筒
総排気量:1,597cc
乗車定員:5名
車両重量:1,030㎏
最高出力:110kW(150ps)/7,000rpm
最大トルク:160Nm(16.3kgm)/4,800rpm
駆動方式:前輪駆動

文・岡崎五朗


Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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