岡崎五朗のクルマでいきたい vol.87 名称の統一化

 細かな違いはあるにせよ、横滑り防止装置の基本的な仕組みと目的はどれも同じだ。しかし、VSC(トヨタ)、VDC(日産)、VSA(ホンダ)、DSC(ダイハツ)、ASC(三菱)、ESP(スズキ)など、各社バラバラの名称を与えている。

 原稿を書く際はメーカー表記に従い固有名を使うのが原則的には正しいが、読者にとっては大いに迷惑な話だろう。各社が勝手に決めたネーミングをいちいち覚えている人なんてほとんどいないからだ。新車への標準装備が義務化され普及率は年々高まってきているものの、横滑り防止装置に対するユーザーの理解と普及が遅れた一因に、記事を読んでもよくワカラン→買わない、となってしまったことがあるのは間違いない。

 同じことが衝突被害軽減ブレーキでも起こっている。トヨタはセーフティーセンス、日産はエマージェンシーブレーキ、ホンダはホンダセンシング、マツダはiアクティブセンス、スバルはアイサイト、三菱はFCM、スズキはレーダーブレーキサポート、ダイハツはスマートアシスト。ここに挙げたのはほんの一例で、同じメーカー内でも機能の違いによって異なる複数の名称があるし、輸入車勢もそれぞれ別名称を使っている。

 ここまで増えると、日常的にクルマの情報に接している僕でも、ネーミングを聞いただけではなにがなんだかわからないというのが正直なところ。それぞれ固有の技術なりノウハウを投入して開発しているのはわかるが、事故防止という目的は同じなのだから、ムキになってネーミングで差別化を図るのはやめましょうよ、と言いたくなる。

 実際、アンチロックブレーキはABSに統一されたし、エアバッグもエアバッグだ。単眼カメラ、ステレオカメラ、レーザー、ミリ波など、使っているデバイスはこの際横に置き、まずは覚えやすい統一名称を与え、記号もしくはサブネームによって作動する速度域や歩行者認識の可否をわかりやすく伝えてくれたらユーザーの認識はさらに深まるはずだ。とはいえメーカー任せではことはいつまでたっても動かない。ここは自動車工業界がリーダーシップをとって、名称の統一化を図って欲しいと真剣に思う。


PORSCHE PANAMERA
ポルシェ・パナメーラ

正真正銘のポルシェ製高級セダン

 ミュンヘン空港で対面した新型パナメーラの第一印象は「911っぽくなった!」だった。先代も911のデザインエッセンスを色濃く採り入れていたが、新型はより大胆に911との相似性をアピールしている。いまやポルシェの販売台数の約70%はSUV系が占めるが、ポルシェのアイコンは依然として911。それにあやかることが成功の早道であることを彼らはよくわかっているのだ。

 911らしさをより強めた最大のポイントがルーフラインとCピラーの形状だ。先代は後席乗員のヘッドルームを確保するためルーフを直線気味に後方まで伸ばしていた。それに対し、新型はルーフ後端をなだらかに下降させ、Cピラーとスムーズに合流させている。このあたりの造形はまさに911的。左右リアコンビランプを細いレンズで結びワイド感を演出するデザイン処理も911カレラ4を連想させる。

 パナメーラに与えられた役割は、メルセデス・ベンツSクラスやBMW7シリーズといった高級4ドアセダンと戦うこと。となれば当然、後席居住性は欠かせない要素になる。そこで気になるのが上記デザイン処理による影響だが、心配は無用だ。身長180㎝級の人が乗り込んでも頭上、膝前ともに余裕は十分にある。

 試乗したのは2.9ℓV6ターボを積むパナメーラ4Sと、4ℓV8ターボを積むパナメーラ・ターボの2台。4Sでも動力性能に不満はまったくない。回転フィールもV6としては極上だ。もちろん、700万円ちょっとのエキストラコストを支払ってターボを選べば、あの997GT3RSを凌ぐニュルブルクリンク7分38秒という超一級品の速さと、硬質ながらも洗練されたポルシェらしい快適性の両方が手に入る。そう、新型パナメーラは「911の形をした高級セダン」ではなく、「高級セダンの要素を惜しみなく注ぎ込んだ正真正銘のポルシェ」なのである。

純粋なスポーツカーのパフォーマンスと、ラグジュアリーサルーンの快適性という、相反する特性をこれまで以上に高い次元で兼ね備えた。新型パナメーラ用に再設計されたエンジンは、パワーアップしつつも燃費を改善。トランスミッション、シャシーも見直された。インテリアは、従来のスイッチに代わりタッチパネルと高解像度ディスプレイを採用するなど、未来志向のデザインとなっている。

ポルシェ・パナメーラ

車両本体価格:23,270,000円(パナメーラ ターボ、税込)
全長×全幅×全高(mm):5,049×1,937×1,427
エンジン:4.0リッターV型8気筒ツインターボ 総排気量:3,996cc
最高出力:404kW(550ps)/5,750~6,000rpm
最大トルク:770Nm/1,960~4,500rpm 最高速度:306km/h
0-100km/h加速:3.8秒(スポーツクロノパッケージ装着時:3.6秒)
駆動方式:4輪駆動

SUBARU LEVORG STI SPORT
スバル・レヴォーグ STI Sport

ニュル24hで鍛えたスバルSTI

 STIとはスバル・テクニカ・インターナショナルの略。スバルのモータースポーツを担当する100%子会社で、かつてはWRC(世界ラリー選手権)、最近ではニュルブルクリンク24時間耐久レースにマシンを送り込み、輝かしい戦績を残している。

 そんなSTIが手がけたロードカーとなれば、それはそれは高性能なクルマに違いないと思うだろう。もちろん。ただしSTIが作る高性能車は決してじゃじゃ馬ではない。むしろ、ベースモデルよりもしなやかで質感の高い足回りを備えているのが特徴だ。ラリーはもちろん、ニュルブルクリンクを速く確実に走るためには、荒れた路面にきちんと追従する「よく動く足」が必要だということをSTIは身を以て経験している。そのノウハウを惜しみなく注ぎ込んだのがSTI製ロードカーなのだ。

 ただし、それらは高価なパーツと職人による手作業による少量生産が前提で、販売台数は数百台限定、価格もかなり高かった。そこで、STI製コンプリートモデルのエッセンスをより幅広いユーザーに届けるべく企画されたのがSTIスポーツだ。第一弾として選ばれたのはレヴォーグ。レヴォーグのセダン版ともいうべきWRXをベースとしたS207が400台限定で555万円だったのに対し、レヴォーグSTIスポーツは限定なしのカタログモデル。価格も1.6ℓで348.8万円、2ℓで394.2万円に抑えた。エンジンに手を加えていないことに加え、レヴォーグと同じスバルの生産ラインを流れていることが生産コスト低下をもたらした。

 それでいて内外装は専用にリデザインされているし、ダンパーにはS207にも採用されたビルシュタイン製のダンプマチック2が組み込まれている。乗ってみれば、しなやかな足の動きと安心感の高いハンドリングという、典型的なSTIテイストを実感できること請け合いだ。

レヴォーグ最上級グレードにふさわしい内外装とすべく、エクステリアは専用デザインのフロントフェイスやアルミホイールを採用、インテリアにはテーマカラーであるボルドーを採り入れ、特別感を演出している。発売1ヵ月で受注状況は約3,000台と好調な滑り出しをみせており、レヴォーグ全体に占める「STI Sport」の受注割合は42%となっている(8月発表時点)。

スバル・レヴォーグ STI Sport

車両本体価格:3,488,400円(1.6STI Sport EyeSight、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,690×1,780×1,490
車両重量:1,550㎏
定員:5名
エンジン:1.6ℓ 水平対向4気筒 DOHC直噴ターボ“DIT” 総排気量:1,599cc
最高出力:125kW(170ps)/4,800~5,600rpm
最大トルク:250Nm(25.5kgm)/1,800~4,800rpm
JC08モード燃費:16.0km/ℓ
駆動方式:常時全輪駆動(AWD)

VOLVO S60/V60 POLESTAR
ボルボ・S60/V60ポールスター

ボルボのハイパフォーマンス・マシン

 メルセデスにおけるAMGと同じ関係にあるのがボルボとポールスターだ。昨年ボルボはポールスターのコンプリートカー部門を買収し、より結びつきを強めた。これについてボルボは「この種のモデルは近年成長が著しく、しかも高い収益を期待できるため」とコメントしている。事実、AMGはいまやメルセデスにとって大きな収益源であり、日本でもスバルがSTIを、日産がNISMOを積極的に展開しはじめた。単に儲かるだけでなく、ハイパフォーマンスラインの存在そのものが、車種やブランド全体のイメージアップに貢献することも、見逃せないメリットである。

 新型S60/V60ポールスターのトピックは、なんといっても刷新されたエンジンだ。従来の3ℓV6ターボに代わり、2ℓ直4ターボを搭載。単にダウンサイジングしただけでなく、スーパーチャージャーも加えることで、3ℓV6を上回るパワースペック(350ps→367ps)と鋭いレスポンスを狙った。大径ターボによって最高出力を稼ぐ一方、大径ターボの弱点であるターボラグをスーパーチャージャーで補おうという作戦である。

 走りはじめた直後から、狙い通りの特性になっていることを実感した。低回転域での鋭いレスポンスはスーパーチャージャーならでは。さらに踏み続けるとターボによる過給が加わるが、そのタイミングとさじ加減が絶妙で、トルクは一直線で盛り上がっていく。炸裂感のあるパワーやクォォーンという痛快なサウンド、粒の揃った回転フィールなど、高性能4気筒エンジンとしては世界屈指の出来映えだと太鼓判を押しておく。

 足回りも絶妙だ。4気筒化によって鼻先が軽くなったのも嬉しいが、なにより驚いたのが、ハンドリングはちゃんとしているのに乗り心地が望外にいいこと。ボルボらしい快適性を保ったまま、スポーツ性だけを巧みに高めたS60/V60ポールスターは、35台/65台の限定販売となる。

S60/V60の標準車に対し、ターボの大型化、スーパーチャージャーの強化や燃料ポンプの大容量化などの変更を加え、エンジン性能を向上。4WDシステムにポールスター用に最適化された新型8速ATトランスミッションを組み合わせている。車両重量は、昨年型より総重量で20㎏の軽量化に成功。S60がセダンタイプで、V60はワゴンタイプ。

ボルボ・S60/V60ポールスター

車両本体価格:8,390,000円(S60 Polestar、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,635×1,865×1,480
車両重量:1,730㎏ 定員:5名
エンジン:インタークーラー付スーパーチャージャー
/ターボチャージャー DOHC水冷直列4気筒横置き
総排気量:1,968cc 最高出力:270kW(367ps)/6,000rpm
最大トルク:470Nm(47.9kgm)/3,100~5,100rpm
JC08モード燃費:12.2km/ℓ 駆動方式:電子制御AWDシステム

NISSAN GT-R
日産・GT-R 2017年モデル

濁音の抜けた乗り心地

 登場から10年。GT-Rが大幅改良を受けた。これまでも定期的な改良により常に一級品の戦闘力を保ち続けてきたGT-Rだが、今回は「改良」という言葉では表現しきれない部分にまで深くメスを入れてきた。

 驚いたのがボンネットやCピラー&リアフェンダーパネルといったプレス部品を変更してきたところだ。普通、マイナーチェンジで金型を起こすなどあり得ない。「空力性能をさらに追求するために必要と判断した」とのことだが、そのあたりのこだわりはさすがGT-Rである。グリルの開口部が大きくなったのにも「出力を550psから570psまで引き上げたエンジンがより効果的な冷却を必要とした」という理由がある。2017年モデルのルックスはよりシャープに、よりスポーティーに、よりモダンになったが、それは単なるデザイン改良ではなく、超高性能モデルに求められる機能を追求した結果ということだ。

 乗ると外見以上に中身が進化したことがわかる。大幅に質感を高めたインテリアと歩調を合わせるように、乗り心地、駆動系、トランスミッションの振る舞い、音、ステアリングフィールなど、すべてが上質になった。濁点が抜け「ガギグゲゴ」が「カキクケコ」になった感じと言えば伝わるだろうか。これならGTカーとしてためらいなくロングドライブに出かける気になる。とはいえ牙が抜かれてしまったわけではなく、依然として圧倒的な速さをもっている。さらなるハイパフォーマンスを望むなら600ps、ハードな足、カーボンパーツで武装したニスモ仕様も選べる。ただし価格も1,870万円と超弩級だ。

 今回の大幅改良によってGT-Rの賞味期限は大きく延びた。日本が誇るスーパースポーツとして今後も存在感を示し続けるだろう。

ボディ剛性の向上により、よりしなやかで正確に動くサスペンションが、タイヤの接地性を上げ、高速走行時の安定性がアップ。コーナリング性能がさらに進化した。外装ラインアップには、ひときわ目を惹く「アルティメイトシャイニーオレンジ」(写真)を新たに設定。内外装に鮮やかな色を採用することで、GT-Rの洗練されたキャラクターを表現している。

日産・GT-R 2017年モデル

車両本体価格:11,705,040円(GT-R Premium edition、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,710×1,895×1,370
車両重量:1,760㎏ 定員:4名
エンジン:DOHC V型6気筒 総排気量:3,799cc
最高出力:419kW(570ps)/6,800rpm
最大トルク:637Nm(65.0kgm)/3,300~5,800rpm
JC08モード燃費:8.6km/ℓ 駆動方式:4WD

文・岡崎五朗


Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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