岡崎五朗のクルマでいきたい vol.85 クルマ選びの正義

 購入したユーザーへのお詫び金や日産、ディーラー、部品メーカーへの損失補償、企業イメージ低下による販売減少など、燃費不正問題にまつわり三菱が算出した損失は2000億円。

 今後の状況次第ではさらに膨らむ可能性もある。カタログ燃費を偽ったことに対し彼らが支払った代償はあまりに大きい。

 言うまでもなく、不正行為に釈明の余地はない。しかしその背景には燃費でライバルに負けたら商売にならないという営業部門からのプレッシャーがあり、さらにその背後にはわずかなカタログ燃費の差でクルマを選ぶユーザーの増加という現実があったのも事実である。もちろん、ユーザーに責任転嫁をするつもりはまったくないが、今回の件は燃費との向き合い方、ひいてはクルマとの向き合い方をもう一度考え直すいい機会になるような気がしている。

 世界にはいま12億台のクルマが走っている。それぞれが1%燃費を改善すれば1200万台分!の燃料を節約できるわけで、そう考えれば「わずかな燃費差」にこだわるのは絶対的な正義だ。しかし僕はクルマを燃費で選んだことはない。燃費なんてどうでもいいと考えているのではなく、好きなクルマ、楽しいクルマ、自分に似合うクルマ、気分を上げてくれるクルマに乗りたい、そのうえで燃費がよければラッキー、ぐらいの気持ちということだ。

 燃費低減は絶対的な正義と言いつつ自分は好きなクルマを選んでるって? それって無責任な総論賛成各論反対だよね…と言われたら返す言葉はない。その通りだ。けれど考えを改めるつもりはない。なぜならクルマが好きだから。燃費だけをモノサシにするなん、栄養があれば食事なんてなんでもいい、寒さを防げれば服なんてなんでもいいと言うのと同じ。全体主義の臭いすら漂うこの考え方を到底受け入れることはできない。たとえば新しいポルシェ911は楽しさを維持しつつ燃費を10%も向上してきた。これこそが技術の本質だ。わずかな燃費差を競うのではなく、魅力と燃費をいかに高い次元で両立していくかがメーカーの腕の見せ所だし、われわれユーザーもそこに注目したクルマ選びをしていきたいものだ。


PORSCHE 911 CARRERA
ポルシェ・911カレラ

カレラ911S クーペ(左)/カレラ911 カブリオレ(右)

911カレラの全モデルにターボ搭載

 現行911が登場したのは2011年。今回のマイナーチェンジはタイミング的にはルーティンだが、ポルシェファン、911ファンにしてみれば天変地異とも言うべき重大なマイナーチェンジとなった。というのも、911としては初めて、全モデルにターボエンジンが搭載されたからだ。

 以前から911にターボモデルはあったが、「911ターボ」は高価な超高性能モデルという特別な位置づけであり、他のモデルはすべて自然吸気エンジンを積んでいた。ところが今回、エントリーグレードのカレラまでもがターボ化され、水平対向6気筒という基本レイアウトは変わらないものの、カレラの3.4ℓとカレラSの3.8ℓはともに3ℓターボとなった。

 狙いは燃費とパワーの両立。いわゆるダウンサイジングターボコンセプトだが、ポルシェは「ライトサイジング」と呼んでいる。ライトとはlight=軽い、ではなくright=適切な、という意味。様々な排気量を検討した結果、実用燃費とパフォーマンスのバランスがもっとも適切だったのが3ℓターボだったという。

 自然吸気と比べるとパワーもトルクも大幅に向上しているが、僕が気にしていたのはピークパワーではなくフィーリング。ポルシェのフラット6でしか味わえないあのカミソリのようなレスポンスと官能的なサウンドがターボ化によって失われてしまったのではないかと、おそるおそる試乗に臨んだ。

 しかし、新しい3ℓフラット6ターボは相変わらず刺激的で官能的なエンジンに仕上がっていた。おそらくなんの予備知識も与えられず試乗したらターボであることに気付く人はほとんどいないだろう。とくに4,500rpm以上回したときのレスポンスと高周波サウンドはもう最高。それでいて実用燃費は約10%向上している。時代は変わっても911は最高のエンターテイナーであり続けるんだなと、心底ほっとして試乗を終えたのだった。

911カレラ、911カレラSともに最高出力は先代を20ps(15kW)上回る。最高エンジン回転数は、従来のターボエンジン車の常識を凌ぐという7,500rpm。PDKと7速MTが用意された。また、新開発のポルシェ・コミュニケーション・マネージメントシステム(PCM)を標準装備。スマホ感覚の7インチのマルチタッチスクリーンで「Google Earth」や「Google Street View」、iPhoneを接続して「Apple Car Play」を利用することも可能になった。

ポルシェ・911カレラ

車両本体価格:13,091,000円(911カレラ/PDK、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,505×1,835×1,295
エンジン:水平対向6気筒直噴ツインターボ 総排気量:2,981cc
車両重量:1,450kg 最高出力:272kW(370ps)/6,500rpm
最大トルク:450Nm/1,700~5,000rpm
最高速度:293km/h 0-100km/h加速:4.4秒(4.2秒*SPORT PLUSモードの場合)

MERCEDES-BENZ MERCEDES-AMG A45 4MATIC
メルセデス ベンツ・Mercedes-AMG A45 4MATIC

進化を遂げた骨太で上質な走り

 3年前に乗ったときは、速いけれど荒っぽいクルマだな、ぐらいにしか思っていなかった。ところが久しぶりに乗ってみてびっくり。昨年11月のマイナーチェンジによって別物といってもいいぐらいに進化していたからだ。

 AMG・A45 4マチックは、メルセデスの高性能バージョンであるAMGのエントリーモデルという位置づけ。ベース車のAクラスが300万円を切ることを考えれば713万円という価格は目の玉が飛び出るほど高い。けれど、AMGに興味がある人たちからは「AMGなのに安い」と解釈され、セカンドカー需要を中心に好調な売れ行きを示しているのだという。たしかに、より高価なAMGを所有している人が、普段使いや奥様用に買ってあげるにはお手頃なのかもしれない。

 けれど、そんなお金持ちの世界での立ち位置なんかより、僕がお伝えしたいのはこのクルマがもつ走りのポテンシャルだ。走りはじめて最初に感じたのはボディの剛性感が大幅に向上したこと。サスペンションの動きもスムーズになったため、路面の凹凸に対し足がきれいに動く。トランスミッションの変速マナーもかなり改善された。もはやかつて感じた粗っぽさはきれいさっぱり消え去り、AMGらしい骨太な上質感だけが残った。

 2ℓ直4ターボは381ps/475Nm。2ℓでBMW・M2クーペの3ℓ直6ターボを凌ぐスペックを実現していることも驚きに値するが、このエンジンの魅力はスペック以外のところにもある。4気筒でありながら回転フィールはスムーズだし、〝咆哮〟という言葉が相応しいサウンドも痛快そのもの。2ℓ4気筒でよくぞここまで仕上げたなと感心した。さすがに艶やかさという点ではM2クーペの直6に軍配があがるが、強大なパワーを4輪に分散して路面に伝える分、雨天時などの安心感はA45の勝ち。装備を簡略化し500万円台を実現した100台限定モデル「レーシング エディション」も要注目だ。

最高出力は、量産4気筒ターボエンジンとしては世界一パワフルだったという先代の360ps(260kW)から381ps(280kW)に向上し、圧倒的な動力性能を実現。マフラー内のフラップにより、エグゾーストノートを切り替えるシステムを標準装備し、「Comfort」「Sports」モードでは落ち着いたサウンドを、「Sports+」「Individual」モードではフラップが開き、エモーショナルなサウンドを響かせる。

メルセデス ベンツ・Mercedes-AMG A45 4MATIC

車両本体価格:7,200,000円(税込)
全長×全幅×全高(mm):4,370×1,780×1,420 車両重量:1,560kg
定員:5名 エンジン:DOHC直列4気筒ターボチャージャー付
排気量:1,991cc 最高出力:280kW(381ps)/6,000rpm
最大トルク:475Nm(48.4kgm)/2,250~5,000rpm
JC08モード燃費:12.6km/ℓ 駆動方式:全輪駆動(4WD)

TOYOTA ESTIMA HYBRID
トヨタ・エスティマ ハイブリッド

イカつさとは無縁のミニバン

 2006年の登場から10年経ったエスティマがマイナーチェンジを受けた。10年といえばもうとっくにフルモデルチェンジを受けていてもいい時期なのに、トヨタはこの老兵をしばらく売り続けたいようだ。

 フロント周りを一新したスタイルはなかなか素敵だ。投資を抑えながらとても効果的なデザイン変更をしたなと感じた。LEDランプを組み込んだスリークな顔がエスティマの美しい流線型スタイルによくマッチしている。

 実に高級ミニバンの世界では弁当箱のような四角いボディにこれでもかというほどの大きなメッキグリルを付けたアルファード/ヴェルファイアが不動の地位を築いている。ホンダはそれに対抗すべく超低床パッケージのオデッセイを開発した。けれど、ミニバンに厳つさとかスポーティーさは求めてない人も確実に存在していて、そういうセンスの人たちがエスティマを買い続けているのだ。その数月間約2,000台。トヨタにとってこの数字は「フルモデルチェンジの投資が回収できるほどではないが、かといってやめてしまうのももったいない」というレベルなのだろう。

 3.5ℓV6は廃止されたため、試乗したのは2.4ℓ直4を積むエスティマと、同エスティマ・ハイブリッドの2台。結論から言うと、おすすめはハイブリッドだ。乗り心地は滑らかで上質だし、モーターのアシストが加わるため動力性能にも余裕がある。決して力強いとかキビキビ走るクルマではないが、ゆったりのんびり走る分には不満はないし、ミニバンはこれでいいと思う。その点、エスティマの乗り心地には問題あり。18インチタイヤ(ハイブリッドは17インチ)が悪さをして荒れた路面ではガタピシした安っぽい乗り味になってしまう。エスティマとエスティマ・ハイブリッドの価格差は80~100万円と決して小さくない。エスティマを買うなら標準の18インチタイヤではなく、レスオプションの17インチの選択を強くおススメする。

デザイン面ではフードやグリル、フェンダーを中心にフロントビューを一新したほか、サイドビューをより伸びやかにするなど、独自の存在感を強調するデザインを追求した。外板色には、ミニバン初のツートーン仕様をオプションで設定。また衝突回避支援パッケージ「Toyota Safety Sense C」を全車標準装備、360度全方位のUVカットガラス採用(三角窓を除く)など、安全性や快適性を充実させている。

トヨタ・エスティマ ハイブリッド

車両本体価格:4,928,727円(HYBRID AERAS PREMIUM-G/
E-Four/7人乗り、税込)*北海道地区・沖縄地区は価格が異なります
全長×全幅×全高(mm):4,820×1,810×1,760
エンジン:直列4気筒DOHC 総排気量:2,362cc
乗車定員:7名 車両重量:1,990kg
【エンジン】
最高出力:110kW(150ps)/6,000rpm
最大トルク:190Nm(19.4kgm)/4,000rpm
【モーター】
最高出力:フロント…105kW(143ps)/リヤ…50kW(68ps)
最大トルク:フロント…270Nm(27.5kgm)/リヤ…130Nm(13.3kgm)
JC08モード燃費:18.0km/ℓ 駆動方式:E-Four(電気式4輪駆動方式)

VOLKSWAGEN GOLF GTI(M/T)
フォルクスワーゲン・ゴルフ GTI(M/T)

GTIとRに6速MTが追加

 AT車比率はおそらく95%を超えているだろう。そんな時代に好きこのんでMTに乗る人は変わり者なのかもしれない。しかし、だからといってMTの存在意義はないと言い切るのはちょっと違うよね、というのが僕の考えだ。むしろもっと多くの人にMT車の楽しさを知ってもらいたいとすら思っている。事実、このところ2台続けてMT車に乗ってきた経験から言うと、嫌だな、面倒だなと感じる機会より、楽しいなと感じた場面のほうが圧倒的に多かった。長い渋滞では嫌気が差すこともあったが、エンジンと対話をしつつ手足を駆使して走らせる楽しさは格別。こればかりはATでは絶対に味わえない。「機械任せにすればいいことをわざわざ手足を使ってやる」のではなく、「機械任せにせず自分でコントロールする」ことに楽しさがあるのだ。

 ゴルフGTIといえば高性能FF車の代名詞。日本ではDSGしか選べなかったが、嬉しいことに6速MTモデルが追加された。

 重すぎないクラッチペダルを踏み込み、ゴルフボールを模したディンプル付きシフトノブを1速に。現代のターボエンジンとMTの組み合わせは想像以上に扱いやすく、ラクをしようと思えば1ー3ー5速という飛ばしシフトも使えるし、高速道路では6速に入れっぱなしでほぼ事足りる。一度ATに乗ってしまうとMTがとんでもなく面倒な乗り物に思えてくるが、案ずるより産むが易しというのが実際のところで、いざ乗ってしまえば意外にラクに運転できるなと感じるだろう。一方、呼吸が合わないとシフト操作時にギクシャクするようなケースも。しかしこれが楽しいのだ。ゴルフやテニスだって、うまくいかないことがあるからもっと練習をしようと思うし、練習の結果ナイスショットの確率が上がるのが楽しい。MT車の運転もそれと同じ。運転する行為そのものがスポーツ感覚なのだ。ゴルフGTIのMTは、そんな楽しさを味わうのに最適な一台である。

MT化にあたっては、搭載エンジンやサスペンションを特段変化させず、DSGモデルと同じ仕様とした。安全面では、「ブラインドスポットディテクション(後方死角検知機能)」「リヤトラフィックアラート(後退時警告・衝突軽減ブレーキ機能)」などを標準装備。Golf GTIの他に「Polo GTI」「Golf R」でもMTが選択できるようになった。

フォルクスワーゲン・ゴルフ GTI(M/T)

車両本体価格:3,899,000円(6速MT、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,275×1,800×1,450
車両重量:1,390㎏ 定員:5名
エンジン:直列4気筒DOHCインタークーラー付ターボ(4バルブ)
総排気量:1,984cc
最高出力:162kW(220ps)/4,500~6,200rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/1,500~4,400rpm
JC08モード燃費:16.0km/ℓ 駆動方式:前輪駆動

文・岡崎五朗


Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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