FEATURE1 燃費競争がもたらした功罪

 ここ十数年の間、燃費が自動車にとって極めて重要な要素となってきた。思い起こすと、1997年12月の京都議定書が始まりだった。

 地球温暖化防止条約が締結され、未来の地球環境に警告が発せられた。クルマは製造時でも、走っている時でも化石燃料を大量に消費する。京都議定書では6つの温室効果ガスが規定されたが、クルマの場合は二酸化炭素が多く排出されてしまう。しかし環境問題が騒がれた90年代以前からオイルショックで石油価格が高騰し、資源に乏しい日本は経済活動の危機となったことがあった。自動車の燃費を向上させるのは、オイルショックと温暖化防止という両面から取り組むべき重要課題であったのだ。

 プリウスは京都議定書に間に合うように1997年から市販された。最初はトヨタのハイブリッドシステムに懐疑的だったが、フルモデルチェンジの度に進化し、ついに四代目では、走り屋の私でもほしいと思うようなクルマになった。欧州ではディーゼル車、日本ではハイブリッドやコンパクトカーが売れるようになった。それはそれで健全な燃費向上の技術競争だったのだ。

 しかし、自動車の省エネ法が制定され、さらに燃費のトップランナーには減税というご利益が与えられた。そのころからクルマを売り易くするために、燃費競争が激化し、軽自動車のようにエンジンの排気量が小さいクルマでは不毛な競争が始まってしまった。コスト面あるいはスペースの問題で本格的なハイブリッドや、ディーゼルエンジンは搭載しにくい。ボディサイズも規格で決められており、エンジンも660㏄以内となっている。自由度がない軽カーの燃費は改善するにも限界があったと思う。

 社会問題にまで発展した燃費不正の背景にはこんな事情があったのだ。

 しかし環境問題を考えるとき、その本質を見つめる必要があるだろう。自動車が消費するエネルギーは製造から廃棄まで考える必要があるし、長く乗るクルマほど、資源の無駄は省けるのだ。みんなが気にする燃費の正体は走っている時に排出したCO2の量である。つまり燃料消費量なのだが、クルマは多用に使われているので、成し得た仕事量と消費したエネルギーの関係で効率を計算しないと不公平になる。たくさんの人間を乗せて走ったときの燃費と一人で乗ったときの燃費では意味が違う。また、プリウスのような優秀なエコカーだけでなく、燃費の悪いクルマを改善したほうが、正味のエネルギー消費量は下げることができる。

 カタログ燃費はあくまでも目安であって、自分の使い方をしっかりと考えてからクルマを選びたい。

文・清水和夫

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