クーペ・スタイルを纏った2.0ℓのロードスターMAZDA MX-5 RF

次のRHT(リトラクタブル・ハードトップ)はもうめちゃめちゃカッコいいですよ!

 昨年5月のソフトトップの試乗会から少し経った頃、旧知のマツダ関係者は小声で、けれども心の底から嬉しそうな顔で教えてくれた。NDロードスターにRHTが追加されるかどうか、それまでマツダは明言を避けていた。「そんなこと言ってしまっていいんですか?」

 「実はソフトトップ車のヒューズボックスにRHTと書かれた場所があることをユーザーが発見してネットに書いちゃったんですよ。なのでもう隠す意味がなくなりました」

 このあたり実にマツダらしい笑い話だが、ビジネス的に見てもRHTの存在は必須だった。なぜなら、販売されたNC型ロードスターの半数以上がRHTだったからだ。

 そんななか、ニューヨーク国際モーターショー開幕前夜にお披露目されたモデルは、RHTではなくRFと名付けられていた。RFとはリトラクタブル・ファストバックの略。オープン時にフルオープンとなるRHTと違い、ルーフを開けても、なだらかに傾斜したファストバックスタイルのピラーが残るのが特徴。RHT後継モデルがまさかこんなスタイルになるとは想像すらしていなかった。

 なぜピラーを残したのか。最大の理由はパッケージングだ。NDは軽量化と運動性能向上を狙いホイールベースをNCより短くした。そのせいでルーフをまるごと収納するスペースがなくなってしまったのだ。荷室容量を犠牲にすれば収まるが、開発陣にその選択肢は端からなかったという。続く検討の過程で8分割構造にすれば収まることがわかったが、それも重量とコストと見栄え(パーティングラインだらけになる)を理由に却下された。

 ならばどうする? 解決の糸口はピラーを収納しなければならないという縛りを解くことにあった。「ピラーを邪魔者扱いするのをやめ、逆にピラーを残すことでどんな付加価値を与えることができるのかを考えました。その結果生まれたのがこのファストバックスタイルです。ファストバックは誰もの心のなかにあるスポーツカーの姿であり、普遍的な魅力があります。そこにロードスターらしい開放感を与えることができれば、まったく新しい世界観をつくることができるはず。逆転の発想ですね」(中山 雅チーフデザイナー )

 ルーフは前中後の3分割式で、完全電動。開閉時間はわずか12秒で、なおかつ10㎞/h以下なら走行中でも作動する。オープン時はルーフとリアウィンドウが開き、太陽の光と後方からの排気音を楽しめるそうだが、実車に試乗していないため、実際のところどうなのかはまだわからない。ただし、社内の評価会では誰からも不満が出なかったばかりか「これなら欲しい」という声が相次いだという。

 実際、RFのスタイルは美しく、エレガントで、セクシーだ。真横から撮った写真を見るとややズングリしているように感じるかもしれないが、全高はソフトトップより5ミリ高いだけ。キャビンを大胆に絞り込み上屋の容積を小さくした効果により、実車を見て受ける3Dの印象は写真で見る以上に低く、かつバランスが取れている。ソフトトップがキャンバス地のスニーカーだとすれば、RFはより上質で大人っぽいレザースニーカーのような雰囲気だ。「収納しきれないピラーを逆転の発想で付加価値として利用する」という狙いは見事に達成されている。

 オープン走行が前提のソフトトップとは対照的に、RFはクローズドスタイルでの走行をメインに考えているため、吸音タイプのルーフライニングやリアホイールハウス内に遮音材を追加し、静粛性を追求。サスペンションと電動パワーステアリングにもRF専用チューニングを施し、ソフトトップ車より落ち着きのある上質な乗り心地を実現したという。

 海外向けには1.5ℓ版も用意されるが、日本仕様は2ℓのみ。1.5ℓを積むソフトトップ車とはエンジン面でも差別化を図った。とはいえ排気量アップによるプラスαの動力性能は尖った速さのためではなく、走りの余裕に振り向けているとのこと。デザインや快適性へのこだわりを含め、史上もっとも大人っぽいロードスターと言っていいだろう。

 ソフトトップをハードトップに置き換えただけだったRHTに対し、RFにはロードスターの幅をさらに拡げる世界観が備わっている。北米で今夏から予約受注を開始し、日本でも2016年度中には発売される予定だ。

文・岡崎五朗

MAZDA MX-5 RF(マツダ ロードスターRF)
エンジン:SKYACTIV-G 2.0
最高出力:155HP/6,000rpm
最大トルク:148ft-lb/4,600rpm
*数値は参考出品車の開発目標値です。

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