岡崎五朗のクルマでいきたい vol.80 リーフ vs 180SX

 日産リーフのCMが話題になっている。’80年代後半から’90年代にかけて高い人気を誇ったスポーティークーペ「180SX」とリーフを競争させ、リーフが180SXをぶっちぎるという立て付けだ。

 なんでこんなCMを流しているのだろう、とあっけにとられた。そこで日産の担当者に狙いを聞いてみたところ、意外な答えが返ってきた。

 「市場調査をしたところ、電気自動車は遅い、走らないというイメージがあるので、それを払拭するためにあのCMをつくりました」

 僕はリーフに乗ったことがあるから、発進直後の加速が優れていることはすでに体感済み。だが、リーフに乗ったことがない一般ユーザーの多くは、リーフのことを遅くてかったるくて退屈なクルマだと見ていて、それがリーフが思うように売れない大きな原因になっているというのが日産の揺るぎない考えのようである。でなければわざわざCMをつくって出足のよさを訴求したりしないだろう。

 本当にそうなのだろうか? いやいや、ちゃんとした調査の結果なのだから本当にそうなのだとは思う。けれどそれが、失敗とまでは言わないけれど、リーフが思ったほど売れていない最大の理由だとする「考え」に僕は反対だ。

 リーフの販売が伸び悩んでいるのは、そもそもリーフを大量に販売しようとしたことにある、と僕は思っている。航続距離が短く、値段が安いわけでもなく、急速充電器で充電している無遠慮なPHVオーナーに腹を立てさせられ…そこまでしてなぜわざわざリーフを買うのかといえば、EVという存在がカッコいい、EVに乗っている自分が素敵、という気持ちである。そういうマインドをもつ人は、自社の過去の名車を貶めてまでして出足のよさをわかりやすく伝えなければ買ってくれないような人たちとは別世界に住んでいる。少なくとも現段階では、マーケティング用語でいうところのレイトマジョリティにアピールしようとすればするほど、EVに魅力を感じている人たちはシラけることになるだろう。

 日産がなすべきことは安易なCMを流すことではなく、デザイン改革を含め、リーフをよりカッコよく尖らせることにあると思うのだ。


SUZUKI IGNIS
スズキ・イグニス

チャーミングな超高効率コンパクトカー

 イグニス。メーカーはコンパクトカーとSUVのクロスオーバーと言っているが、僕の見方はちょっと違っていて、その神髄は真っ当で健全なコンパクトカーに仕上がっている点にある。見た目にSUVテイストを盛り込んだのは、他車との差別化と昨今のSUV人気にあやかるため。実際のところは、ヴィッツより短い全長3.7mのボディに大人4人を無理なく座らせる、超高効率パッケージングを備えたコンパクトカーである。

 SUVテイストは、180㎜という余裕の最低地上高と、骨太なスタイリッシュさ、そしてイマドキ感に貢献した。その反面、全高が1,595㎜になってしまったのは惜しいところだ。都市に住む人にとってタワーパーキングの利用は日常であり、全高が1,550㎜以下なら場所を選ばず停められる。あと20~30㎜車高を落とし、かつルーフアンテナをやめてガラスプリントタイプにすればその問題はクリアされる。イグニス・スポーツとかイグニスRとか…ネーミングはどうでもいいが、車高を落としてスポーツ性を高めてタワーパーキングを選ばないモデルを追加してみても面白いかもしれない。ターボとMTの組み合わせになったりしたらもう最高だ。

 それはともかく、フロンテクーペをはじめとする過去のスズキ車をモチーフとしたディテール、高級素材の代わりに細部にわたるデザインへのコダワリによって安っぽさを完全に排除したインテリア、気持ちよく回るマイルドハイブリッドを採用した4気筒エンジン…僕はイグニスを大いに気に入った。ハード面では荒れた路面での乗り心地に課題を残しているが、そんなことよりなにより「このクルマで出かけたら楽しそうだな」と思わせるチカラが満ちあふれているのがいい。ただし、5人乗りなのに後席ヘッドレストが2人分しかないのはコスト優先、安全意識の欠如と言わざるを得ない。それを除けば実にチャーミングなクルマである。

日常の使い勝手とレジャー充実を両立させたスタイリッシュなコンパクトクロスオーバー。リヤシートスライドにより、使い方に合わせアレンジできる荷室容量やApple CarPlayに対応したメモリーナビゲーション(オプション)など便利で快適な最新設備を採用。2トーンルーフ仕様も設定した。価格は1,382,400円(税込)から。

スズキ・イグニス

車両本体価格:1,738,800円
(HYBRID MZ*セーフティパッケージ装着車/2WD、税込)
全長×全幅×全高(mm):3,700×1,660×1,595車両重量: 880kg
定員:5人 エンジン:水冷4サイクル直列4気筒 総排気量:1,242cc
【エンジン】最高出力:67kW(91ps)/6,000rpm
最大トルク:118Nm(12.0kgm)/4,400rpm
【モーター】最高出力:2.3kW(3.1ps)/1,000rpm
最大トルク:50Nm(5.1kgm)/100rpm
JC08モード燃費:28.0km/ℓ 駆動方式:前輪駆動

VOLVO XC90
ボルボ・XC90

巨額を投じた、新世代ボルボの第一弾

 宝石のような美しさ。しばしば使われる表現だが、そんな表現を使いたくなるSUVはこいつが初めてだ。最近では乗用車化が進んでいるが、「SUVテイスト」の意味するところは依然としてタフさであり、それを表現するべく無塗装樹脂のバンパーやフェンダーが使われるケースも多い。

 ところが新型XC90には悪路への憧憬がほとんど感じられない。4WDや225㎜という本格SUV並みの最低地上高によって機能面ではSUVらしさをしっかり担保しているけれど、少なくともデザイナーの意識に「悪路走破性」「タフさ」といったキーワードはなかったのではないか。それどころか、あえて排除したとすら思えるほどXC90のデザインはシンプルだ。それでいてうっとりするほど美しい塗装と、一見シンプルだがよくよく眺めると高度に複雑な面構成が質の高さをアピールする。表現する言葉をいろいろ考えていたら「センシュアル」という言葉が浮かんできた。セクシーとも近い言葉だが、センシュアルはより内面的な要素を含む。

 インテリアはスカンジナビアンデザインの真骨頂。徹底的に清潔なのに暖かみのある雰囲気がドイツ車との圧倒的な違いだ。中央にタッチパネル式液晶スクリーンを置くことで、操作ボタンを極限まで減らしたのもシンプルさに貢献している。このインテリアと、オプションのバウワース&ウィルキンス社製オーディオの臨場感溢れるサウンド、SUVとしては一級品の快適性(身長170㎝まで対応)をもつサードシートはぜひ体感することをおすすめする。

 試乗したのはT6インスクリプション。ボルボらしく長距離、長時間走行時の疲れにくさは天下一品。加えて、2トンを超える大柄なボディにもかかわらず、山道ではびっくりするほど軽快な走りをみせる。PHEVモデルも選べるが、ディーゼルエンジンが加わればさらに多くの人にアピールするだろう。

最上級7人乗りSUVであるXC90が、12年ぶりにフルモデルチェンジ。1兆3,000億円超もの投資による構造改革を行ったボルボが生み出した最初のモデルとあって注目を集める。自動運転や電動化を見据えた新世代プラットフォームを初めて採用し、2つの世界初となる安全技術も標準装備。世界中で50以上の賞を受賞するなど、その実力は高く評価されている。

ボルボ・XC90

車両本体価格:9,090,000円(T6 AWD Inscription、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,950×1,960×1,775
車両重量: 2,080kg 定員:7人
エンジン:インタークーラー付ターボチャージャーDOHC水冷直列4気筒
総排気量:1,968cc 最高出力:235kW(320ps)/5,700rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2,200-5,400rpm
JC08モード燃費:11.7km/ℓ 駆動方式:AWD

LEXUS LX570
レクサス・LX570

ランクルがルーツのレクサス

 ドイツのプレミアムブランド御三家に追いつけ追い越せと、鬼気迫る勢いでデザインとハードウェアの磨き込みをしているレクサス。各モデルへの積極的なハイブリッド搭載に加え、レーザースクリューウェルディングや構造用接着剤といった、生産技術にまで踏み込んだ「いいクルマ作り」への執念は、レクサス各車のレベルを確実に引き上げてきている。

 そんななか、LX570は異色の存在だ。他のレクサス車がトヨタ車と距離を置くことを是としているのに対し、LXにはランドクルーザー200という明確なベース車がある。巨大なスピンドルグリルが付いているものの、基本的なメカニズムは同じ。ハイブリッドもなければ、レーザースクリューウェルディングや構造用接着剤の使用もない。エンジンの排気量が4.6ℓから5.7ℓに、ATが6速から8速になってはいるものの、突き詰めて言えばLXはランクル200のレクサス版なのである。それでいて価格は1,100万円! 装備やパワートレーンの違い、内装の質感向上分を考慮に入れても、「レクサスのバッジ代」はざっと200万円になる。

 これを「ブランド商法」と批判するのは簡単だが、僕は「あり」だと思っている。まず、ランクル200と同じハードウェアを使っていることは「手抜き」なんかじゃなく、世界最高の悪路走破性とタフさを備えていることを意味する。フレーム式シャシーはレーザースクリューウェルディングや構造用接着剤なんてそもそも必要ないほどに頑強なのだ。次に、乗ってみるとパワートレーンの変更が効果的に乗り味を引き上げていることに気付く。排気量の増大とATの8速化は単に加速性能を向上させただけでなく、ゆったりとクルージングしている際の余裕を増し、レクサスらしい上質感を生みだした。そんな実質的価値がまず存在し、その上にレクサスブランドがのったのがLX570。昨年9月の発売以来、納車待ちが出るほどの人気ぶりだという。

北米やロシア、中近東で人気の新型LXが日本でも発売。3列目シートを配したレクサス初の8人乗りで、長さ5m超、高さ2m近くという堂々とした体躯だが、オンロードでの取り回し性にも配慮されている。また、座席や各所の冷暖房機能を一括して連動・作動させる「レクサス クライメイト コンシェルジュ」、降車時に自動で車高調整を行う「乗降モード」など快適性を高める機能も標準装備した。

レクサス・LX570

車両本体価格:11,000,000円(税込)
全長×全幅×全高(mm):5,065×1,980×1,910 車両重量: 2,720kg
定員:8人 エンジン:V型8気筒DOHC
総排気量:5,662cc 最高出力:277kW(377ps)/5,600rpm
最大トルク:534Nm(54.5kgm)/3,200rpm
JC08モード燃費:6.5km/ℓ 駆動方式:4輪駆動

PORSCHE BOXTER SPIDER
ポルシェ ボクスター スパイダー

ラストチャンスの6気筒ボクスター

 ダウンサイジングターボの流れがついにポルシェにまで及んできた。ポルシェはダウンサイジングではなくライトサイジング(適正サイズ化)と呼んでいるが、つい先頃、看板モデルの911が小排気量ターボ化された。とはいえ911は伝統の水平対向6気筒のまま。もっとも興味を引かれている、というか戦々恐々としているのが、水平対向4気筒ターボ化されることが公式に発表されたボクスターとケイマンである。精密機械のような緻密な回転フィールのなかに魂の叫びを入れ込んだ珠玉の水平対向6気筒自然吸気エンジン。あれが失われたらいったいどうなってしまうのか。そんな不安と、いやいやポルシェのことだからきっと4気筒ターボでも酔わせてくれるに違いないという希望。両者が入り交じった複雑な気持ちを抱きつつ、新車で手に入るラストチャンスになるかもしれない自然吸気水平対向6気筒搭載ボクスターに試乗した。

 試乗したのはスパイダー。簡易型のソフトトップやリアウィンドウの樹脂化などにより大幅に軽量化したボディに強化サスと強力なエンジンを搭載した、もっともスポーツ度の高いボクスターだ。というとスパルタンなイメージを持つかもしれないが、そこがポルシェマジック。走りのタッチは驚くほど上質に仕上がっている。低速域ではさすがに硬めだが、それでもボディはミシリともいわないし、伝わってくるショックもしっかりと角が丸められている。そして速度を上げていけば路面にピタリと張り付くかのようなフラットな姿勢と正確無比なステアリングがドライバーのスポーツスイッチをオンにする。3.8ℓフラット6も信じられないほどの気持ちよさであり、軽量化のために遮音材を省いたことをポルシェからの素晴らしいプレゼントだとすら感じた。4気筒ターボになっても素晴らしいエンターテインメント性を残してくれたらいいのだけど…そう切実に思った。

ヘッドレストの後ろからリアエンドにかけて、二つの膨らみが徐々に小さくなっていくという、’60年代の718スパイダーを彷彿とさせるデザイン。911カレラにも採用されているブレーキ、3.8ℓ6気筒エンジンの採用などによって、スポーツカー特有の伝統的ドライビングと現代的パフォーマンスを同時に堪能できる。

ポルシェ ボクスター スパイダー

車両本体価格:10,120,000円(税込)
全長×全幅×全高(mm):4,414×1,801×1,262
エンジン:水平対向6気筒 直噴DOHC
総排気量:3,799cc
最高出力:276kW(375ps)/6,700rpm
最大トルク:420Nm/4,750-6,000rpm
0-100㎞/ h加速:4.5秒 
最高速度:290km/h 駆動方式:MR

文・岡崎五朗


Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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