岡崎五朗のクルマでいきたい vol.78 エキサイティングな時代の始まり

 暖冬の影響でワシントンの桜が12月に咲いたそうだ。タイでは干ばつ、インドでは大雨、他にも世界各地で異常気象が続いている。

 昨年(2015年)はエルニーニョ現象も過去最大になったらしい。

 もともとクルマの環境問題は毒性の強い物質を減らすことから始まった。まずは一酸化炭素が問題になり、続いて光化学スモッグの原因になる炭化水素と窒素酸化物がクローズアップされた。しかし今は、それ自体にはまったく毒性はないものの温暖化の原因となる二酸化炭素が大きな問題になっている。

 ところが、二酸化炭素は息を吐いても出る。暖を取るために薪を燃やせばもっとたくさん出る。もちろん、クルマに乗ればさらに出る。つまり人間の生活レベルとイコールなのが二酸化炭素問題の難しさだ。

 将来を考え、クルマに乗らないという選択肢もあるだろう。大きくて重くて速くて豪華なクルマから、軽くて小さくて遅くて質素なクルマに乗り換えるのもひとつの方法だ。しかし、LEDライトの普及によって明るさを保ったまま大幅な省エネができたように、クルマにも技術革新の波が押し寄せている。ハイブリッド、ダウンサイジングターボ、クリーンディーゼル、電気、プラグインハイブリッド、燃料電池…。自動車の歴史上、これほど多くのパワートレーンが選択肢として提示されたことはなかった。

 しかし、それは同時に選ぶ側にも高い見識が求められることを意味する。自分に適したパワートレーンはどれなのか。使用パターンやトータルコストなどを勘案しつつ結論を出すのはとても難しい作業だ。もちろん、果たしてあなたは小さくて遅くて質素なクルマで満足できるのですか? という、欲望との折り合い付けも必要になってくる。

 おそらく今後10年間ぐらいは人間と地球、人間と環境といった問題を、学問的レベルではなく、人々の意識レベルで整理整頓していく期間になるのではないか。それはまさに、豊かさや幸福感の絶対量をキープしつつ、その中身と在り方を変えていく知恵の勝負のスタートに他ならない。ああ考えただけでゾクゾクする。そう、いまわれわれは最高にエキサイティングな時代を生きているのだ。


HONDA CIVIC TYPE-R
ホンダ シビック タイプR

歴代TYPE R、最高の性能 750台限定発売

 走りはじめた瞬間からただ者ではないことがわかった。いや、それよりもっと前、シートに座りステアリングに指を絡めたときから、僕の感覚は、このクルマに潜むある種の「本物感」を嗅ぎ取っていた。

 シビック・タイプRは、ホンダの量産車種であるシビックに、ホンダのレーシングスピリットを注ぎ込んだモデル。ハードな乗り心地と引き替えに、最高の速さと最高の刺激性をリーズナブルな価格で味わえるモデルとして人気を得てきた。今回登場したのはタイプRとしては4代目。いま日本国内でシビックは販売されていないため、新型タイプRは欧州向で製造販売している欧州シビックがベースとなる。巨大なリヤスポイラーや太いタイヤなど、タイプR専用パーツを与えられているものの、注目したいのはベースモデルのカッコよさ。好みは別れるかもしれないが、こういう若々しくスポーティーなシビックが海外だけで販売されているというのは、日本人としては何とも残念だ。

 それはともかく、タイプRのコアバリューはその走りにある。ニュルブルクリンク最速FF車を開発目標のひとつに掲げ、シビック・タイプRとしては初のターボエンジンを搭載。強力なパワーに対応すべく、ボディ、サスペンション、空力を徹底的に磨き上げた。ボディの強靱さはドアを閉めただけで伝わってくるし、ステアリングの支持剛性やシートの取り付け剛性もハンパじゃない。

 もちろん、走りも素晴らしい。ひと昔前まではFFが消化できるのはせいぜい200ps程度といわれていたが、タイプRのシャシーは310psをしっかり手なずけている。加速性能やコーナリングスピードは一級品のスポーツカー。それでいて、歴代シビック・タイプR最高の乗り心地さえ備えている。問題は750台限定という売り方。抽選倍率は約10倍になったという。日本のユーザーをちょっとばかり軽視しすぎではないだろうか。

効果的なダウンフォースを得られるよう、巨大なリアスポイラーも1°刻みでチューニング。空力性能を徹底的に追及し、ニュルブルクリンク北コースでの走行テストでは、それまでFF量産車で最速だったルノー・メガーヌRSを上回る7分50秒63のラップタイムを記録した(2015年10月)。ホンダのイギリス法人が生産し、日本に逆輸入する形をとっている。

ホンダ シビック タイプR

車両本体価格:4,280,000円(MT、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,390×1,880×1,460
車両重量:1,380kg 定員:4人
エンジン:水冷直列4気筒横置 総排気量:1,995cc
最高出力:228kW(310ps)/6,500rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2,500-4,500rpm
JC08モード燃費:13.0km/ℓ 駆動方式:FF

BMW MINI CLUBMAN

MINI史上最長 サイズと上質感が大きくアップ

 ミニ・クラブマンというモデルは以前からあった。しかし、新しいクラブマンはそうした過去のクラブマンとのつながりを断ち切り、新しいユーザー層の獲得にピタリと目標を定めたモデルだ。

 先代クラブマンは、ミニの全長とホイールベースを延長し、車体右側だけに「クラブドア」と呼ばれる観音開きのサブドアを取り付けていた。ノーマルのミニでは後席への乗り降りがしにくい、スペース的にも不満、という人たちに向けたモデルだったが、変則的なドアは使いにくいし、スペースもノーマルよりは幾分マシ程度。ファミリーカーにバッチリかというと決してそんなことはなかった。

 現行モデルになり、ミニには5ドアモデルが加わったが、それでもスペースの問題は残っていた。その点、新型クラブマンはボディを長さ方向だけでなく横方向にも拡げ、VWゴルフとほぼ同サイズとしてきた。その結果、「大人4人とそれぞれの荷物をのせて長距離を快適に移動する」ことが可能になったわけだ。これだけサイズ感が変わればもはや前モデルとは別物。共通しているのは観音開きのバックドア程度である。

 とはいえ、全体に漂っている雰囲気は紛れもなくミニ。デザインはもちろん、快適性と引き替えにダイレクト感は若干減ったものの、走らせて楽しいミニらしさは健在だ。

 残念だったのは、せっかく優れたユーティリティーを手に入れたのに、リアシートの座り心地がプアーなこと。4人で長距離移動できるのがそもそもの狙いなのだから、リアシートが快適じゃないのは存在意義に関わる。これは早急に改善を望みたい。なお、キャラが被る部分が多いクロスオーバーとの棲み分けについて、メーカーは「クロスオーバーはより若い人向け」と説明している。たしかに乗り味を含めた各部の質感はクロスオーバーよりクラブマンが上。アラフィフの僕は迷うことなくクラブマンを選ぶ。

MINI初となるプレミアム・コンパクト・セグメントとしてフルモデルチェンジ。小回りの良さはそのままに、荷室容量は360ℓから最大1,250ℓまで調整でき、クラブマン専用に新しく設計されたインテリアは上質感を演出している。また、荷物などで両手が塞がってリアのスプリット・ドアを開けられない時に、足を車両の下に出すだけで一度目は右側、二度目は左側が自動に開くイージーオープナー機能も採用された(オプション)。

BMW MINI CLUBMAN

車両本体価格:3,840,000円(8速AT、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,270×1,800×1,470 定員:5人
エンジン:2.0ℓ直列4気筒MINIツインパワー・ターボ
総排気量:1,998cc 最高出力:141kW(192ps)/5,000rpm
最大トルク:280Nm/1,250-4,600rpm 駆動方式:前輪駆動

MERCEDES BENZ SMART FORFOUR
メルセデス・ベンツ スマート forfour

小回り抜群のスマートに4人乗りRRが登場

 スマートといえば、2人乗りの超小型モデル「フォーツー」のイメージが強い。日本ではあまり売れていないけれど、欧州の都市に行けば、視界のどこかにフォーツーがいるのがごく普通の風景。日本以上に駐車事情の逼迫している彼の地では、全長の短さが大きな武器となっているのだ。

 先頃フルモデルチェンジして3代目となったスマート・フォーツーもそんな特徴をしっかり受け継いできた。全幅は1,665㎜(先代は1,560㎜)まで拡がったが、その分ステアリングの切れ角を大きくでき、結果として小回り性能にはさらに磨きがかかった。3.3mという最小回転半径は驚異的だ。

 しかし、今回注目したいのはもう一台のスマート、フォーフォーだ。その名の通り定員は4人。先代フォーツーはフォーツーとはまったく異なるFF車だったが、新型はフォーツーと同じRRになった。メルセデス・ベンツ日本はフォーフォーを販売の主力と位置づけ、フォーツーは限定販売とした。

 遊び心にあふれたポップな内外装はスマートならではの世界観。決して高級ではないが、安っぽくもない。ファストファッションを上手に利用してお洒落をする感覚に近い…といえばわかってもらえるだろう。

 エンジンはルノー製の1ℓ3気筒自然吸気。実はこのフォーフォーはメルセデスとルノーの協業から生まれたモデルで、次期型ルノー・トゥインゴとは同じプラットフォームを使うことになる。トゥインゴには900㏄ターボが搭載される予定だが、フォーフォーの自然吸気エンジンでも街中をトコトコ走る程度ならとくに不満は感じない。スムーズに変速するDCTも好印象。ただし首都高速のように短い加速車線で本線に合流するようなシーンではモアパワー! と感じることもある。

 フォーフォーになると最小回転半径は4.1mまで増えるが、それでも軽自動車並み。約200万円という価格も魅力だ。

販売不振により、わずか3年で生産終了した過去を持つフォーフォー。今回はおよそ8年ぶりの復活となる。全長は約3.5m、全高は多くの立体駐車場に対応するボディサイズとした。シートポジションが高くウィンドウを大きくとっているため、視界も広い。グレードは、内装がファブリック仕様の「パッション」と本皮仕様の「プライム」の2種類を設定。外装はスマートらしいポップなボディカラーが揃う。

メルセデス・ベンツ スマート forfour

車両本体価格:2,090,000円(passion/RR、税込)
全長×全幅×全高(mm):3,495×1,665×1,544
車両重量:1,005kg 定員:4人
エンジン:DOHC直列3気筒 総排気量:999cc
最高出力:52kW(71ps)/6,000rpm
最大トルク:91Nm(9.3kgm)/2,850rpm
駆動方式:後輪駆動(RR)

BMW X1

FRベースからFFベース仕様へ 室内空間が大幅に拡大

 BMW製SUVのエントリーモデル、X1がフルモデルチェンジした。なにはともあれ、真っ先に喜びたいのがスタイリッシュになったことだ。先代X1はお世辞にもカッコいいとは言えなかった。SUVらしい力強さもなく、かといってスポーティーでもなく…。

 旧型3シリーズのFRプラットフォームを利用して小型SUVをつくるという、当初は想定外だったはずの作業にデザイナーは苦しめられたんだろうなと思う。縦置きエンジンを収める長いノーズと低い車高が、SUVとしてはなんとも中途半端なプロポーションを生みだしてしまっていた。

 その点、新型X1のデザインは悪くない。僕の好みからすると、もう少しワイルド感が欲しいなとも思うが、全体的にはそつなくまとめている。全長が短く、全幅が広く、全高が上がったことに加え、フロント部の厚みが増したことが、SUVらしく見えるようになった理由だ。

 駆動方式は4WDだが、新型X1は2シリーズアクティブツアラー&グランツアラーと共通のFFプラットフォームを使っている。FFベース化は、好ましいプロポーションと同時に高いスペース効率も生みだした。後席はゆったりしているし、荷室も広い。やはりこれぐらいの全長のクルマにとってFFレイアウトは大きなメリットがある。

 となると気になるのは走りだが、アクティブツアラー&グランツアラーによって、FFでもBMWクオリティのドライブフィールを実現できることは実証済み。試乗したのは2ℓターボを積む20iだったが、パワーフィールもフットワークもちゃんとBMWだった。ただし盛大なロードノイズと荒れた路面でのゴツゴツ感は期待外れ。試乗車はオプションの19インチタイヤを履いていたが、標準の18インチのままで乗ることをオススメしたい。大径タイヤはたしかにカッコいいが、X1にはやや荷が重いようだ。

プラットフォームは新型MINIにも採用されているもの。先代モデルよりボディの全長を短く、全高を高めたことにより、取り回しもしやすくなった。エンジンは1.5リッターと2.0リッター。これらに、逞しさを強調した内外装品を採用した「xLine」、ダイナミックなスタイリングと走りを強調した「M Sport」がラインアップされ、計8種類の幅広いモデルを用意した。

BMW X1

車両本体価格:4,920,000円(xDrive20i xLine/8速AT、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,455×1,820×1,610
定員:5人  エンジン:直列4気筒DOHC
BMWツインパワー・ターボ・エンジン
総排気量:1,998cc 最高出力:141kW(192ps)/5,000rpm
最大トルク:280Nm(28.6kgm)/1,250-4,600rpm
JC08モード燃費:14.6㎞/ℓ 駆動方式:4輪駆動
*画像はxDrive25d with xLine

文・岡崎五朗


Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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