My First Love マイ・ファースト・ラブ

 クルマやバイクに興味を持ったきっかけはそれぞれだけど、
初めてクルマやバイクにときめいた気持ちはみんな同じだと思う。


それは子供の頃に夢見たスーパーカーでも、免許を取って最初に運転したバイクでも、大人になって理想のクルマが見つかったときであっても。
夢中になったクルマやバイクのことを喋るとき、ひとはクルマやバイクに恋をしているようにも見える。
クルマやバイクは生活を豊かにする道具ではあるけれど、ときに恋人に抱くような切ない気持ちにさせてくれる…。
今回はaheadにゆかりある方たちが初めてときめいたクルマやバイクについて語ります。

クルマ選びで重要なのは恋する気持ち

 これまでたくさんのクルマを愛車にしてきた。ちゃんと数えたことはないけれど、十数台にはなるだろうか。どれも可愛い奴らだったが、心の底から惚れたのはたった1台だけ。そのクルマの名前はポルシェ911。現行モデルのひとつ前に生産されていた997と呼ばれるモデルだ。

 よほど重要な用事がないかぎり、納車当日に新しく迎え入れた愛車とドライブに出かけることにしているのだが、帰宅してからもずっと一緒にいたいと思い、朝方までガレージにいたなどという経験はあの時が初めてだった。そういうドキドキを再び味わいたいとは思っているけれど、残念ながらいまだチャンスに恵まれていない。

 997に惚れた理由はいろいろあるが、いちばん強いのは「見た目が気に入ったから」という、クルマ評価のプロとは思えないしょうもない感情からだ。もちろん、パフォーマンスを無視したわけじゃない。997の走りは最高に気持ちよかった。けれど、それを言うなら996だって悪くなかった。初期モデルにはあまり感心しなかったが、後期モデルにはポルシェらしいエキサイトメントがしっかりと戻っていた。にもかかわらず僕は996を欲しいと思ったことは一度もない。というのも、見ていてドキドキしなかったから。水冷化した911シリーズの第一弾としてルックス面でも新しいチャレンジをしたかった…というポルシェの意気込みは理解できたけれど、理解と共感は別問題なのである。

 その点、997は違った。まさに一目惚れ。そもそも好き嫌いなどという感情は論理性とは対極にあるものだが、あえて分析するなら、スーパーカーブームのときに憧れを抱いた930ターボの面影がそうさせたのかもしれない。とにかく見れば見るほど心のトキメキが膨らみ、購入に至ったわけだ。

 ちなみに現行911への試乗体験を済ませた今でも997への想いはこれっぽっちも色褪せていない。唯一、タルガにはかなり惹かれているが、値段が高すぎてちょっと手が出ない。現行ボクスターやケイマンの乗り味には心底惚れ込んでいるが、ルックスではやはり997を超えられていない。

 というわけで、ここまで僕の私的クルマ恋愛ネタにお付き合いいただいたわけだが、正直なところ、自分としては皆さんのお役にたつ情報を提供できた自信はまったくない。よく「専門家であるあなたのホンネを聞きたいのです!」と言われるのだが、現行911より997のほうがカッコいいから好き! なんてホンネなど、まったくもってクズのような情報にすぎないわけで…。だから僕は編集部からとくにリクエストがないかぎり、私的価値観を評価基準にしたレポートは書かないことにしている。でなければニュートラルな原稿にはなり得ないから。ある意味、冷徹な評価者に徹するのが僕のポリシーである。たとえば「自分で買うなら○○より××だな。だってカッコいいもん」なんて思ったりしつつ、○○を絶賛する原稿を書くなんてことは日常茶飯事。しかし決して嘘を書いているワケではない。自分の好みを一方的に押しつけても意味がないと考えているだけだ。何を選んだらいいかわからないとか、どちらも同じぐらい気に入っているといった場合に、僕の客観評価を参考にして下さいね、程度のこと。それが、極端なダメ車など存在しない時代の試乗レポートの意味である。

 僕がこの原稿を通して伝えたいのは、いくらハードウェアが優れていても、心に響かないクルマは買うべきではないということ。左脳より右脳、事情より本能で決めたほうが、心の満足感は絶対に高いと断言しよう。

文・岡崎五朗

PORSCHE 911カレラ(997)
ポルシェ911の6代目モデル。996からボディ構造やエンジンなどの基本構造は受け継いだものの、内外装デザインを一新。993を最後に途絶えたポルシェ伝統の丸型ヘッドライトの復活を筆頭に、ダッシュボードやドアアームレストなどの形状も993以前に立ち返り、初期(通称ナローモデル)への原点回帰を図った。
エンジン:水平対向6気筒24バルブ 排気量:3,595cc 
最高出力:325ps(239kW)/6,800rpm
最大トルク:37.7kgm(370Nm)/4,250rpm

「特集 My First Love マイ・ファースト・ラブ」の続きは本誌で

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