femme特集 かわいいorカッコイイ

 かわいいと言う人も、カッコイイと言う人もいるスズキ「ハスラー」は、本格的なSUVのルックスで、老若男女、幅広い層に受け入れられている。

 何においても〝かわいい〟はタブーというイタリアが生み出したチンクとベスパはヨーロッパにしっかりと浸透している。一方、 フランスでは少し前、DS3が〝女性が選ぶ10台〟で1位を獲得した。かわいいやカッコイイにはお国柄の違いが反映される。かわいい、カッコイイって何だろう。

チンクとベスパとイタリアと

 もっともイタリアらしいものを3つ、挙げよと言われたら、私は迷うことなくフィアットの『チンクエチェント』とピアッジオのスクーター『ベスパ』とチョコレート風味のスプレッド『ヌテラ』を選ぶ。フェラーリもあればドゥカティもこの国生まれ、アルマーニからパルマの生ハムまで、それこそイタリア産を挙げたらきりがないが、イタリアらしさが押し合いへし合い、ぎゅうぎゅうに詰まっている、そういう意味でチンクエチェントとベスパとヌテラが私にとってのイタリアなのである。

 この3つに共通するのはまずは歴史だが、歩けばローマの遺跡にぶち当たる国にあっては〝らしさ〟に長さを挙げるときりがない。いや、歴史はすべての前提。築30年のアパートはイタリアでは新築だ。だったらこの国の人間のごとく、憎めないかわいらしさかと言えばそれも違う。イタリアでは〝かわいい〟は誉め言葉ではなくて〝美しい 〟とか〝かっこいい〟に入らなかったときの受け皿。男友達のカノジョを語るとき「かわいい」といったら、それはブスじゃないけど美人じゃないってこと。唯一、かわいいが許されるのは子供だが、子供はみんなかわいく、かわいい子供のなかに 将来、〝美人になりそうな女の子〟と〝かっこよくなりそうな男の子〟がいる。ちなみにかわいいの下に控えるのは〝性格がいい 〟という言い方で、そういえば私は何度もこう言われた。イタリアの皆さん、ありがとう。

 特に工業製品にかわいいはタブーだ。なぜってかわいさは未熟さであり、ガジェットであり、時が経てばしらける。とどのつまり一発もの、歴史を生み出すことがない。工業製品は使い捨てであってはならず、キャラクター製品であってもならない。こういうコンセンサスがしっかり根付いている。カワイイ日本車を見ると10年後に乗っていられるものがどのくらいあるだろうかと私はいつも考えてしまう。

 単純なことを複雑に仕上げるより、複雑なことをシンプルに見せる方がよほど難しい。技術からデザインから味から制作方法まで、考え抜いたことを見せずに、まるでひらめきで作ったかのように仕上げたモノ、それがイタリアらしさだ。初めはポップなレトロに見えた現行チンクエチェントだが、今では欧州の街にスタイリッシュに浸透している。デザインに力があるのだろう。1964年に販売が開始されたヌテラは未だ欧州全体のチョコレート・スプレッド市場を独占する。原材料がはっきりしている、ただの、チョコレート味のスプレッドなのに誰にも作れないのである。戦後すぐに登場したベスパは海辺で風を受けて走ったり、街中をすり抜けるのがピッタリのスクーターだが、メカは航空技術を多用している。『ローマの休日』を見て、このスクーターにそんな複雑な技術が使われているなんて誰が想うだろう。

 チンクエチェントを生み出したのはダンテ・ジアコーザ。ベスパはコラッディーノ・ダスカニオで、ヌテラはピエトロ・フェレロ。いずれも天才と言われた人物。1,000人の凡人よりひとりの天才。1,000回の(結論の出ぬ)会議よりひとりが下す決定。職場で天才はひとり、黙々、図面を引き、凡人は天才を置いて定時に家に帰り、家族と食卓を囲み、バカンスの話をする。これがイタリア。天才のひらめきを凡人が気楽に楽しめるのもまた、イタリアである。

文・松本 葉 写真・渕本智信

FIAT 500C 1.2Pop

車両本体価格:2,505,600円(税込)
総排気量:1,240cc
最高出力:51kW(69PS)/5,500rpm
最大トルク:102Nm(10.4kgm)/3,000rpm

VESPA Primavera 125

車両本体価格:428,000円(税込)
総排気量:124.5cc
最高出力:7.2kW(9.6ps)/7,750rpm
最大トルク:9.5Nm(0.96kgm)/6,000rpm
撮影協力・フィアット横浜港南 住所:横浜市港南区日野中央1-17-1 TEL:045(846)0147 営業時間:10:00~19:00 定休日:火曜日・第1水曜日(祝祭日の場合は営業)

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