岡崎五朗のクルマでいきたい vol.71 アメリカ人の半額以下のクルマに乗る日本人

 先日、新聞記事を読んでいてある数字に目がとまった。北米の新車平均購入価格が3万3000ドルに達しているというのだ。日本円に換算するとちょうど400万円。いくら景気がいいとはいえ、にわかには信じがたい数字である。

 400万円といえばクラウンが買えるわけで、われわれ日本人の感覚からするとかなりぶっ飛んでいる。

 2011年のデータだが、日本の新車平均購入価格は191万円。2014年には軽自動車が初のシェア4割超えを果たしたことを考えると、平均購入価格は2011年と比べて下がってはいても上がってはいないはず。中型車から小型車に、小型車から軽自動車にとダウンサイジング化が進むなか、日本で売れているクルマの平均価格はついにアメリカの半分以下になってしまったということだ

 北米の販売ランキングを見ると、フォードFシリーズやシボレー・シルバラード、ダッジ・ラムといった大型ピックアップトラックが上位を独占。SUVや中型セダンもたくさん売れている。これが果たしていいことかというと、環境問題を含めて考えれば決して理想的な姿ではないだろう。しかし、別の見方をすると、アメリカ人にはまだまだクルマ愛が残っているとも言える。自分が乗りたいクルマ像がしっかりとあり、それを実現するためにはそれなりの対価を支払ってもいいというモチベーションが彼らにはある。クルマなんて走ればいいんだよ、と言って安さと広さと燃費だけで選ぶ人がどんどん増えてきている「クルマ倦怠期」の日本と比較すると、一人のクルマ好きとしてはかなり羨ましい状況ではある。

 日本人とクルマとの倦怠期は今後どうなっていくのだろうか? マツダ・ロードスター、ホンダ・S660といったスポーツカーの登場は明るいニュースだ。けれど、一部のマニア向けのクルマではなく、本当は普通の人が買う普通のクルマがもっともっと魅力的にならないと。ちょっと高いな。でも50万円余計にだしてもいいからこのクルマが絶対に欲しい! そんなふうに思わせる魅力的なクルマを次々と登場させることが、冷え切った関係を雪解けへと向かわせるいちばんの早道だと思うのだ。


TOYOTA COROLLA FIELDER
トヨタ カローラフィールダー

若返りに見るトヨタのカローラ観

 2012年に現行カローラがデビューした際のガッカリ感は、いまでもはっきりと覚えている。没個性なデザイン、安っぽいインテリア、頼りない直進安定性、粗い乗り心地など、見ても乗っても失望の連続だった。決して高級ではないけれど、良心的な作りのよさを感じさせるのが歴代カローラの美点だったのに、それもなくなり、単なるコストコンシャスなセダンになってしまったのだ。

 そういう意味で今回のマイナーチェンジは単なるマイナーチェンジではなく、トヨタがカローラをどう捉えているかを示す非常に重要なイベントになる。さてどうなったか…。トヨタも強い危機感を持っていたのだろう。外観を中心にかなり大きな手を入れてきた。セダンのアクシオ、ワゴンのフィールダーともにフロント周りを一新。新しくなった顔つきからは、若いユーザーに興味をもってもらおうという狙いが伝わってくる。もはやシニア専用車と言いたくなるような雰囲気だったマイナーチェンジ前と比べると、スポーティーさと若々しさは間違いなく増している。欲しいかと聞かれたら、まだまだ全体的な雰囲気が凡庸ですよと答えるしかないけれど、少なくともトヨタがカローラを若返らせようとしていることは理解できた。

 他メーカーに遅れをとっていた先進安全装備の新採用も朗報だ。レーザーとカメラを使って衝突回避支援や車線逸脱警報を実現した「トヨタセーフティセンスC」を多くのグレードに標準装備。全車標準装備でないのは残念だが、大きな前進ではある。
 試乗したのはハイブリッドモデル。動力性能も燃費も満足のいくレベルではあるが、足回りには手が回らなかったようで、とくに乗り心地にはまだまだ課題が残る。約250万円という価格を考えると満足にはほど遠い。

 次期モデルでどれだけ変えてくるか。改良レベルではなく、革命レベルの変化を起こさないかぎり、カローラブランドの本格的復活は望めないだろう。

“安心・実用・扱いやすさ”を優先したクルマとして、時代の変化に合わせながらトヨタが1966年から創り続けてきた車種。今回から導入された「Toyota Safety Sense C」は、トヨタ車として初採用の装備となる。複数の安全装備をパッケージ化したもので、安全運転を多面的に支援するという。内外装はカローラフィールダーが「スポーティ」、カローラアクシオは「モダン」をテーマにデザインされている。

トヨタ カローラフィールダー

車両本体価格:¥2,474,182(HYBRID G“W×B”、税込)
*北海道地区を除く
全長×全幅×全高(mm):4,410×1,695×1,510
車両重量:1,180kg 定員:5人 エンジン:直列4気筒DOHC
総排気量:1,496cc 最高出力:54kW(74ps)/4,800rpm
最大トルク:111Nm(11.3kgm)/3,600〜4,400rpm
JC08モード燃費:33.8km/ℓ 駆動方式:前輪駆動

SUZUKI SX4 S-CROSS
スズキ SX4 S-CROSS

欧州を念頭に開発 路面に吸い付くクロスオーバー

 スズキといえば日本では軽自動車メーカーというイメージが支配的だ。けれど、クルマ好きなら、ヴィッツやマーチやフィットよりもきちんと走るコンパクトカーを作るメーカーだということを知っているだろう。なかでもメジャーなのはスイフトだが、生産中止になったスプラッシュに至っては、足回りにしろシートの座り心地にしろ、まるでヨーロッパ車のようなテイストに仕上げていた。オペルにOEM供給するという事情がそうさせた一面もあるが、それ以上に、スズキでコンパクトカーの開発に携わる人たちは、中身がギュッと詰まったヨーロッパ車をリスペクトしているのである。

 今回登場したSX4 S–CROSSもそんな文脈で語れるモデルだ。メインマーケットをヨーロッパに定め、高速で長距離を移動するという現地のニーズにきちんと対応することを念頭に開発した。

 1.6ℓエンジンはフル乗車だとやや非力だが、足回りはちょっとびっくりするぐらいしっかりしている。高速道路でのピタリと路面に吸い付くような接地感と、ステアリングの微修正にスムーズに反応するステアリングは、長距離走行時の疲労を最小限に抑えてくれる。

 先代モデルよりもボディをひとまわり大きくすることで、後席と荷室のスペースを大幅に拡大したことも大きなニュースだ。日本目線で眺めると全高がタワーパーキングに入る1550㎜をわずか25㎜超えてしまったのは惜しい部分だが、ゆったりした全幅が生みだすサイド面の豊かな造形など、5ナンバー枠に縛られなかったからこそ実現できた部分がS–CROSSの魅力でもある。

 FFもあるが、約20万円のエクストラコストを支払えば、雪路はもちろんラフロードやワインディングロードでも優れた走行性能を実現する高度な4WDが手に入る。値頃感を含め、バランスのとれたクロスオーバーモデルとして要注目の一台だ。

ハンガリーの製造子会社「マジャールスズキ社」で生産し、欧州をはじめ中南米、アフリカなどへ輸出されているクロスオーバーモデル。国内向けには輸入発売となり、自社ブランドの輸入車となる。4WD車にはスズキ独自の新しい4WDシステム「ALLGRIP」を採用。デザイン、使い勝手、燃費の全てを高い次元で満たすクルマとして、日常からアウトドアまで幅広く使用できるモデルとなっている。

スズキ SX4 S-CROSS

車両本体価格:¥2,257,200(4WD、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,300×1,765×1,575
車両重量:1,210kg 定員:5人
エンジン:水冷4サイクル直列4気筒
総排気量:1,586cc
最高出力:86kW(117ps)/6,000rpm
最大トルク:151Nm(15.4kgm)/4,400rpm
JC08モード燃費:17.2km/ℓ
駆動方式:フルタイム4WD

BMW 2SERIES GRAN TOURER
BMW 2シリーズ グラン ツアラー

BMWの走りを味わえるコンパクトミニバン

 2シリーズ グラン ツアラーは、同アクティブ ツアラーの全長を約21cm(うちホイールベースが11cm)ストレッチした3列シートのコンパクトミニバン。3列目乗員のヘッドルーム確保を目的に全高も約5㎝高くした。

 アクティブ ツアラーと比べるとひとまわり大きく、グリーンハウス周りにもドーンとした重量感があって、素晴らしくスタイリッシュというわけではない。BMWはプレミアムかつスポーティーであってなんぼと考えている僕のような保守派? にしてみれば、正直違和感あり。メルセデスやアウディも、この種のジャンルはフォルクスワーゲンやオペル、フォードといった大衆車ブランドに任せておけばいいという構えだ。

 そんななかBMWがなぜグラン ツアラーを出してきたのかと言えば、そこに市場があると踏んだから。BMW内にも議論はあったらしいが、ブランドイメージの分散リスクと商売を天秤にかけ、「プレミアムクラス唯一のコンパクトミニバン」という独自性に勝機ありという判断が下ったという。

 事実、BMW初のFFであるアクティブ ツアラーは、これまでBMWに興味をもたなかった層を中心に好調な売れ行きを見せている。彼らにとってはBMWであることが重要で、FRでないことはさして重要ではないのだろう。そう考えると、アクティブ ツアラーのユーティリティーをさらに強化したグラン ツアラーにも十分に勝機はある。それどころか、日本ではグラン ツアラーがアクティブ ツアラーを喰ってしまう可能性大だ。3列目シートは小学生程度なら楽に座れるし、小一時間程度なら大人でも問題なし。もちろん、シートを畳めば大きな荷室が現れる。ヤングファミリーにとっては便利なことこのうえない。

 最後に、乗った感じはちゃんとBMWであることを付け加えておこう。こんなに質の高い乗り味のコンパクトミニバンは他にちょっとない。このあたりはさすがBMWである。

コンパクトなボディに、最大で7人の乗車が可能な広々とした空間を実現。多彩なシートアレンジによって、乗車人数や用途、荷物の量に応じた居住性とラゲージルームの容量を自在に調節できる。装備面では「衝突回避・被害軽減ブレーキ」に加え、「iDriveナビゲーション・システム」「LEDヘッドライト」など、走行安全性と快適性に優れた機能を全車標準装備。新世代の4気筒クリーン・ディーゼル・エンジン搭載モデルもラインアップされている。

BMW 2シリーズ グラン ツアラー

車両本体価格:¥4,240,000(220iグラン ツアラーSport、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,565×1,800×1,645
車両重量:1,630kg定員:7人 エンジン:直列4気筒DOHCガソリン
総排気量:1,998cc 最高出力:141kW(192ps)/5,000rpm
最大トルク:280Nm(28.6kgm)/1,250〜4,600rpm
JC08モード燃費:15.8km/ℓ 駆動方式:前輪駆動

FERRARI CALIFORNIA T
フェラーリ カリフォルニアT

実用性を備えた日常使いのフェラーリ

 カリフォルニアは、フェラーリの現行ラインアップのなかでもっともユーザーフレンドリーなモデルだ。まず価格が安い。といっても2450万円するのだが、3000万円オーバーが当たり前になっている最近のフェラーリのなかではもっとも安い。

 優れた実用性が備わっているのも特徴だ。フェラーリ=ミッドシップというイメージが強いが、カリフォルニアはFR。このFRレイアウトがもたらす最大のメリットが後席だ。大人がマトモに座れるような代物ではないが、あるとないとでは日常の使い勝手がまったく違う。エンジンがドライバーの背後にあるミッドシップに二人で乗り込むと室内にはほとんど荷物が置けなくなるが、カリフォルニアは小さな後席スペースにブリーフケースや脱いだジャケットを置くことが可能。しかもシートを倒せばトランクスルーになるからスキーだって積み込めるし、リトラクタブル・ハード・トップを閉じている状態なら荷室も大きい。後席レス仕様を選べばゴルフバッグが2個積める。そう、カリフォルニアは毎日乗れるスポーツカーの代表格として知られるポルシェ911に勝るとも劣らない実用性を備えているのだ。

 そんなカリフォルニアがカリフォルニアTへと進化した。Tとはターボの意で、従来の4・3ℓV8自然吸気から3・9ℓV8ターボへと換装することでパワー向上と燃費低減の両立を図った。ピークパワー向上もさることながら、もっとも変わったのは一般道でよく使う低中回転域のトルクの厚みが増したこと。結果として街中での乗りやすさは明らかに向上した。トップエンドの突き抜け感はちょっとスポイルされたものの、毎日乗れるフェラーリというキャラクターを考えると正常進化であるのは間違いない。肩から力を抜いて優雅にフェラーリライフを楽しみたい…そんな注文に応える、ある意味もっとも贅沢なフェラーリと言えるのかもしれない。

“エクスクルーシブかつエレガンスで、スポーティー&機能性に富む”という、1950年代から続くカリフォルニアならではの特徴を引き継ぐモデル。カリフォルニア購入者の7割は新規のフェラーリオーナーだそうで、Tも「日常のフェラーリ」というキャッチフレーズのとおり、日常使いを意識した作りとなった。トランク容量はルーフを閉じた状態で370ℓを確保、燃費は15%改善。リトラクタブル・ハード・トップは14秒で開閉可能。

フェラーリ カリフォルニアT

車両本体価格:¥24,500,000(税込)
全長×全幅×全高(mm):4,570×1,910×1,322
車両重量:1,625kg
エンジン:直噴90度V型8気筒 総排気量:3,855cc
最高出力:412kW(560cv)/7,500rpm
最大トルク:755Nm(77kgm)/4,750rpm
最高速度:316km/h 燃費:10.5ℓ/100km

文・岡崎五朗


Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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