岡崎五朗のクルマでいきたい vol.70 日本に迫る品質の追い上げ

 ユーザーの自動車購入に大きな影響を与えることで知られる調査会社JDパワー社が、米国で新車として販売されてから3年経過した時点でのメーカーごとの不具合率を発表した。

 調査対象は4万1,000人で、31ブランド、178モデル。なお、この調査での「不具合」には、故障に加え、エンジンのもたつきやATのシフトショックといった項目も含まれる。

 2011年モデルを調査対象とする2014年版米国自動車耐久品質調査で1位になったのは、毎度お馴染みのレクサス。100台あたりの不具合件数は業界平均の133件を大きく下回る68件。2位は104件のメルセデス·ベンツ。以下、キャデラック(107件)、アキュラ(109件)、ビュイック(112件)、ホンダ(114件)、リンカーン(114件)、トヨタ(114件)、ポルシェ(125件)、インフィニティ(128件)と続く。

 2位を大きく引き離したレクサスの実力には恐れ入るしかないが、その一方で、この種の調査を毎年ウォッチしてきた僕としては、米国車や欧州車の品質が大きく向上し、相対的に日本車の優位性が薄まってきていることを認めざるを得ない。事実、業界平均を上回った16ブランドのうち日本車は半分以下の7ブランドで、米国車は5ブランド、欧州車が4ブランドとなった。

 ’70年代以降、燃費と品質のよさを武器に米国市場を席巻した日本車。それに対し、米国メーカーや欧州メーカーは品質向上にそれほど真剣に取り組んでこなかった。しかし’90年代に入ると品質の重要性にようやく気付き、日本流の「カイゼン」を採り入れるなどしてきた。その結果がようやく数字に表れてきたと考えていいだろう。業界平均以下となったメーカーにしても、決して目を覆いたくなるような結果にはなっていない。むしろ上位と下位の差は年々縮まってきていてる。

 クルマ全体の品質が向上するのはユーザーにとって歓迎すべきことだが、それを売りにしてきた日本車にとっては厳しい時代になってきたと言えるのかもしれない。


FORD MUSTANG
フォード マスタング

欧州での販売開始で質感・乗り味が大幅進化

 ’64年にデビューした初代マスタングは空前絶後の人気を誇ったモデルだった。発売直後の週末、全米のディーラーに足を運んだ人の数は400万人! 受注台数は2日間で2万5000台に及び、わずか23ヵ月後には累計生産100万台を達成した。高価な本格派スポーツカーではなく、スポーツカーのように見えるスタイリッシュなクルマをリーズナブルな価格で提供するというコンセプトに、当時のアメリカ人は熱狂したのだ。

 後を継いだ2代目から6代目も、基本的には同じ路線をトレースしたが、コロコロ変わるデザインに加え、コンセプト面でも新鮮味を提供できなかったことで、大きな成功を収めることはできなかった。

 そんななか登場した新型マスタングは、マスタング史上初めて世界に打って出るモデルとして開発された。それに伴い右ハンドル仕様が用意されることもビッグニュースだが、それ以上にマスタングを大きく変えたのが、ドイツをはじめとする欧州で販売するという点だ。欧州車と渡り合うにはすべての面で「質」を上げることが必須。でなければ目の肥えたユーザーを納得させることはできない。

 実際、新型マスタングは従来のマスタングとは似て非なるものへと進化した。内外装の見た目品質は大幅に向上。乗り味を決定づけるボディ剛性も見違えるほど高くなった。もはや「荒くて固くて緩い」感じは皆無。それどころか、スムーズに路面に追従しつつ衝撃をスッといなす足の動きからは精密感すら感じるほどである。

 それでいて、2.3ℓ直4ターボと6速ATの組み合わせは、ドイツ車とは違う力強さとおおらかさを備えているし、適度に鷹揚なステアリングフィールもアメリカ車的。単に欧州車的になったのではなく、アメリカ車らしさ、マスタングらしさをしっかりと守りつつ、欧州でも通用する質感を手に入れたのが新型マスタングのトピックだ。

新型マスタングは5.0ℓV型8気筒と3.7ℓV型6気筒に加え、ダウンサイジングされた2.3ℓ直列4気筒直噴ターボ”EcoBoost”エンジンが新たに採用された。今回日本に導入されるのもこのモデル(左ハンドル)。最高出力314ps/5,500rpmと最大トルク44.3kgm/3,000rpmを発揮する。これは3.7リッターV6を上回る数値という。マスタングといえばV8でしょ、と言う人も一度試乗してみる価値があるかもしれない。V8エンジン搭載車(右ハンドル仕様)については2015年後半に公開予定。

フォード マスタング

車両本体価格:¥4,650,000(MUSTANG 50 Years Edition、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,790×1,920×1,380
車両重量:1,660kg エンジン:水冷直列4気筒DOHCターボ
総排気量:2,260cc 定員:4名
最高出力:231kW(314ps)/5,500rpm
最大トルク:434Nm(44.3kgm)/3,000rpm
駆動方式:FR

LAND ROVER DISCOVERY SPORT
ランドローバー ディスカバリースポーツ

フリーランダーを超える車格感&イヴォークを凌ぐ機能性

 オフロード車の名門ランドローバーが送り出す最新モデルがディスカバリースポーツだ。フリーランダーの後継モデルという見方もできるが、実際には完全なるブランニューモデルと考えるのが正解。価格が82万円も高くなった以上、もはや同種のクルマとは言えない。

 しかし、だからといって「割高」になったわけじゃないのがミソ。それどころか、全体の出来映えを考えれば、82万円しか高くなっていないの? と思えるほどだ。前傾したCピラーとコンパクトなグリルの組み合わせは、昨年4月のニューヨークショーで発表された「ディスカバリービジョンコンセプト」の流れを汲むもの。モダンさと格調の高さを高度に両立したデザインだ。兄貴分のディスカバリーも、次期型はこれに近いデザインになるだろう。フリーランダーと比べると車格感は完全に1クラス上。インテリアに至っては2クラス向上したと言っていい。

 機能面では、オプションで3列シートが用意された点に注目したい。想定したのが13歳までの子供だけに決して広くはないが、シートの座り心地は上々。身長160cmそこそこの大人でも小一時間程度ならストレスフリーで座っていられる。もちろん、3列目を畳めば余裕のあるラゲッジスペースが現れるし、可倒式のセカンドシートにはスライド機構も組み込まれ、人と荷物の量に合わせてフレキシブルな使い方ができる。このあたりが、スタイリッシュだが荷物があまり積めないイヴォークに対するディスカバリースポーツのアドバンテージだ。

 先進的な電子制御式フルタイム4WD、210mmの最低地上高、最大渡河水深600mmなど、オフロード走破性はさすがランドローバー。それでいて、オンロードでは腰高感を感じさせない気持ちのいい身のこなしを味わわせてくれる。価格帯は492〜692万円だが、僕ならカジュアルなエントリーグレードを選んで海や山へとガンガン繰り出す。

単なるSUVテイストではなく、小型プレミアムSUVの中で最も機能的なモデルを目指して開発された新型ディスカバリースポーツ。世界20ヵ国以上のあらゆる地理的条件のもと、18ヵ月に渡ってテストを繰り返したというから、街中だけで走るのはもったいない。「5+2」と呼ばれるオプションの3列シートは多彩なシートアレンジが可能。プレミアムで本格派。頼もしい相棒になりそうだ。

ランドローバー ディスカバリースポーツ

車両本体価格:¥4,920,000(SE、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,610×1,895×1,725
エンジン:2ℓ Si4 ターボチャージド·ガソリンエンジン
(9速オートマチック)
総排気量:1,998cc 定員:4名 
最高出力:177kW(240ps)/5,500rpm
最大トルク:340Nm(34.7kgm)/1,750rpm
駆動方式:四輪駆動 JC08 モード燃費:10.3km/ℓ

HONDA S660
ホンダ S660

デザインも走りも賞賛したい2シーターオープン軽自動車

 軽自動車かくあるべしという観点から、経済性という軽自動車の本質を極めたアルトを誉めちぎった舌の根も乾かぬうちに、ミッドシップ2シーターオープンという典型的道楽軽自動車を賛美するのには抵抗がある。800ccとか1,000ccにして白ナンバーを付けてくれたらもっと純粋な気持ちで歓迎できたのに。いまもそんな気持ちが心の片隅に残っている。けれど、人間とはつくづく感情の生き物だなぁと。S660の突き抜けたカッコよさと爽快な運転感覚を味わったいま、僕の気持ちは否定から肯定へと傾きつつある。それほどまでにS660の魅力は強烈だ。

 ミッドシップでなければ絶対にできないシェイプ、ちょっぴり大人びた面構え、スピード感満点のサイドビューなど、フォルムもディテールも出色の出来映え。お尻もカッコいい。最近のホンダデザインはちょっとなぁ···とお嘆きの方にも、S660はズバッと刺さるのではないだろうか。

 走らせるとこれがまた楽しい。エンジンは気持ちのいい音を聴かせてくれるし、シフトは手首の返しだけでカチカチと気持ちよく決まる。過度のヒラヒラ感を抑え込み、適度なロールとともに路面にヘバりつくような接地感を出しつつ、全体的にはノーズがグイグイ入るフットワークもいい出来だ。フロントの接地感が不足気味だったビートと比べると、かなり安心してワインディングロードを走れる。

 唯一不満を感じたのはエンジン。6,000rpmぐらいまではいい感じで伸びていくのだが、そこから先のトルクをあえて削っているため、レブリミットの770rpmまで回す意味が感じられない。64‌ps自主規制の影響を感じる部分だ。

 198〜218万円という価格は内容を考えれば納得だが、トランクスペースがないためカップルでお泊まりに行くのは無理。いわば雨に濡れない4輪バイク。

 そういう意味ではとても贅沢なクルマである。

1996年に生産を終了した名車「ビート」以来、19年ぶりとなる軽スポーツカーの復活という話題とともに、開発責任者が”高卒26歳”ということでも注目を集めた。ルーフは車外からしか開閉できず、トランクもない。”走る”ことに徹したその割り切りがこのクルマの真骨頂といえるだろう。試乗した誰もに「理屈抜きに楽しい」といわしめる。軽自動車枠であるゆえ、2台持ちも不可能ではないかも知れない。

ホンダ S660

車両本体価格:¥2,180,000(α/6MT、税込)
全長×全幅×全高(mm):3,395×1,475×1,180
車両重量:830kg エンジン:水冷直列3気筒横置
総排気量:658cc 定員:2名
最高出力:47kW(64ps)/6,000rpm
最大トルク:104Nm(10.6kgm)/2,600rpm
駆動方式:MR JC08 モード燃費:21.2km/ℓ

MAZDA ROADSTER
マツダ ロードスター

大人のニーズを満たすパーフェクトな新型

 ボディサイズを拡大し、重くなった分を大排気量エンジンでカバーする。そんなループから抜け出したという意味において、新型ロードスターを「先祖返り」と表現するのは間違いではない。しかし、心情的には先祖返りどころか、より熟成度を高め、深みと味わいを増したのが新型だと感じている。

 当時22歳だった僕が矢も盾もたまらずデビュー直後に手に入れた初代ロードスター。あれから26年が経ち、48歳になった僕のニーズを、新型ロードスターは憎らしいほどまでに満たしている。妖気すら感じさせるセクシーなエクステリア、デザイナーの美意識を細部にまで反映したインテリア、上質な乗り味、優れたオープン時の風仕舞い…こいつなら、ちょっとドレスアップしてグランドハイアットのバレーパーキングに乗り付けても違和感はない。

 それでいて、走らせればライトウェイトスポーツらしい熱さと爽快感と操る楽しさがしっかりと演出されているのだ。さらに、トランクには機内持ち込みサイズのトロリーケースを2個収納でき、上級グレードを買えばシートヒーターも付く。まさにパーフェクト。これほどまでに僕のニーズを満たしてくれてスミマセン、と頭を垂れたくなるほどである。初代に乗っていた人はもちろん、当時は買えなかったけれどいまなら買えるという人は、ぜひとも新型ロードスターを手に入れて欲しい。カーライフだけでなく普段の生活そのものが色づくこと間違いなしだ。

 反面「いまの22歳」にとっては、新型ロードスターはちょっぴり大人すぎるのかもしれない。価格もそうだが、それ以上にキャラクターとして。でも僕はそれで正解だと思う。文化を作り、根付かせるのは大人の役目だと思うから。われわれ大人がスポーツカーをカッコよく乗りこなしている姿を見せることが、次世代のスポーツカー好きを生みだす原動力になると信じている。

世界中で愛されるロードスターの4代目。発売前から注目と期待を一身に集めた。エンジンは先代からダウンサイジングされた1.5ℓのスカイアクティブGを搭載。最高出力131ps、最大トルク150N・mを発生する。先代モデルに対し、約100kgの軽量化を実現したというだけあって、運転していると”軽さ”を実感できる。

マツダ ロードスター

車両本体価格(予定):¥2,494,800(S/2WD・6MT、税込)
全長×全幅×全高(mm):3,915×1,735×1,235 車両重量:990kg
定員:2名 エンジン:水冷直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量:1,496cc 最高出力:96kW(131ps)/7,000rpm
最大トルク:150Nm(15.3kgm)/4,800rpm
駆動方式:FR JC08 モード燃費:17.2km/ℓ

文・岡崎五朗


Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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