岡崎五朗のクルマでいきたい vol.64 冬支度

 喉元過ぎれば熱さを忘れる、ではないけれど、今年の大雪を覚えてますか? 僕が住んでいる東京では、2月8日と14日の2回、大雪警報が発表された。ひと冬に2回の大雪警報は16年ぶり。東京都心で積雪が20センチを超えたのは20年ぶりだったそうだ。

 いま思い起こすと、8日の雪は、たまたま借りていた試乗車がスタッドレスタイヤ付きで救われた。公共交通機関が麻痺するなか、スタッドレスタイヤのおかげで、テレビ神奈川のスタジオまで無事にたどり着けたのだ。収録を終え、ますます雪が強まるなか帰宅したが、不安どころか、クルマがほとんど走っていない真っ白な道をドライブするのはむしろ楽しかったほど。スタッドレスタイヤを履いたことがない人はピンとこないかもしれないが、サマータイヤとの違いは想像以上に大きい。走行不能に陥り、乗り捨てられたクルマをわき目に、スタッドレスタイヤを履いたフォルクスワーゲンup!は、FFであるにもかかわらず、雪面をしっかりと噛みしめながら安定して走ってくれた。

 up!を返却してしまっていた14日は、雪のなか、出張用キャリーバッグを引きずりながら、スタッドレスタイヤを愛車に履かせていなかった自分を恨んだものだ。

 かつて1シーズンに何度もスキーに行っていた頃は、12月になると必ずスタッドレスに履き替えていたが、スキー熱が冷めてからというもの、サマータイヤのまま冬を過ごしていた。去年の1月にも都心には8センチの雪が積もったが、「たまにはこんなこともあるな」とやりすごしていた。でももう無視などしていられない。今年のあの2度の大雪を経験してしまった以上、不安を抱えながらサマータイヤで冬を迎えるのはやめにした。今年はスタッドレスタイヤに履き替え、万全の体制で冬を迎えるつもりだ。

 意外だったのは、スタッドレスタイヤに履き替えることを想像したらまたスキーに行きたいなと思うようになったこと。スタッドレスタイヤとスキーのカタログを眺めつつ、冬の到来を楽しみにしている自分に気付いたのだ。スタッドレスタイヤには、安心安全だけではなく、冬のライフスタイルをよりアクティブにしてくれる効果もあるようだ。


トヨタ プロボックス/サクシード

働く人のことを一番に考えた完璧な実用車

 ビジネスマンの足として日夜活躍しているプロボックスが12年ぶりにマイナーチェンジした。といっても前半分は新構造だから実質的にはフルモデルチェンジに近い。

 プロボックスに試乗していて気付いたのは、街中にこのクルマがやたら存在していることだ。人間は関心のないものを無意識に見過ごしてしまうものだが、まさにそれ。プロボックスに乗っていたら、あっちにもこっちにもあそこにもここにもプロボックスがいることに気付いた。最近ではハイエース系の需要が増えているらしいが、価格が安く、燃費性能に優れ、それなりの積載力があり、なおかつタワーパーキングでもどこでも停められるこのジャンルには根強い人気がある。まさに縁の下の力持ちである。

 試乗したのは1.5ℓ。エンジンは従来のままだが、トランスミッションを4速ATからCVTに変更することで燃費を1割強改善した。ユニークなのは実用性を徹底的に追求したインテリア。ノートパソコンやお弁当を置ける大型引き出し式テーブルや、100V電源、左右シート間にあるビジネスバッグ置き場、1ℓの紙パックも置けるドリンクホルダーなど、働く人の立場にたった工夫があちこちにある。なぜ1ℓ紙パック? と思ったが、聞くとペットボトルより安いため購入する人が多いのだという。なるほど。

 カーゴスペースは広大。乗り心地的にはリア側の突き上げが気になるものの、400㎏という最大積載量とのトレードオフだと思えば十分納得のいくレベルに仕上がっている。シートの座り心地や直進安定性を含め、先代よりも快適性、疲れにくさを大幅に引き上げてきたのは朗報だ。

 4ナンバー登録ということもあり安全装備はプアーだが、ライトグリーンメタリックあたりを選び、お洒落なアルミホイールで足下を引き締めれば、安くて便利なステーションワゴンとして大いに活躍してくれるだろう。

今回のマイナーチェンジでは、車内で長い時間を過ごすことの多いビジネスマンが求める機能や使い勝手を更にブラッシュアップ。荷物がない時も積載時も快適で心地よい乗り心地を実現したほか、運転席から手の届くところに、ビジネスシーンに欠かせないアイテムの収納スペースを充実させた。また、フロントマスクのイメージは、従来の個性控えめなデザインから、力強くソリッドなキャラクターへと大幅に変更した。

TOYOTA PROBOX / SUCCEED

車両本体価格:¥1,473,709
(プロボックス 1.5ℓ DXコンフォート/2WD、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,245×1,690×1,525
車両重量:1,090kg
定員:7人
エンジン:直列4気筒DOHC 総排気量:1,496cc
最高出力:80kW(109ps)/6,000rpm
最大トルク:136Nm(13.9kgm)/4,800rpm
JC08モード燃費:18.2km/L 駆動方式:前輪駆動

スバル WRX STI

エンジンの魅力を味わえる伝統のWRXの復活

 WRXといえば、ラリーで大活躍したインプレッサWRXを思い浮かべる人が多いはず。先代の途中からインプレッサが外れWRXと呼ばれていたが、ベースはあくまでインプレッサだった。その点、新型WRXは初期段階からインプレッサとは別の独立したモデルとして開発された。そこがこのクルマのまずは大きな特徴となる。わかりやすく言えば、ひとあし先にデビューしたレヴォーグのセダン版が新型WRXである。

 とはいえ、伝統のWRXを名乗るからには、レヴォーグの単なるセダン版では済まされない。そこは当のスバル自身がいちばんよくわかっていて、高性能バージョンのSTIにはラリーを通じて鍛え上げられたEJ20型フラット4エンジンが搭載されている。308psという最高出力は、快適性を重視したもうひとつのグレード「S4」が積むFA20型の300psとさほど差がない。

 ならばどうしてわざわざ違うエンジンを搭載してきたのか。その答は「エンジンの魅力を計るモノサシは最高出力だけじゃない」という点に尽きる。EJ20型の魅力は、FA20型より1500rpmも高い8000rpmまで一気に回る鋭さと刺激性にある。カチカチ決まるMTを駆使しながらレブリミットまで回し切って走る楽しさは格別だ。限界域の旋回特性を重視した4WDシステムや、固めた足回り、手応えのあるステアリングなどを含め、先代インプレッサWRX・STIから乗り換えても不満を感じないスパルタンさを備えていると報告できる。

 それでいて内外装の質感は大幅に向上している。とくにインテリアは1クラスどころか2クラスぐらい上がったなと思わせる仕上がり。ボディ剛性が高まったため、乗り心地の上質感もグンと向上した。スポーツ性と快適性の両立という点ではCVTを搭載したS4も魅力的だが、MTで高性能モデルを味わえる貴重な存在としてSTIは要注目だ。

WRX STIは、モータースポーツで闘える性能を一般道でも扱うことができる、ロードゴーイングレーシングカー。購入層の約70%が30~40代だという。装備の違いによって、STIとSTI Type Sの2グレードを用意。STI Type Sは、ビルシュタイン製ダンパー、大型リアスポイラー、BBS製18インチ鍛造ホイールが標準装備されている。

SUBARU WRX STI

車両本体価格:¥4,114,800(STI Type S、税込)
全長×全幅×全高(㎜):4,595×1,795×1,475
車両重量:1,490kg 定員:5人 エンジン:水平対向4気筒
2.0ℓDOHC16バルブデュアルAVCSツインスクロールターボ
総排気量:1,994cc 最高出力:227kW(308ps)/6,400rpm
最大トルク:422Nm(43.0kgm)/4,400rpm
JC08モード燃費:9.4㎞/ℓ 駆動方式:AWD

シトロエン C4カクタス

昔のクルマにあって今のクルマにないものがある

 ディサイドの板チョコのようなものは、シトロエンが「エアバンプ」と呼ぶバンパーの一種。隣のクルマが乱暴にドアを開けてもエアバンプが凹みを防いでくれる。と同時に、外観のアクセントとしても抜群の効果を発揮している。

 しかし、エアバンプだけがC4カクタスの特徴じゃない。注目したいのは驚くほどの軽さだ。900㎏代といえば背の高い軽自動車とほぼ同じであり、同サイズのプジョー2008や日産ジュークと比べると200㎏近く軽い。一部にアルミを使っているものの、軽量化の大部分は設計上の工夫と割り切りだという。後席に分割機能はないし、後席サイドウィンドウもスイング開閉式。その他、シートやダッシュボード内部の構造などにも大胆な軽量化設計が施されている。

 昔のクルマにあって現代のクルマにないものは軽さだ。快適装備や安全装備がクルマをどんどん重くしてしまった。その一方で燃費規制は今後さらに厳しくなっていくだけに、「軽くつくる」ことの重要性はますます高まってきている。そんななかの鮮やかな1トン切り。これは注目しないわけにはいかない。

 C4カクタスがすごいのは、これほど大胆な軽量化をしたにも関わらず乗り味にペラペラ感がまったくないこと。それどころか、分厚いクッションをもつシートと、ソフトでコシのあるシートは古き佳きフランス車そのもの。静粛性や直進安定性にも手抜きは一切ないし、ボディが軽いからハンドリングは軽快で、1.2ℓ3気筒ターボでも小気味よく走る。インテリアもシンプルだが最高にお洒落だ。

 なぜこれほどまでに軽いのに、これほどまでに豊かな乗り味のクルマを作れてしまったのか? まるでマジックを見せられたかのような気分になるほど、C4カクタスの出来映えは革新的だ。日本導入は未定だが、インポーターにはぜひとも頑張って早期発売を目指してもらいたい。

プラットフォームは、ワンクラス下のC3と共通のものを採用し、エンジンは、1.2ℓ3気筒ガソリンターボ、1.6ℓ4気筒ディーゼルターボの2種類を用意した。世界で初めて助手席のエアバッグを天井に埋め込むことで前方を広くとったり、サイドウィンドウを立たせたデザインとすることで後席左右のスペースをとるなど、室内空間を広くするための工夫が施されている。また、ガラスルーフを標準装備、より開放的な空間を演出している。

CITROEN C4 CACTUS

グレード:Pure Tech82
全長×全幅×全高(㎜):4,157×1,729×1,480
乾燥重量:965㎏ エンジン:1,2ℓ 直列3気筒ターボ
総排気量:1,199cc
最高出力:60kW(82ps)/5,750rpm
最大トルク:118Nm(12.0kgm)/2,750rpm
*スペックは本国データによる

プジョー 308

欧州カーオブザイヤー獲得の研ぎ澄まされた美と実力

 欧州カーオブザイヤーを獲得した新型プジョー308が日本でも発売となった。ボディタイプは5ドアハッチバックと、ステーションワゴンの2種類。エンジンは1.2ℓ3気筒ターボを搭載する。

 写真を見て、大人しくなったなと思うかもしれない。しかし実車を目の当たりにするとそんな印象は180度変わる。大理石の彫刻のような硬質な面と、計算され尽くしたプレスラインの配置は、新型308に研ぎ澄まされた美しさと、得も言われぬ存在感を与えている。308が属するCセグメントには、王者ゴルフをはじめとし、メルセデス・ベンツAクラスやボルボV40といった強力なライバルがひしめき合っているが、308は美しさにおいて他をリードした。決して華やかではないが、入念に眺めれば眺めるほど惹き込まれていくデザインだと思う。

 インテリアにも同じことが言える。液晶モニターに操作系を集中させることにより、スイッチ類を限界まで排除。この潔さは衝撃的だ。にもかかわらず安っぽさを微塵も感じさせないのは、マテリアルやディテールに徹底的にこだわっているから。スイッチの数ではなく質感で勝負…このあたりの考え方はどこかiPhone的だ。

 試乗はサーキット内に限られたものの、ガッチリしたボディとしなやかな足回りの組み合わせが生みだす乗り味もきわめて上質だった。大胆なダウンサイジングを実施したエンジンも必要にして十分な動力性能と静粛性とスムーズさをもっている。ノーマルモードではじんわりとした大人っぽい走りを演じるが、スポーツモードを選ぶとサウンドを含め走り味がガラリと変わる演出も楽しい。

 ハッチバックはスポーティー方向、SW(ステーションワゴン)はコンフォート方向に躾けられているが、どちらを選んでも幸せになれるだろう。欧州カーオブザイヤーを獲得した実力はダテじゃない。

ハッチバックとSWの2車種で、あわせて5種類のモデルを用意。ハッチバックはエントリーモデルのPremium、Allure、電動サンシェード付きパノラミックガラスルーフ装備のCieloを、SWではPremiumとCieloをそれぞれラインアップした。ボディサイズは、ハッチバックで従来よりダウンサイジングし、現行の第7世代ゴルフとほぼ同じ体格。SWはサイズが大きい分、荷室容量などの機能性を高めている。

PEUGEOT 308

車両本体価格:¥2,790,000(Premium、税込)
全長×全幅×全高(㎜):4,253×1,804×1,457
車両重量:未定 定員:5人
エンジン:直列3気筒DOHCターボチャージャー付
総排気量:1,199cc 最高出力:96kW(130ps)/5,500rpm
最大トルク:230Nm/1,750rpm

文・岡崎五朗

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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