岡崎五朗のクルマでいきたい vol.63 メーカーオブザイヤー?

 今年も日本カーオブザイヤー(COTY)の季節がやってきた。COTYはあらかじめ投票で10台のクルマをノミネート(10ベストカー)し、その10台のなかから最終選考で順位を競う。ここでもっとも多くの得点を獲得したクルマがその年のカーオブザイヤーとなるわけだ。

 発表は10ベストカーが10月8日。イヤーカーが同13日。いまこの原稿を書いている時点で、10ベストカーがどのクルマになるのかは決まっていない。しかし過去の10ベストカーを眺めると、ある興味深い事実が浮かび上がってくる。ノミネートされた10台がすべて異なるメーカーのクルマであることがほとんどなのである。

 背景にあるのは、複数モデルがノミネートされ票の食い合いが起こるのを嫌うメーカー側の思惑だ。実際COTY前になると、多くのメーカー&インポーターが「うちは今年は○○でいこうと思います」というメッセージを非公式に伝えてくる。あまり気持ちのいいものではないが、賞獲得のための戦略と考えれば、まあ理解できないわけではない。問題は、それを選考委員が聞き入れるかどうかである。

 なかには「各メーカーにまんべんなく参加してもらいたい」という考えでバランスよく10ベストカーを選ぶ人もいるが、僕はそういう考えには反対だ。COTYは約60名の専門家が、それまでに培ってきた経験や見識をもとにその年を代表するクルマを選ぶ賞であり、単なる人気投票ではない。優れたハードウェア、斬新なコンセプト、時代性、提案性、他メーカーへの影響力などなど、様々な要素が評価を決める。言い換えれば、評価すべき何かを備えているなら同じメーカーのクルマが何台入ってもいい。主役はあくまでクルマであり、そこにメーカー間のバランス感覚など無用。なぜならこの賞はMOTY(メーカーオブザイヤー)ではなくCOTYなのだから。

 そういう意味で、いくら売れ行きが好調であるとはいえ、注目点がクラス初のフルハイブリッドであること以外とくに新鮮味のないノア/ヴォクシーあたりが10ベストカーに入ってきたら、少々残念なことだと思う。それこそCOTYの意義が問われることになるのではないだろうか。


マツダ デミオ

売れ筋よりもマツダらしいクルマを具現化

 新型デミオから伝わってくるのは、売れ線であるよりも、自分たちらしいクルマでありたいという想いだ。広ければ広いほど、燃費がよければよいほど、安ければ安いほどいい、というのが最近の国産コンパクトカーの流れだった。ユーザーはそういうものを欲しがっているんだという考えのもと、メーカーはそういう商品づくりに突き進んだ。

 しかしデミオは違う。燃費はアクアやフィットハイブリッドに負けているし、価格はマーチやミラージュより高い。室内や荷室の広さもたいていのライバルに負けている。普通の会社なら、営業部門の反対に押し切られて方向転換を強いられただろう。しかしそうならないところがCX–5以降のマツダだ。そして興味深いのは、CX–5からマツダの大躍進が始まったということだ。

 新型デミオは、スタイリッシュで、乗って楽しいクルマに仕上がっている。とくにディーゼル車の贅沢な乗り味は従来の国産コンパクトの常識を遙かに凌ぐ。走りだした直後から豊かな気持ちになれるし、こいつとなら数百㎞のロングドライブに行ってもいいなと思わせる。普通ならコストを気にしてケチる遮音材をたっぷり使っているから、エンジン音だけでなく各種ノイズの封じ込め度が驚くほど高い。それが上質なクルマに乗っている気分にさせてくれるのだ。

 そこに、2・5リッター級の太いトルクとセンスのいいインテリア、快適な乗り心地、意のままに動くハンドリングが加わったのだから結果は推して知るべし。新型デミオは国産コンパクトカー史上もっともプレミアムな価値を提供してくれるクルマになった。

 売れ線からあえて視線を外し、自分たちがいいと信じる商品を具現化するのはハイリスクなビジネスだが、僕はそんなマツダに強いシンパシーを感じる。読者の方にはぜひ一度試乗をしてみて欲しい。そうすれば僕の言っていることをきっと理解していただけるはずだ。

マツダの新世代技術「スカイアクティブ技術」と新デザインテーマ「魂動(こどう)」を全面的に採用。“クルマの価値は、ボディサイズに比例する”という既成概念を打ち破ることを目指して開発されたというだけあり、コンパクトカーながら内外装の質感アップや人間中心のドライビング・デザインに拘り、上級セグメントのような満足感を叶えている。国内Bセグメントでは、唯一クリーンディーゼル搭載モデルを提供。

MAZDA DEMIO

車両本体価格:¥1,998,000(XD Touring L Package/2WD/6MT、税込)
全長×全幅×全高(㎜):4,060×1,695×1,500
車両重量:1,080kg 定員:5人
エンジン:水冷直列4気筒DOHC16バルブ直噴ターボ
総排気量:1,498cc 最高出力:77kW(105ps)/4,000rpm
最大トルク:220Nm(22.4kgm)/1,400~3,200rpm
JC08モード燃費:30.0㎞/ℓ 駆動方式:前輪駆動

フォルクスワーゲン ゴルフGTE

GTIに劣らぬ走りのプラグインハイブリッド

 ゴルフにプラグインハイブリッドが加わった。日本導入は来年半ばの予定だが、幸運なことにひとあし先に欧州で試乗できたので、いち早くインプレッションを報告しよう。

 ゴルフファンならGTEというネーミングを聞いてピンと来たはず。そう、プラグインハイブリッドシステムによる環境性能に加え、モーターアシストによるスポーティな走りを実現したのがGTEである。6速湿式DSGを介して1・4ℓTSIエンジンとタッグを組む電気モーターのスペックは102ps/330Nm。8・7kwhというバッテリー容量はプリウス・プラグインハイブリッドのほぼ倍で、フル充電時のEV航続距離は50㎞。最高速度も130㎞/hに達するから、自宅で充電しておけば、エンジンをかけなくても日常使いはほぼOKだろう。CHAdeMO規格の急速充電器には非対応だが、バッテリーが減ってきたらエンジンを始動して航続距離を伸ばすことも可能だ。

 しかしGTEの魅力はそこだけにとどまらない。システム出力204ps/350Nmに達するパワートレーンの潜在能力を引き出すべくアクセルを深く踏み込むと、素晴らしく気持ちのいい加速を味わえるのだ。絶対的な加速力こそGTIに及ばないものの、瞬時にトルクがでるモーターの特性は、つま先と駆動輪が直結しているかのようなダイレクトな反応をもたらす。モーター、エンジン、DSGの制御もお見事で、まる1日試乗したが気になるショックやギクシャクはただの一度も体験しなかった。そう、優れた環境性能だけでなく、ファントゥドライブという点でも決してGTIに負けていないのだ。

 現地価格は500万円弱。PHV補助金とエコカー減税を計算に入れると、日本での乗り出し価格はGTI比50万円高程度に収まりそうだ。日本は世界でもっともGTI比率が高い国。加えて新しモノ好きも多い。GTEは予想以上のヒット商品になりそうだ。

GTIのDNAを受け継ぐ初のプラグインハイブリッド車。GTEの登場により、ゴルフはガソリン、ディーゼル、天然ガス、電気自動車、プラグインハイブリッドとあらゆる駆動システムから選択できる世界初の乗用車となった。燃料消費量は1.5ℓ/100㎞で、電力消費量は11.4kWh/100㎞。家庭用の230V電源コンセントを使用した場合、3時間45分でフル充電できる。

VOLKSWAGEN GOLF GTE

車両本体価格:€36,900(ドイツ)*日本での販売価格は未定
全長×全幅×全高(㎜):4,270×1,799×1,457 車両重量:1,599kg
エンジン:1.4リッター直列4気筒DOHC16バルブターボ
【エンジン】最高出力:110kW(150ps)/5,000~6,000rpm
最大トルク:250Nm(25.5kgm)/1,600~3,500rpm
【モーター】最高出力:75kW(102ps)/2,500rpm
最大トルク:330Nm(33.7kgm)
駆動方式:前輪駆動

BMW X4

個性的なデザインが魅力のスポーティモデル

 僕がいちばん好きなBMWは実はX6だったりする。X5ベースでありながら、クーペのようなフォルムは斬新そのもの。なかでも高出力エンジンを搭載し太いタイヤを履かせたX6Mなんかはため息ものである。実際、X6シリーズは世界中で25万台を販売する大ヒット作となり、間もなく新型へとバトンタッチされる予定だ。

 とはいえ、いざ冷静になると、全幅2m近い巨大なボディを日常的に乗りこなすのにはさまざまな苦労が付きまとう。889万円~という価格もおいそれとは手が届かない。そんなふうに思っているのはもちろん僕だけではないはず。多くのユーザー、そして最近ものすごい勢いでモデルラインアップを拡充しているBMW自身も、より多くの人に向けたX6のようなモデルの必要性を感じていたはずだ。

 X4はX3のメカニカルコンポーネントをベースに作られている。ほんのちょっと大きくはなったが、X6と比べれば圧倒的に使いやすいサイズだ。注目したいのはやはりルックス。僕はX3のデザインがあまり好きではない。SUVとしてはちょっと真面目すぎるなと思う。その点、X4はまるで別物だ。とくに斜め後方から見たときのリアフェンダー周りの力強い造形と、弧を描いたルーフラインが、他のモデルにはない躍動感を演出することに成功している。

 その副作用として、荷室高は明らかにX3より低いし、後席のヘッドルームも小さくなった。とはいえ、キャンプ用品を満載するような使い方をするのでなければ荷室容量は十分。身長175㎝級の人なら無理なく4人乗車が可能だ。リ・デザインによって獲得した個性的なキャラクターとスタイリッシュさは、X3に比べてやや低下したユーティリティーを補ってあまりある魅力を放っていると思う。数あるSUVのなかでもひときわスポーティなモデルとして、X4は要注目だ。

プレミアム・ミドル・クラス初となるスポーツ・アクティビティ・クーペ。オンロードもオフロードにも対応できるインテリジェント4輪駆動システム「xDrive」や高効率で素早いシフトチェンジが可能な「8速スポーツ・オートマ・トランスミッション」などにより、スポーティな走りを実現。「BMW SOSコール」や「衝突回避・被害軽減ブレーキ」、「サイド・ビュー・カメラ」といった安全性や利便性に優れた機能も標準装備している。

BMW X4

車両本体価格:¥7,900,000(xDrive35i M Sport、税込)
全長×全幅×全高(㎜):4,680×1,900×1,625
車両重量:1,900kg 定員:5人
エンジン:直列6気筒DOHC 総排気量:2,979cc
最高出力:225kW(306ps)/5,800rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1,200~5,000rpm
JC08モード燃費:12.1㎞/ℓ 駆動方式:4輪駆動

ボルボ S60ポールスター

レーシングチームによる特別モデルのロードカー

 もはやボルボに対し、角張ったスタイルの安全で実用的なクルマ、というイメージを持っている人は少ないだろう。安全性に対する真摯な取り組みはいささかも変化していないが、現代のボルボはよりエモーショナルなデザインに身を纏い、ドライブフィールもスポーティになった。現在のボルボのクルマ作りを簡潔に表現するなら「高い安全性と魅惑的なルックス、質の高い作り込みをリーズナブルな価格で提供するプレミアムブランド」となるだろう。

 今回試乗したS60ポールスターは、ボルボのオフィシャルモータースポーツ&パフォーマンスパートナーであるポールスター社が手がけた特別なモデル。コンセプトは「レーシングチームが開発したロードカー」という刺激的なものだが、ボルボディーラーで販売される正規モデルなので、アフターサービスや保証は他のボルボ同様だ。販売台数は全世界で限定750台。そのうち日本にはセダンのS60が30台、ワゴンのV60が60台の合計90台が輸入された。

 3ℓ直列6ターボは大容量ターボと大型インタークーラーの採用、コンピューター制御プログラムの変更などにより350psを発生。逞しい動力性能だけでなく、直6ならではの上質な回転フィールや、ボルボとは思えない勇ましいサウンドも特徴だ。その他、4WDシステムや足回り、ブレーキにもポールスターのノウハウが色濃く反映されている。箱根のワインディングロードで試乗したが、S60ポールスターは、メルセデスのAMGやBMWのMに勝るとも劣らない実力をもっている。なかでも速さと快適性の両立ポイントは驚くほどだった。

 価格は799万円。オーリンズ社製ダンパーやブレンボ社製ブレーキといった一流品を惜しみなく使い、プロ集団が入念にセットアップした特別なプロダクトであることを考えると、お買い得とさえ言える逸品である。

S60 T6 AWD R-Designをベースに、ポールスター社がスペシャルチューニングを施した初の量産モデル。ターボチャージャーなどの主要エンジンパーツからシャーシ、ブレーキ、空力特性まで、トータルに手掛けている。専用チューニングと専用パーツが施されたT6エンジンは、最高出力350馬力、最大トルク500Nmを発生、専用コンピュータプログラムで、大幅に性能を高めている。

VOLVO S60 POLESTAR

車両本体価格:¥7,990,000(税込)
全長×全幅×全高(㎜):4,635×1,865×1,480
車両重量:1,780kg 定員:5人
エンジン:インタークーラー付ターボチャージャー
DOHC水冷直列6気筒横置き・24バルブ
総排気量:2,953cc 最高出力:258kW(350ps)/5,250rpm
最大トルク:500Nm(51.0kgm)/3,000~4,750rpm
JC08モード燃費:9.6㎞/ℓ 駆動方式:AWD

文・岡崎五朗


Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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