空気で守る空気を守る シトロエン・C4カクタス

コラム:森口将之

先進技術を駆使しても環境問題は解決しない

テレビ、パソコン、洗濯機など、 自分の身のまわりには、10年以上使い続けているモノが多い。買うときにデザインから使い勝手まで、とことん悩み抜いて選んだ結果ではないかと勝手に考えている。

真にお気に入りのデザインとの出会いは、時間も手間も掛かる。でも手に入れてしまえばしめたもの。飽きが来ないし、愛着を持って接するので壊れにくくなる。

一方技術については、大幅にステップアップした時期を狙うようにしている。。たとえばテレビは地上デジタル対応になってすぐの頃の液晶タイプなので、今でも使っていられる。時代の変わり目を読んだ買い物が長持ちの秘訣と言えるかもしれない。

ではクルマにおける時代の変わり目とはいつになるのか。思い出すのは今年3月のパリでの出来事だ。連日のように深刻な光化学スモッグに見舞われ、公共交通をタダにしてまで、クルマの使用を控えるよう呼びかけるほどだった。

ここから読み取れるのは、先進技術を駆使すれば環境問題はクリアできるという従来のロジックは破綻しかけていて、抜本的な発想の転換が求められているということだ。

シトロエンのひとつの回答が
空気入り衝撃吸収パネル「エアバンプ」

6月にアムステルダムで行われた国際試乗会で乗ったシトロエンC4カクタスは、このテーマに対するいち早い回答ではないかと思った。ちなみにこのクルマのデビューは、パリがスモッグに悩まされる少し前のこと。さすがシトロエン、流れを先読みしていたのかもしれない。

そのボディは、他車のドアやショッピングカートなどの衝撃からボディサイドを守る空気入り衝撃吸収パネル「エアバンプ」が目立つ。このエアバンプとバンパー、リアパネルをボディと別色とした2トーンカラーともども、フランス生まれらしい遊び心を感じる。

でもベースとなるフォルムを眺めると、動きや勢いを強調するラインがほとんどなく、シンプルな面構成であることを発見する。このフォルムこそ、C4カクタスのコンセプトを体現したものだった。

C4を名乗ってはいるものの、カクタスのプラットフォームはひとクラス下のC3と共通だ。エンジンを1・2ℓ3気筒ガソリンの自然吸気とターボ、1・6ℓ4気筒ディーゼルターボとして、最高でも110psに留めたことが大きい。

ホイールベースはC4ハッチバックと同等まで伸ばしたから、身長170㎝の僕なら楽に前後に座れるけれど、外寸はひとまわり小柄。ベースモデルの車両乾燥重量は965㎏と、200㎏も軽くなった。

だから110psでも加速はまったく不満ないし、力を抑えたおかげでサスペンションを固めずにすんだので、シトロエンらしいまろやかな乗り心地が味わえる。C3よりもホイールベースが長い分、揺れはさらにゆったりしていて、快適を飛び越えて、ただただ快感なのだ。

従来のクルマは、速くて快適なほうが売れるという判断のもと、サイズもパワーもアップさせてきた。軽量化やエンジンの効率向上でエコになるという説明だった。でも地球は大きくはなっていないから、いつもの道が狭く感じるようになり、速度が落ちて渋滞が発生する。結果はエコとは正反対だ。

一部の人は、そんな従来型の進化に飽きていて、軽自動車で十分と考えたり、自転車に乗り換えたりしている。クルマ離れというのはつまり、時代の変わり目なのである。

近い将来、その流れにメーカーが対応し、サイズアップやスピードアップを控える動きが起こるはず。C4カクタスのユーザーは先駆者の誇りとともに、長く乗り続けられるだろう。デザインが気に入ればなおさら。遊び心にあふれたボディの内側には、今後のクルマ社会を見据えた明確な思想が詰まっているのだ。


CITROËN C4 CACTUS

Pure Tech 110S&S
欧州販売価格:€21,400 総排気量:1,199cc
車両重量:1,020kg トランスミッション:5速MT
燃料:ハイオク 最高出力:81kW(110ps)/5,500rpm
最大トルク:205Nm(20.09kgm)/1,500rpm

e=HDi 92
欧州販売価格:€20,550 総排気量:1,560cc
車両重量:1,055kg トランスミッション:6速ETG
燃料:ディーゼル 最高出力:68kW(92ps)/4,000rpm
最大トルク:230Nm(22.54kgm)/1,750rpm

*スペックは本国データによる *日本導入時期は未定