岡崎五朗のクルマでいきたい vol.61 日産が今、すべきこと

 日産でインフィニティブランドを統括していたヨハン・ダネイスン氏が退職した。アウディから移籍してわずか2年。昨年にはナンバー2のカルロス・タバレス氏も日産を去っている。そんなお家騒動含みの展開に加え、肝心の業績も振るわない。就任から15年。見事なV字回復を達成したカルロス・ゴーン社長の神通力にもついに陰りが見えはじめたようだ。

 ゴーン社長は類い希なる能力をもった天才経営者だ。とくに傾いた企業を立て直す能力はずば抜けている。けれど軌道に乗った企業の幹を太くする、あるいは花を咲かせることに関してはあまり得意ではない。少なくとも僕にはそう思える。事実、最近の日産車は市場調査や製造コストばかりに目が行き、心に訴えかけるような要素が薄れてしまった。その商品が株主にとってメリットがあるかどうか(儲かるかどうか)を重視するあまり、夢や希望やチャレンジ精神が二の次になってしまっているからだ。

 もちろん、利益の追求は企業として当然のことだ。けれど、短期的利益の追求は必ずしも長期的な利益とリンクしない。たとえ明日の利益にはつながらなくても、従業員のモチベーションを高めたり、ユーザーに日産を好きになってもらえなければ、いずれ先細りになっていく。

 そのことにいち早く気付いたマツダはズームズームという合い言葉を軸にヒット作を連発。トヨタも「もっといいクルマを」という豊田章男社長の方針のもと、ハチロクの投入や既存車種の改良を進めている。それに対し日産はマイナーチェンジでクルマをよくするどころか逆にコスト削減を重視する始末。デザイン面でも無難な路線に傾きすぎだ。新型スカイラインが証明しているように、日産の技術力は依然として一流だが、惜しいことにそれが魅力的な商品につながっていない。

 日産を率いるゴーン社長にいま求められているのは、利益目標や販売台数といった無味乾燥な数字の羅列ではなく、彼の想いをわかりやすい言葉で内外にアピールすること。それは、とりもなおさず日産がユーザーにどんな歓びを提供するのかを問い直す作業に他ならない。


メルセデス・ベンツ Cクラス

クラスの概念を打破 Sクラスに迫る一球入魂車

 いやはや参りました。こんな気持ちになったのは昨年VWゴルフに乗ったとき以来だった。ドイツ生まれであること以外、メーカーも車格もコンセプトも異なる2台だが、そこには「クラスの概念を打破した驚き」という共通点が確実にある。そしてそれが、ゾクゾクするような迫力となって乗り手に伝わってくるのだ。

 Sクラスを彷彿とさせる外観に加え、インテリアの出来映えがまたスゴい。その質感は、先代Cクラスは当然のこと、現行Eクラスをも軽く置き去りにし、Sクラスに迫る。言い換えればBMW3シリーズやアウディA4はもはや敵ではないということだ。さらに、ステレオカメラと複数のミリ波レーダーにより周囲360度をモニタリングし危険を回避する、Sクラス譲りの安全システムを採用。ベーシックグレードではオプション扱いだが、価格は19万円と破格の設定だ。このあたりにもメルセデスの本気を感じる。

 秋にはC250、その後はディーゼルなども追加になる予定だが、初期ロットとして発売されたのはC180とC200。前者は1.6ℓターボ、後者は2ℓターボで、試乗したのはともにスポーティな味付けを施したAMGラインだった。C180の動力性能はほぼ及第点レベル。遅くはないが決して速くはない。値段は張るけれど、高級車らしい余裕が欲しいならC200がオススメだ。

 足回りの狙いは快適性とスポーツ性の両立とのことだが、日本仕様の全車が履くランフラットタイヤが快適性を犠牲にしているのは否めない。とくにC180のAMGラインの乗り心地はメルセデス水準の乗り心地には達していない。それに対し、エアサスを装備するC200のAMGラインは荒れた路面でも気持ちよく走ってくれた。タイヤとのマッチングには課題を残しているが、メルセデスが一球入魂でつくりあげた新型Cクラスは、間違いなく一見の価値ありだ。

ボディシェルのアルミニウム使用率を約50%ものレベルに高めながら、高張力鋼板などを適材適所に組み合わせ、軽量&高剛性なアルミニウムハイブリッドボディに仕上げた。これにより、動力性能を高めつつ、燃費を大幅に向上させるなど数多くのメリットを生み出している。

MERCEDES-BENZ C-CLASS

車両本体価格:¥5,240,000
(C200 AVANTGARDE、税込)
全長×全幅×全高(㎜):4,690×1,810×1,435
車両重量:1,540kg 定員:5人
エンジン:DOHC直列4気筒ターボチャージャー付
総排気量:1,991cc
最高出力:135kW(184ps)/5,500rpm
最大トルク:300Nm(30.6kgm)
/1,200~4,000rpm
JC08モード燃費:16.5㎞/ℓ 駆動方式:後輪駆動

BMW 4シリーズグランクーペ

新型Cクラスの対抗馬 いいとこ取りの欲張りモデル

 デザインのせいだろうか、それとも乗り味、走り味のせいだろうか。あるいは両方かもしれない。世間では高い評価を獲得しているBMW3シリーズセダンに、僕はいまひとつ心酔できないでいる。いいクルマなのは分かる。ダウンサイジングターボ、ハイブリッド、ディーゼルという多彩なパワートレーンも素敵だ。けれどなぜか心に響かない。より大きくて荷物もたくさん積める3シリーズGTにいたっては興味すら湧かない。

 そんななか、いいなと思えたのが4シリーズクーペだった。3シリーズセダンよりずっと美しいし、ワイドトレッド化と低重心化が生みだす走りも気に入った。3シリーズセダンより濃密で、乗り心地と運動性能のバランスポイントも高い。基本メカニズムは共通であり、冷静に見れば目くじらを立てるほどの違いはないのだが、大枚を投じて購入するプレミアムカーにとって微妙な味わいの違いはとても重要だ。身銭を切ってでも欲しいと思えるかどうかは、案外そういうちょっとした違いで左右されるものなのである。

 とはいえ、4シリーズクーペはユーザーを限定する。クーペとしては望外に広い後席を備えているが、いかんせんドアが2枚しかないのは家族持ちにとっては辛い。もうお分かりだろう。3シリーズセダンの使い勝手と4シリーズクーペの美しさと乗り味を融合したのが4シリーズグランクーペだ。いや、大開口部を持つリアハッチを含めて考えれば、3シリーズGTの利便性をも採り入れている。なんとも欲張りなモデルである。

 普通、ここまで欲張ると印象が散漫になりがちだが、4シリーズグランクーペは違う。実に巧みにいいとこ取りをしている。6気筒エンジンを積む435iだと700万円オーバーになってしまうが、4気筒モデルなら500万円台で購入可能。華麗なる変身を遂げてきた新型Cクラスに対抗するBMWの本命はこのクルマだと思う。

2ドアのクーペ、カブリオレに続く、4シリーズ第三弾モデル。BMW初のプレミアムミドルクラスの4ドア・クーペモデルとなる。ボディサイズは4シリーズクーペ(2ドア)より少し高くなったが、延びたルーフラインがサッシュレスのガラスエリアと相まって、優美でエレガントなスタイルを形成している。また、4輪駆動システム搭載車種も設定、幅広いモデルの選択肢を提供している。

BMW 4 SERIES GRAN COUPÉ

車両本体価格:¥5,160,000(420iグランクーペ、税込)
全長×全幅×全高(㎜):4,638×1,825×1,389
車両重量:1,480kg 定員:5人
エンジン:2.0ℓ直列4気筒DOHCツインパワーターボ
総排気量:1,997cc 最高出力:135kW(184ps)/5,000~6,250rpm
最大トルク:270Nm/1,250~4,500rpm
燃費(参考値):市街地8.7㎞/ℓ 郊外5.1㎞/ℓ 複合6.4㎞/ℓ
駆動方式:後輪駆動

シボレー コルベット

伝統を守りつつ一歩前へ アメリカン過ぎないさじ加減

 コルベットは、アメリカ製スポーツカーのなかでも常に特別な地位を保ってきたクルマだ。初代のデビューは’54年だが、僕がリアルタイムで憧れを抱いたのは4代目。とあるミュージックビデオでフロリダの7マイルブリッジを疾走する真っ赤なC4を空撮したシーンを見て、これはもう自分でもやるしかないと決意。21歳のとき、大枚をはたいてレンタカーを借り、キーウエストまで行ったっけ。

 7代目となる新型コルベット(C7)は、アメリカ人の、アメリカ人による、アメリカ人のためのスポーツカーという伝統を守りつつ、一歩前へと踏み出してきた。切れ長のヘッドライトやシャープなエッジラインなど、モダンスポーツカーらしい要素を積極的に盛り込んだデザインは文句なしにカッコいい。ボリューム感のあるリアエンドや、OHVエンジンだから実現できた低いボンネットなど、ひと目でコルベットだと分かる部分もたくさんあるが、全体的にはアメリカンすぎない。そんな非常にいい塩梅なのだ。これなら欧州車ファンにもアピールできるだろう。

 欧州車に負けない質感を目指したというインテリアは、たしかに細かい部分まで入念に作り込まれている。が、フェラーリやアストンマーティンなどと比べてしまうと普通。とはいえ、6.2ℓV8エンジンを積んだ超高性能スポーツカーでありながら900万円そこそこという価格を考えれば文句は言えない。むしろ、低くタイトなコックピットが醸しだすスポーツカーらしい雰囲気を全力で誉めるべきだろう。

 約1.5トンという軽量ボディと460psのパワーはとてつもない迫力を生みだしている。下から野太いトルクを発生するエンジンをぶん回す楽しさはもう格別。ポルシェのフラット6のような精密さはないし、フェラーリのV8のような勇ましさもないけれど、全域にわたってるトルクと、OHVであることを感じさせない伸びきり感には間違いなくコルベットならではの官能がある。

コルベットの伝統であるV8エンジンや従来の雰囲気を残しながらも、高い走行性能を備えたハイ・パフォーマンス・スポーツカーへと進化を遂げた。従来モデルから受け継いだパーツはたった二つで、全く新しいフレーム構造とシャシー、パワートレインを採用。彫刻的なエクステリア・デザインには、レース活動からフィードバックした空気力学が生かされている。

CHEVROLET CORVETTE

車両本体価格:¥9,182,000(クーペ/7速MT、税込)
全長×全幅×全高(㎜):4,510×1,880×1,230 車両重量:1,540kg
定員:2人 エンジン:V型8気筒OHV
総排気量:6,153cc 最高出力:339kW(460ps)/6,000rpm
最大トルク:624Nm(63.6kgm)/4,600rpm
燃費(参考値):市街地7.2㎞/ℓ 高速12.3㎞/ℓ 複合8.9㎞/ℓ駆動方式:後輪駆動

ダイハツ コペン

普段の道を楽しくする着せ替えスポーツカー

 この時代にスポーツカーを一から開発するのは想像以上に大変なことだ。技術面よりもはるかに高いハードルとなるのがビジネスとして成立するかどうか。クルマ愛のない役員や財務部門の人からすれば、さして数が見込めないスポーツカーなど経営の足を引っ張るものでしかない。ましてや日本のお寒いスポーツカー市場を考えると、国内でしか販売しない軽自動車のスポーツカーへの開発投資は大きなリスクを伴う。

 新型コペンが「着せ替え」というコンセプトを提示してきたのは、クルマ離れしている若年層へのアピールが狙い。もちろん、開発プロジェクトの承認課程では、コペン投入によるダイハツブランドのイメージ向上という無形のメリットも考慮されたはずだ。いずれにしても、粘り強く提案を続けた開発陣と、最終的にゴーサインを出した経営陣には大きな拍手を送りたい。

 肝心の仕上がり具合だが、決して速くはないけれど、すべてが掌に収まる感覚はとても爽快。見せかけの軽快感を追わずに、ドライバーの狙い通りの動きを重視したセッティングにも好感がもてた。頑張って走ればかなりのレベルまでもっていけるが、わざわざワインディングロードやサーキットに行ってガリガリ走るというよりは、こいつに乗り換えると普段走っている道がより楽しくなるという感覚。スポーツカーというと速く走ってなんぼと思われがちだが、実はそんなことはない。通勤や買い物といった日常に採り入れることで日々を楽しくさせてくれる効果もあるし、スポーツカーに乗る最大の意味はむしろそこにあるというのが僕の考えだ。

 ちょっと気になっているのがデザイン。先代のレトロモダンな雰囲気が好みだった僕としては、ややモダンすぎるように感じる。とはいえそこは着せ替えコンセプトが上手くカバーしていて、SUV風や先代風、さらには第4、第5のモデルも予定されているという。

「クルマは購入後のデザイン変更が難しい」という従来の常識を覆す1台。スポーツカーに求められる高い剛性は、新しいフレーム構造によって骨格のみでクリアできるようにしたため、外装の付け替えが可能になった。また、自分らしさを表現するためのサポートにも力を入れる方針で、地域ごとのイベントやコラボ企画などを予定している。

DAIHATSU COPEN

車両本体価格:¥1,798,200(7速スーパーアクティブシフト付CVT、税込)
*北海道は価格が異なります
全長×全幅×全高(㎜):3,395×1,475×1,280
車両重量:870kg 定員:2人
エンジン:水冷直列3気筒12バルブDOHCインタークーラーターボ横置
総排気量:658cc 最高出力:47kW(64ps)/6,400rpm
最大トルク:92Nm(9.4kgm)/3,200rpm
JC08モード燃費:25.2㎞/ℓ 駆動方式:前輪駆動

文・岡崎五朗

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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